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「地域から選ばれる」人材育成を目指して。徳島県神山町がクリエイター塾をスタートした理由

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徳島県神山町にユニークな塾がある。Web制作の基本が学べる『神山ものさす塾』だ。運営するのは東京に拠点をおく「モノサス」。Web制作に加え、ソーシャルグッドな活動も行うクリエイティブカンパニーだ。彼らの塾運営から、仕事と暮らしを近づけるヒントが見えてきた。


アート、IT、就業支援…注目される神山のまちづくり


いま、徳島県の神山町がおもしろい。

じつは20年以上の歳月をかけ、「NPO法人グリーンバレー」が行政・住民とまちづくりをしてきた。そして近年、ユニークなまちづくりの「種」が花開き、注目を集める。

たとえば、まちに溶け込む不思議なアート作品。毎年、国内外からアーティストを招き、神山での創作活動を支援。「神山アーティスト・イン・レジデンス」というプログラムで、10年以上続けてきた。

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2008年に神山に滞在していたオランダ在住のアーティスト カリン・ヴァン・デ・モーレンさんの作品。
『As it is in heaven-天上の地のごとくー』

さらに、就労支援プログラム「神山塾」(※)を経て、若者たちがオーダーメイドの靴屋や惣菜屋さんなどをオープン。またSansan株式会社をはじめとする10社以上の企業が古民家を活用したサテライトオフィスを開設。アートやテクノロジー、企業誘致、そして就業支援、それぞれの角度からユニークな「まちづくり」が進む。

そんな盛り上がりを見せる神山町で、昨年Webクリエイターを育てる塾がスタートした。

(※)「神山塾」とは…厚生労働省求職者支援制度や総務省地域の担い手創造事業による、地域滞在型人材研修((株)リレイション)。


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2016年7月からスタートした「神山ものさす塾」第2期メンバーの集合写真。半年間、神山に住み込み、サイトづくりの基本となるプログラミングやデザイン、ライティングを学べるという。現在、生徒は10名。生徒のバックグラウンドはメーカー、営業、アパレル、リフォーム会社、新聞社など、さまざまだ。

この塾を運営しているのは「モノサス」という会社。Webサイト制作・運用を事業としつつ、東北復興プロジェクトにおけるクリエイティブやディレクションなどを担当。ソーシャルグッドな活動も行う。

彼らはなぜわざわざ神山にクリエイター育成の塾を開いたのか。いったいどんな塾なのか。そこで得られることとは。

代表の林隆宏さん、塾長である栗原功さんにお話を伺うことができた。そこから見えてきたのは「仕事」と「暮らし」を近づける働き方のヒントだった。


草むしりもプログラムのひとつ!?小さな田舎町に生まれた「神山ものさす塾」


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神山ものさす塾・塾長の栗原功さん

― 神山でWebクリエイターを育てる、とてもユニークな取り組みですね。

栗原:
ありがとうございます。ただ同時に2015年に開設してまだ2期目なので、いろいろ試行錯誤しているところですね。

― プログラムとしては、どういったものになるのでしょうか?

栗原:
半年間、神山に住み込んでWebサイトづくりの基本を学ぶというもの。講師は「モノサス」の社員で実践に近いカタチで指導しているのが特徴です。

あと一般的な塾との違いでいえば、徳島県の地域創生人材育成事業の一環のプログラムなので、生徒たちはお給料をもらいながら、地域に根ざして生活をしながら学べます。週1回、「地域コーディネーション」という授業カリキュラムを組んでおり、(株)リレイションさんが運営する「神山塾」との合同授業を実施しています。内容としては、田んぼの草取りをしたり、木を伐採したり(笑)神山町の人たちが参加して楽しんでもらえるイベントの企画などをしています。

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木の伐採の様子

― 「地域との関係づくり」もプログラムということでしょうか?

