「誰かの役に立つことができれば、職種にこだわることはない」オイシックス・岸本綾が語る「ジョブチェンジの哲学」

2014年07月09日 22時59分 JST | 更新 2015年09月04日 19時50分 JST
エンジャパン

エンジニアとして『オイシックス』に入社し、物流センターの部長になった岸本綾氏。まったく畑の違う分野へのジョブチェンジに見えるが、岸本氏いわく「本質的に求められるスキルは変わらない」という。エンジニアとしてのバックボーンはどう別の仕事に活きるのか?エンジニアが活躍の場を広げていく、その可能性に迫った。

▼《オイシックス》物流センター部長 岸本綾(りょう)氏へのインタビュー第1弾

「テクノロジーで農業ビジネスを変えたい」異色のジョブ・チェンジを果たしたオイシックス・岸本綾

■ エンジニアが持つ論理的思考力は、全ての仕事で通用する。

エンジニアとして『オイシックス』に入社した岸本さん。自ら手をあげてモバイルサービスの立ち上げに挑戦し、顧客視点からの改善を各方面で行ったことで、物流センターの部長へと大抜擢された。

エンジニアがエンジニアとしてだけでなく、職種を超えて活躍するためには、何が必要とされるのか?

岸本さんいわく「エンジニア時代に身につけた、論理的に考えるスキルはどの仕事でも通用する」という。

岸本さんの実体験から、これからのエンジニアがいかに活躍の場を広げていけるのか、その可能性について考えてみたい。

■ すべては状況把握から始まる。

― エンジニアから物流センターの部長になった岸本さんですが、物流センターでは、どのような仕事から担当されたのでしょう?

最初に任されたミッションは、震災で混乱した物流センターの立て直しでした。

本来は2011年4月から着任予定だったのですが、3月11日の震災が起こった3日後、急遽、センターに行くことが決まったのです。

正直、右も左もわからない自分が行っても役に立つのか、不安で仕方がなかったですね。

何しろ、物流センターは「商品を仕入れ、出荷する場所」そのくらいの知識しか持っていなかったのです。

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― そういった中で、どういったところから手をつけたのでしょう?

約200名くらいパートさんが働いているのですが、一人ひとり声をかけ、できる限り多くのスタッフと話をしました。困っていることはないか?どの業務がどこまで進んでいるのか?

誰が何を担当しており、どう業務がつながっているのか、まずは、ここを把握しなければと思ったのです。

箱に商品をつめても、配送業者さんが受け取れない。生鮮食品なので、常に置いておけるわけでもないし、計画停電で空調も思うように効かない。

問題は山積みの状態でした。

でも、いきなり問題を解決しようと打ち手を決めても、それが有効かどうかわかりませんよね。

いま、起こっている事象を正しく把握する。

これはシステムの開発でも全く同じプロセスだと思います。たとえば、バグがあった時、データのパターンを見ながら異常が出ている箇所を突きとめていきますよね。

そのためにも、まずはどのソースコードが、どこに影響しているのか、どう連携しているのか、全体像を把握してからでなければ、問題点を見つけることは難しいです。

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― エンジニアだった頃の強みとして、問題解決のプロセスが体に染みついていたと言えるかもしれませんね。

「物事を論理的に組み立てて、順を追って問題を解決していく」エンジニアは業務上、こういった基本スキルが身につきやすく、否応なしに鍛えられる部分だと思います。

新しいシステムを作る時も、どうテストするか?どう運用するか?と先まわりして考えて作りますよね。

― エンジニアは論理的思考力が鍛えられる職種であると。一方で、弱みとなる部分はあるのでしょうか?

あくまでも私見ですが、どうしても技術畑でやっていると、ソースの上で起こっていることや、データに目がいきがちになります。

ですので、できるだけ実際に作業を見て、直接ヒアリングする。現場のスタッフが困っていること、悩んでいることを自分の肌で感じることが大事だと思いますね。

パートさんが手で伝票を処理しているのを見つけて、マクロを組み、ボタンひとつで作業が済むようにしたこともありました。

それが、200人単位で改善されると、すごく効率的に仕事が進むようになります。机で考えるだけでは見えてこない部分ですよね。

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■ システムは、人の役に立ってナンボ。

― 岸本さんのお話を伺っていると「システムを作りたい」というよりも、「誰の役に立ちたい」という志向があると感じたのですが?

