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いま、世界のレストランが「灰色」になっているーー人気ワインビストロ店主とごはん狂エッセイストが語る「おいしさへの探究心」

2015年07月05日 22時10分 JST | 更新 2016年07月02日 18時12分 JST

本当に、お店で出しているものばかりです

---- 本日は、「uguisu(ウグイス)」と「organ(オルガン)」の店主である紺野真さんと、生粋の"ごはん狂"であり、紺野さんのお店の大ファンでもあるエッセイストの平野紗季子さんに、「おいしさへの探究心」をテーマにトークしていただきます。よろしくお願いいたします。

平野紗季子(以下、平野) お腹がすく時間ですけど、多くの方にお越しいただいてありがとうございます。紺野さんも、ふだんはお店に出ている時間ですよね?

紺野真(以下、紺野) はい、今日もお店自体は営業してます。いつもは必ず自分もお店に立つようにしているんですけど、今日は信頼できるスタッフに任せてきました。

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平野 私も紺野さんのお店が大好きで、特にオルガンには何度もお伺いしていますので、こんなふうにお話しできてうれしいです。今回は紺野さんがお店で実際に出しているメニューのレシピをまとめた『なぜかワインがおいしいビストロの絶品レシピ』の発売記念イベントということなんですけど、これ、すばらしい本ですね。本当にお店で出しているものが載っている。

なぜかワインがおいしいビストロの絶品レシピ

なぜかワインがおいしいビストロの絶品レシピ

紺野 ありがとうございます。お店をやりながらだったので、本の完成までに3年くらいかかったんですが、今まで店で出してきたものの中から特に記憶に残っている品50皿のレシピを載せています。中にはご家庭で作れるものも含まれています。最初、編集の方からお話をいただいたときは、「店で出しているものでご家庭でできるものはない、そんなものを出しているとしたらお店をする意味がない」と言ったんですけど(笑)、なんとか形になりました。

平野 最初は、これ作れない料理本だ!って思いました(笑)。ウグイスもオルガンも基本はフランス料理なので、このレシピもフランス料理。

紺野 そうですね。といっても、僕は、別にフレンチの料理人としてきちんと勉強したわけではないんですよね。もともとはカフェやいろいろなお店のウェイターとして長いこと働いていて、それからフランス料理の世界に飛び込んだんですけど、そこでもメインでやっていたのは提供や接客、ソムリエといったサービスの仕事でした。その修行を積んでから、10年前にウグイスを立ち上げたんです。だから最初はそれこそ僕も、料理本を見ながら見よう見まねでお店のメニューを作っていました。この本にはそういう初期からのレシピも載せてあるし、そこからどんどん進化していった、手間のかかるものも載っているので、いろいろな方のお役に立てるかなと思います。

クラシックから生まれる、新しい組み合わせ

平野 看板料理の「炙り鯖とじゃがいもの一皿」まで載ってますね。ウグイスやオルガンに行ったことのある方ならきっと頼んだことがあると思うんですが、あれ、ものすごくおいしいですよね。本当に、この本を読めば作れるんですか?

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炙り鯖とじゃがいもの一皿(撮影:加藤新作)

紺野 本当に店でやってる通りを隠さず書いているので、忠実にやっていただければ同じ味ができますよ。

平野 えー、ほんとかな(笑)。これは修行時代のまかないのメニューがベースにあるんですよね?

