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日本のサラリーマンは「35歳定年」でいい――倉貫義人×青野慶久、プログラマーを再定義する

2014年11月10日 23時41分 JST | 更新 2015年01月09日 19時12分 JST

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著書『「納品」をなくせばうまくいく』で、「月額定額制」により顧客企業の顧問エンジニアのようなスタイルで開発と運用を行うという画期的なビジネスモデル「納品のない受託開発」を提唱して話題を呼んでいる株式会社ソニックガーデン代表取締役の倉貫義人氏と、サイボウズの青野慶久社長の対談。

後編では、ソニックガーデンのエンジニアが開発と運用を1人で手掛けることの意味から始まり、今後エンジニアに求められるスキルや、会社という組織の将来像にまで話が広がっていきます。所有型からサービス型へとシステムの提供の仕方が大きく変化しつつある今、エンジニアにはどのようなスキルセットが必要になっており、またどのように自身を磨いていくべきなのか? 全エンジニア必読の内容です!

(前編:「幸福なシステム開発」はどうしたら実現できるか?――ソニックカーデン倉貫義人とサイボウズ青野慶久が考えた

開発と運用を分けると「悪魔がささやく」

青野:ソニックガーデンさんでは、開発と運用を分けず、1つの顧客企業の仕事はすべて1人のエンジニアが担当するのも特徴です。なぜそういう形にしたんですか?

倉貫:開発と運用が分かれているのも、SIerで働いていてイヤだったことなんですよ。開発部署はある意味、花形的な存在で、新規プロジェクトで新しい技術にも次々と触ることができる。けれども、開発が終わったら自分たちが作ったものをほったらかし。そこにものすごい違和感があって。

青野:なるほど。

倉貫:僕は学生時代からプログラムを作っていて、自分が作ったものがどう使われるか見てみたいという想いを常に持っていたんです。エンジニアなら誰もがそこに喜びを感じると思いますね。

青野:トータルコストを考えても、開発者自身が運用しやすいソフトを作って、フィードバックを受けて改善するというサイクルを回したほうが、ずっと安くていいものができる気がします。

倉貫:おっしゃるとおりです。うちの会社では、システムにバグが出たことがほとんどないんです。それは開発と運用を同じ人が行うので、バグが出たら作った人が自分で直さなくてはいけなくなるから。バグの修正は運用の人がやってくれるとなると、心の中で「これぐらいでいいじゃん。俺も忙しいし、あとは運用の人に任せよう」と悪魔がささやくかもしれませんよね。

青野:サイボウズでも今、面白いことが起きていて。もともとサイボウズは、アプリケーションを作って、運用はお客様に任せる会社でした。

しかしクラウドを手掛けるようになると、運用も社内でしなくてはいけなくなり、運用本部を設立しました。今、その運用本部が、開発本部と同等の権限を持つようになっているんです。「安定して運用できないプログラムはうちのクラウドには載せない」と開発本部に意見する。開発と運用で両輪感が出てきた。それはすごくいいなと思っています。

倉貫:クラウドの存在は大きいですよね。ソニックガーデンで1人のエンジニアが設計も開発も運用もすべて担当することができるようになったのも、クラウドのおかげですよ。

青野:クラウドがなかったら、役割分担をせざるを得ませんもんね。開発者が、サーバーの見積もりを取って、ネットワークのキッティングをして、なんてことまでできないですから。

倉貫:その意味で、今のエンジニアはある意味、高い下駄を履かせてもらっている恵まれた環境だと思います。クラウドやオープンソースなど便利なものがたくさんあって、お客さまにとって本当に必要なものを作ることに集中できますから。

分業がなくなることで必要とされるエンジニアのスキルセットとは?