栗原:
いえいえ、“プログラム”というほど仰々しいものではありません。授業で「地域との関係づくり」の方法を教えているわけではないですね。

僕も3ヶ月前に塾長として任命され、神山に移り住んだのですが、町の方々にはいろいろとお世話になっていて。たとえば、神山町には不動産会社がないので、自分が住む家も、町の方から借りる必要があります。そのためにも、まずは町の方たちとのつながりから見つけていくんです。だから必然的に関係づくりが行われ、住んだ後も生活・暮らしを楽しむ上で、多くのひととの関係を築いていくことが大事になるのかなと感じています。

神山の流れというのか、自然とそうなるという感じです。

林:
塾を開設した時も、いろいろなところで苦労したのですが、本当に良くしてもらって。たとえば、長屋を改装してキッチンをつくるときに、土間を解体しようと思ったら想像以上に「木材ゴミ」が出てしまったんです。まちの人が声を掛けてくれて、「捨てといたるわ」と3時間後にはそのゴミがなくなっていて。近所で風呂を薪で沸かしている人が燃料として引き取ってくれたんです。木材ゴミが薪に生まれ変わった(笑)ものすごく助かりました。

― そういった環境で学べるってすごくおもしろいですし、生徒さんにとっても貴重な経験になりそうですね。

林:
そうですね。生徒たち、そして企業にとってもすごくいい環境だと思います。もともと神山町にはいろんな企業が入ってきているし、住民の人たちがそれを受け入れてくれる風土が自然と生まれていて。このオープンな風土は、いまの神山町を盛り上げる底力になっているのだと思います。


地域に、そして誰かに、選ばれる人になる


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モノサス・代表の林隆宏さん

― 地方移住やリモートワークなどが近年だと注目されています。生徒さんのなかには、地方への移住を考える人も多いのでしょうか?

栗原:
じつはそこまで移住を考えている人って多くないんですよね。それよりも「どう自身が働くのか、どう暮らしていくのか。一度立ち止まって、時間をかけて考えてみたい」というのが共通していた印象です。経歴も年齢もさまざまですし。 ちなみに募集を掛けたときは、とてもうれしいことに80名近くの応募があって。10名の方に入塾していただきました。

神山の人たちとつながり、暮らしにとけ込めるかどうか。神山という地域、そこで暮す人たちと同じ目線でものごとを感じたり、考えたりできそうか。選考の上で、ここがポイントになりました。もちろん仕事や学ぶという姿勢において真面目さは前提として。

林:
「相手と同じ目線で物事を見ていく」ってクリエイターにとってすごく大切なことで。Web制作にしてもお客さんありきです。たとえば、モノサスで担当している、あるメーカーさんの仕事はもう10年近くやっていて、じつは「どう販売するか?」といった企画まで一緒に考えています。

仕事を発注する側、される側の関係ではなく、いかに「中の人」になれるか。受発注の関係で、プロジェクトごとに仕事が終わっていくと、こちらも消費される感覚があるし、クライアントの本質的な課題を解決して見届けるというのが難しいケースもあります。

だからこそ同じ景色をみて、同じ目的を持って、ともに働く。生きる。そんな関係性を社内でも、社外でもつくっていきたいですね。神山ものさす塾でもその持続する関係性みたいなものをつくりたいですし、生徒にも大切にしてほしいと思っているんです。

― そういった関係性が進めば、「地域」にとっても良い影響を与えているといえそうですね。

栗原:
うーん、自分たちではよく分からないですね(笑) そもそも何かいい影響を与えようといった目的でやっているわけではなくて、町の人たちもそういう捉え方はしていないような。

林:
神山町のまちづくりを牽引してきたNPOグリーンバレーの大南信也さんという方がいるのですが、「町のためになにかしなくちゃいけないとか考えないでくれ」と常々言っているんですよね。「地域のためになにかやる」というよりも、「地域から選ばれる」ものだと思うんです。

