稼げるフリーランスの条件は? ランサーズ根岸泰之に聞くクラウドソーシングの未来

2014年09月18日 14時42分 JST | 更新 2015年09月04日 21時20分 JST
エンジャパン

今後10年弱で1兆円規模になると推測される国内クラウドソーシング市場。業界最大手のランサーズがプラットフォームのオープン化を発表、クラウドワークスにリクルートが出資など活気づいている。マーケット拡大に伴い、フリーランスの生活はどう変化するのか。いま一度クラウドソーシングを考える。

■巨大マーケット クラウドソーシングは、新しい働き方を創出できるのか。

政府の成長戦略のひとつとして、「テレワークの促進」が掲げられている。場所と時間にとらわれない柔軟な働き方であり、少子高齢化や地域活性化、女性の社会進出などの課題解決に有用と目され、その期待は大きい。

近年ではこれまでのテレワークとは異なり、フリーランスを労働力とするクラウドソーシングが活気づいている。現在では、200社とも言われる事業者が参入し、市場規模は300億円に達した。また2018年には1800億円、その数年後には一兆円産業になる見通しがある。

一方クラウドソーシングが普及することで、労働単価の下落や質の低下、雇用契約で守られてきた労働者の保証など、課題も見え隠れし始めた。様々な期待を背負って拡大するマーケットだが、サイズに見合った労働環境を実現するために欠けているものは何なんだろうか。

2008年よりクラウドソーシングを手掛けるランサーズの取締役を務める根岸泰之氏に話を聞くことで、フリーランスとして稼ぐためのヒントが垣間見えた。

[プロフィール]
ランサーズ株式会社 取締役 CMO 兼 サービス企画部 部長
根岸泰之 Yasuyuki Negishi
フリーライター、コピーライターなどクリエイター、マーケティング担当の経験を経て、上場企業のプロモーション本部長に就任。2013年4月よりランサーズに参画し、2014年6月より現職。

■ クラウドソーシングの登場は、フリーランスの労働単価下落を招いたか。

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― クラウドソーシングの市場が、確実に成長しています。労働市場において大きなインパクトを与えていると思うのですが、同時にいくつか課題も見えてきたのではないでしょうか。

市場自体は本当に期待が持てるものになりました。ランサーズだけで見ても取扱高が、この半年で200億円から300億円へとすごい伸び率なんですね。また矢野経済研究所の調べによると、2023年には一兆円の規模になるとも言われています。

ただ、事業を行なっている側としては、そんなレベルではないかなって。政府の試算によると、2030年には3人にひとりがオンラインワーカーになるといわれています。少し大げさですが、物流とか店舗のサービス業とか、物理的に不可能なもの以外は、すべてがマーケットの対象となり得るわけで。もっと大きな規模になる可能性を秘めていると思うんです。

それを実現するまでの課題のひとつとして、商習慣の問題が考えられます。クラウドソーシングというビジネスモデルを、みんなが知っているかというとそうではありません。まだ未知のものであったり、既存の商習慣が残っているため、受け入れきれていないという事実はあると思っています。企業に属さずにフリーランスとして働く、という雇用に対する意識の問題もあるでしょうね。

― フリーランスを増やすために必要なこと、取り組みは行なっているんでしょうか。

教育が欠かせないですね。今後、フリーランスという働き方が広がっていくと、会社に属する人が減るわけですから、企業が担っていた教育という機能がなくなる。スキルのないフリーランスばかり増えても機能しませんから、意欲ある人がスキルを得られる仕組みが必要なんです。業界のリーダーとしてクラウドソーシングを国内に広めた自負がありますので、その責任として教育、フリーランスが育つ環境を整えなくてはと強く思っています。

― スキルを身につけたとしても、以前から言われている、労働単価の下落という問題はあるかと思うんですね。極端な話、最低賃金を下回る価格で受発注がなされるような。

制作費として下がっているかというと、そうとも言い切れない。制作会社などに依頼する場合、制作費以外のコストが乗っかるため、クラウドソーシングよりも高くなるケースは少なくありません。個人になれば営業や間接的なコストが必要ない分、発注する側の総額としては低くなるという前提があります。

一方でランサーズのサイトには、単価の安い仕事もありますが、ただこれは、今までマーケットに存在しなかった仕事が生まれているということでもあります。実例を挙げると、少年野球チームのワッペンを制作するとか、子どもが生まれるので名前の案を考えて欲しいとか(笑)。ワッペンでいえば、知り合いにデザインできる人がいて無償で頼んでいたとか、制作会社に発注すると高額なので諦めていたとか。それが、ちゃんとしたプロに頼める市場ができたというのもあります。

同時に、これまで働いていなかった人が、インターネットがつながっていれば、少額からであれ仕事をできるようになりました。例えば、働きたくても子育てをしていて通勤を必要とする仕事ができない人や、扶養の問題で収入を制限したい人。フリーランスとして、それだけで何百万円という収入にはならなくても、自分のペースで必要なだけ、という働き方も選べるようになったと考えています。

■ フリーランスの収入はどうなる? 成功する独立・フリーランス。

― 稼げているフリーランサーに特徴はあるんでしょうか。ランサーズを利用している人の中に、月収100万円以上を稼ぐケースもあるそうですが、「こうすれば稼げる」みたいな。

スキルを自覚して誠実な対応をしている人。これに尽きますね、オンラインもオフラインも関係なく。そういう人が信頼を得て、実績になって、新しい受注を得て、また良い仕事をすることで信頼を得て...というグッドスパイラルになるんです。実際にそうやって信頼を積み重ねたことが次の仕事につながり、金額に幅はありますが定期的な収入を得ている人がいます。

何人か紹介しますと...