紺野 そうです。本に詳しく書いていますが、修業時代のビストロに、杉ちゃんというすごく仲のいい同僚がいたんです。とても仕事ができる人で、現在は独立して西麻布の「ル・ブトン」で腕をふるっています。この料理は彼が作ってくれていた「マクロー・オー・ブルー」というまかないがもとです。「マクロー」って鯖のことで、つまり「鯖の青仕立て」という意味ですね。生の鯖を、野菜のブイヨンにお酢を加えたものでマリネする、洋風しめさば。

平野 聞いているだけでおいしそう。

紺野 すっごいおいしくて、それが僕の頭の中にずっとあったんです。それで、自分のお店をやるなら、少しこうボリュームをもたせたいなと思って、じゃがいもを合わせてみることにしました。で、じゃがいもを冷たくするかあたためるか悩んで、焼いてあたためたじゃがいもの上に冷たい鯖を乗せて温度差を楽しんでもらうのはどうだろう、それに合うソースはなんだろう、アンチョビもいいかも......と、試行錯誤した結果、できました。

平野 これまで、鯖に合わせるなら米で鯖寿司、くらいのイメージだったんだけど、じゃがいも最高かよ!っていう。

紺野 そうそう、昔はけっこう驚かれましたね。でも、案外クラシックなフレンチを勉強すると、「ニシンとじゃがいものマリネ」なんかがありますし、青魚とじゃがいもはよく合うんですよ。

平野 紺野さんって、クラシックなものを大切にされてますよね。ブーダン・ノワール(豚の血入りのソーセージ)のようなドスッとした料理もしっかりとおいしくて、それがすごくすばらしいなと思うんです。

きれいな「灰色」を目指して

紺野 僕はフランスに住んでいたわけではないし、さっきも言ったように料理人として修行を積んだわけでもないんです。ただ、お店を始めるときに、自分が「これ」と決めてやるならフレンチだろうなと思って。世の中本当にすごく勉強している人たちがお店をやっているので、自分も、毎年フランスに行ってワイナリーを回ったり、レストランに研修に行ったり、パリのレストランでいろいろ食べあるいたりして、「ほんもののフランス」を知るよう努力しています。でも、パリだけじゃなくて、スペインとかイタリアとかいろいろ行ってみて思うんですけど、実はそれぞれのお店の味って、東京と、思っているほどは変わらないんですよね。

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平野 そうなんですか?

紺野 昔はフランスにわたって何年も修行して初めて得られた技術が、インターネットで調べれば出てくる時代になってるから。食材もね、日本のわさびとか、パリのレストランで普通に出てくるし、それよりもっとマイナーな食材でも、世界中にいきわたってる。

平野 均一化しちゃっているということですよね?

紺野 そうそう。これはちょっと変なたとえかもしれないけど、今世の中が「灰色」になっていると、僕は思います。

平野 灰色。

紺野 もともとは日本が「白」で、アメリカが「赤」で、フランスが「青」で......というような、いろいろな原色の文化が世界中にあちこちにあるんだけど、それがミックスされていって、世界中が灰色になってしまって、ぼんやりしている気がするんです。

平野 ああ、なんとなくわかります。

紺野 そのことは別によくて、世界中でいろいろな文化をちょっとずつ楽しめるようになったということなんですけど、でもお客さんはみんな「灰色」が好きというわけではなくて、「白が多い灰色が好き」とか、細かい好みがあるんです。具体的にいうと、「フレンチ色の強い、バスク料理のお店が好き」とかね。そういう要素を混ぜていても、いまいちなお店というのがあって、それって結局、もともとの原色をきちんと取り入れられてないからだと思うんです。

平野 灰色の発色が悪いんですね。

紺野 そうそう。「点描画」ってあるじゃないですか。あれみたいに、近くで見ると鮮やかな白があって、赤があって、青があって、それを遠くから見て、綺麗な灰色になっている、そういうのが理想なんです。適当に絵の具を混ぜてもだめなんです。技術はYouTubeでさわりは見られるかもしれない。食材も海外から取り寄せられるかもしれない。でもやはり現地でしっかりと修行して生活されてきた人、たとえ海外に行ったことがなかったとしても、基本の技術や古典をしっかりと勉強した人たちが、鮮やかな発色を取り入れた店を作ることができる。

