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サンタクロースは実在するか 2017

「サンタクロースは実在するのか」なる問いは、もう既に100年以上も前から繰り返し語られている論争でもあります。

2017年12月18日 10時37分 JST | 更新 2017年12月18日 10時37分 JST

いよいよ迫ってまいりました、クリスチャンおよびリア充にとって最も祝うべき祭典のうちの一つ、クリスマス。街にはビング・クロスビーやワム、マライア・キャリー、山下達郎などおなじみの歌声が響き渡り、すっかり早くなった日暮れの空をクリスマスツリーのイルミネーションが彩っています。


(Oricon News channel; VEVO channel​​​​: www.youtube.com )

ところが、今年はそんなお祝いムードに水を差す話題が。

なぜ神戸に半殺しの生木を吊してはいけないのか:震災死者を冒涜する#世界一のクリスマスツリーの売名鎮魂ビジネス/純丘曜彰 教授博士 - ライブドアニュース

この影響は各所に延焼し、Twitterのタイムラインにも「そもそもサンタは実在するのか?」と疑問を呈するツイートが溢れるなど、クリスマスの存立が脅かされ、子どものプレゼント要求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態にまで発展しています。

ですが、この「サンタクロースは実在するのか(Is there a Santa Claus?)」なる問いは、もう既に100年以上も前から繰り返し語られている論争でもあります。

サンタクロースは実在するのか - Wikipedia

1897年9月21日、新聞社に投書をした8歳の少女からの質問に答える形で、同社の記者であるフランシス・チャーチが以下のような社説を書きました。

ヴァージニア、それは友だちの方がまちがっているよ。きっと、何でもうたがいたがる年ごろで、見たことがないと、信じられないんだね。自分のわかることだけが、ぜんぶだと思ってるんだろう。

......

 じつはね、ヴァージニア、サンタクロースはいるんだ。愛とか思いやりとかいたわりとかがちゃんとあるように、サンタクロースもちゃんといるし、そういうものがあふれているおかげで、ひとのまいにちは、いやされたりうるおったりする。

......

 サンタクロースがいないだなんていうのなら、ようせいもいないっていうんだろうね。......そもそもサンタクロースはひとの目に見えないものだし、それでサンタクロースがいないってことにもならない。ほんとのほんとうっていうのは、子どもにも大人にも、だれの目にも見えないものなんだよ。......

すなおな心とか、あれこれたくましくすること・したもの、それから、よりそう気もちや、だれかを好きになる心だけが、そのカーテンをあけることができて、そのむこうのすごくきれいですてきなものを、見たりえがいたりすることができる──

(ニューヨーク・サン紙社説(大久保ゆう訳)"YES, VIRGINIA, THERE IS A SANTA CLAUS" - 青空文庫)

......えーっと、どこから突っ込んでいいか分からないぐらい突っ込みどころ満載の文章です。

まず、「そもそもサンタクロースはひとの目に見えないものだし」って、ちゃんとフィンランドにいますよね、大量のサンタが。

また、「サンタクロースの実在」という存在論的な問いを、「サンタクロースは目に見えるか」という認識論的な問いや、「愛とか思いやりとかいたわり」「すなおな心」「よりそう気もちや、だれかを好きになる心」などという倫理的な話にすり替えようとするあたりに、「江戸しぐさ」や「水からの伝言」にも通底する、道徳教育の普遍的な困難さが垣間見えます。

「水からの伝言」を信じないでください - 田崎晴明

ただし、そこはまだ通信技術もインターネットも未整備だった時代のこと、あまり現代の視点から揚げ足を取ってばかりいるのも酷な話です。これでは歴史学における「ホイッグ史観」の誹りを免れません。きっとこの記者自身も締め切りに追われて、その場しのぎで書いた原稿が掲載されてしまったのでしょう。

とはいえ、19世紀ならいざしらず、いまやGoogleれば一発で答えが分かる21世紀です。にもかかわらず、何故いつまでも論争に決着がつかないのでしょうか。

santatracker.google.com

一つの要因として、「サンタクロース」という概念の曖昧さがあると私は考えます。議論を始めるにはまず「サンタ」が何を指し示すのか、定義するところから始めなくてはなりませんが、この点においてすら、いまだ一般的な合意が得られていません。例えば、私の認識とは異なりますが、Wikipediaでは次のように定義されています。

サンタクロース(英: Santa Claus)は、クリスマス・イヴ(クリスマスの前の夜)に良い子のもとへプレゼントを持って訪れるとされている人物。*1

しかし、この前提に経つと、今度は「では〈良い子〉をどう定義するのか?」というトートロジーに陥ってしまい、議論は泥沼化する一方です。

また、世界的に人口爆発が起きている現代においてもなお、サンタが「手渡しでプレゼントを持参する」と思い込んでいる人がいるとしたら、相当に平和ボケしたお花畑脳と言わざるを得ません。Amazonのようなロングテール型ビジネスや、サンタのような慈善事業がペイする背景には、物流インフラの革命的進展が基盤にあることを考慮すべきです。

だいいち、煙突はとうの昔に街並みから姿を消していますし、たとえ家主からの依頼であろうと夜中に住居に進入する文化はセキュリティ上問題があります。であれば、サンタがFedExやUSPS、国内ではヤマトや佐川など物流大手と提携しているであろうことは容易に想像がつきます。*2

サンタとて「ブラック企業」のレッテルは怖いのです。

www.huffingtonpost.jp

こう言うと「バカな。サンタのような一文のカネにもならない慈善事業が回るわけないだろう。」との反論も聞こえてきそうです。確かにサンタの会計報告は、財務には素人の私からしても不明朗ではあります。しかし、ビル・ゲイツやC・ロナウドらの名を挙げるまでもなく、「ノブレス・オブリージュ」や「グッド・サマリタン」の伝統はキリスト教圏には根強く受け継がれているのも事実です。

www.cafeglobe.com

このあたりの感覚は、「貧しい人を助ける必要があるか?」との問いに「YES」と答える人の割合が先進国中最低だと噂されるこの国で生まれ育った我々には、なかなか理解できない文化なのかもしれません。

mainichi.jp

とはいうものの、まとめサイトが幅を利かせフェイクニュースが後を絶たない昨今のジャーナリズムです。たとえ国営放送や大手通信社が「今年もサンタクロースが出発」と配信しても、直ちに信用できなくても無理はありません。

www.afpbb.com

ただ、少なくとも定義によって真にも偽にもなりうる「サンタは実在するか」という命題に対し、どちらか一方の答えを一概に決めつけるのだけは避けたいものです。世界中で楽しみにサンタを待っているのは、子どもたちなのですから。

www.santaclausvillage.info

*1:サンタクロース - Wikipedia、太字は筆者。

*2:この点において、我が国での事業受託を主導するべき立場にあった日本郵政が、他社の後塵を拝している現状は残念でなりません:どうなる日本郵政? "西室切り"の背景にあるもの | 文春オンライン

(2017年12月10日 AS Loves Insects - 小包中納言物語「サンタクロースは実在するか 2017」より転載)