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サイボウズ式:「働きがいより個人の生きがい」を大事にする会社の方が、イノベーションは起きやすいのか?

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DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)とサイボウズ式で考える「働きたくなる会社」──。日本企業の未来について、サイボウズをモデルケースに議論をします。

DHBRの第2回討論会では「多様性」や「いい会社」についての議論が起こり、「働き方を多様化することで、世界一のグループウェアを生み出せますか?」という新たな議題が浮かびました。

このテーマについて、サイボウズ社内でディスカッションを実施。副社長の山田理、事業支援本部長の中根弓佳、コーポレートブランディング部長の大槻幸夫が話します。モデレーターは、サイボウズ式編集長の藤村能光。

藤村:これまでの流れをおさらいします。第1回目のサイボウズの討論は「市場評価で給料を決める」という話。その後、サイボウズはいい会社といわれることが多いので「自社を"いい会社"と言う社員が集まる会社に死角はないか?」という質問を、DHBRの読者にぶつけてみました

それに対してハーバード・ビジネス・レビューの読者からは、「いい会社」だと社員が感じていると、変革の精神が育たないのではないか? いい会社で離職率が低いのは分かるが、人材の入れ替えが起こりにくく、変化に対応できるのかといった話になりました。

山田:読者の討論会を動画で拝見させていただきました。ディスカッションのレベルが高く、サイボウズ社内では話さないような内容も出ていました。

藤村:そうなんです。山田さんは本日もテレビ会議でアメリカからディスカッションに参加ですね。よろしくおねがいします。

さらに「多様化」に話は変わり、「サイボウズに欠けていること」を話しました。出てきたのはこんな意見。

サイボウズのグループウェアというサービス自体が、競争力があるかが疑問です。組織としてはすごくいい状態かもしれないけど、これから本当に市場で生き残れるのか。
「改善」には賛成意見しか出ないけれど、「イノベーション」は賛否両論が分かれます。つまり摩擦が発生するということ。サイボウズに摩擦があるのかどうか?

藤村:討論会を終えてまとまった質問は「働き方を多様化することで、世界一のグループウェアを生み出せますか?」でした。

サイボウズの働き方は多様化しているが、多様な能力を持った人材が育っているとは限らない。働き方を多様化することで、果たして「グループウェア分野で世界一を目指す」というミッションを達成できるのか?という話でした。

「働き方の多様化で世界一のグループウェアは生み出せるか?」「知らんがな(笑)」

藤村:ビジョンの話になったので、まずは山田さんに聞いてみましょうか。「働き方を多様化することで、世界一のグループウェアを生み出せますか?」

山田:この質問に対しては、本当に知らんがなって思います(笑)

藤村:いきなりのちゃぶ台返しが......。議論が終わりそうです(笑)

山田:補足しますと、サイボウズは働き方の多様化を実現するという目的で制度をつくっているのではなく「チームワークあふれる社会を創る」というビジョンを達成するために、どういう働き方をしたらいいかを考えた結果、「多様化を受け入れた方がいい」という結論になっただけです。

ビジョン達成という目的がまずあって、働き方の多様化を進めているという順番です。多様な人が集まってくると、短時間で働きたい人や副業したい人も出てきます。そういった人たちにワクワク働いてもらうために、働き方や制度を多様化していったというところです。

もちろん、多様な働き方を認める組織を作ることが理想の実現に近づくと信じていますが、それが世界一のグループウェアを生み出せすことにつながるかは、やってみないとわからないと思っています。

多様化において「個人の価値観のマネジメント」が一番大変

藤村:「多様化には弊害もある」「ビジョンやミッションを立てるだけでは、多様な人材は集まらないのでは」といったDHBR側の議論もありました。

中根:多様化には、「スキル」「価値観」の2つの側面があると思うんですよね。スキルの多様化は分かりやすいです。

難しいのは価値観の多様化、つまり生きる上で何に価値を置くかということです。短時間で働きたい人も、長めの時間でガンガン働きたい人もいる。これも価値観の違いです。

働き方を多様にすることは、個人のいろんな価値観を受け入れることと同じです。これができると多様なスキルを持った人がサイボウズに集まる可能性が出てくる。それが、サイボウズの理想(=ビジョン)を達成するのに効率がいいのでは、と考えています。