平野 たしかに、言われてみると、今は料理に限らずなんでもそうですよね。あらゆるものに簡単に触れられるからこその、上っ面なコピーだってたくさん生まれてしまう。

紺野 だから、僕のお店も「灰色」ではあるんですが、少しでもきれいなフレンチの「青」を入れたくて、そのために大切にしているのがブーダン・ノワールやパテ・アンクルートのようなクラシックな料理です。そこを外すと、僕のお店って無国籍料理になっちゃうんですよ。だから、フランスに住んで修行していた人にはかないませんが、少しでもと努力しています。

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パテ・アンクルート(撮影:加藤新作)

平野 なるほど、でも紺野さんの料理って単にクラシックを貫いているだけじゃなくて、いろいろ工夫がありますよね。きっと、紺野さんのお店でブータンノワールを初めて食べるという人も多いと思うんですけど、決して暴力的じゃなくて、優しい。コンフィチュールの甘さなんてすごくときめくし、あれがあるだけで、すっと食べやすくなる。

紺野 そう言っていただけるとありがたいです。

料理を作らなくてもおもしろいレシピ本

平野 私はあまり自分で料理を作るほうではないのですが、それでもこのレシピ本って、読んでいておもしろいんですよね。さっきの杉ちゃんの話もそうですけど、レシピとは別に、紺野さんがウグイスを作ったときの話とか、その前の憧れていた時代の話のエッセイが掲載されているんです。それがいちいち泣けるという(笑)。それだけじゃなくて、レシピの紹介でも、この料理は○○シェフにおしえてもらったとか、そういう来歴が書いてあるのが、すごくめずらしいなって思って。普通、これは俺オリジナルの料理だ、って言うものじゃないですか。

紺野 本当にいろいろな人に助けてもらってお店を続けてこられたので、そのことを自然に書いたんです。僕はウグイスをひとりで始めて、自分でワインを注いで、料理を作って、時にはお客さんに皿洗いを手伝ってもらうようなありさまだったんですけど(笑)。

平野 あはは(笑)。

紺野 そうやってひとりで毎晩ワインを注いでいると、レストランで働く人たちが、店の営業後に夜な夜な集まってきてくれるようになったんですよ。そういう人からたくさんのことを教わりました。時には料理人やソムリエの人が、厨房に入って実演してくれたりもして。

平野 料理人に愛されるお店ってことですね。

紺野 たまり場みたいになってました。

平野 みなさん、おいしかったり居心地がよかったりしたからこそ、いらしていたんでしょうけど、それを「助けてもらった」って表現する、紺野さんの感じがとてもすてきです。そしてそうやって教わったものを「自分のもの」に変えてきたんですね。

紺野 そうですね。だから、僕は自分のお店のスタッフにも、どんどん好きにやって、それぞれのカラーを出してほしいって話をしているんです。さっき「家庭でできるものをお店で出したらお店をする意味はない」と言いましたが、それこそお店では、そのときにいるスタッフによって同じ料理でも味わいが違ってくるんです。

平野 え、何が違ってくるんですか?

紺野 たとえば本にも掲載しているキャロット・ラペ。シンプルでいろいろな料理に合うメニューで、僕はこれに、エシャロットとキャラウェイシードを入れますし、レシピでもそう紹介しているんです。でも、元ウグイスのシェフで現ビアードの慎ちゃんがつくる場合にはキャラウェイシードは入れない。今のウグイスのシェフ、まっつんもキャラウェイシードは入れないですね。

平野 そうなんだ!

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紺野 僕は何でもちょっと甘いものが好きなので、そういう味付けなんですけど、慎ちゃんやまっつんは、一ひねりしてなくて、結構キレをもたせる感じにする傾向にありましたね。そういう違いが、スタッフによって実はあるんですけど、うちのスタッフはみんなウグイスやオルガンが好きで入ってくれてきた人だから、彼らのカラーを出しつつもお店のカラーは守ってくれるんです。それはすごくありがたいです。

※この対談は、4月25日に青山ブックセンター 本店にて開催された、トークイベント「人気ワインビストロ店主と生粋のごはん狂の『おいしさへの探求心』」の内容を 編集・構