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「グロースハック」って何? スタートアップが勝ち続けるために必要なもの

書籍「いちばんやさしいグロースハックの教本」の出版記念セミナー、「グロースハックお悩み相談室」の内容をお届けします。
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書籍「いちばんやさしいグロースハックの教本」の出版記念セミナー、「グロースハックお悩み相談室」の内容をお届けします。国内でいち早くグロースハックを実践してきた、VASILYの金山氏とAppSociallyの高橋氏が登壇。グロースハックのヒントや経験談についてセッションが行なわれました。

登壇者プロフィール

金山裕樹(かなやま ゆうき)

株式会社VASILY 代表取締役CEO。ヤフー株式会社にてX BRANDなどのライフスタイルメディアの立ち上げを行った後、2008年に株式会社VASILY(ヴァシリー)を設立。VASILYのアプリ「iQON」(アイコン)はファッションアプリとして世界で唯一AppleとGoogle、両社のベストアプリに選出。会員数は200万人を超え、日本最大級の女性ファッションアプリとしてファッション感度の高い女性ユーザーに支持されている。「いちばんやさしいグロースハックの教本」(インプレス)の著者。

高橋雄介(たかはし ゆうすけ)

1980年生まれ。AppSocially創業者CEO。慶應義塾大学SFCにてPhDを取得後、研究者および大学講師を経て、独立。2社目の起業で500 Startupsのプログラムに参加。GrowthHacker.jpやTechCrunch Japan、日経ビッグデータ等に、シリコンバレーの最新事情を寄稿中。『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』(翔泳社)を翻訳。『Lean UX --リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン』(オライリージャパン)の日本語化のレビューも担当。2015年12月より新製品の「ChatCenter iO」を提供中。

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グロースハックに「銀の弾丸」はない

皆さんはグロースハックをどのように捉えているだろうか。グロースハックとは、プロダクトの本質的な価値を理解し、その可能性を把握し、実際に成長させていくアクションのこと。また、そのための技術・ノウハウのことである。さまざまな場所で語られるために言葉を耳にしたことがある人は多いだろう。

その一方で、正しく理解し、また実践できているケースは多くないのではないか。またグロースハックをどこか特殊なスキルだと感じている人もいるのではないか。こういった疑問・捉え方に対し、「グロースハックとは何か」という金山氏の説明からセッションが始まった。

金山:よくソフトウェア開発で「銀の弾丸はない」って言われているように、グロースハックも、ひとつの施策を打ってユーザー数や売上げがドカンと伸びることは無いと思います。成功しているものは本当に一側面であって、そこにたどり着くまでにめちゃめちゃ多くの施策がある。効かなかった施策は10倍とか20倍くらいあるはずです。

高橋:継続的に、たくさん失敗しながら製品を良くしていくというのがグロースチームといわれている人たちの仕事で、実態はプロダクトチームなんですよね。皆さんが日々業務でやっているようなことが、ひとつひとつ、どう会社の成長や製品の成長(グロース)につながるかというのを考えながら地道にやる。それを、今までの経験にあまりとらわれずにいろんなことを試しましょう(ハック)というのが、グロースハックという考え方です。

あと、グロースハックは「スピードこそが命だ」と思ってます。アメリカでも、全く同じことが言われています。スピードに価値がある理由は、失敗できる回数が増えることです。スプリントを組むんだったら1カ月じゃなくて、1週間で終わらせるとか、とにかくスピードを上げるようにすることが大切です。

金山:僕らがスピードがある状態をどう定義しているかというと、「全部がコントロールできている」と思ったら、それは遅い。車とか、何かしら乗り物に乗っているときに、スピード速くなると不安じゃないですか。コントロールしづらい。あの状態が、正しいんです。プロダクトだから、交通事故じゃないので死なないですし。「ちょっとコントロールできてない」くらいがスピードがある状態だと思います。

グロースハックに必要なのは「泥臭さ」

株式会社VASILY 代表取締役CEO 金山裕樹(かなやま ゆうき)

グロースハッカーが果たす役割のひとつに「初期ユーザーの獲得」がある。無名プロダクトのユーザー獲得においては、できることは泥くさくても何でもやるという気持ちが重要だという。

金山:ブログにコメントしたり、プロダクトターゲットに近そうな人たちにリーチできる場所で投稿したり、アクションをひたすらしていくのも初期ユーザー獲得の手法の一つですよね。私も妹の友だち複数人にランチをおごる代わりに、その場でアプリをダウンロードしてもらったりしていましたし(笑)。自分ができることは何でもやりました。モラル的にはNGかどうかというギリギリなラインだったとしても、そのくらい泥臭くやらないとダメだと思ってます。あの有名な映画監督のスティーブン・スピルバーグだって、映画撮影所に忍び込んで、勝手にスタッフですって言ったのがキャリアの最初だったりするらしいし、そこら辺のさじ加減、難しいかもしれないですね。