藤村:いまサイボウズは500人規模の会社ですし、「働き方の多様化」がちょうど適しているフェーズなのかしれません。

中根:働き方の多様化を認めたことで、その人がどういう生き方がしたくて、何を大事としているのかを知ったうえで、自立を支援する必要があると感じています。

これまでの一般的な人材マネジメントでは、例えば「組織の2:6:2の法則」に代表されるように、いかにトップの2割を採用し、育てていくかが重要とされていました。これからは、それとは異なるマネジメントが求められるのでは、と思います。

大槻:ITを使うことで、1対1のきめ細やかなサポートもできてしまうだけに、多様性を見ながら、一人ひとりのマネジメントをしていくことは、より大変になりますね。

中根:一人一人を見るということは、本当に大変ですよね......。大槻さんと山田さんと私の3人の価値観も違いますから。

加えて大槻さん個人でも、就職時と今と10年後で、価値観や大事なものって変わるでしょう。1人1人をマネジメントすることは、その人自身の変化も受け入れるということですから。

「いい会社」にしたくて、社員が徹底的に働きやすい環境を作ってみた

岩佐編集長によると、サイボウズは「いい会社」に見えるそうです。社員も自社を「いい会社だ」と思っているのだとして、それを安易に受け入れてしまうことが増えたとしたら、変革の精神が育たない弊害が生まれるのではないでしょうか。

中根:「いい会社とは何か?」の議論ですね。ハーバード・ビジネス・レビューの読者とのリレー討論の核心に迫ってきましたね。

わたしは、信頼できるチームや人がたくさん存在するのが、いい会社だと思っているんです。チームワークは「効果、効率、満足、学習」の4つで決まりますが、「満足」の部分に重きをおいているのかもしれません。

山田:僕自身はずっと、「いい会社を作りたいな」と思って経営をしてきました。

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山田理:サイボウズ株式会社 取締役副社長 兼 サイボウズUS社長。「kintone」をグローバル展開中

藤村:詳しく聞きたいです。

山田:一般的に「いい会社」とは、たとえばものすごく売り上げる営業や、いい物を作る開発者など、スキル面で優秀な人が集まる会社のことかもしれません。

ただ僕は、業績を上げることだけが「いい会社」の条件ではないと思っています。

公明正大に誠実に、お客様のために仕事をして、かつ業績が上がる会社こそ、本当にいい会社だと思う。サイボウズではまずは公明正大が先にあるという感じです。

業績が上がらなかった時にちょっと嘘をつくとか隠すのはよくない。本当のことを伝えながら業績を上げ、お客さまに喜んでもらえる会社にすることにこだわってきました。

藤村:たとえば、赤字宣言もその1つなのかもしれませんね。そういうこともあるせいか、サイボウズは成長よりも働きやすさを重視しており、人によってはゆるくて、楽な会社と見えることもあるそうです。

山田:社外からすると、もっと業績を上げて、会社を成長させた方がいいと思われるかもしれません。ゆるい会社に見えることも確かにあります。

もしサイボウズがゆるい会社だったら、刺激もなくて、怒る人もいなくて、なし崩し的にゆるい雰囲気になり、ゆでガエルのようになるはず。そのことに対する危機感は、ものすごくあります。

社員同士で慣れ合いがでてくる可能性だって否定できません。ある程度の規律をもってどう維持していくかが、次の課題だと思っています。

藤村:なるほど。

山田:なぜ成長だけを求めないかというと、理由があります。サイボウズは過去28%の離職率でした。ずっと成長を掲げてやってきた結果、社員が疲弊してしまったんです。

そこで、成長とは逆の方向に経営を振り、働いている人が徹底的に働きやすい環境を作ってみました。業績が上がらなかったらやめようと思っていたけど、幸か不幸か少しずつ業績が上がっているのが今です。

そういった結果もあり、みんながチームの理想を共有し、生き生きと働いていて、かつ厳しく規律がある会社を目指しているのが現状ですね。

「いい人」が多い会社は、本当に「いい会社」といえるのか?

藤村:読者からは「サイボウズって、なんだかいい人が多いよね」という意見がありました。そうなんですか?

中根:いや、そんなことないと思うんですけど(笑)。

藤村:「いい人」ってなんでしょうね?

