サイボウズ式:職場でキレる技術

自分が誰かと接するときには必ず「一定ラインを超えていないか?」は常に考えていかなくてはいけないと思う。

【サイボウズ式編集部より】この「ブロガーズ・コラム」は、著名ブロガーをサイボウズ外部から招いて、チームワークに関するコラムを執筆いただいています。今回はファーレンハイトさんが考える「職場で仕事の一線を引くための技術」についてです。

あなたは他人からナメられやすいタイプ、怖がられるタイプのどちらだろうか?

職場の人間関係で生じるネガティブな感情のトップが「自分はいてもいなくてもいい」だ。ないがしろにされる屈辱はたまらない。次点は「ナメられている」と感じるとき。はらわたが煮えくり返る思いになる。

このネガティブな感情を生じさせる要因は、他者が<コイツには何を言っても、やっても大丈夫だ>と思っていることだ。一度でも人からこんな扱い方をされた当人は、本当に不愉快な思いをする。普通の人はその一線が引けない。実際この態度で接されたこともあるし、俺自身も誰かに対してこの態度で接したこともあると自覚している。

なぜこうなるのか。それは「失礼な言動を取っても良いキャラ」として認定されてしまったからではないだろうか。理想は「大人なんだからわきまえろ」で話が終わる人間関係を作ることだが、なかなかうまくはいかない。

また、理想の人間関係を作れたとしても、「言ってはダメなこと・やってはダメなこと」は存在する。そして、それをわきまえていない人がそこそこ多い。特に自分より立場が弱い若輩者に対して。職場に教師や親はいないし、先輩ができた人間とはかぎらない。問題は"わきまえていない言動を戒める第三者"が機能しない環境にある。

そうなると対策は1つ。やられる側が「失礼な言動を取られないキャラとして認定」されるしかない。言い換えると「チーム内ではっきりものをいう技術」を駆使するということだ。

キレキャラはナメられない

さて、俺は学生時代にサークルの代表をやっていた。いわゆるキレキャラで、高圧的な態度で有無を言わさずに自分のビジョンに従わせるタイプだった。競技的な側面が強いサークルだったため、結果を出すという意味では、そこそこ大きな成功を収められた。

しかし振り返ると、後味が悪かった。引退後、そして社会人になった頃に「他人に対して、気持ちよく振る舞うのはどういうことか?」をより考えるようになり、そうできる人を見習うようにしていった。わかりやすい一例を挙げると「誰に対しても笑顔で、感じ良く接する」ことだ。

しかし、フランクにニコニコ接していると"つけあがる人"がいる。正直なところそういった人たちはあまりコミュニケーションが上手とはいえない。適切な距離感を守ってくれないばかりか、グイグイ調子に乗り、限度を超えた話し方をしてくることもある。そこで悪ファーさんは思うわけ。「お前みたいなの、職場じゃなきゃ相手にしてないぞ?」と。

そこで学んだのは<ある一定のラインを超えることを、俺は許さない>という意思表示をすることだった。相手が「やって許される」と思って限度を越してきたときに、「許されるわけないだろ」と返す技術ともいえる。

たとえば1年前にいた部署に、仕事はできるが他人の気持ちがわからないリーダー格の先輩がいた。メンバーの雰囲気としては「ムカつくなぁ」とか「言い方考えろよ」という気持ちは持ちつつ、言っても仕方がないから大人の態度に甘んじる。あえて指摘してあげる必要もないという感じだった。

で、あるときに俺が失礼な物言いをされる番になった。けっこう溜まっていた俺はガツンとやってやろうと思ったわけ。上司でもないし。普段はニコニコ返すタイプの俺が、打って変わって低いトーンで

「ん? いまなんて言いました? もう一回言ってみて」

と返してみた。当然、まわりにいた人の空気が急激に冷えきってしまった。「え、喧嘩?」的な。先輩は目線をそらして、キョドりながら「いや、そういうことじゃなくて......(モニョモニョ)」。以後、一線を超えた調子に乗った接し方はしてこなくなった。もちろん業務上のコミュニケーションはそれ以後もきっちりとやっていた。

職場におけるセルフプロデュースという視点を持て

ちょっと極端でギリギリアウトな例を挙げてまで言いたかったのは、<これ以上はぜったいに許容しない>という意思表示をすることが何よりも大事ということだ。第三者が戒めてくれない、相手が自分からわきまえてくれないときは<自衛>するしかない。ハッキリと拒絶し、時には喧嘩腰で返すことが必ずしも関係の破綻をもたらすとは限らないからだ。

「怒る技術」とも意味合いは近い。これはダメなことはダメだと指摘すると同時に、人格を否定していない/関係を破壊しようと思っていないというメッセージを(事後に)きっちりと伝えること。決して後のコミュニケーションに尾を引かないようにすること。

業務上で必要なコミュニケーションを綿密に取ることと、"ダメなものはダメ"と明示することは両立しうるのだ。

コツとしては「ある一定のラインまでは気のいい人」と思ってもらい、「一定ラインを越えると明確に拒絶する/キレる」というキャラづくりをすること。むやみにカドを立てる必要はないけれど、嫌な気持ちを抱えてまで大人の態度に甘んじる必要はさらさらない(サラリーマンである以上、直属の上司だけは例外)。

この技術は色んなシーンで使える。例えば「便利屋にされそうな時」。どう考えても担当とは違う仕事を依頼されたり、違うチームからお願いされたり、完全にその人のためだけの雑務とか。そういったものを引き受けて良い顔をする必要はない。本当に業務上かかわりがある仕事を120%手伝えば良い。

「何事もキレたら負けだよ」。俺が大学時代に読んだ本にあった一節だ。10年くらい前にカリスマホストだった零士という人の言葉で「あー、この人がそう言うんだ」とすごく響いた言葉だった。たしかに、我を忘れてキレてしまった時点で何もかもが台無しになってしまう。だけど冷静にキレるのは話がちがう。それは職場という自分の人生の一部におけるセルフプロデュースだ。積極的に推奨したい。

最後に、自分が誰かと接するときには必ず「一定ラインを超えていないか?」は常に考えていかなくてはいけないと思う。たとえ相手からの明確なメッセージがなくてもだ。友人や恋人などプライベートの関係を含めると、俺自身もやはり誰かに対してやってしまうことがある。仲が良くなるほどに自分へのツッコミが甘くなってしまう傾向が誰しもあるんじゃないだろうか。

<何も言ってこないからと言って、その人はそれを許容しているわけじゃない>

この事実を頭に入れて、そういった嫌な思いをさせることを少しでも減らしていけたらと思う。

ファーレンハイトさんより 普段はブログ「My Favorite, Addict and Rhetoric Lovers Only」、Web媒体「AM [アム] 」で恋愛・人間関係について書いています。サイボウズ式のブロガーズ・コラムでは、仕事・チームワークにおける他人との関係性について何らかの価値を提供できたらと思っています。

(サイボウズ式 2014年10月14日の掲載記事「職場でキレる技術」より転載しました)

イラスト:マツナガエイコ