一緒に本を書いた梶谷(健人氏)も面白い方法でiQONの初期ユーザー獲得をしていて。法人の優良顧客になっていただけそうな人が集まるパーティーや同窓会に潜入して、名刺交換しまくるとか。最終的に某有名飲料会社のマーケティングトップとつながったんですよ。どんな属性の人たちを狙うか。彼らはどこに集まるか。仮説をもとに思い切って飛び込んでみると何か起こるものです。

高橋:アメリカでは、スターバックステストというユーザーリサーチをよくやります。道を歩いている人たちに話しかけて、「僕、こういうプロダクトデザイナーやっているんですけど、コーヒー1杯おごるから5分くらい時間もらえませんか?」と言って5分の時間をもらうんです。「あなたのフィードバックがあると、製品がより良くなる」と伝えると大抵喜んで貢献しようとしてくれます。話が盛り上がって5分が30分になるのが僕らのKPIです(笑)。急いでいる人でなければ、多くの人が30分くらい時間くれます。インタビューをしながら、どういうタイミングで早口になったとか、目が輝いたとか、考え込んだとか、そういうのを全部忘れないようにメモしておくんです。

本当に、A/Bテストが必要な

グロースハックでの検証方法として有名な「A/Bテスト」だが、現在、UIの検証においてA/Bテストは行なっていないという金山氏。A/Bテストが必要ないと考える背景についても述べられた。

金山:iQONではUIに大きな変更を加える場合、昔はA/Bテストをしていましたが、今はやっていないです。全体の母集団を利用してA/Bテストをやるような大きな検証を行なわなくても、もっと小さな集団のテストで十分だということが、検証しながらわかっていったんです。全体の母集団を使ったA/Bテストは広告クリエイティブの検証などではまだ使っているのですが、判断能力を育てるという意味では、A/Bテストはダメだと思っています。なぜかというと、意思決定していないに等しいんじゃないかと感じていて。意思決定って繰り返すことによって上手くなるもんじゃないですか。

A/Bテストって効果は出るかもしれないけど、モルヒネみたいなもので。社員たちが“決めれない病“になってしまったら、長い目でみて良くないって思うんですよ。決断して失敗して、その痛みを受け入れて成長していく。そういうのが大事な場面もありますよね。

高橋:A/Bテストほどのスケール感で検証しなければいけないようなフェーズに到達してない、ということも往々にしてありますよね。アプリがそこそこ大きくなっても、何かを決めるときは、オフィスの同じデスクの島にいる10人くらいにヒアリングすれば答えが出る話だったりします。10人中8人が「イケてない」って言ったら、その段階でA/Bテストをするまでもなく別の施策を考えたほうがいい。僕は、2分間・2時間・2日間・2週間・2ヶ月・2年…、といった感じで検証にかける時間と規模を、段階的に大きくしながらステップアップしていくべきだと考えています。各ステップの検証でOKが得られなかったら、次のステップに進むための切符をもらえていないってこと。きちんとクリアしてから次の段階へ進むことが重要だと思いますね。A/Bテストの前にやることは本当にいっぱいあります。そういう意味だと、資金調達やソースコード1行書く前に、やるべきことだらけなんですよね。

AppSocially創業者CEO 高橋雄介(たかはし ゆうすけ)

高橋:これはあくまで一例ですけれど、Googleを辞めた友人の理由が、「データドリブン過ぎて、窮屈だ」「直感とか、目の前のお客さんが喜ぶという感覚をもっと大事にしたい」と言うことでした。これは「定性的なインタビュー」はプロダクトがスケールしてからも継続すべきということでもあって。ユーザーインタビューは意思決定がブレないようにするためにもすごく大事なんです。次の製品を作るときに「AかBか」じゃなくて、「Aにしようよ」って話ができる。うちのエンジニアも、お客様のインタビューに一緒に連れていったりすると、「あのお客様、ああいう顔してましたよね。だから、たぶんこっちです。やってみましょうよ!」ってエンジニアから提案してくれます。そういった直感とか意思決定の精度が上がるようなプロセスを経てないと、「今はこっちを優先しよう」という決定を、やってはくれるけど納得してくれなかったり、説得するために余計な時間を費やしたりすることがあります。だからそういう結果的な意思決定の早さにも、プラスになりますね。

グロースチームに向いているエンジニアの見極め方

続いて、どのようにグロースハックのチームをつくるか、という話題に展開。グロースハックチームに向いているエンジニアは、ユーザーの課題解決に喜びを感じる人だという。コードを書くことを目的にするのではなく、エンジニアリングを手段として課題解決したいというマインドが、グロースチームのエンジニアには必要だと両氏は話す。