中根:私がいい人って思える人は、いろいろありますけど、例えば「大槻さん、私こういうことを考えたんですけど、どうですか」って言った時に、単なる賛同だけではなく「中根さん、ここ変えた方がいいと思うよ」って言ってくれる人はそのひとつかな。

で、その返し方が「全然だめだよね」とか「いけてないと思う」ではなく、「ここいいよね、でもここをこうするともっといいと思う」といういい方で返してくれるような人の助言は、受け入れやすくて成長機会や気付きを与えてくれるいい人だなって思うかなぁ。そういう人は私のことを信頼してくれている感じもして、自分も信頼できる。

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中根弓佳:サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長

藤村:いい会社であるためには、チームで切磋琢磨し合える「いい摩擦」や「意見の対立」があり、そのコミュニケーションの面倒さを受け入れる必要があるという議論もありました。

中根:そうですね。コミュニケーションがスムーズに行われつつ、一緒に理想を追求できる。そういう人が多い会社が、いい会社なのかなと思います。

大槻:サイボウズは、まだまだですが......。

中根:まだまだですね......。

いい会社であり続けるために、理想への熱い共感を求め続ける

山田:「いい人」とはいっても、誰だって採用できるわけじゃないです。コミュニケーションや育成のコストもかかり、やりたいことがやれなくなる可能性もありますから。

もちろん、来た人全員を採用して、その人たちごとに居場所を作れるようになるのが、企業の本当の理想だと思いますが。

そうそう、採用は、会社の規模が小さい時の方が厳しいなって思います。

今、僕はサイボウズUSの経営で、十数人規模の会社で採用をしています。

これと、今のサイボウズのように数百人の社員のうちの1人を採用するのとでは、全然インパクトが違う。規模が大きくなればなるほど、採用基準がゆるくなって、多くの人を受け入れやすい環境になるのは当然です。

実際に働く人がコミュニケーションを取るのは、配属されたチーム内の数人~数十人ですよね。社員全員とコミュニケーションを取るわけでもありませんし、部署で働くなら部署の人が受け入れてさえくれればいいわけで、社長や経営陣が受け入れるかどうかは別の話になっていきますから。

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藤村:いい会社であり続けるための採用基準って、何でしょう?

山田:正解かどうかは分からないけど、僕がこだわってきたのは、理想への共感が強く、サイボウズのコアとなる思いにも共感してくれる人を採用するということです。

でも、コアの部分で熱く共感してくれる人を採用し続けることは難しいです。10人規模、100人規模、1000人規模の会社になった時に集まる人は、思いにも温度差があって当然です。むしろ、創業期に比べて思いがどんどん薄れていきます。

だからこそ、組織の規模が小さい時にコアの思いを熱くしておかないといけません。

サイボウズはこれから拡大し、グローバル採用も始まっています。日本にも海外にも拠点ができ、さまざまな人種や文化、価値観が違う人が入社してきます。ということもあり、理想を実現したいと思ったら、人をしばるじゃなくって、ゆるくつなげていくくらいが理想かなと思います。

多様化を受け入れていく会社として、株主さんにもしばられない方がいい。出発点の理想の実現に近づくイメージを持ち続けたいです。

働きがいだけでなく生きがいも追求できれば、会社もチームもよくなっていく

藤村:会社の規模や成長の話がでてきたので、議題を1つ。成長して会社が大きくなることの意味って何でしょう? 大企業だとビジョンが壮大すぎて、「自分ごと化」できないという意見もあり、納得したのですが。

山田:会社を大きくしたいと思っている人って、株主以外に誰かいるのかな? 例えば「サイボウズを大きくしたい」という人がいたとして、何のためにそう言うのかすごく不思議に思う。

ビジネスを継続し、利益を得られた結果、会社が大きくなっていくのは分かります。

もちろん、会社を大きくしたいという気持ちがモチベーションの1つになる人もいるかもしれませんが、本当に会社が大きくなっていったら社員のモチベーションが上がって、みんなが「いえーい」ってなるのかな。どうだろう?

