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「犯罪により利益を得る」ことがないようにするための提案とは?

2015年07月08日 21時24分 JST | 更新 2016年07月06日 18時12分 JST

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1968年にイギリスで11歳の少女が2人の幼児を殺害した事件。それから30年後に出版された彼女の自伝は、イギリスで大きな騒ぎとなりました。この流れは、日本の元少年Aによる手記出版の騒動と非常に似ているのだとか。イギリスの場合はその後、「犯罪者が出版により利益を得ない仕組み」を作ることが提案されたのだと言います。いったいどのような内容なのでしょうか? May_Romaさんが解説します。

「犯罪者による自伝」の規制を見直すきっかけ


前回の記事でご紹介したMary Bellは、当時仮釈中であったのにも関わらず、法務省に出版を通知していませんでした。仮釈放中の身分の場合、国内外の移動、会う人、住む場所、活動などに制限がかかります。また常に政府の監視下におかれます。出版も監視対象の活動なので、通知が必要だったのです

May_Roma(めい ろま)

神奈川県生まれ。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関情報通信官などを経てロンドン在住。専門分野はITサービス管理、プロセス改善、 ITガバナンス、通信業界市場調査。シラキュース大学国際関係論修士および情報管理学修士。趣味はハードロック/ヘビーメタル鑑賞、漫画、料理。著作に『ノマドと社畜』(朝日出版社)、『日本が世界一貧しい国である件について』(祥伝社)、『日本に殺されず幸せに生きる方法』(あさ出版)、『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)。海外居住経験、職業経験に基づく深い知見をもとに、@May_Romaとして舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

Twitter:@May_Roma

当時の内務大臣であるJack Strawは、出版により、匿名性が暴かれ、マスコミに住んでいる場所や家族のことがばれてしまったMary Bellに関して、「出版社から報酬を受け取ったことは重要な間違いである」と述べています。当時の首相であるブレアからも批判の声が出る騒ぎとなりました。このイギリス中で話題になった事件は、政府が、犯罪者による自伝や、犯罪に関する書籍の出版の規制を考慮するきっかけとなりました。

被害者家族が、メディアを通して出版を批判したこと、Jack Strawに手紙を書き、書籍回収を訴えたことも、議論に拍車をかけました。ここまでの流れは、日本における少年Aの手記を巡る動きに大変よく似ています。

ただし、大きな違いは、イギリスの場合は、ここで政府が実際にアクションをとったことでした。政府の動きは早く、1998年から1999年にかけて、政府内で検討会が実施されました。犯罪者に関する書籍の出版を包括的に禁止する法律を作る、もしくは、法を改正することは、現実的に困難と考えられたため、犯罪者が、出版により利益を得ない仕組みを作ることが提案されます。

内務省が発表した「コンサルテーションペーパー」


その提案に沿って、2006年11月には、内務省から「犯罪により利益を得ることがないようにする(making sure crime doesn't pay)というコンサルテーションペーパーが発表されています

このペーパーでは、今後検討すべき選択肢として以下の提案がなされました。

(1)刑法上の犯罪にする

長所

・強い抑止力があるが限定的ではない

・出版による利益を回収できる、もしくは罰金を回収できる

コスト

・犯罪者に瑕疵がある場合ビジネス側の法的コスト

・裁判コスト

・警察、検察、利益回収機関が制度を実施するコスト

(2)民事裁判で防止する仕組み

長所

・抑止力がある

・限定的

・利益回収が可能

・より柔軟性があるアプローチ

コスト

・民事裁判になった場合のビジネス側の法的コスト

・裁判所など政府側司法機関のコスト

・利益回収機関のコスト

(3)自主規制

長所

・目的が達成される可能性があるが、(1)(2)に比べると効果が薄い

コスト

・出版や映画業界における新たな規制や実施の仕組みを作るコスト

(4)何もしない

長所

・もし少数の事例に対する仕組みや機関を設置するだけなのであれば、時間と費用の節約になる

・被害者には追加的な利益は無い

コスト

・追加費用なし

出版の規制にたちはだかる「表現の自由」


この提案では、コストベネフィットを中心に、議論が重ねられているのが特徴です。アメリカ式の「サムの息子法」は、イギリスで実施する場合は、アメリカのように、資金回収団体を設置しなければならないこと、また民事訴訟の仕組みや法律がアメリカとは異なるため、イギリスで同じ仕組みを直接適用するのは難しいことが指摘されています。日本でも「サムの息子法」を導入するに当たっては、類似する問題が発生するでしょう。またこのペーパーでは、カナダとオーストラリアの制度も議論されていますが、いずれにしろ、表現の自由や、制度の適用性の問題があり、ユニバーサルな解決策とはなり得ないことが指摘されています。

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