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ひとりで不安と対峙して娘が出した結論

2017年08月22日 16時22分 JST | 更新 2017年08月23日 03時01分 JST

北海道はオホーツク海沿岸の街にある、妻の実家に帰省してきました。

新調した捕虫網を振り回し、東京ではお目に掛かれない昆虫たちの採集に成功した蟲愛づる娘は、文字通りの大自然に囲まれて終始伸び伸び過ごしているように見受けられました。

20℃にも満たない涼しい毎日で家族三人すっかりリフレッシュして東京に戻り、夏休み後半をのんびり過ごしていたある夜のこと。娘がiPadやマンガを眺めていつまでたっても寝付かないので、訳を聞いてみると「不安で眠れない」と訴えてきました。

実は一学期に校外で受けた健康診断で「心雑音」が聞こえると言われ、その後も小児科で心電図を取るなどした結果、循環器の専門医に一度診てもらうことになっていました。数日後に控えたその再検査の事を思うと不安で不安でしょうがない、北海道でも楽しく振る舞ってたけど、実は毎日不安で仕方なかったのだと、泣き出してしまったのです。

「たかが心雑音くらいで、大丈夫よ」と、ママも祖母も、そして私も言い聞かせてきました。不整脈だの心雑音だの、大人になればよく聞く話ですし、身内にも心臓(心房と心室の膜)に穴が開いていると診断されながら何の不自由もなく生活している者もいます。

しかし、以前カウンセラーの方から教えられたのですが、アスペルガーの子は得てして、先の先までシミュレーションしてしまう特性があるとのこと。「もし重い心臓病だったら...」「手術に失敗したら...」「処置無しだったら...」と、脳内であらゆる可能性を想定してしまうのだと。

そんな娘には「気にしなくても大丈夫」ではなく「そうだね、不安なんだね、泣きたいんだね」と、その不安感を肯定しないことには話が先に進まないのだそうです。そのアドバイスを思い出し、しばらく赤ん坊の子守のようにお腹をトントンと叩いていると、娘の方から「どうしたら不安じゃなくなるかな」と問い掛けてきました。

しばらく二人で話し合ってみると「マンガを読んでいれば嫌なことを全て忘れられる」ことはわかりました。

ただ、読書スピードが人一倍速い娘にとっては、買ってきたマンガもすぐ読み終わってしまい、いま家にあるマンガも何度も読み返していい加減飽きてしまい......。親のフトコロ具合も考慮して次から次へとねだるのも気が引けるから、今まで我慢してきたけど「どうしたらいい?」と。

近所の図書館を学校代わりに「ライブラリ・スクーリング」を試みていますが、マンガといってもいわゆる学習漫画ばかり。う~ん、と試しに「マンガ 図書館」で検索してみると...

mangapark.jp

ありました!

内装も「押入れ風の読書スペースなどでご自由にお楽しみください。」となっており、画面を見た娘もようやく落ち着きを取り戻して眠りにつきました。

翌日、少し遅めに図書館についたところ大勢のお客さんで賑わっています。お目当ての押入れ型個室が空いたのは夕方になってからでしたが、それでも畳敷きのフロアで心ゆくまで読み耽っていました。

さらに翌日は開館時間よりも早く到着したのですが、既に長蛇の列。それでも持ち前のすばしっこさを巧みに発揮して場所取りに成功。 結局閉館まで10時間、とにかく一つのことに打ち込むと、どこまでものめり込むその集中力には舌を巻きます。

こうして検査前の最後の二日間、閉館まで籠城して、帰宅してお風呂から上がった娘が、吹っ切れたように明るい顔をして言いました。

ウチ、わかったよ。先のことは分からない。変えられない未来のことをあれこれ悩むより、今を楽しむことに決めた。生きていれば楽しいことがある。

これが娘が読み漁っていた『ガラスの仮面』のセリフなのかどうかは分かりません。また、今まで似たような人生論めいた説教を何度も聞かされていたことでしょう。しかし、親の手も友だちの手も、娘の心の中まで突っ込んで操作することはできません。いくら大人が言い聞かせても納得しなかった娘が、自問自答して、一人で格闘して、自分なりの結論を絞り出したのです。

どうやら娘がマンガに没頭していた時間は、決して単なる現実逃避だったのではなく、どうにもならない不安と、そして自分自身と向き合うために、必要な時間だったようです。まぎれもなく娘が一人で不安と対峙し、乗り越えられたという事実に、また一つ成長を感じた瞬間でした。

とはいうものの、翌日、再検査の時間が近づくとやはり泣き泣き出してしまった娘ですが、泣きながらもちゃんと病院まで付いてきました。循環器が専門というお医者さんは、娘に向かって、娘が納得いくように説明してくださり、おかげさまで不安も大分解消できたようです。

前のお医者さんの見立てでは心臓病が禁忌になっているということで抗不安剤を暫く中断していたのですが、ようやく再開の許可が出ました。大好きな『昆虫―驚異の微小脳 』の読み聞かせを子守唄に、その夜は久しぶりに、ひときわ大きな寝息を立てていました。

ところで、今年から夏休みが短縮され、北海道でもないのに早くも今週末から二学期が始まるという学校も多いのではないでしょうか。毎年、子どもの自殺が最も多いと言われている9月1日ですが、今年はそのリスクが前倒しになることも懸念されます。

news.yahoo.co.jp

もし、活字の本がズラッと並んでいる図書館の敷居が高く感じるのなら、マンガ図書館という選択肢もあることを、心に留めておいて下さい。繰り返しますが、蟲愛づる娘も、このツイートに救われた一人です。

(2017年6月17日 AS Loves Insects - 小包中納言物語「心雑音の不安と対峙した蟲愛づる娘の結論」より転載)