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青野: そうなると、エンジニアに求められるスキルセットも変わってきますよね。特定のスキルだけを深堀りした「タテ型」から、お客様にトータルでサービスを提供できる「ヨコ型」へと。

工場でいうと「多能工」みたいなイメージでしょうか。ベルトコンベアで毎日特定の作業だけをしている人はなかなか幸福感を感じられないですよね。それが、自分の手掛けたものの完成形まで見られるとなったら、大きな充実感を得られると思うんです。

倉貫:まさにそのとおりで、エンジニアが一番幸福感を感じられるのは、お客様に直接価値を届けられた時だと思います。間にいろいろな人が入って「自分はこの部分だけを作りました」よりも、お客様の困っていることを自分が聞き出して、自分で作って、自分で渡す。それができたら相当楽しいですよ。

青野:従来、それが効率的にできなかったから分業せざるを得なかったけど、クラウドなどの武器が揃ってできるようになったわけですよね。

倉貫:うちの会社ではお客様との打ち合わせから設計、開発、運用すべて行う人を「プログラマー」と呼んでいるんです。よく「それはもはやプログラマーではない」と言われるんですが(笑)

その理由は、僕らがプログラマーという仕事に誇りを持っているからです。僕らの仕事って、最終的にはプログラムを作らなくてはいけない。プログラムを作ることによってこそお客様に価値をお届けできると思っているんです。

青野: 新しい職種ですよね。今まで考えられてきたプログラマーを再定義しているわけですよね。

本当に共通のビジョンを持つ人だけが同じ会社で働くこと

青野: ソニックガーデンさんには営業パーソンもいないんですよね。その一方で、最初の1カ月は「お試し期間」として無料にしている。これって僕はまさに営業行為だと思うんです。

倉貫:おっしゃるとおりです。営業なんですよ。そこを看破されたのは青野さんが初めてです。

1カ月間、プレゼン資料を持って営業活動をするのも、プログラミングするのも同じコストがかかりますよね? だったら僕らはプログラマーなんだからプログラミングをしようよ、という考え方です。

青野: 実は営業行為だとピンときたのは、サイボウズのあるパートナーも同じようなことをやっていたからなんです。当社のkintoneという製品にも30日間のお試し期間があるのですが、そのパートナーは「この30日間、お客様の相談に何でも乗ります」ということを始めて、ものすごくたくさん受注した。

「よくそのやり方を思いつきましたね」と言ったら、「どっちにしても営業行為なんだから、だったらわざわざ営業パーソンを雇わず、SEにプログラムを作らせたほうがいい」と言っていたんです。しかも、作ったものを別の会社にも提案できるから一石二鳥だろうと。

倉貫:まったく同じ思考ですよね。うちの場合、月額定額だから、お客様から続けていただけるということは、翌月の営業をしているようなものなんですよ。

青野: なるほど! 面白い考え方ですね。

倉貫:僕はこれからの会社はミッション、ビジョンありきだと思っています。従来のように、組織にいる人のモチベーションを保つためにミッション、ビジョンを掲げるのではなく、本当に共通のミッション、ビジョンを持っている人だけが同じ会社で働くというようになればいい。

だからうちの会社では、エンジニアしか採用しません。長く会社をやっているとどうしても庶務や総務といった本部業務も発生しますが、じゃあそのための人を雇うかというと、それは僕らの会社では違うだろうと。だから本部業務をすべてBPOできる会社を探したのですが、どうしても見つからなかった。そこで、ソニックガーデンとは別に、本部業務をすべてやってくれる会社を作ったんですよ。

青野: 自分たちで作っちゃったんですか! 徹底していますねえ。

倉貫:本部業務を会社の外に出すと何がいいかというと、その会社のサービスを他の会社に外販できるんですよ。そうなると、その会社は単にソニックガーデンの仕事だけを請け負う下請けじゃなくて、対等の関係になれる。

青野:なるほど。

倉貫:もう1つ、会社を分けることで、その本部系業務を請け負う会社の人材のキャリアパスが明確になるんです。ソニックガーデンには「弟子」「一人前」「師匠」というエンジニア向けのキャリアパスしかないので、仮に庶務・総務の人材を雇っても、その人たち用のキャリアパスを用意できない。でも、その分社化した会社では、彼ら・彼女らが将来マネージャーや経営者になるといったキャリアパスも開けてきます。

