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福島と、「知る」という技術

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地球の反対側にいた人間が、福島第一原子力発電所の近くにある病院で働き始めたのには、どんな理由があったのか。それについてお話ししたい。

理由。それはまず、私は「十分に知らなかった」からだ。そして、「もっと知りたかった」。

2011年3月11日、日本は地震と津波に襲われ、それらの災害は原子力事故を引き起こした。それから4年後の2015年2月、日本から9000キロ離れたエディンバラ大学の修士課程に在籍する学生だった私は、福島で調査をしている日本人の研究グループによる特別講義を受けようとしていた。

福島で原子力の事故が起きたことは知っていた。その事故によって放射線レベルは危険な数値を示し、がん患者が増加しているのだろうと私は考えていた。その地を訪れようなどとは考えたこともなかった。

その講義で起こったことは、「私が知っていると思っていたことと現実の衝突」とでも表現できるだろう。

その研究グループは一連のプレゼンテーションを通じて、福島の調査でわかったことを教えてくれた。

居住者の内部および外部被曝は圧倒的に低レベルで1,2、幼児と子供に対して行った大規模なスクリーニング検査でも検知可能な内部被曝による悪影響は見られなかった3。 しかし、その他の健康被害が起きており、放射線レベルの低さとは対照的に、放射能とは関連性のない糖尿病、心血管疾患、高血圧といった病気の増加が見られた4,5。特に避難に伴う健康リスクが顕著で5、 養護施設から即時避難した高齢者の死亡リスクは、非避難者に比べて3倍に上るというデータもある6

その講義では、福島の最大の問題は放射能ではないかもしれないということが伝えられた。

驚きだった。それは、福島について一般的に考えられていることと正反対の事実のように思えた。私が聞いたり思い描いていた福島とは全く違っていたので、興味が湧いた。私は研究グループの人たちと話をし、さらなる研究についてのアイデアを提案した。彼らは私が修士論文を書けるように、福島に来るよう招いてくれた。私はそれに同意した。

2015年5月、初めて福島の地に足を踏み入れた私は、南相馬市立総合病院で研究を始めた。修士論文を書き上げて卒業し、同病院からフルタイムでの仕事の誘いを受け、いま私はそこで働いている。

私が福島で学んだことについて、書けることはたくさんある。経験の中でも最も予想外だったのは、私が知っていると思っていたことと、そこで知った現実の対立だった。私が予想していた福島とは違うことだらけで、自分はこんなにも知らないことばかりだったのかと衝撃を受けた。だが、そうした間違った思い込みは、驚くほどありふれたものだということもわかった。

このことから、自分自身と他者について何かを「知る」というのはどういうことなのか、私はいままでにないほど考えるようになった。

実際のところ、私たちはどうやって物事を知るのだろう? その答えはひとつではない。

知識について語ることは難しい。自分の感じたことや意見が知になる。観察が知になる。メディアを知識の源と言うこともできるだろう。科学は知るための方法だ。

だが、私たちの知識が現実の状況を反映していない場合はどうなるだろう? これが、福島に来てから私が学んだ中で2番目に大きなことだ。それは「間違った情報による被害」である。言い換えれば、私がかつて抱いていたような考えを他の人たちが持ち続けているのは、いかに危険になり得るかということだ。

誤った情報が実際にどのような結果をもたらすのか、私は福島に移り住むまでこの目で見たことがなかった。いまでは、それをあらゆる場所で目の当たりにしている。

すべてを象徴するような例はないが、まずは噂は風評被害といったところから始めてみたい。

いまここで特に問題になっている誤情報は、放射能のレベルやそれが健康に与える影響についてだ。他人の誤った情報によって自分たちの生活に影響が出ているという話を、私は多くの住民から聞いた。

避難者の中には、放射能が感染するという誤った情報を持っていたために、家族が住む家から離れようとした人がいた。若い男性の両親が、息子の結婚相手である福島出身の女性は健康な子供を生めないのではないかと思い、2人の結婚に反対したという話も聞いた。子供たちの中には、自分は健康な子供を育てることができないのではないかと思っている子もいる。

このような例はいくらでもある。これは気持ちよく話せる話ではなく、実に恐ろしい話だ。こうした思い込みが科学的にわかっていることと真っ向から矛盾していることを考えると、状況はもっと深刻だ。

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は最近、福島の一般市民に対する放射能被曝による健康への影響は一切ないだろうとする予測を正式に発表した。7 また新たに生まれてくる子供世代に対しても、親からの影響や遺伝子への影響はないことも強調されていた。

誤情報が悪評を生み、結果として福島の人々の生活を破壊しているようだ。これは誤った知識が被災した人々の生活に悲劇的な影響を及ぼしかねないというひとつの例だ。

多くの人が福島の人たちを支援したいと言う。特に「福島の子供たちのために」という声は多い。その中でも最もよくあるもののひとつが、福島の子供たち向けのサマーキャンプだ。だが、そのキャンプは福島県外で行われることが多いというのがひとつの流れになっている。

その理由を明確に説明していないプログラムもあれば、放射能から一時でも解放され、屋外の自然の中で遊べる機会を与えよう、という売り文句のものもある。そうしたオーガナイザーたち、福島の子供たちを助けたいと言う人たちは、ここの実際の放射線レベルを知っているのだろうか? この県の美しい自然のことを、そしてほとんどの場所では子供たちが外で安全に遊べることを知っているのだろうか?