それはあるかもしれません。

実家が果樹園農家で、農作業における効率の悪さをテクノロジーで解消したいと、エンジニアを目指しました。

だから、もともと「システムを作る」ではなく、「システムをうまく使う」というほうに興味があったんです。

極端に言えば、多少はソースコードが汚くても使えるシステムのほうがいいと思っています。

― 使う側がどう思うか? ここが発想の起点になっているんですね。

あとは、自分がものすごく面倒くさがりなので、効率的にやりたいっていうのもありますね(笑)。でもこれは、実はエンジニアにとって大事な素養であると思います。

― 現在、一般的に言う「エンジニア」という職種から離れたわけですが、こういったキャリアを歩むことに不安はありませんでしたか?

確かに「自分は何屋なんだ?」という不安がないわけではありません。ただ、今、エンジニアに戻りたいか?と聞かれるとそうでもないんですよ。ITのスペシャリストを目指す意識も全く無いですし。

誰かの役に立つことができれば、エンジニアという職種にこだわることはないのかもしれません。

震災の時、計画停電区域で、エレベーターも、コンベアーも、空調も全部止まってしまったんですよね。

そういった中、バケツリレー方式で荷物を降ろしたり、お互いに励まし合ったり、声を掛け合ったり、もちろん、センターの立て直しがミッションだったのですが、人の役に立ちたい、という気持ちが根幹にあったと思います。

当時の責任者も「来てくれて助かった」と言ってくれてすごくうれしかったですね。

震災の混乱が落ち着いた後に、ひょっこり「新しい部長です」と現れても説得力がなかったかもしれません。「お前、何もしてないだろ」って。

震災の大変さを一緒に乗り越えたことで、仲間として受け入れてもらった感覚もありましたね。

■ 人の役に立てるなら、エンジニアである必要はない。

― 「ITで誰かの役に立ちたい」というエンジニアはいますが、役に立つために職種にこだわらないという人は珍しいです(笑)。

もちろんテクノロジーを深く学んで、スペシャリストになり、IT技術で社会に貢献する道もありますよね。

ただ、私にとっては困っている人を助ける手段がシステムだった、だからエンジニアを目指した、というだけです。

逆に、私と技術に強いエンジニアが組むことで、より高いパフォーマンスを発揮できるかもしれません。

私がクライアントや取引先との間に入って全体管理をして、技術的にスペシャルな人がシステムを管理する。

それぞれの良いところを活かせるのが理想だと思います。

― 「人」の懐に入っていく。そんなコミュニケーションスキルも岸本さんの強みになっていると感じました。

確かに、こんな見た目なのに「綾」とかわいい漢字の名前だから、取引先の方に「かわいい女の子が来るってイメージしていたよ!」と笑われて、打ち解けることは多いです(笑)

エンジニア時代もよくお客さんやチームメンバーと飲みに行っていましたね。仲良くなるのは得意なほうだと思います。

もちろん、人と仲良くなるのは組織づくりでも大事なこと。たとえば、パートさんの意見に耳を傾け、困っていることを解決すると、「今まで色んな人に言ってきたけど、解決できなかったのよ」と言ってもらえるんですよね。

「この人に言えば解決してくれる」とセルフブランディングになります。信頼してもらうことで、業務が円滑に進むようになるし、効率がアップすることもあるのです。

こういった協調性を重視したマネジメントは得意としてきたのですが、今の自分の課題は、働くスタッフたちがより緊張感を持ち、スピーディに業務を遂行できるマネジメントだと考えています。

これまでと同じことを続けるだけではチームとしても成長はありません。物流センターが上手く稼働している今だからこそ、できるだけ多く新しいことに挑戦していきたいですね。

― 岸本さんのコミュニケーションを大切にする姿勢、チームを成長させていく視点も、エンジニアが活躍の場を広げる上で参考になる部分だと感じました。本日はありがとうございました!

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(おわり)

[取材・文]白石勝也 [撮影]松尾彰大

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