青野:職能やファンクションで会社を切り分けてしまう。これも新しいですね。

世の中の流れがサービス志向に

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青野: 今、IT業界だけでなく、世の中全体の流れが「サービス志向」に移行してきていますよね。自宅で映画を見るにしても、昔はDVDを買っていましたが、今は「Hulu」のような月額1000円くらいで見放題のサービスがあり、つまらなかったらすぐ別の映画に切り替えられる。

倉貫:僕自身、最近所有欲ってほとんどないですもんね。先輩経営者から「倉貫くんもお金持ちになってヨットとか持ちたいでしょ?」とか言われることがありますけど、まったく欲しいと思ったことがない(笑)。どうしてもヨットに乗りたければ借りればいいですし。僕らくらいの世代の人からは、「所有」より「経験」に価値があると思い始めているのではないかと。

青野: 単純に「モノを売る・買う」だとサステナブルなビジネスモデルを作れないですよね。

倉貫:サステナブルというのは非常に重要なキーワードだと思います。日本でも高度経済成長期には大量生産・大量消費の時代がありましたが、今はそんな時代ではなく、ある意味「資本主義の行き止まり」みたいなステージにあり、このままでは世界全体が行き止まりになってしまう。行き止まりの先を考える時に、サステナブルにお客様にサービスを提供し続けるというビジネスモデルは有効ですよね。

青野: モノはもうみんな持っている。いかに持っているモノを使った体験をリッチにしてあげるか考えなくてはいけませんよね。

倉貫:日本は少子高齢化がものすごい勢いで進んでいますよね? そんな中で、今後どういう職業が生き残るんだろうと考えることがあります。もはや日本では人がたくさん必要な、大量生産型のビジネスは難しい。

生き残るのは大きく2種類の職業でしょう。1つは、ゼロからイチを作り出すクリエイティブな仕事。もう1つは、お客様の難しい課題を解決してあげるプロフェッショナルサービスです。

この2つの共通点は、「頭数がいらない」ことです。となると、大きな会社じゃなくてもできる。ナレッジワーカーが働く小さな会社が連携しあって世の中を回していく。そんなフラットな社会になったほうが、従来の"大企業主導で小さい会社はその下"みたいな社会よりも、将来の日本の姿としていいのではと思いますね。

エンジニアに求められるのは「一歩外に踏み出す勇気」

青野: システム開発にしても、従来型の大量に人を動員して人月で開発するような開発は、用途が限定された一部のものしか残らず、どんどんシュリンクしていく。

ではそういう中で、エンジニアはこれからのキャリアパスを描いていくのに、どんなことを意識するべきなんでしょう?

倉貫:うーん、SIerにいるとなかなか難しいと思いますね。いちエンジニアが、じゃあ明日からこれまでと違うやり方でやります、といっても無理じゃないですか。

青野: 既存のビジネスプロセスが邪魔をして、そこに乗っている限り新しいビジネスはできない。となると、提案できるのは、「一歩外に踏み出してみる勇気」なんですかね。副業でもなんでもいいから、直接お客様の役に立てる経験をすれば、自分が提供できるバリューがわかる。

倉貫:確かに。「自分で稼ぐ」という感覚を理解することは大事ですよね。

僕は、サラリーマンは全員35歳で定年にすればいいと思うんですよ。そこでいったん雇用契約が切れて、全員フリーランスになる。そうしたらイヤでも自分で稼ぐことを考えないといけないから、社内でくだらない椅子取りゲームをしている場合じゃなくなるし、上司の顔色じゃなくてお客様を見なくてはいけなくなる。日本が元気になりますよ。

青野: もはや労使という考え方も古いですよね。

倉貫: 35歳定年で日本のすべての人が管理職になれば、いわゆる労働者はいなくなります。

この点についても、僕らの会社は、基本的に社員をマネジメントしない会社なんです。僕がお客様についてあれこれ指示することもないので、中途で入ってきた人もすべて自分でやり方を考えなくてはいけない。

そもそも、ソフトウェア会社の労働者って、コンピュータなんですよ。社員は皆、労働者であるコンピュータを?