子供たちのために夏のプログラムを開催するのはもちろん素晴らしいことだし、私も子供たちには楽しい夏を過ごしてほしいと思う。だが、そうしたプログラムは子供たちにその土地の被害者というレッテルを貼らなければならないのだろうか? そのようなキャンプの根拠に科学的な情報、意見はあるのだろうか? そのキャンプは福島県で開催した方が利点が大きく、よりたくさんの人が参加できるのでは? もし私たちが本当に違いを生み出し他人を助けたいと思うなら、現実に基づいた最も効果的な行動を取るべきではないだろうか?

だがこのキャンプの例は氷山の一角にすぎない。子供たちは全員福島から避難させるべきだという人もいるのだ。こうした発言がそこに住む人々に与える悪影響について考えたことがある人がいるだろうか? 私も実際のところ、ここに来るまでは考えたことがなかった。

原子力災害は恐ろしい事故だ。リスクを伴う予想外の状況に、感情的に反応してしまうことは理解できる。最悪の状況を想定し、噂を広めた方が楽なのかもしれない。だが、誤った情報がもたらす結果について、意識を持つことが何より重要だ。根拠のない意見が苦しみをもたらしたのだ。そして誤った情報は今後の福島が克服すべき最も大きなもののひとつだ。

私は皆さんに、自分の知識の根拠となるものを深く掘り下げ、何かについてそう思う理由について自覚的になってほしいと思う。例えば、福島について何を思うか自分に問い、その理由も考えてみよう。

2つ目のステップは、情報に根拠を持つことだ。

自分が同意できるものを読む。それと同じくらい重要なことは、自分が同意できないものも読むことだ。読んで、あらゆる点について考えてみる。実際の現場に身を置かない人間が可能な限り現実に近づく方法は、これしかないと私は思うようになった。

自分自身の知識の限界と、誤った情報が人々の生活に与える影響について同時に知ったことが、私にとって福島との出会いで最も衝撃的だったことのひとつだ。これを読んだ人が、福島のみならずあらゆることに対する自分の「知る」方法について考えるきっかけになることを願って、私はこの記事を書いた。私たちが現実的に人を助けたり状況をよくしたりしたいと思うなら、まずその状況の現実を知らなければならないのだ。

私は十分に知らなかったし、もっと知りたかったから福島に移り住んだ。

私はいまでももっと知りたいと思っているし、他の人たちももっと知りたいと思ってくれることを願っている。


参考文献

1. Tsubokura M, Kato S, Morita T, Nomura S, Kami M, Sakaihara K, Hanai T, Oikawa T, Kanazawa Y (2015). Assessment of the Annual Additional Effective Doses amongst Minamisoma Children during the Second Year after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Disaster. PLoS One. 2015 Jun 8;10(6):e0129114

2. Tsubokura M, Gilmour S, Takahashi K, Oikawa T, Kanazawa Y (2012). Internal radiation exposure after the Fukushima nuclear power plant disaster. JAMA. 2012 Aug 15;308(7):669-70

3. Hayano RS, Tsubokura M, Miyazaki M, Ozaki A, Shimada Y, Kambe T, Nemoto T, Oikawa T, Kanazawa Y, Nihei M, Sakuma Y, Shimmura H, Akiyama J, Tokiwa M. Whole-body counter surveys of over 2700 babies and small children in and around Fukushima Prefecture 33 to 49 months after the Fukushima Daiichi NPP accident. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2015;91(8):440-6. doi: 10.2183/pjab.91.440.

4. Tsubokura M, Hara K, Matsumura T, Sugimoto A, Nomura S, Hinata M, Shibuya K, Kami M (2014). The immediate physical and mental health crisis in residents proximal to the evacuation zone after Japan's nuclear disaster: an observational pilot study. Disaster Med Public Health Prep. 2014 Feb;8(1):30-6.

5. Nomura S, Blangiardo M, Tsubokura M, Ozaki A, Morita T, Hodgson S. Postnuclear disaster evacuation and chronic health in adults in Fukushima, Japan: a long-term retrospective analysis. Postnuclear disaster evacuation and chronic health in adults in Fukushima, Japan: a long-term retrospective analysis.BMJ Open. 2016 Feb 4;6(2):e010080. doi: 10.1136/bmjopen-2015-010080.

6. Nomura S, Blangiardo M, Tsubokura M, Nishikawa Y, Gilmour S, Kami M, Hodgson S. Post-nuclear disaster evacuation and survival amongst elderly people in Fukushima: A comparative analysis between evacuees and non-evacuees. Prev Med. 2016 Jan;82:77-82. doi: 10.1016/j.ypmed.2015.11.014.

7. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation (UNSCEAR). Developments since the 2013 UNSCEAR report on the levels and effects of radiation exposure due to the nuclear accident following the great East-Japan earthquake and tsunami: A 2015 white paper to guide the Scientific Committee's future programme of work. 2015. United Nations: New York

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