サイボウズ式:女性が欲しいのは「何か変わったね」という毎日の承認、思い出したように男性にあれこれしてほしいわけじゃない──二村ヒトシ×川崎貴子×青野慶久

男と女はどう異なり、なぜすれ違うのか? そしてそのすれ違いを解消するにはどうすればいいのか?

今回はこれまでの「サイボウズ式」コンテンツの中でもかなり異色?! AV監督で恋愛に関する多くの著書ももつ二村ヒトシさん、「女のプロ」の異名を取る株式会社 ジョヤンテ社長の川崎貴子さんと、サイボウズ青野慶久社長による、男女のあれこれにまつわる鼎談(ていだん)をお届けします。

二村さんと川崎さんは、独身男性の恋愛・結婚・幸福についてお2人が語り合ったり、読者からの相談に回答したりした共著『モテと非モテの境界線』を出版したばかりの、いわば"男女問題のエキスパート"。一方の青野社長は、世間からはイクメン社長と呼ばれながらも、恋愛や女性の気持ちを察することにはまったく疎いと自認......。

男と女はどう異なり、なぜすれ違うのか? そしてそのすれ違いを解消するにはどうすればいいのか? 世の男性のみなさん、エキスパートのお2人から、青野社長とともに学んでいきましょう!(笑)

男性の意識が変わらないと女性は幸せになれない

青野:今日は過去最高にアウェーな気がするなあ(笑)。実は今回のお話が来た時に、「僕、違うやろ」といったんさらっと断ったのですが、ウチの若手メンバーから「いや、これは絶対に受けるべきだ」と強烈にプッシュされて。

二村:実は御社にスパイを忍ばせておいたんですよ(笑)。広報の女性の方が、僕が書いた女性向けの恋愛の本『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(イースト・プレス刊)を読んでくださっていたそうで。

川崎:わたしは青野さんにお会いするのは10年ぶりくらいです。

青野:お2人の対談本、ゲラの段階で読ませていただいたのですが、これまで読んだことのないジャンルの本でしたね。

二村:川崎さんはともかく、なんで僕みたいなAV屋が恋愛や結婚についてえらそうに語っているのか、と思われたんじゃないですか?

青野:いやいや(笑)。とにかくお2人とも、人をよく観察しているなと思いましたね。

青野 慶久(あおの よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。2011年から事業のクラウド化を進める。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

二村:僕は15年くらい前から、自分の趣味嗜好を仕事に生かして、女性が男性よりも積極的なAVを監督してきたんです。そうしたら時代の流れにマッチしたのか、男性ユーザーから激しく支持されて。日本人の性意識が徐々に変わっていく現場に立ちあうことができた。それで今度は、日本人の恋愛や結婚についての意識の変革にも立ちあえるんじゃないかと思って、いろいろ陰謀をめぐらせております(笑)。

川崎:わたしはサイボウズさんと同じ1997年に創業して、女性に特化した人材紹介・コンサルティング事業を行ってきました。その中で、女性のキャリアカウンセリングをやっていると結局、プライベートの相談にも乗ることが多かったんです。プライベートも把握していないと、仕事の紹介もコンサルティングもできないので。その延長で、一昨年から恋愛や結婚の相談に乗ったり、婚活塾を開催したりしています。

二村:僕も川崎さんも、もともとは男性の人生にあんまり興味がなかったんですよ(笑)。川崎さんは女性の幸せを考えるお仕事をされていて、僕は女性好きが高じてAV監督になり。ただ、川崎さんが対談の中でよく「男性の意識が変わらないと女性は幸せになれない」とおっしゃるのを聞いて。それでそういうつもりになって、この『モテと非モテの境界線』に登場してくれた男性の相談者のみなさんと話しているうちに、だんだん楽しくなってきた。

川崎:二村さん、男性相手の対談を始めた当初はテンション低かったですもんね。

青野:ははは!

二村:青野さんのことは、周囲の友人・知人からいろいろ聞いていて。会社経営者なのに、どうして自分の会社のことだけでなく、日本人全体の働き方を変えることに熱心に取り組んでいらっしゃるんだろう? と興味を持っていたんです。だから今日、お話できるのは本当に楽しみで。一方で、「官僚を一喝した」なんていう噂も聞いていたので、怖い人だったらどうしようとも思っているんですが(笑)

青野:いやいやいや、怖くなんかないですよ(笑)。こちらこそ今までお会いしたことのない世界の方なんで、若干緊張しています。

非常に大事なのに学校では教えてくれない「男女のこと」

二村:今、日本の恋愛市場って、男性は一部のハイスペックで女性好きな人だけの間で活気づいています。でも実際は、普通に働いていて、異性との距離の取り方がわからない、みたいな人が日本人の大多数なんです。その人たちが、身動きが取れなくなっているのが問題だと思っています。

