【おいしい科学コラム】みんなが「失敗しやすい」料理の原因は"卵"にあった!

オムライスやカルボナーラ、スイーツなど卵を使った料理は失敗しやすい。でもなぜ、失敗しやすいのでしょうか?

クックパッドで検索されているワードや現代の食ブームなどの人々の食への欲求や料理の常識は、実は全部「科学的」だった!? そこで、分子調理など食を科学的に分析・研究している「クックパッド食みらい研究所」特別研究員・石川伸一先生が、料理と科学のおいしい関係を解説します。

「失敗しない」検索の上位は「卵」を使った料理だった!

クックパッドでみなさんが検索しているキーワードを分析すると、面白い事象がたくさんあります。例えば「失敗しない」というキーワードと一緒に検索される料理名にはどんなものがあると思いますか?

2013年〜2015年の3年間のキーワードランキングは下記のとおり。1位のシュークリームを筆頭にトップ10にはスイーツが多数ランクイン!このほか、オムライス、カルボナーラなどが並んでいます。

※「失敗しない」というキーワードと共に検索された料理名の順位

すでにお気づきのかたもいるかもしれません。実はオムライスやカルボナーラといったいわゆる卵料理だけでなく、シュークリームやマカロン、スポンジケーキ、シフォンケーキも実は「卵」がカギとなるスイーツ。そう、卵を使った料理は失敗しやすいんです。でもなぜ、失敗しやすいのでしょうか?

カスタードクリームがダマになる原因は「温度」にある!

まずはカスタードクリームに注目してみましょう。シュークリームなどに使われるカスタードクリームは、卵黄を基本に、砂糖・小麦粉・温めた牛乳などを混ぜ合わせて、加熱しながらとろみをつけていきます。この加熱がうまくいかないと、クリームの中にダマがたくさんできてしまい、なめらかに仕上がりません。これがカスタードクリームを作る上で最もよくある失敗例ではないでしょうか?

卵が持つ「熱凝固性」を料理に活かそう

卵には「熱凝固性(ねつぎょうこせい)」という特性があり、ひとたび凝固すると戻すことはできません。また、卵白と卵黄では、かたまり始める温度や、凝固がすすむスピードが異なります。

卵黄を使うカスタードクリームは、凝固がすすむスピードが速いので、急激に加熱するととろみがつくまえに卵黄だけが一気にかたまってしまいます。このかたまった卵黄がクリームのダマの原因になるので、カスタードクリーム作りの際には「温度」の管理が最も大切。一気に加熱がすすまないよう弱火にするのはもちろん、加熱しながらクリームをかき混ぜる続けることで、卵黄が一度にかたまるのを防ぎましょう。

マカロンが膨らまない理由は「泡立て」にある!

次に、スイーツのおいしさ、食感の要であるメレンゲに注目します。マカロン、シフォンケーキ、スポンジケーキなどにとって、もっとも大事な材料は、卵白をふわふわに泡立てた「メレンゲ」。このメレンゲの泡立ち具合がよくないと、お菓子が膨らまない原因になります。

卵が持つ「起泡性」とは?

卵白は、空気を取り込む能力にとても優れています。この性質は「起泡性(きほうせい)」とよばれていて、卵白を泡立てるとふわふわになるのは卵白の持つ「起泡性」によるもの。メレンゲの泡の状態は、泡立ての温度時間によっても変わってきますが、その要因は泡の中のタンパク質の立体構造が変わるからだと考えられています。

卵白はとてもデリケートで、様々な要因によって卵白中のタンパク質が"七変化"します。このことが、卵料理の膨らみをコントロールするのが難しい要因です。例えば、メレンゲを作る際に卵黄が入ると泡ができにくくなったり、逆に銅製のボールで泡立てるときめ細やかでなめらかな泡になったりします。基本的には、泡立てるボウルをはじめ使用する調理器具の水気をしっかりとっておくことが、メレンゲを上手につくるポイントの1つです。

メレンゲに砂糖を入れる理由とタイミング

メレンゲを作る際、卵白と一緒に砂糖を入れます。砂糖にはメレンゲの泡を安定に保つ作用がありますが、砂糖を入れるタイミングや量によって卵白が泡立ちにくくなったり、泡が安定しにくくなってしまいます。作りたいお菓子の特性に合わせ、レシピ通りのタイミングで分量通りの砂糖を加えるようにしましょう。

シュー生地作りの失敗の原因は「混ぜ方」にある!

シュークリームのシュー生地を作るときには、卵とともにバターを使います。このとき水分と油分(この場合、水とバター)を混ぜあわせる「乳化(にゅうか)」が不十分だと、シュー生地のふくらみが不十分になることがわかっています。そこで、上手に「乳化」させるためには、混ぜ方が重要になります。材料を一度に混ぜ合わせようとすると分離してしまうので、材料を少しずつ混ぜ合わせましょう。また、混ぜ合わせる際にしっかりかき混ぜることで、卵に含まれる水分がより細かい状態になり、生地の状態が安定します。

「乳化性」とは?

水と油は本来、混ざり合いません。しかし、乳化性をもつ材料(この場合、卵黄)を加えることで、水分と油分が分離せずに均一に混ざり合う「乳化」という現象が起きます。ちなみに、この卵黄の乳化性を利用して作るのが、油と酢を混ぜあわせて作る「マヨネーズ」です。

生地の「糊化」とは?

シュー生地がふんわり膨らんでボリュームアップするためには、シュー生地の材料である小麦粉に含まれるデンプンが「糊化(こか)」という柔らかい状態になることも肝心です。

卵の特性を理解しながら料理をすることで、失敗しやすい料理も上手に作れることができるようになります。また、材料の配合が変わると失敗の原因になるので、きちんと計量することが、まずは失敗しないために大切だといえるでしょう。

石川 伸一(いしかわ しんいち)

福島県生まれ、博士(農学)。宮城大学食産業学部准教授、「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは、鶏卵の機能性に関する研究。『料理と科学のおいしい出会い 分子調理が食の常識を変える』(化学同人)、『必ず来る! 大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)ほか著書多数。

クックパッド編集部

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