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東大→経産省→博報堂→Google→スマートニュースと渡り歩いた男がNPOを支援する理由

スマートニュースのNPO支援プログラム『SmartNews ATLAS Program』。この取り組みの背景にはどんな思いがあるのか?企画・運営を担当する望月さんに話を聞いた。
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2015年8月、スマートニュースが立ち上げたNPO支援プログラム『SmartNews ATLAS Program』。企画・運営するのが、望月優大さんだ。経産省やGoogleなどでキャリアを重ねてきた彼は、なぜスマートニュースでNPO支援に取り組む決意をしたのか。

NPO支援プログラムを企画した、異色の経歴の持ち主

世界で1500万DLを突破して成長し続けるニュースアプリ《SmartNews》。同社の選考を通過した10のNPOが無償で100万円分の広告枠を使用できるというプログラムが『SmartNews ATLAS Program』だ。

2015年8月に募集した第一期のプログラムには、住まいの貧困問題に取り組むNPOやLGBT問題に取り組むNPO、岡山県美作市で棚田再生を手がけるNPOや山梨県南アルプス市で獣害対策を行なうNPOなどが参加。スタートアップによるNPO支援というニュースアプリの枠を超えた取り組みに注目が集まっている。

このプログラムを企画・運営しているのが、同社のマネージャ グロース/パブリック担当の望月優大さんだ。東京大学大学院修了後、経済産業省、博報堂コンサルティング、Googleとキャリアを重ね、2014年11月にスマートニュースへジョインした経歴の持ち主。経産省やGoogleでキャリアを重ねた彼は、なぜスマートニュースでNPO支援に取り組むのか。スタートアップがNPO支援に取り組む意義とは。

【Profile】

スマートニュース株式会社 マネージャ グロース/パブリック担当

望月 優大 Hiroki MOCHIZUKI

埼玉県草加市出身。慶応大学卒業後、研究者を志し東京大学大学院へ。総合文化研究科を修了後、経済産業省へ入省する。その後、博報堂コンサルティング、Googleを経て現職。スマートニュースのグロース業務を担当する傍ら、『SmartNews ATLAS Program』(以下、『ATLAS』)を企画・運営する。

なぜスマートニュースはNPOを支援するのか

― 一般的に、スタートアップでは「いかに事業をスケール・マネタイズさせるか」の優先順位が高いので、NPO支援はなかなかできることではないと思います。スマートニュースでの『ATLAS』の位置づけを教えてください。

スマートニュースは、『SmartNews Public』というコンセプトを掲げて、企業として公共性に貢献するための方法を日々模索しています。『ATLAS』もその一環です。目指しているのは、政治家や官僚でなくても、僕たち一人ひとりが世の中のためにできることを考え、小さくても一つひとつアクションを積み重ねていけるような社会です。そこに近づいていくために、スマートニュースとしてできることをやっていきたいと考えています。

― 誤解を恐れずにいうと、スタートアップとしてはある意味異質ですよね。なぜ望月さんは『ATLAS』を企画したのですか?

NPOは具体的な社会問題の現場に入り込んでいく存在です。逆に言えば、NPOを支援することで、自分が直接現場レベルのアクションができなくても、間接的に社会問題の解決に関わることができる。『ATLAS』を通じて、普通の人たちとNPOとの接点を《SmartNews》上でつくりたいと考えました。

― その結果が《SmartNews》の広告枠を無償で利用できるというプログラムだった、と。

《SmartNews》への広告出稿を通じて、NPOの事業内容を知ってもらい寄付会員になってもらう、一度イベントに来てもらう、そうしたつながりを生み出していきたいと思っています。しかし、『ATLAS』はまだまだ未完成の状態です。一つひとつのNPO、そして目指す社会のために、『ATLAS』のより良いかたちを探っていきたいと考えています。

Googleへの入社をキッカケに、NPOについて考えるように

― 望月さんがNPOに関心を持った経緯を教えてください。

僕がNPOのことを真剣に考えるようになったのはそれほど昔ではなくて、Googleに入社した日が最初と言えるかもしれません。入社日に上司から「一緒に《Google for Nonprofits》というNPO支援のサービスを日本でローンチさせよう」という話をもらったのがキッカケです。実際に、《Google for Nonprofits》を日本に導入する仕事をしていくなかで、自分のなかでNPOの存在意義や支援する意味をよく考えるようになりました。

― Googleへ入社するまでは、どのような軸でキャリアを歩んできていたんですか?東大大学院、経済産業省、博報堂コンサルティングという輝かしい経歴に目を惹かれますが...。

大学や大学院で政治思想や哲学を専攻していたくらいなので、もともと人間や社会について強い関心がありました。研究者の道を歩もうと思っていたのですが、実際の社会に触れている感覚が持てないという焦りから経産省に就職したんです。でも、経産省が一つひとつの社会問題の現場に近いかというと、必ずしもそういうわけではないんですよね。いま考えると当たり前なのですが、そのことがよくわかっていなかった。

また、どこかの職場で働くということは、そこに自分の時間の非常に多くを使うということ。目の前のことに神経が集中して、「社会について考える」ということがどんどん難しくなっていく感覚がありました。社会に近づくために就職したのに、自分が見ている世界はとても狭く感じるというか。抽象的な思考も、具体的な現場も、両方とても遠くなってしまったんです。

