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1人で100万人の患者を救うために

2016年12月20日 01時48分 JST

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2つの眼科クリニックを経営する傍ら、医療者限定SNSの運営や、勉強会の開催、医工連携として医療機器の開発販売、京都大学での研究など、同時にいくつもの活動をこなしている武蔵国弘先生。そんな武蔵先生が勧めるのは、どんな立場でも可能な「医師の起業」。それを達成するために必要ものとは?

「医療×IT」「医療×モノ作り」「医療×海外展開」

-現在、どのような活動をされているのですか?

3本の軸、「医療×IT」「医療×モノ作り」「医療×海外展開」で何ができるかということを考えて活動しています。

「医療×IT」としては、所属や専門分野を越えて医師が相互に情報交換できるプラットフォーム「MVC- online」を運営しています。2005年の開設当時、医療情報は医局内、病院内で狭く所有されていて、伝達・流通がスムーズでない、知りたい情報にすぐアクセスできないという不自由さを感じていて、SNSという形で始めました。新鮮な医療情報をシェアするプラットフォームの構築は、医療水準の向上に寄与すると信じています。症例検討のディスカッションや、臨床上の意見交換が専所属を越えてなされています。完全紹介制の登録制にしていて、現在、約2000名の会員がいます。

そして、ITの強みである「ストック&シェア」が最も有効的に活用できるのは「教育」ですよね。そう思い、1万点以上の症例や手術動画をストックして、個人個人に自分の手術や診療に活用してもらっています。一人の名人芸がすごく伝えやすい世の中になっているのだから、それをシェアできれば結果的に医療の水準を向上できると思っています。

同時に、「ネットだけのつながり」では不十分と思っていて、直接人と人とがつながれる交流会を、2005年から定期的に開催しています。医療業界の周辺で起こっている活動を、医療者だけでなくビジネスパーソンも一緒に並んで勉強する寺子屋のような形です。10年以上120回に渡って開催してきました。やっぱり直接会わないと、熱を持った人間同士の化学反応は起きないんですよね。

-「医療×モノ作り」や「医療×海外展開」としてはどのようなことをなさっていますか?

「医療×モノ作り」の一つは、今お話した研究会がきっかけで出会った金属加工を専門にするエンジニアと作った試作品をもとに、起業して進めています。医療機器ベンチャー企業専門に出資しているベンチャーキャピタルから2億円程出資していただきました。

開発しているのが、硝子体手術用の器具。現在主流の25Gシステムよりも27Gシステムのほうが侵襲が少ないことは、眼科医なら誰もが分かっていますが、27Gではどうしても針先が柔らかく職人芸が必要で、手術の効率も悪い。一方で私がエンジニアと一緒に作った器具は、全く新しい素材や仕様を用いて、非常に硬い27G硝子体手術システムを製品化しました。2016年中に非臨床のサンプルを作成し、2017年から本格的に販売を開始します。

また、眼科医として現場の患者さんを治療するだけでなくて、治療できない難病患者さんの残っている視力・視野を活用できるようなデバイス開発を進めています。「ロービジョンケア」といいます。テレビに接続して使う小型カメラ内蔵のマウス型拡大鏡を開発し、タブレット端末でロービジョン患者さんの読書を支援する無料アプリの開発をしています。

「医療×海外展開」としては、これまでに、中国やミャンマーに事業展開を模索しましたが、これは道半ばで諦めました。新たに2015年2月にタイにも会社を設立しました。タイでは「ナショナルID」という日本でのマイナンバー制度が既にあるので、健康情報のプラットフォーム化が比較的容易です。携帯アプリを使ってタイ国民の健康データを集めて解析する事業や、製薬企業や医療機器メーカー向けのマーケティング事業を構築中です。健康データや診療所や病院のデータの効率的な収集法、解析法を開発し、日本に持ち帰ろうと思っています。

加えてMVC-onlineをタイでも展開させ、後々はASEANで医療プラットフォームを構築していこうとも思っています。

開業し、事業も持っているけれど、京都大学で寄付講座を持って研究もしています。やろうと思えば、いくらでも自由にできます。

100万人を救うために「医工連携」を駆使する

-いくつものことを同時に行える原動力はどこにあるのでしょうか?

