サイボウズ式:自己発信力のない人が「出社しない働き方」に向かない理由

リモートワークをする時には、「自分は何ができるのか」を、周りに認識しておいてもらわなくてはいけないわけ。

自社のワークスタイルをリモートワーク主体に転換した株式会社ソニックガーデン社長の倉貫義人氏と、倉貫氏の取り組みに強いシンパシーを感じるサイボウズ 青野慶久社長の対談。前編「社長の僕が、率先して会社に通勤するのをやめてみたら?」では、リモートワーク導入の成否を分けるのは社員がセルフマネジメントできているかどうかということで、意見が一致した両者。

第2回では、対談に同席していたサイボウズの開発マネージャー・佐藤鉄平、田中裕一の2名も交えて、「何をもってセルフマネジメントができていると判断するのか」「リモートワーク導入により、経営者のマネジメントはどのように変わるのか」といったテーマへと話を深めていきます。

セルフマネジメントってどこまでできればいい?

青野:「リモートワークを成功させるには、社員1人ひとりがセルフマネジメントをできていることが大事」という話になりましたが、セルフマネジメントって、どれくらいまでできればいいんですかね? 倉貫さんの中で基準ってありますか?

倉貫:ウチの会社での仕事って、一般的なIT会社のように、"大きな案件を会社で受けて、チームで分担する"ものではないんです。社内で「一人前」と呼ばれる人が、弁護士のように、何社かの担当を持って仕事をします。そうなると彼らには、報告をする上司もいなくなります。

では報告ではなく何が求められるかというと、"自分が担当しているお客様に喜んでもらい、長く契約を続けてもらえること"。まさにそれが、「一人前」として認められるセルフマネジメントの基準にもなります。

誰か上司がついて、いちいちお客様の相手をしてもらわなくてはならないのなら、セルフマネジメントはできていないとなりますから。青野さんにも基準がありますか?

倉貫義人:1974年京都生まれ。株式会社ソニックガーデン代表取締役。1999年立命館大学大学院を卒業し、TISに入社。2011年、自ら立ち上げた社内ベンチャーをMBOで買収し、ソニックガーデンを創業。「納品のない受託開発」というITサービスの新しいビジネスモデルを確立し、注目を集める。新著『リモートチームでうまくいく』。

青野:う〜ん、逆にどこまでレベルを下げたら「セルフマネジメントができていない」となるんだろう? 言い換えると、どこまで下のレベルなら「お前にはリモートワークを許可しない!」となるんだろう? むしろここにいるサイボウズの現場マネージャーに聞いてみたいですね。どう思う?

佐藤:エンジニアの場合、リモートワークを許可しないというケースはあまりないですね。ほぼ全員に対して「この人なら離れていてもオンラインでちゃんと仕事をしてくれるだろう」という信頼感がありますから。人間的に信頼できない人は、そもそも採用していないでしょうし(笑)

青野:採用したての新入社員だとどう? 新人に「じゃあ明日から在宅勤務します」と言われたら、「おいおい!」となるでしょう?(笑)

佐藤:それはそうですよね(笑)。最初に学ぶ段階では、すぐ近くにいる人に画面をいっしょに見ながら教えてもらうというのが有効でしょうし。

田中:やったことがない仕事をいきなりリモートでやる、というのはツラいと思いますね。開発プロセスをひと通り回したことがある、となれば、なんとなくその人がどのくらいできるか判断もできますし。

佐藤鉄平(左):1982年新潟県生まれ。2007年サイボウズにエンジニアとして入社。Garoon、kintoneの開発を経て、2015年7月グローバル開発本部副本部長に就任。JavaScriptとカレーが好き。田中裕一(右):サイボウズ株式会社 グローバル開発本部 東京第2開発部 部長 兼 kintone開発チーム所属。自宅でリモートワークすると子どもがじゃれついてきてついつい遊んでしまうのが最近の悩み。

青野:そういう意味では、リモートワークをする時には、「自分は何ができるのか」を、周りに認識しておいてもらわなくてはいけないわけだよね。それをきちんと発信できないといけない。

