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元少年Aが手記から利益を得ることを防ぐ方法を、日本政府は今すぐ検討しなければならない

2015年06月30日 22時59分 JST | 更新 2016年06月29日 18時12分 JST

加害者の元少年Aによる手記出版

元少年Aの手記が出版されてしばらくたちました。著者にも太田出版にも1円も落としたくないので、買っていません。すでに読んだ人の描いた書評や、ネットにアップされた書籍のごく一部を「見た」だけなのですが、その内容の残酷さと、自己陶酔全開の内容に、大変なショックを受けて、何日も考え込んでしまいました。

以下は、2006年11月にイギリス内務省から発表された、「犯罪により利益を得ることがないようにする(making sure crime doesn't pay)というコンサルテーションペーパーの前文ですが、今私が考えていることそのものです。

It is wrong for convicted criminals to profit from their crimes, whether directly from the proceeds of the crime itself or indirectly through cashing in on the story of their crime. It is not only distasteful but contrary to the principles of natural justice that they should be able to exploit for financial gain crimes which have devastated the lives of victims and their families.


犯罪行為から直接でも、犯罪に関する話題で金銭を得るといった間接的なやり方でも、犯罪者が自らが犯した犯罪により利益を得るのは間違いである。不愉快なだけではなく、犯罪を犯すことで利益を得るという、自然の裁きに反することであり、このような行為は、被害者とその家族の人生を荒廃させる行為に他ならない。

書籍の内容もひどいと思いましたが、世の中に、お金さえ儲かって、話題になれば、何をやってもいいのだと考えている人がいたこともショックだったのです。担当編集者による釈明のインタビューがウェブ上で公開されたり、出版までの背景が週刊誌によって報道されたりもしていますが、私にはそう思えました。読者のみなさんはどのように感じられたでしょうか。

この本に関して、ネットで様々な議論が起こっています。アメリカの大原ケイさんは、「サムの息子法」を紹介してくださいました。素晴らしい記事なのでぜひお読みください。

日本にも「サムの息子」法があれば「酒鬼薔薇聖斗」手記で儲けるなんて許されない

アメリカには「サムの息子法」のように、犯罪者による自伝や回顧録の収益を、没収する仕組みがありますが、イギリスでも、この問題は長らく議論になっており、出版を阻止する法的な仕組みが議論されてきました。先行事例として、日本での議論の参考になると思いますので、数回にわたり、イギリスの事例をご紹介します。

イギリスにおける犯罪者の自伝や回顧録の出版規制

イギリスには、犯罪者や作家が、犯罪者の自伝や、その犯罪に関して執筆し、出版などにより利益を得る活動を禁止する法律はありません。その理由は、表現の自由、欧州人権条約などとの関係で、「犯罪に関する出版」を、包括的に禁止する法律を作成し、運用することが難しいためです。

そもそも、マルチメディアの時代に「何をもって出版とするか」が困難です。さらに、「犯罪に関する出版」を禁止してしまうと、例えば、現実の犯罪を元にしたフィクションや、映画、ドラマなどが禁止されてしまう場合が考えられます。そのため、現時点では、その他の法律を演繹的に適用して、犯罪者や、回顧録や、犯罪そのものに関して書くことで利益を得ることを阻止する仕組みになっています。

そのような法律の一つは、2010年4月6日から効力を持つ「2009年検死官及び法務法」(the Coroners and Justice Act 2009)

の第7条の一部では、裁判所は、犯罪者がその犯罪を乱用することで得た資産および利益を、政府が管理し、イングランド中央銀行に口座が存在する総合資金(Consolidated Fund)へ支払うことを命令することが可能です。「犯罪者がその犯罪を乱用することで」を、犯罪のことを書いたり、犯罪者としての自伝を出版することに適用しているわけです。

すでに刑に服している犯罪者に関しては、刑務所規則および刑務所口座引き落とし(The Prison Rules and Prison Standing Orders)により、身柄を拘束されている間の出版を禁止することも可能な場合があります。終身刑の場合は、生存中の出版を防ぐことが可能です。

出所後でも、仮釈放状態の犯罪者に関しては、本を出版する場合、それを政府に報告する義務があります。その時点で出版が許可しなければ、出版を抑止することが可能です。一生仮釈放の犯罪者もいますので、死ぬまで出版が許可されない場合もあるわけです。

2002年犯罪収益没収法(Proceeds of Crime Act 2002:POCA)は、犯罪者が犯罪活動から収益を得ることができないようにする法律です。犯罪者が犯罪から得た利益を、政府が回収することが可能です。この法律は、大規模犯罪組織や、マネーロンダリングなどに関わる犯罪組織の財政基盤を破壊し、再び犯罪を犯さないことを防止するためのものですが、犯罪者による出版を防止することも可能です。もっとも、法律の内容が一般的すぎるので、出版を阻止するのに十分ではありません。

次回の記事では、これらの法律ができた歴史をご紹介します。

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May_Roma(めい ろま)


神奈川県生まれ。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関情報通信官などを経てロンドン在住。専門分野はITサービス管理、プロセス改善、 ITガバナンス、通信業界市場調査。シラキュース大学国際関係論修士および情報管理学修士。趣味はハードロック/ヘビーメタル鑑賞、漫画、料理。著作に『ノマドと社畜』(朝日出版社)、『日本が世界一貧しい国である件について』(祥伝社)、『日本に殺されず幸せに生きる方法』(あさ出版)、『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)。海外居住経験、職業経験に基づく深い知見をもとに、@May_Romaとして舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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