川崎:女性のほうが、自分の中で課題が顕在化されているんですよね。男性の場合、課題を自覚すらしない。対談がスタートしたころ、この溝は結構深いぞ、と(笑)

青野:ほおお。

川崎:みんな結構ピュアなんですよね。その分、女性より自覚して行動を起こせないから、もったいないというか、途中から何とかしたくてたまらなくなりました。

青野:学校では教えてくれないですもんね。僕は非常に大事なのに学校で教えてくれないことは、大きく3つあると思っていて。1つは男女のこと。2つめはお金のこと。3つめはチームワーク。特に男女のことは、もっとちゃんと教えたほうがいいと思う。

川崎:確かに。

青野:僕自身、なんでこれだけやっていて、妻は喜ばないんだろう? と思いますもん。世の中的に見ると家事も育児もめっちゃ頑張っていて、申し分ないじゃないか! と(笑)

二村:青野さんといえば、ビジネス界では有名なイクメンですもんね。

青野:"イクメン""社長"で検索すると、僕が真っ先に出てきますもん。検索結果のトップページにズラーっという勢いで。

二村:僕も業界では、女性の気持ちがわかる監督と言われているんです。女性がもっと性に積極的になると男性もうれしいんだよ、という作品を撮ってきたので。ところが家に帰ると妻の気持ちが本当にわからない(笑)

青野:おおーっ、そうなんですか! でも本を読むと、奥さんともスムーズに会話されている感じがしますけどね。僕、自分の妻に「キレイだね」とか言えないですもん。

川崎:二村さんは女性なら誰にでも言えますよね(笑)

二村:そうなんです(笑)。まあ、僕は女性をほめて盛り上げるのが商売なんで。でも妻が、そのときそのときで何を考えているかは、もう30年ほどいっしょに暮らしているんですが、本当にわからない。

女性が欲しいのは「今日も元気だね」という"デイリーな承認"

川崎:お2人とも奥さんの気持ちがわからないとおっしゃっていますが、女性って男性に、時々思い出したようにあれこれしてほしいわけじゃないんです。一番欲しいのは"デイリーな承認"なんですよ。「今日も元気だね」とか「何か変わったね」と言ってほしい

青野:それそれ! そのコツがつかめないんですよ! 女性は共感を欲しがると聞いて、妻の話に「あー、そう」と答えると、「何、その言い方!」となる(笑)。じゃあどうすればいいんだ、と。

川崎:実は私も、本業で女性マネジメントなどを教えていながら、プライベートではできていなかったりするんですよ。ウチは夫のほうが女性っぽい、逆転夫婦なので。夫のほうからデイリーな承認や共感を求めてくるんです。それに対してわたしは、「で、結論は?」と、口を滑らせそうになります。

川崎貴子さん。1972年生まれ。埼玉県出身。1997年に働く女性をサポートするための人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活用コンサルティング事業を展開。女性誌での執筆活動や講演多数。著書に『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『私たちが仕事を辞めてはいけない57の理由』(大和書房)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)、『上司の頭はまる見え。』(サンマーク出版)がある。2014年より株式会社ninoya取締役を兼任し、ブログ「酒と泪と女と女」を執筆。婚活結社「魔女のサバト」主宰。女性の裏と表を知り尽くし、フォローしてきた女性は2万人以上。「女性マネージメントのプロ」「黒魔女」の異名を取る。10歳と3歳の娘をもつワーキングマザーでもある。

青野:あー、わかります! 「オチはないの?」と。あと、聞いていることに対して、ひと言で簡潔に答えてくれればいいのに、途中からいつの間にか全然違う話をされて、「あれ? 結局答えは何なの?」とか(笑)

川崎:ウチの夫は一時、専業主夫で家庭に入ってくれていて。その時はわたしが帰宅すると、その日あったことをイチから全部聞かされていたんです。正直、「ああ、この話、いつ終わるんだろう?」と思っていました。ずっと聞き続けるのも結構根気がいりますよね。

青野:いりますよ!(笑)。話をそらそうとしても怒られるし。あれは全部聞かなくちゃいけないんですかねえ。

二村:青野さんは会社では当然、女性の部下もたくさんいらっしゃるわけですよね? そういうみなさんの話を聞くのはどうなんですか?

青野:会社でいっしょに働くメンバーについては、僕は男女分けて見ていないですからねえ。誰から相談が来ても辛抱強く聞くようにしています。それが家ではできていないということなんです。

二村:川崎さんは、「家庭を会社と考えればいい」とおっしゃいますよね?