― それで博報堂コンサルティングに移ったわけですね。Facebookでの選挙投票促進キャンペーン《I WILL VOTE》を始めたのもそのときですよね。

やっぱり働きながらでも、何か社会に関わることがしたかった。そこで、2012年12月の衆院選、政権が民主党から自民党に代わったときに、友達と「20代、30代のこれから社会をつくっていく世代が社会にもっと関心を持てることをしよう」と考え、始めました。正直、若い世代の投票率アップに直接貢献するほどのインパクトが出せたとは思っていません。だた、「I WILL VOTE」や「I VOTED」とFacebook上で宣言する画像を数多くの人がシェアしてくれたり、それを見たテレビや新聞に取り上げてもらったり...ということがあったんです。

この活動を通じて、インターネットを使って社会にアピールしていくことの可能性に触れましたね。切り口をしっかり企画して発信すれば、一定程度の人には届く。「インターネットってすごいな」という手応えを改めて持つことができました。そして、いろいろなスキルを持った人が集まって社会のためにできることをする、そういうコラボレーションができた初めての体験だったとも思っています。たとえば、《I WILL VOTE》のデザインやサイト制作はすべてレターズさんが無料でやってくれました。代表の野間くんがコンセプトに共感してくれて、デザイナーの方も獅子奮迅の活躍をしてくれたんです。

社会問題の現場は日本中にあり、誰もが当事者になりうる

― なぜGoogleからスマートニュースへ?

Googleがどうこうというよりも、スマートニュースに魅力を感じたというのが最大の理由です。

代表の鈴木健は、僕が大学院で研究していた頃から論文や雑誌で名前を知っていましたし、2013年に出版した本も読んでいました。そういう人が経営する会社って、あまりないじゃないですか。当時、従業員数もまだ20~30人で会社のカルチャーも濃いし、社会に対してどう貢献していくかを考えているメンバーが集まっていることは面接のプロセスでも伝わってきました。ここだったら飛び込んでも面白いんじゃないかな、と。入社のタイミングで鈴木健ともう一人の創業者 浜本階生に「NPO支援プログラムをやりたい」と話したんです。すぐに「いいねぇ」となり、企画したのが『ATLAS』でした。

― Googleのような巨大企業とスマートニュースのようなスタートアップがNPOを支援することは違う意味があるように思います。

Googleにできることと、スマートニュースにできることはそれぞれ違います。だからこそ、スマートニュースだからこそできる支援のかたちを見つけていきたいですね。たとえば、『ATLAS』ではスマートニュースだけでなく、greenz.jpやpeatix、Readyfor、nanapi、gooddoなど、別のスタートアップと一緒になってNPOを支援しています。こうしたスタートアップ同士のつながりをうまく活かすことも大事にしていきたいポイントです。今は「NPO支援」について明示的に考えていない企業だったとしても、一緒にできることはたくさんあるはず。ぜひいろいろな方や企業とパートナーシップを組んでより良い『ATLAS』をつくっていきたいと思います。

― 成果は出始めているんですか?

広告運用を通じてたくさんの人に記事を読んでもらったり、寄付会員が増えたり、クラウドファンディングの支援が集まったり...と、具体的な成果が出始めています。また、「ATLASに参加しているあのNPOに寄付したい」と個人的に声をかけてもらえる機会も増えてきました。少しずつですが結果は出てきているのかな、と。

― 最後に教えてください。望月さんがNPO支援に取り組む意味とは何なのでしょう?

政治家でも官僚でもない、大学教員やジャーナリストでもない、そんな普通の人たちが社会の大半を占めています。僕もそうです。多くの人は日々働きながら、目の前のこと、家族のことで精一杯で、社会について考える時間の余裕、心の余裕をつくるのはとても難しいと思います。僕が大学を出て、いろいろな職場でときにはぶっ倒れそうになりながら働いて、心の底から理解した一番のことはこのことです。同じ社会に生きていても、それぞれが生きる現場は散り散りになっていて、つながっていない。本当はつながっていても、そのことを意識し続けるのはとても難しいことです。

でも、だからといって政治家や官僚、大学の先生に任せているだけで本当に社会が良くなるとは思えません。以前、2010年に起きた大阪二児置き去り死事件について書かれた杉山春さんのルポを読みました。アパートの一室で幼児がごはんも与えられずに放置されている。役場や福祉の人が介入できずに最悪の結果になってしまいました。近くに住んでいる人が気づいて、強く警告することができていたら...。どうしてもそう考えてしまいます。社会問題の現場は日本中にあるし、誰もが当事者になりうる。行動を一つ起こせるかどうかで人の生死を左右するような瞬間が、遠くの中東やアフリカだけではなく、日本の、自分のすぐ近くにありうるということに改めて衝撃を受けました。

公共的な行動というのは、必ずしも選挙に行くことだけではないと思うんですよね。社会問題の現場でがんばるNPOに寄付することもそう。身の回りの弱い人たちを配慮することもそう。いろいろな形がある。でも、それらに共通するのは、自分たちが住みたいよりよい社会を、自分たち自身の手でつくっていこうという気持ちです。自分のことで忙しくしているなかでも、そういう気持ちを抱くキッカケをできるだけ多くつくれるように、大学院生も、公務員も、会社員も、全部経験した自分だからこそできることを一つずつ積み上げていこうと思います。

― インターネット企業の新たな可能性を感じることができましたし、何より望月さんの覚悟を感じることができました。今回のお話がより多くの企業、そして個人が社会に目を向けるキッカケになればいいなと強く思います。ありがとうございました。

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