倉貫:じゃないとチームワークができないですからね。リモートワークでは、物理的にはその人は存在しないので、本人が何も発信しないと、ネットワーク上の論理オフィスにおいても、存在が消えてしまうことがある。

だから僕らは、"チャットツールで独り言をしゃべる"ことを推奨しているんです。また、1日の終りには「日報」ではなく「日記」を書いてもらうのですが、それも単なる業務報告ではなく、「自分は最近こういうことを考えている」とか、「こんなことができるようになった」といったことを盛り込んでもらうようにしています。そうすると周りの人も、その人の考え方やスキルレベルを把握でき、「じゃあこんなことをやってもらおうか」となります。

青野:「自己発信力」は、セルフマネジメントに求められる重要な能力の1つと言えそうですね。次の時代に仕事をする上で絶対に求められるでしょう。じゃあ、自己発信が上手な人って、何を発信しているんだろう?

青野慶久:1971年生まれ。サイボウズ株式会社代表取締役社長。今治西高校、大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役に就任(現任)。3児の父として3度の育児休暇を取得。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

佐藤:"ヒントを散りばめること"が大事だと思います。「今日はこういうことをします」とか、「今、こんなことに取り組んでいるんだけどうまくいかない」とか、自分がやっていることをわかってもらうヒントを発信に散りばめると、見た人が助けてくれる。そういう"助け合いを誘発する独り言"が重要ではないかと。

倉貫:リモートワークをしていても、困っていることを独り言でつぶやいて誰かが助けてくれるなら、オフィスで困った顔をしているのと変わらないですよね。

青野:リモートワークだと、誰かを助けたことが可視化されるのもいいですよね。チャットなどのログが残りますから。物理オフィスだと、誰が誰を助けたのかわからないですもんね。

倉貫:確かに。

リモートワークは「偶発的な対話」を減らすか?

青野:リモートワークだと、直接的・偶発的な対話が減らないのか? それによる損失はないのか? という意見もあるようですが、僕は論理オフィスのほうが偶発的な対話は起こりやすいと思うんです。

サイボウズでも例えば、営業の人と開発の人が物理オフィスで偶発的に会って話すより、グループウェア上という論理オフィスでお互いの書いていることを見て会話が始まることのほうが多いのではないかと。

田中:そのほうが圧倒的に多いですね。

青野:僕も、物理的に開発チームのところに行くと嫌がられるからあまり行かないけど(笑)、開発チームがグループウェアに書き込んでいることは結構見ていて。ついつい我慢できなくなって自分も書き込んでしまったりするんですが。論理オフィスも歩き回ることが可能なので、偶発性は低くならないですよね。

佐藤:ただ、歩き回るためには、歩き回れるだけの論理オフィスをつくらなくてはいけないですよね。誰も何も書き込んでいないのでは歩きまわっても仕方がないので(笑)。サイボウズの場合、グループウェアを使う文化があるからできるんだと思います。

青野:みんなで物理オフィスから論理オフィスに引っ越しないといけないのかもね。

倉貫:偶発的なものって、測っても出せないと思うんですよ。だから物理オフィスの場合と論理オフィスの場合で対話が増えるか減るかなんて比較してもナンセンスじゃないかと。もはや、「電話を使うと直接会う機会が減って損失がある」なんて言う人は誰もいないでしょう? リモートワークもそれと同じだと思いますね。

オフィスって、そもそも何のためにある?

青野:倉貫さん自身は、いつもどこで働いているんですか?

倉貫:会社に行くのは週1〜2日程度で、行かない日は自宅です。

青野:自宅に仕事部屋を作っているんですね?

