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ストレスがおなかを動かす!?

2015年06月16日 01時18分 JST | 更新 2016年06月11日 18時12分 JST

脳から出る物質が腸を動かす――。その物質とは、「ストレス関連ホルモン」です。心と脳と腸との関係を科学の視点からみてみましょう。

「食事と関係なく、日中に突然おなかがキュルキュルするのはなぜ?」

「おなかを壊すのは、試合の前だけなんです」

起床後と朝・昼・夕食後には腸の動き(蠕動:ぜんどう)が増えますが、おなかが弱い方は「朝」や「食後」とは関係なく、おなかの症状が出ることがあります。そういう方に外来でお話を聞くと、「ストレスがかかった状態」であることが多々見受けられます。

◆心と身体を結ぶ「ストレス関連ホルモン」

脳と腸は何でつながっているのでしょうか? 「神経」を思い浮かべた方がいらっしゃるかもしれません。この神経が活動するためのスイッチ役の一つに、ストレス関連ホルモンがあります。

中でも脳の中心部付近にある「視床下部」から放出されるストレス関連ホルモンの一つ、「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)」は、ヒトのストレス応答に密接に関連しています。CRHは脳下垂体より「副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)」の放出を促し、ACTHは血流に乗って、腎臓の上にちょこんと存在する副腎に働きかけ、コルチゾール産生を促します。このコルチゾールは体内の炎症なども含めた心と身体のストレス応答に関連しています。

◆副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)と腸の関係

CRHは下垂体を刺激するだけではなく、脳のさまざまな領域や、さまざまな臓器にも影響していることがわかってきました。腸にも多くのCRH受容体が存在しており、血液中に放出されたCRHがこれらの受容体に結合することで、腸に何らかの影響を及ぼしている可能性が研究されてきました。

もしかしたら、ストレスを感じている時に、このCRHが血中にたくさん流れ込み、腸蠕動を刺激しているのではないか。そのような疑問を解いた論文をご紹介しましょう。

過敏性腸症候群(IBS)におけるCRHの消化管運動と下垂体―副腎への働き

Impact of corticotropin-releasing hormone on gastrointestinal motility and adrenocorticotropic hormone in normal controls and patients with irritable bowel syndrome.

GUT 1988;42:845-849

目的:CRHを静脈注射すると、IBS患者の腸管運動はより活発になるか検証する。

対象:10名のIBS患者、10名の健常者(共に男女比1:1)

方法:CRHを静注し、十二指腸と大腸内圧を測定する。またその際の血液中ACTH値を測定する。

結果:CRH静注後

大腸→IBS群、健常群ともに活発化、IBS群ではより運動亢進

十二指腸→強い運動が全体の約80%に見られた。

IBS群のうち40%に運動異常が見られた。

腹痛→IBS群で腹痛スコア上昇

血中ACTH→両群で上昇。IBS群の方が健常群より有意に上昇。

小腸・大腸内圧結果(論文図より)

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◆CRHはIBSのお腹の症状に関連

IBS患者ではCRH投与により腸の運動が活発になりました。また30分もたたないうちに、何も刺激をしていないにも関わらず、腹痛を生じた方もいました。

ちなみに、CRHの静脈注射はヒトがストレスを感じているときに近いであろう体内のホルモン状態を再現しています。ストレスの感じ方はヒトによって異なるため、これまでストレスと生理学の研究は難しい部分もありました。この研究では、心理的ストレスを被験者に体験してもらうのではなく、物質を用いて再現しているところがとても興味深いところです。

◆ストレスと身体の研究のこれから

身体で何らかの症状が生じるのは、物質が体内で動き、変化を生み出している状態と考えられています。脳と内臓の関係は、脳画像やタンパク質、細胞レベルにおける研究技術の進化により研究が進んできています。現代の科学では見えない「ストレス」のメカニズム。今後の進展に注目です。

※論文図はjournal permission 取得済

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【医師プロフィール】

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田中 由佳里 消化器内科

2006年新潟大学卒業、新潟大学消化器内科入局。機能性消化管疾患の研究のため、東北大学大学院に進学。世界基準作成委員会(ROME委員会)メンバーである福土審教授に師事。2013年大学院卒業・医学博士取得。現在は東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門助教。被災地で地域医療支援を行うと同時に、ストレスと過敏性腸症候群の関連をテーマに研究に従事。この研究を通じて、お腹と上手く付き合えるヒントを紹介する「おなかハッカー」というサイトを運営。また患者の日常生活課題について多職種連携による解決を目指している。