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住民の健康意識を変えるアイテム⁉「健康ファイル」に秘められた想い

医療は、患者と医療者がともにはぐくむ。

2017年09月23日 16時23分 JST | 更新 2017年09月23日 16時23分 JST

医療は、患者と医療者がともにはぐくむ

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自治医科大学を卒業後、約30年に渡り新潟県内の病院に勤務されてきた吉嶺文俊先生。住民の健康意識を変えるべく考えたアイテムが「健康ファイル」でした。どのように普及させてきたのか、そしてこの「健康ファイル」に込められた想いとは――。

新潟県内、最少医師数の地域ではじめたこと

―新潟県立十日町病院の院長に着任するまでのキャリアを教えていただけますか?

私は1985年に自治医科大学を卒業し、医師1年目は新潟大学附属病院で研修、2,3年目は比較的大きな県立病院で研修し、4年目からへき地の病院に勤務してきました。

そのような地域で研鑽を積んだ後、2002年に着任したのが県立津川病院でした。津川病院があった東蒲原郡阿賀町は当時、人口約14,000人、高齢化率40%を超える地域でした。

2年間かけて病床利用率を79.3%から90.2%へ上昇、平均在日数を19.8日から18.7日に減少、病院経営も改善させることができました。

しかしながら人口10万人対医師数は80人で、新潟県内では最も少ない地域でしたし、スタッフ数は増えていなかったので、医療提供側の疲弊は変わらなかったんですね。

そこで、県立と町立病院を統合し公設民営の1病院・4診療所に集約して、社会医療法人化すること、24時間救急対応、在宅医療を充実させ、その一方で地域に見合ったコンパクトな医療提供に絞り、黒字化を目指すという「阿賀町ユートピア構想」を、自治体に提案しました。

しかしながら公立病院が1つ減ることは、住民にとっては簡単には受け入れられることではありませんし、自治体にもなかなか理解を得られず実現できませんでした。

そこで視点を少し変え、住民への健康啓発活動にシフトチェンジし、「健康ファイル」というものを始めたのです。

「健康ファイル」普及のコツ

―健康ファイルについて詳しく教えていただけますか?

診療についてのサマリーや病状説明用紙、紹介状、診療明細書、健診結果など医療機関でもらう書類など健康に関する自分の情報を、自分でファイリングして、患者さん自身が持ち歩くものです。

ジッパー付きのファイルも付いているので、おくすり手帳や血圧手帳なども入れられるようになっています。外来で、どの診療所や病院に行くのにも持参するように普及させてきました。

啓発は外来のみならず、「ナイトスクール」という地域の集会所に出向いて行う住民との車座勉強会やさまざまな健康講座でも広めていきました。

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もともとは、「連携ノート」という要介護認定者のご本人やご家族が施設との情報交換のために使っていたノートがあったんです。

以前からデイサービスなどでは、介護スタッフとご家族の間に情報交換用のノートがありましたが、施設ごとにサイズがバラバラでサービス提供者間の情報共有もできないので、統一して1冊にしたものです。

その連携ノートを通して、介護認定を受ける前の段階から自分の健康に関心が向くようにしたほうがいいのではと思い、健康ファイルを考案しました。

―住民の方への啓発活動は結構難しいですよね。

そうですね、確かにすぐに浸透するわけではありません。津川病院で約10年続けて、私が主治医の患者さんの健康ノート所持率は90%超、住民の半数が持ってくれるまでになりました。

浸透させるにはいくつかのポイントがあると思っています。

1つは、ルールをがちがちに固めないこと。ルールがありすぎると続きません。

そこでまずは医療機関から渡された書類は何でも挟み込める形とし、A4サイズとしました。また、何を挟んだらいいのか考えこまないようにするため、簡単なガイドパンフレットもつけていましたね。

もう1つのポイントは、無料で配布しないということです。無料配布は受動的になり、ファイリングしようという意識を芽生えさせることができないまま、捨てられてしまうことが多いのです。

患者さん自身が良いものと思わない限り、続けようというモチベーションを維持するのが困難になるので、良いと思って購入するというステップを入れています。

購入型にすることで、多少なりとも「お金かかっているから続けなければ」という思いも芽生えますしね。

そして、大々的なキャンペーンを行わないこと。特に行政側からの一律なお仕着せになるとどうしても余計な反発心が生まれてしまうので、自分が主治医の患者さんから徐々に広めていきました。

医療は患者とともにはぐくむもの

―昨年着任した県立十日町病院でも引き続き、健康ファイルの普及を目指しているのですか?

最終的には健康ファイルを普及させたいと考えていますが、今はそのための前段階として、黄色いつづり紐を一本無料で渡して自分の健康関連情報をまとめて持っておいてもらうようなことを勧めています。

この「幸せの黄色い綴り紐」キャンペーンを1年続けてみたところ、私が主治医の患者さんの半数以上に広めることができました。

自身の健康への意識は、人によって差があります。

住民全体のボトムアップとして、自身の健康情報にあまり興味を持っていない人でも続けられる仕組みということで、このつづり紐を試しています。黒ではなく黄色というのがポイントです。

今のところ皆さんちゃんと捨てないで、渡した書類などを自分でつづってくれています。

さらにひと工夫として、医療クラークさんにお願いし、こちらから渡す書類を印刷する前の用紙全てに、あらかじめ2穴パンチで穴を開けてもらっています。

―健康ファイルを普及させて、最終的にはどのようなことを目指しているのですか。

自分の健康情報を持つことで、患者さんの意識が変わり、医療のあり方が変化することを目指しています。

現代の医療は、サービスという側面に偏りすぎているのではないかと私は感じています。

そうではなくて、医療は患者さんと提供者側がともに育んでいくものです。

一緒に育むためには、患者さん側もある程度自分の健康のことや治療のことなどを知っていないと、互いに話し合うことも難しくなってしまいますよね。

健康にあまり関心が高くない人も、自分の健康情報を持つことを入口に、当事者意識を持ってもらい、納得のいく医療を受けてほしい。

そして、患者さんが変われば医療者も変わります。

例えば、患者さんが自分の健康ファイルを持って受診したら、医師は「しっかり診て、きちんと説明しなければ」と襟を正す思いで診療にあたるようになるかもしれません。

それが将来的には医療費の削減につながると思いますし、最終的には質の高い医療の提供につながっていくと考えています。

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■■■医師プロフィール■■■

吉嶺 文俊

新潟県立十日町病院院長

1985年自治医科大学医学部卒業。新潟大学医学部付属病院にて研修後、新潟県立新発田病院、六日町病院、妙高病院などに勤務。2002年7月、県立津川病院に着任、翌年、院長に就任する。2013年には新潟大学大学院医歯学総合研究科総合地域医療学講座特任准教授に就任、2016年4月に県立十日町病院に院長として就任し、現在に至る。