栗原:
同時に、個人個人が影響を受け合うことはあると思います。たとえば、いま僕はけっこう山奥に住んでいるんですけど、その近所の人たちは移住者がオープンしたカフェを知っていても実際に行ったことがなくて。正確には行く機会がないんだと思います。せっかくなら一緒にと思って連れていったら、コーヒーを飲んですごく喜んでもらえて気に入ってくれました。そしたら、自分がいないところでも行ってくれて。

ホントに小さい部分ですけど、それでいいのかもしれません。「地域のために」という利害関係ではなく、お互いに関係を築いていく。その中で自然発生的に変化が生まれるものなのかもしれないですね。


「働き方」と「暮らし方」に選択肢があることが大事


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塾生宅にて食事会の様子。山道を15分ぐらい入った標高の高いところにあり、鹿との遭遇率は高い。

― 栗原さんは、神山に移住して3ヶ月経ったところですよね。実際どうですか?暮らしの変化とか。

栗原:
より「暮らし」と向き合うようになったかもしれません。たとえば、仕事が終わった時間に、外でご飯食べるところがないんですよね。コンビニも1軒しかないですし。自分で料理をしないといけないので、商店が開いている時間に食材の買い出し行かなきゃいけない。そのために仕事を早く切り上げることもありますね。

林:
神山では、暮らしによって「仕事を一時中断しよう」みたいなことも多くて。いつまでに仕事を仕上げるのか、いつご飯を食べて、洗濯機を回すのか。じつは暮らしも仕事も両方「営む」ということ。

神山のような場所に身をおいていると、プライベートも仕事も、どの時間も地続きにつながっていることがより分りやすくなるのかもしれません。

― 地方で「暮らし」と向き合いながら働いてみる。とても貴重な体験ですし、そうすることで働く意味や意義など、深く考えるきっかけにもなりそうですね。

林:
そうですね。ただ、わたしたちはこの暮らしや働き方が「正解」だとは思っていないんです。あくまでも選択のひとつで。なにより「自分で選択をした」と思えることが、じつは一番大事かなと思っています。塾生たちにも卒業後、神山に定住してほしいとも思ってないし、モノサスに入社してほしいとも思ってなくて。神山で暮すことも、一つの選択肢なんです。

1日の時間をどう時間を過ごすのか、なにお金を使うのか。その価値観は人それぞれ。もちろんたくさん稼いでたくさん使いたいっていう人もいるし、あんまり稼がず使わない人もいる。自分らしいバランスをいかにとれるかだと思います。

― 神山で過ごす時間は、Webスキルの習得のみならず、これからどう生きていきたいのかを焦らずに考えられる機会なのだと思いました。自分自身と向き合う時間を探している人におすすめしたいですね。本日はありがとうございました!



編集後記

一度立ち止まって、自分自身と向き合い、これから進む道を決断する。この道で本当にいいのか、失うものはないか、迷ってなにもできないこともある。「神山ものさす塾」の存在を知ったとき、正直、興味はあっても、参加を決意するには少し勇気がいるのかなと思った。

神山ものさす塾には、多種多様な業界から塾生が集まり、自分の暮らし方、働き方と向き合う。

塾長をつとめる栗原さんも、もともとは違う業界で働いていた。

それなりに仕事で充実感は得ていたんですけど、30歳になったときに、一生今の仕事をやり続けたいか?と考えはじめるようになって。どうしても学生時代に勉強して憧れていたWeb業界で働きたいと思ったので、会社を辞めて、Webの職業訓練校に通いました。卒業してから、100社くらい面接を受けて拾ってくれたのがモノサスで。もちろんスキルは経験者に比べたら足りなかったと思うのですが、自分なりにできること少しずつ積み重ねていきました。


自分がどう働いていくか、暮らしていくか。それは何歳になっても選べることなんだと思う。神山ものさす塾で半年間を過ごした後、自分なりの暮らし方、働き方のヒントが見えてくるのかもしれない。


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