やっぱり使命感でしょうね。100万人救うにはどうしたらいいかと考えたんです。1人で年間1000人の手術をしても1000年かかります。一人の力では限界があります。私の眼科手術の師匠は、100人の弟子を作るという方法で100万人の患者さんを救えた方だと思います。病院を10軒作っても100万人を救う事ができるでしょうし、ITの利用、教育など、発想は何でもいいと思います。

その中で私は、ITを通じて全国の医師が情報共有をする事で医療水準を向上させたいと考えましたし、医工連携を切り口に医療機器開発を通じて100万人を救いたいと思ったんです。

医師が医療機器開発に関わるスタンスは3つあります。1つ目は、企業のアドバイザーになること。2つ目が自分で知財を持ち、企業へ実施権を与えること。そして3つ目が、時間も労力もかかりますが、自ら出資して会社を設立することです。

民間企業から出資いただけるくらいの事業性、つまり患者さんに普及できるアイデアかつ技術力があるなら、会社化したほうがいいと思っています。その会社内で開発して、その会社を大手企業に丸ごと売却することでキャピタルゲインを得ます。ベンチャー企業は大企業ができないリスクある開発を担い、成果が出ればその成果を大企業に橋渡しします。

-具体的なモノ作りのアイデアはどのように生み出しているのですか?

日々の臨床現場にいると、「もっとこうしたらいいのではないか」というアイデアがいくらでも出てきます。ただし、目の前の患者さんをただマニュアル通りに診ているだけでは、何も生まれませんよね。私は学生時代の病院実習の時から、思いついた発想を必ずメモに残していました。

もちろん、当時の思いつきは、箸にも棒にも掛からぬアイデアが多いですよ。でも、これを学生のころから続けていたことで、実務知識がついてきた時に「これ、いけるんじゃない?」と確度が上がってきました。特許となったアイデアもあります。

自ら発案しなくても、有望な研究シーズと出会って、その事業開発を任される事もあります。目利きが出来るように、常にアンテナは高くあげておきます。

使命を共有した各分野の専門家を集める

-最後に、今後の展望についてお話いただけますか?

私は1週間の多くの時間を、開業医としてクリニックでの診療に当てていますし、手術もこなしています。ただそんな中でも、医療産業の事業展開もしています。

医師のキャリアプランとして、多くの医師が、大学の教授、民間病院の臨床医、そして開業医を思い描くでしょう。そこに私はもう一つ加えたいと思います。「メディカル・アントレプレナー」という呼び方をしますが、医療産業での起業です。これはどのポジションの人でもできます。勤務医だって開業医だってできることです。それを証明することが、私の目標の一つですね。

確かに、時間的制約があるので苦労することもありますが、かける時間の比重をどちらかに寄せることなく、どちらも同じエネルギー量でできますし、さらには研究だって可能です。そういう働き方は誰でも可能だと示すために活動を続けています。

ただ、自分一人だけではできません。仲間が必要です。使命を共有した仲間です。

仲間を集め共に仕事をするには、どうしたらいいかというと、「対話能力」と「大義を掲げる旗印」がすごく必要。昔ばなしの「桃太郎」のように、「日本一」と書かれた旗を掲げ、そして、犬・サル・キジといった各分野の専門家と対話できてエキスパート集団を構成する。旗は社会的に意義のある事が必要です。

志を世の中に打ち出せば共感した仲間が集まります。そして各分野の専門家との対話には、医療界の中での言語ではなく、彼らが取り組みやすい表現方法で対話する必要があります。

そんなことを意識しながら、臨床、MVC-onlineや勉強会、事業や研究を同時に進めていく中で、新たな仲間を見つけて、新たな事業を進めていきます。

■■■医師プロフィール■■■

医療法人創夢会 理事長 武蔵 国弘

1998年、京都大学医学部卒業。2007年に京都大学大学院医学研究科卒業(医学博士を取得)。神戸中央市民病院、日本赤十字社和歌山医療センターを経て、2007年にむさしドリーム眼科を開業。2009年に医療法人創夢会理事長に就任。2005年にNPO法人MVCメディカルベンチャー会議を設立、理事長となり、日本初となる医師限定SNS「MVC-online」を開設。現在、大阪大学 大学院医学系研究科 招へい教授、認定特定非営利活動法人健康ラボステーション 理事、株式会社京都創薬研究所 代表取締役、株式会社日本未来医療研究所 代表取締役、株式会社メディカルプラットフォーム 取締役を兼務する。