(著)ランサーズ株式会社

時間と場所にとらわれない新しい働き方

【奈良県在住 デザイナー】

副業としてデザインコンペに応募し、採用されたデザイナーの人がいます。このときの仕事が、発注側からすごく評価されたんですね。すると企業が次にデザインを募集しようとなったとき、この人を指名して発注するようになる。

この人は、そこでも良い仕事をして。それ以来、指名で受注するようになりました。いつの間にか本業の収入を上回るようになったそうで。結局、勤めていた会社を辞めて、フリーランス一本で生活できるようになった。信頼を重ねることで、自分の住みたい土地で暮らせる環境を自らつくったんです。

【山梨県在住 WEB制作】
もともと東京のWEB制作会社に勤めていた人なんですけど。実家が山梨の農家で、家業を継ぐことになったそうです。でも10年間続けていたWEB制作の仕事に後ろ髪を引かれた。じゃあ山梨でそういう仕事を探そうとなったけど、数えるほどしかなくて諦めかけたところでクラウドソーシングに出会ったそうです。

農業の仕事って収穫時期に限定されたものではなく、一年中忙しいらしいんですよ。なので、WEB制作の仕事を始めるのは夕方からだそうです。兼業農家であることを言い訳にせず、深夜まで手を抜かずに制作なさって。それが信頼となり、次の仕事につながるという。

【ハワイ → 福岡県在住 WEB制作】
「海外で生活がしたい」と口にしながら、多くの人が諦めていると思うんです。同じように自分の夢を考えたとき、家族と一緒にハワイで暮らしたいと思った人がいました。でも、生活するための仕事がない。

考えた結果WEB制作の仕事を選び、まず日本でスキルを磨いて実績をつけて、それからハワイに移り住んだそうです。メールやSkypeで問題なく仕事ができて、休日はハワイでのバカンスを楽しむという...羨ましい生活ですよね。その人は現在、お子さんが増えたなどの事情で地元の福岡に戻り、フリーランスとして働き続けています。

人材採用と似たところがあるんですが、以前だと仕事に就きたい人が企業側を選んでいました。買い手市場のイメージです。でも今では、求める人材に対して企業がスカウトをするという、個人の経験やスキルを高く買う時代になった。これと同じで、実績と信頼があれば、「あなたに頼みたい」という指名が入るようになる。フリーランスとして成功している人は、発注側に求められる関係性を構築できているんです。

■ ディレクションという強みも、クラウドソーシングに求められている。

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― 一方で発注側にも課題があると思うんですね。クラウドソーシングに対して、単に安く依頼できる仕組みだと考えているような。

発注金額や納期に無理があれば、受けてくれる人がいなくなります。そこの啓蒙やアドバイスはしていますよ。また、そもそも自分でできないから、クラウドソーシングを使うわけです。できない人がディレクションすることになるんですから、そこをサポートする仕組みやサービスを提供しています。

実際、ディレクションができる人のニーズが高まっているんですね。個人が持っているスキルだけで勝負すると、デザイナーならデザインだけ、ライターならライティングだけと、受けられる仕事が制限されます。でも大きな案件になると、ひとつの作業を切り離していないケースが多いんです。そこで必要となるのが、プロジェクト全体のマネジメントができる人。専門分野はそれぞれに任せれば良くて、もっと大きな視点でプロジェクトを見渡せる人、スペシャリストではなくゼネラリストのニーズが高まっています。

じゃあ今の日本でゼネラリストはどこにいるかというと、例えば40代や50代の人たちだったりするんです。若い人はスキルを持たないと仕事ができないと言われて、スペシャリストとして腕を磨いていることが多い。でも一定の世代だと、企業がゼネラリストとして育成していたんですね。総合職として、色んな部署や職種を経験させながら。その人たちの経験は、クラウドソーシングで活かせるんです。

実際に、元新聞記者で活躍している74歳のランサーがいます。定年になってからもツテで書く仕事をしていたそうですが、もっと多くの人とつながりながら仕事をしたいと思い、クラウドソーシングを利用した。今では毎月10万円以上の収入を得ながら、新しい出会いや仕事を生き甲斐としているそうです。この人はライティングというスキルだけではなく、マネジメントやディレクションというスキルもあって活躍できている。

時間や場所だけではなく、年齢にもしばられないクラウドソーシングを活用した働き方、ひいてはライフスタイルを根付かせるためにも、今後はディレクションをできる人を増やすことにも力を入れていこうと考えています。

― Lancers Open Platformという新しい事業を発表されましたが、これもパートナー企業のディレクションを活用する試みですね。個人のディレクターを増やすことも含めて、より多くの取引きを成立させることにつながりそうです。働き方、そしてライフスタイルを、もっと選びやすい世の中になるためにも、クラウドソーシングの拡大に期待しています。ありがとうございました。

[取材・文] 城戸内大介

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