サイボウズ式:「言いたいことを我慢する」のはコミュニケーションが上手いのではなく、良い仕事をするつもりがないだけ

ここに仕事におけるコミュニケーションの本質がある。
マツナガエイコ
サイボウズ式編集部より:著名ブロガーによるチームワークや働き方に関するコラム「ブロガーズ・コラム」。桐谷ヨウさんのコラムです。

仕事に必要なコミュニケーションとは何か?

まず最初に断言しておくと、仕事に必要なコミュニケーションは友人関係のそれとはまったくちがう。

友人関係における「楽しければOK」「共感ファースト」は仕事の目的を阻害しうる。仕事の目的は何か? 当然ながら、プロジェクトの目的を達成することである。

"同じ方向に向かって、忌憚(きたん)のない意見を交わしあい、高め合い、個々の能力を発揮できるようにすること"

ここに仕事におけるコミュニケーションの本質がある。

コミュニケーションとは、摩擦。

さて、コミュニケーション力とは何か? みたいな話は語り尽くされている。だから今日はコミュニケーションをあるもので喩(たと)えてみようと思う。それは、"摩擦"だ。

摩擦はぶつかる接点があるから生じる。それは交流があることが前提だ。ふれあう接点がないものには、そもそも摩擦は生じない。

仕事において相手にぶつけるものは言葉かもしれないし、その奥にある自分の気持ちかもしれないし、ロジックで武装させたとっておきのアイディアかもしれない。なんだっていい。そこには"接点"が必要になってくる。

「摩擦が生まれる」はネガティブな比喩だけど、摩擦がないコミュニケーションがあまりにも多すぎる。ろくに吟味しないでその人への好意で肯定したり否定したり、事を波立てないために言葉を飲み込んだり、あるいは言われたことを黙々とやっていればいい......というスタンスであったり。

そんなものはコミュニケーションが上手いのではなく、良い仕事をするつもりがないだけだ。チームメンバーへの敬意がまったく感じられないと俺は思う。

とある先輩の口ぐせは「お前はどうしたいんだ?」「この仕事のどこにお前の思いがある?」だった。傍目(はため)にもかなり暑苦しかった。が、彼は摩擦の接点をつくろうとしていたんだと思うと、納得がいく部分もある。

というのも、当たり前のことだけどチームは個人の集まりだからだ。違う個性を持った人間たちが、それぞれの個性を発揮して、一緒に同じ仕事の目的を達成する。そこで自分の個性を埋没させるのは、チームにとっての損失でしかないのだ。

自分の個性を発揮することはチームにおける自分の責任である。同時に、誰かに個性を発揮してもらうために他のメンバーができることがある。全員が個性を発揮するためには、個々のメンバーが両方の側面で全力を尽くしていかなければならない。

マッサージのように心地いい摩擦を。

そこで大事になってくるのは、摩擦の質になってくる。マッサージを想像するとわかりやすいけど、力づくにゴリゴリやられても痛いだけ。でも、自分が凝っているところをほぐすようにさわってもらうと、何よりも心地良い刺激になる。自分なりにどうすれば、それができるか? というのを考えてみると良い。

たとえば俺自身の仕事の仕方でいえば、「本音で語ってもらえるようにする」ということを大事にしている。それがどんな意見であっても、そこに嘘がなければそれはきちんと聞いておくべきことだと思うからだ。

だからビジネスパートナーが「まだ本音を出していない」と判断したときは、あらゆるアプローチで「ほぐす」ように動いていた。仕事に関係のない世間話であったり、その人の好きなものを聞いて価値観を探ったり、逆に嫌悪感を示すもので人柄を把握したり、飲みニケーションをはかったり、あるいは俺自身の言葉に裏がないことを知ってもらうことで。

勝手にやりたいことを閉じ込めないでください、というメッセージを相手にぶつけることで、その人の個性をちゃんと発揮してもらおうとする俺なりの方法になります。

もう一度、マッサージで表現すると「肩こり」は血液が循環していない。「むくみ」はリンパに老廃物が溜まっている。

これと同様に、「忌憚のない意見」を交わし合えない状態は、チームの何かが淀んでいる。

困っているのにSOSサインを出せない雰囲気が職場にある。意見を言おうとしても、上司にどうせ却下されると口をつぐんでしまう。自分ができそうなのはこれだからと、手を挙げることを恐れてしまう。

そういった「なんとなく」が、「チームの雰囲気」を決めていってしまう。それぞれに「勝手な思い込みの滞(とどこお)り」が存在していて、意思疎通を阻害して、良い仕事から離れた結果になっていってしまう。

良いリーダーは積極的に「メンバーから引き出してあげよう」とするものだけど、そんな人は悲しいかな希少な存在で(だからこそそれができる人は強い)、個々のメンバーも心がけることがある。

まずは勝手な自分の思い込みで判断しないこと。自分が考えていることに未熟なことはあれど、間違っていることなどない。その時にそう思い、そう考えたことは事実なのだ。

だったらそれを伝えてみる努力を怠らない。もちろんぶつけ方に工夫は必要で、「困っていること」をそのままぶつけるのではなく、伝わるように整理しておく技術を身につけなくてはいけない。あるいは、「やりたいこと」がなぜプロジェクトに必要なのかを納得してもらうための根回しや、プレゼンテーション能力を磨かなくてはいけない。

他者との折り合いをつけていくために

コミュニケーションとは自分の言い分を100パーセント押し通すためのものではない。自分の思いや考えを相手にぶつけ、相手からもぶつけてもらい、一緒に練っていくその交流の過程にコミュニケーションがある。

まずは自分が出すのをためらわないこと。相手にぶつけられるのを恐れないこと。

そして自分が伝えようとしたことのどこまでが伝わったか、あるいは伝わらなかったかを見つめてみること。相手が伝えてくれようとしたことのどこまでを理解できて、どこからが理解できなかったか。

そうした途中経過を共有していくことで、そこに心地いい人間関係の摩擦が生まれる。そういった作業をひとつひとつ積み重ねていくことで、「忌憚のない意見」を交わすことに躊躇(ちゅうちょ)がない関係が生まれてくる。

そうしたチームビルディングの目線を大事にしたいと、俺は思っています。

イラスト:マツナガエイコ

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2017年3月 1日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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