藤村:確かに。

山田:結局、働いている人は何が欲しいんだろう? 究極、生活や家族が幸せになることじゃないかな。人の1番の原点がそこにあるはずで、僕はそう信じている。つまり働きがいだけではなく生きがいも大事にして、チームで理想を達成できればと思いますね。

藤村:DHBR側の討論では、今の苦境の会社を変えたくて、あえてその会社に新卒で入社したという方がいらっしゃいました。

山田:「自分だったらその会社を変えられる」と思って入社してくる新入社員が、一体どれだけいるのかなって思います。

多分、「会社を変えたい」という意識の人ばかりじゃないと思うんです。そう思う人の割合は、会社が大きくなると相対的に減っていくかもしれない。

悠々とした会社に入社した場合も同じで、どこまで主体的に会社を変えようとなれるか。多分そんな思いを持つ人ばっかりじゃないだろうと思っていて。

多様化とも関連するのですが、多様化するといろんな役割の人がいる。会社を変えたいと思う人もいれば、自分のやりたいことをやれたらいいっていう人もいる。そういうもんだと思うんです。

イノベーション自体を求めるよりも大切なこととは

藤村:DHBR側の討論では、たびたび「イノベーション」が話題に挙がりました。サイボウズはいい会社だけど、イノベーションは起こせないのではないか? という議論です。

大槻:イノベーションは、物事の結果だという気もしますが......。

中根:起こせといって起きるものでもないですよね。

大槻:イノベーションは会社軸の話ですよね。サイボウズが大事にしているのは個人の生き方。独立支援もそうだし、副業OKもそう。

働きがいより生きがいを考えようとなっているサイボウズが、個人の感性や生き方を素直に出せる場所になって、よりお客様のことを考えたり、将来的なビジョンを考えることが楽しくできる環境になったりすれば、おのずとイノベーションに近いものが生まれると思います。

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大槻幸夫:サイボウズ株式会社 コーポレートブランディング部長 兼 サイボウズLive プロダクトマネージャー

中根:そういう場所でありつづけようとすることが、サイボウズで働く一部の人のやりがいになるのかも。

大槻:イノベーションというと「経済的な大成功」というイメージが一般的ですが、小さなイノベーションも絶対にあると思っていて。

小さなイノベーションを積み重ねたら違う景色が見えてきて、さらなるイノベーションにつながることだってありえます。多様性を受け入れる今のサイボウズは、そんなイノベーションが生まれやすい場所にはなりつつあるのかな。

山田:僕自身は、イノベーションを起こさないといけないとは思っていない。けど、たとえばサイボウズの人事制度は変わっていて、これが世の中を動かすムーブメントの1つになっていれば、それはそれでいいなとも思う。

売り上げもサービスのユーザー数も増えているけど、世の中の人が「サイボウズからは、まだイノベーションが生まれていない」と感じているなら、僕らの結果がまだまだということで。そこがもう、経営者の限界なんですよね。

中根:えー、限界超えましょうよ。

山田:サイボウズはまだ、1回もイノベーション起こしてない。それには僕自身も悩んでいたりします。

結局サイボウズって、500人でわずか年間70億円の売り上げしかない、できて19年の会社なんですよ。世界的に知名度がある会社でもない。

だから僕らってすごいでしょって言うつもりなんか、さらさらないんですよ。

大槻:今、サイボウズは「働き方」でイノベーションを起こしている会社と見られているかも。

山田:まだ、たいしたことないでしょ。ただ、働き方自体は深く広いテーマなので、僕としてはぜひサイボウズが働き方のイノベーションを起こす主体でありたいとは思いますが。

大槻:本質的には、サイボウズが取り組む多様な働き方が今の時代にマッチしているから、興味を持っていただけているだけだと。

山田:新しい働き方を模索するのが世の中の流れになっていて、本当に「サイボウズのやり方っていいね」って言ってもらえる実績を出していく。今は本当に僕らがやるべきことはそれですよね。

ハーバード・ビジネス・レビュー読者への質問

大槻:DHBRの読者からの質問は、まだちょっとピンと来ない部分があるんです。サイボウズという会社単体での売り上げや成長視点での「イノベーション」の質問だからかもしれません......。そこで質問。

なぜサイボウズにイノベーションや成長を求めるのですか?

この議題を、ハーバード・ビジネス・レビュー読者はどう議論を深めていくか? 続きは「なぜ企業は成長し、イノベーションを起こさなければならないのか?」で議論します。

編集:藤村 能光・阿部 光博/写真:山下亮一

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本記事は、2016年4月8日のサイボウズ式掲載記事「「働きがいより個人の生きがい」を大事にする会社の方が、イノベーションは起きやすいのか?」より転載しました。

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