金山:かなり極端な比較になってしまうのですが、スーパーエンジニアでスキルがあっても、会社のビジョンとかマインド的なところで合わなければ、私は社員として採用することはありません。よくあるパターンは、スキルはめっちゃあるけど、ロイヤルティ低いからパフォーマンスが出ないみたいな。だとしたら、スキルはあまり無いんだけども、ロイヤルティとビジョンのマッチの度合いが高くて、自分のポテンシャルを100%発揮する人の方が、結果として成果が出るってことは往々にしてある。だから、マインドを優先すべきなんじゃないかなって。

高橋:僕らのいろんな採用の経験から考えると、会社のカルチャーやビジョンにフィットしなかった人たちが会社にとって最もネガティブなコストになることが多かったです。その結果、今は、カルチャーフィットする人だけを採って、短期的にリソースが必要なところは信頼できる外部に依頼するようにしています。

金山:日本とアメリカで「チーム」という観点から比較してみると、構成員の「個」が持つスキルとその捉え方が違うのかもしれませんね。例えばPinterestのチームは、チームが解決すべき課題に応じて、iOSやAndroid、インフラなどどんなプラットフォームにも同じメンバーが横断的に対応すると聞いています。個々が複数のプラットフォームに対応できる柔軟なエンジニアリングスキルを持っているケースも多いです。日本には横断的なスキルを持ったエンジニアは少ないので、チームの作り方も少し違ってきます。

高橋: Pathの例もなかなか面白いです。リリース初期の段階だったんですけど、「なんでPathってこんなに動作が遅いの?」って最初の従業員で開発メンバーであった友人に聞いたんですよ。そしたら「別にいいじゃん」って彼は答えた。日本だったらエンジニアはこんな遅いままリリースしたがらないし、会社の経営者だって嫌がるはず。それはもうUX損ねることになるんじゃないかとまで思ったんですけどね。彼が話してくれたのは、会社の成長フェーズといま自分たちがやるべきことを考えると、ユーザーにどういう価値のアプリを提供するかの検証の方がまず大事だし、この検証が終わると、次の資金調達で数億円入ってくることは計画上可能なんだと。だから、いま検証すべきことの結果を知るために必要なのはアプリ側のUXを最大化することで、サーバーの問題じゃない、と。サーバーは、資金調達してから速いものにすればいい。つまり、将来的に大きなリスクになることを先に潰すことが大切ということですね。こういう視点をエンジニアの人たちも持ち合わせている。そんな人がシリコンバレーのスタートアップで活躍している実感があります。

グロースハッカーになるために今日からできること

最後に、参加者からの質問に答えていく形で、「これからグロースハッカーとして生きていくためのヒント」となる話でセミナーが締め括られた。

高橋:グロースハックに関する事例をたくさん知っていることはすごく価値があることだと思います。本も出版されていますし、グロースハックについて議論してるサイトもあります。グロースハッカーカンファレンスの講演ビデオがUdemyで見れたりもする。それに、普段からできることって結構いっぱいありますよね。あとは、グロースハックの前提になってる顧客開発やリーンの方法論を学ぶことで、図式化、定式化して整理した方が社内でのリソース確保の可能性を含めて、グロースハッカーとしての説得力が上がるんじゃないかなと思いますね。例えば、「今はこういうフェーズだから、これをやるべき。A/Bテストはしなくていい」と、ちゃんと言えるようになります。

もうひとつ。アイデアのリバースエンジニアリングがすごく大事です。クリエイティブで優秀な広告の人は、15秒のテレビコマーシャルを見て20ページぐらいの企画書を逆算で作れるとよく言いますけど、グロースハッカーも同じです。アプリを見て、この施策の理由や自分が動かされた理由は何かというのを逆算して考えてみて、それを企画書にしてみる。そうすると次の戦略が見えます。例えば2012年のアメリカ大統領選の時、オバマ氏と最後まで競い合ったロムニー候補のグロースチームのディレクターをしていた友人は、「僕があなたの会社のグロースチームのリーダーだったらこうやります」という内容のブログをいろんな会社に向けて書きまくったんです。企業がそのまま採用したいと思うほど素晴らしい内容でした。結果的にその中の一番良い条件の会社に彼は就職しました。

金山:グロースハックは、スポーツ選手の基礎トレーニングだったりとか、音楽家の基本的な練習だったりとか、そういう基本動作の積み重ねと同じです。小さな勝利を積み重ねてください。基本に忠実に、粘り強くやっていくのが、唯一、偉大なプロダクトを作るヒントかなと思っています。世の中にはまだ解決すべき課題とか、満たされてない要求がめちゃめちゃ多いですし、それを解決できるのはみなさんが生み出すプロダクトだと思ってます。このインターネットの業界に居続けるかぎりチャンスしかないです。共に頑張っていきましょう。

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