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トロントのプライドパレードが25分間止まった理由

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2016年7月3日に開催された第35回トロントプライドパレードは、初の試みとなったプライド月間の最終日を飾る盛大なイベントである。

ジャスティン・トルドーがカナダ首相としてプライドパレードに参加し、フロリダ州オーランドのゲイクラブ銃撃事件の後ということもあって、始まる前から例年にはない熱気が伝わってきた。そして、開始からまもなくして、歴史に残る事件が起きた。

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今年のプライドパレードの先頭を立つのは、Black Lives Matter(訳:黒人の命は重要だ)である。元々はアメリカでの警察や政府による人種差別や暴力に対する反対デモ団体だが、同じ問題を抱えるトロントにもそのムーブメントは広がった。彼らが率いるプライドパレードが政治的になるのは誰もがわかっていた。



プライドパレードが中間地点を差し掛かった頃、Black Lives Matterは行進を止めた。彼らは一斉に床に座って、そこから前に進まないことを宣言した。そして、行進を再開する条件として、プライドを運営する団体であるプライドトロントに数々の要求を突きつけた。この要求の内容は大きく分けて以下になる。

1、黒人LGBTコミュニティや有色人種コミュニティ向けの支援を充実させること

2、団体のスタッフと代表にもっと有色人種を増やすこと

3、プライドから警察のフロートとブースを無くすこと

プライドトロントの代表はこれらの要求をすべて受け入れた。そして、25分間続いた座り込みデモは終わり、プライドパレードは再開した。

こんな予期しないことが起きて、観客もメディアも大混乱である。パレードの後ろで待っていた自分は何が起こっているのか全然わからずに、太陽の下で真っ黒に焼けていた。ニュースが伝わると、後列の方で待機していた警察のフロートの人たちが解散した。

この座り込みデモに対するコミュニティの意見は真っ二つに分かれた。

Black Lives Matterがプライドパレードを人質にして、自分たちが得する要求を押し付けたと主張する人もいれば、これがプライド本来の姿だと指示する人もいた。そして、この議論によって未だに根強い人種差別の意識が浮き彫りになった。

中でも、一番賛否両論だったのが警察をプライドから無くすという要求だった。35年前に警察による過度のハッテン場摘発で始まったトロントのプライドパレードは、ここ数年警察を喜んで受け入れるようになった。

今年はテロのターゲットにされる可能性とカナダ首相の参加もあって、いつも以上に警察の数が多かった。チャーチストリート周辺のビルにはスナイパーまで配置されていたという話まである。

確かに、警察はもうゲイやレズビアンコミュニティを摘発するようなことはなくなった。しかし、有色人種やトランスジェンダーのコミュニティに対する警察の差別や暴力は未だに大きな課題である。

それにも関わらず、トロント警察はLGBTコミュニティとの関係が修復されたかのようにプライドにブースを出し、パレードにも参加している。そんなダブルスタンダードをピンクウォッシュだと批判する人は多い。

それに加えて、プライドトロントとトロントの黒人LGBTコミュニティの間にも確執の歴史がある。

お金を出してくれるスポンサーを優先しがちなプライドトロントは、黒人LGBTコミュニティに人気のイベントやスペースに不利な変更を幾度と強要してきた。プライドトロントのコミュニティに対する姿勢もまた長い間指摘されてきた問題である。

これらが背景にあったからこそ、この座り込むデモが起きた。礼儀正しくプライドトロントに語りかけたところでずっと変化はなかった。だから、こうしてプライドパレードを止めてまで変化を強要する必要があった。そして、やっとプライドトロントに対する訴えは届いた。

Black Lives Matterがプライドパレードの先頭を歩くと決まったとき、LGBTコミュニティの中から反感の声がたくさん上がった。彼らからすれば、どうして黒人コミュニティが自分たちと関係があるのかわからなかったようだ。

この座り込むデモのニュースが流れると、彼らはBlack Lives Matterにそんな要求を押し付ける資格はないと怒った。彼らの目からすれば、Black Lives MatterはLGBTコミュニティの敵に見えるのかもしれない。

まず、黒人コミュニティはLGBTコミュニティの一部である。彼らがプライドトロントに不満を感じているなら、声を上げる資格はもちろんある。

1969年6月29日にニューヨークのストーンウォールで起きたデモだって、有色人種やトランスジェンダーの人たちが先頭に立っていた。そんな勇気ある人たちが警察に歯向かったことで、こうして変化が続いてきた。

この座り込みデモだって、LGBTコミュニティのための戦いである。それを理解できないのは、有色人種やトランスジェンダーの立場が想像できないからなのかもしれない。

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同性婚が認められて、人権も保護されて、カナダは確かにLGBTコミュニティが暮らしやすい社会といえるのかもしれない。だからといって、ホモフォビアがなくなった訳ではないし、トランスフォビアは未だに根強い。有色人種ならそれらに加えて人種差別だって受ける。

LGBTコミュニティの中にも格差がある。お金持ちの白人のゲイなら何も影響はないのかもしれないが、黒人のトランスジェンダー女性にとっては別の現実がある。今回のプライドパレードはそれを再認識させてくれた。そして、Black Lives Matterの勇気ある行動に感謝したい。