倉貫:はい。

青野:僕は自宅では仕事ができないんですよね。仕事部屋を持っていないので居場所がないから(笑)

倉貫:その点は、地方に住んでいる人のほうが有利ですよね。家が広いんで、普通に書斎を持っている(笑)

青野:都心に住む人は、結局、喫茶店に行くか、コワーキングスペースに行くかしかないんですよね。

倉貫:都内に一応オフィスを持っているのは、それが理由なんです。リモートワークで働き場所に困ってしまうなら、セキュアで働きやすい場所を用意しましょうと。だから当社のオフィスは、社員専用のコワーキングスペースみたいなものです。

青野:ははは! おもしろいですねえ。サイボウズのオフィスもそういう感じのところがありますね。先ほどもお話ししたとおり、オフィスを移転するにあたっては、"そもそもオフィスっているの?" というところから話を始めたんですが、社員から「集中できる場所がほしい」という意見があったんです。なので、仕方ないから物理オフィスをつくろうと。

倉貫:オフィスって、そもそも勤怠管理の場所ではないと思うんです。本来は、"そこに行くと働きやすいから来る場所"なのではないかと。

青野:確かに。また、リモートワークがもっと広がると、社内外の遠隔会議にも使えますよね。大雪が降っているけど会議があるから会社に行かなくては、などということもなくなる。先日は、電車が止まってしまった時に、会議に間に合わないからと窓から飛び降りた人がいて、さらにダイヤが混乱したなんていう事件もあったようで......。

倉貫:大雪の日なんかは、お客様のほうも実は「今日は来てくれなくていいんだけど」と思っていそうですけどね(笑)。お互い言い出せずに、チキンレースみたいになっているというか。「じゃあ今日はリモートでやろうか」というのが普通になればいいですね。

変わりゆくマネジメントのあり方―コントロールか、セルフマネジメントか

青野:リモートワークが普及すると、組織のマネジメントのスタイルも大きく変わっていきそうですよね。倉貫さんのマネジメントスタイルは、昔の考えだと「マネジメントしてない」ととらえられそうですもんね。実際はもちろんそんなことはないんですが。

倉貫:マネジメントというと、ドラッカーが思い浮かびますが、彼は「これからの働き手の主流になるのはナレッジワーカーだ」と言っています。昔は人を交換可能な部品のようにしてマネジメントしていたが、これから価値を生み出すのは、知識をベースにサービスを提供する人だと。

青野:そうですね

倉貫:ナレッジワーカーとは、全員が経営者として判断ができる人であり、その人たちのマネジメントの基本はセルフマネジメントです。そう考えると、僕の考えとドラッカーの考えは近いのではと思います。

青野:そうかもしれませんね。

倉貫:根本的には、「コントロールか、セルフマネジメントか」だと考えます。従来型のマネジメントは、コントロールに重きを置いていましたよね。数字的な目標を立てて、そこに向けてどのように社員をコントロールしていくかがマネジメントだった。

しかし、今やそんなやり方ではイノベーションが起きない。イノベーションが難しいのは、上司が「イノベーションを起こせ!」と指示しても起きないことなんですよ(笑)

青野:確かに(笑)

倉貫:新しい価値を生み出すには、コントロールでは難しい時代になっている。ならば社員がセルフマネジメントできる土壌をつくり出さなくてはならない。それこそが、これからのマネジメントの本質になってくると思います。

青野:セルフマネジメントができることは、社員の自立につながると思いますが、従来の日本の大企業では、社員を囲い込んで、自立させないようにしていたように感じます。

倉貫:ひと昔前の日本では、一般常識として、「社員の雇用をしっかり守ることが経営者の責任」とされていましたよね。でも、今の世の中では、例え大企業であっても何が起きるかわからない。

ならば、雇用を守る方向で頑張り続けるより、むしろ、会社がいつなくなっても、どこに行っても働けるようなスキルや考え方を社員の身につけてあげるのが、経営者の本当の責任だと思います。

青野:ボスを信じてついて行って、最後になって「やっぱり支えきれなくなった。ゴメン」となったら、めちゃくちゃ不幸ですもんね。それよりバンバン外に飛び出して行ける人材をたくさん生み出す会社のほうが、社員にとってもいいですよね。

後編に続きます。

執筆:荒濱 一/写真:尾木 司

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本記事は、2016年2月24日のサイボウズ式掲載記事「自己発信力のない人が「出社しない働き方」に向かない理由」より転載しました。

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