サイボウズ式:仕事を「任せる」技術

強いチームを作るためにはなるべく仕事を「振る」のではなく「任せる」ようにしていかなければなりません。

【サイボウズ式編集部より】この「ブロガーズ・コラム」は、著名ブロガーをサイボウズの外部から招いて、チームワークに関するコラムを執筆いただいています。今回は日野瑛太郎さんによる「チームの力を最大にする仕事の頼み方」について。

チームで仕事をしていると、どこかで必ず「誰かに仕事を頼みたい」という状況がやってきます。どんな優秀な人であっても一人でできる仕事の量には限界がありますし、仕事の性質によっては自分よりもほかの人にやってもらったほうがよいということもあるでしょう。

そもそも、そうやってチーム内の人的リソースを柔軟に使えないのであれば、それはチームで仕事をしているメリットが生かせていない状態です。チームの力を最大限活用するなら、仕事を誰かに頼むという選択肢は常に考慮しておかなければなりません。

仕事を誰にも頼まず抱え込むことで生じるデメリットについては、以前『「自分でやったほうが早い」でチームは滅ぶ』というコラムで詳しく書かせていただきました。その時は詳しく区別しなかったのですが、仕事を他人に頼む場合、実際には2つの頼み方があります。1つは仕事を「振る」というやり方。もう1つは仕事を「任せる」というやり方です。

この2つは、どちらも仕事を他人にやってもらうという点では同じなのですが、相手に与える裁量の点で大きなかい離があります。そして、強いチームを作るためにはなるべく仕事を「振る」のではなく「任せる」ようにしていかなければなりません

そこで今日は、仕事を「振る」のではなく「任せる」ために気をつけなければいけないことについて考えてみたいと思います。

仕事を「振る」と「任せる」の違い

まず前提として、仕事を「振る」のと「任せる」のとではどう違うのでしょうか。言葉のニュアンスからなんとなく違いは想像できると思うのですが、最初に少し整理してみましょう。

仕事を「振る」といった場合、決定権はあくまで仕事の依頼者側(多くの場合は上司や先輩)に留保されます。基本的には判断が不要なレベルまで分解されたタスクを渡し、結果や進ちょくを逐次報告してもらうというやり方で仕事を進めてもらうことになります。仕事を実際に進めていく上で判断が必要になった時は、その都度仕事を振った人に対して確認をとります。言い方は悪いですが、他人を自分の手足のように使うのが仕事を「振る」というやり方です。

一方で仕事を「任せる」といった場合、仕事の依頼時に裁量も相手に渡します。依頼する仕事の粒度も単に仕事を振る場合より普通は大きくなります。仕事の進ちょくは適宜報告してもらうものの、実際に現場で意思決定をするのは仕事を任せられた側です。これもやはり言い方は悪いですが、他人に仕事をやり方を考えるところまで含めてまるっと投げるのが「任せる」というやり方です。

仕事を任せるのは振る場合の何倍も難しい

仕事を「振る」のと「任せる」のとでは、どちらのほうが難しいのでしょうか。もしかしたら、タスクを適切に分解したり自分で意思決定をしたりしなければならない分、仕事を「振る」ほうがやることが多くて大変だと感じる人がいるかもしれません。

しかし実際には、仕事を「振る」のは結構簡単です。自分がいつもやっていることをそっくりそのまま他人にやってもらうようお願いし、万が一想定どおりにやってくれないようだったらその都度軌道修正をかけていけばよいからです。基本的には「自分のやり方」を貫けば仕事を「振る」ことは可能です。

一方で、仕事を「任せる」場合は「自分のやり方」を押し通すわけにはいきません。任せた以上は、相手が自分とは全然違うやり方で仕事を進めていたとしてもそれを尊重する必要があります。仕事を「任せる」とは「相手を信頼する」ことです。それゆえ、誰にでも気軽に仕事を任せるというわけにはいきません。

任せる仕事の内容も、相手の能力や適性、希望に合わせて適切に設定し「この人ならきっとしっかりやってくれるだろう」と確信を得て初めて決定できるようになります。こういう思考を経ずに相手に仕事をまるっと頼んだとしたら、それはただの丸投げであって仕事を任せたことにはなりません。

人間は裁量がないと仕事を面白いとは思えない

このように、仕事を「任せる」ことは仕事を「振る」ことよりもずっと難しいのですが、それでも僕は仕事はできるかぎり任せたほうがいいと思っています。理由は単純で、基本的に人間は裁量がないと仕事を面白いと思うことができないからです。

「自分で考えて自分で判断する」ようになってはじめて、仕事を自分事としてとらえられるようになります。それは個人の能力向上にもつながりますし、結果的にチームの成長へも繋がります。裁量を与えないやり方では、伸ばせる能力に限界があります。

もちろん、新卒一年目の新入社員にいきなり仕事を「任せる」ことはできないでしょう。

どうしても最初は仕事を「振る」ところからはじまります。しかし、いつまでも「振る」だけで済ませてはいきません。小さな粒度でもいいから、徐々に仕事を「任せる」やり方にシフトしていくようにしなければ、新入社員のやる気は下降の一途をたどります。

ちょっとだけ難しい仕事を任せて手厚くサポートする

では、具体的に仕事を任せる際はどのような点に注意をすればいいのでしょうか。

まず大前提として、仕事を任せる際にはなるべく相手の興味・関心に近い仕事を任せるようにするべきです。実際には相手の希望に沿えないことのほうが多いでしょうが、それでも明らかに本人の希望にそぐわないであろう仕事は任せるべきではありません。

その上で、任せる仕事の難易度を適切に設定することが重要です。相手の能力や経験と比べてあまりにも難しすぎる仕事を任せてしまうと、当然ながら相手は不安になります。精神的にも過大なプレッシャーを与えることになり、お互いにとってよくない結果になるでしょう。一方で、簡単すぎる仕事を任せるのも考えものです。人によっては、それで「能力を過小評価された」と感じてしまうこともあるからです。

そこでおすすめなのは、相手の能力や経験に照らしてちょっとだけ難しいと思えるような仕事を任せることです。このぐらいの難易度の仕事はやり遂げれば成長実感が得られますし、失敗しても学びがあります。ゲームと同じで、ややチャレンジングだと感じるぐらいが、一番無理なく面白さが感じられる難易度なのです。

また、仕事を任せたらそれで終わりではなく、それ以後も手厚くサポートし続けることが大切です。アドバイスやヘルプを求められた場合には積極的に助けましょう。ただし、相手を無理やり説得して自分と同じ考えにしようとしてはいけません。すべきなのはあくまでサポートであって、監督ではないからです。

仕事を任せることで、任せた相手の能力は大きく向上します。また、純粋に他人に仕事を任せれば、それだけ自分の時間を他の仕事に割けるようになります。つまり、仕事を任せればそれだけチームは強くなるということです。もちろん任せた結果失敗することもありますが、それはチームの成長にとっては必要な投資です。任せられる仕事は、どんどん任せるようにしていきたいものです。

イラスト:マツナガエイコ

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本記事は、2015年7月16日のサイボウズ式掲載記事仕事を「任せる」技術より転載しました。

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