川崎:そうそう。そうすればできるんです。

青野:川崎さんとだんなさん、どちらが社長ですか?

川崎:ウチの場合、わたしが社長で、夫が副社長です。子どもたちは研修中の若手で、義母はステークホルダー(笑)。副社長は実務をたくさん担っていますので、私の家での役割は、副社長が毎日機嫌よく家庭を回してくれるようにすること。決算報告もちゃんとして、コンプライアンスも遵守し、家族みんなが喜んでくれる経営を心掛けています。

青野:なるほど、そういう視点で見ればいいのか!(笑)

男性は理想に振り回され、傷ついていることすら自覚できない

青野:家庭の話が出ましたが、家庭というものを考える時、僕はやはり概念として、子どものころに自分が生まれ育った家庭を思い浮かべてしまうんです。父が働き、母は専業主婦という、当時当たり前だったあの家庭。それを再現したらいいんじゃないかと、心の中のどこかで思っているんですよね。

二村:そうなんですよね。でもそういう昭和の家庭みたいなものは、もはや東京をはじめとする都市部では、ある意味、幻想になっている。ややこしいのは、日本全体がそうなったのではなく、地方ではそれがまだ確固として残っているんですよね。このダブルスタンダードからも、いろいろ面倒な問題が生まれてくる。

青野:何が理想形なのかわからないですよね。

川崎:そういう中で、男性のほうが疲弊してしまっている気がします。

二村:女性のほうが現実的ですからね。男は理想に振り回されてしまう。イメージとしての"いい家庭"があって、何としてもそれを実現しなければとなってしまうのも、逆にちょっとマズい気もするんですよね。

二村ヒトシさん。1964年六本木生まれ。慶應義塾大学文学部中退。劇団主宰を経て、97年にアダルトビデオ監督としてデビュー。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(いずれもイースト・プレス)、共著に『オトコのカラダはキモチいい』(KADOKAWA)、対談集に『淑女のはらわた』(洋泉社)『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(幻冬舎)などがある。

青野:ああ、イメージにとらわれてしまうわけですね。うわー、そう言われると僕もとらわれているような気がしちゃうなあ(笑)。

二村:「男も子育てや家事をやらなければならない、それが正義だ!」となると、イクメンも楽しくないと思うんですよ。

川崎:働く女性たちもとらわれている面があります。これもやらなきゃ、あれもやらなきゃ、全部完璧にやらなきゃ、となっちゃう。

二村:ただ、メンタル面で言うと、女性のほうが自覚的だと思います。僕の持論なんですけど、女性ってみんな、うっすらと病んでいるところがあって。

青野:ほお。

二村:その度が過ぎるといわゆるメンヘラになっちゃうんですが(笑)。恋愛すると、誰でもちょっとメンヘラ気味になって、落ちたり上がったりしますよね? 女性は特に恋愛を通じて、今、自分は落ちているな、上がっているな、と自分の心の状態を敏感に把握できるようになっていたりする。だからわりと切り替えも早いんです。

青野:そういうものですか。

二村:ええ。けれども男は、自分が傷ついていることすら自覚できない。感情が傷つくことは男らしくないと思っていて、どんどん心の鎧が強くなっていく。そうすると体に不調が出るんですよ。

青野:うわー、思い当たることがあるなあ(笑)

二村:女の人はわりと普通に「私、今、病んでるわ〜」とか言うじゃないですか? 男もそれくらい、今、自分は苦しいんだということを表に出したほうがいい。そのほうが長生きできますよ(笑)

青野:人間なんだから上がったり下がったりすることぐらいあるだろう、くらいに考えられれば、心に余裕ができるんでしょうね。

"自分の弱みを開示できる"のは、人間にとっての大きな強み

二村:青野さんは経営者なので、常にご自分の感情をコントロールしますよね。だからそうじゃない人が身近にいると、「なんでできないんだろう?」と思ったりするんじゃないですか?

青野:確かにそういう面はあるかもしれません。

二村:でも逆に、自分の感情の状態を開示できる人のほうが、晩年は強いんじゃないかと思うんですよ。これも僕の仮説なんですけど。

わが家の場合も、どう見ても私の方が強そうに見えがちなんですが、実は私より夫のほうが柳のように強いかもしれません。私のほうが何かあったらポキっといってしまうかも。まだいったことはないですが(笑)。特に男性は、中高年になって、体力がなくなったり、自分の影響力がなくなったりすると急に弱くなりますよね。

青野:ああ、バックグラウンドというか、後ろ盾になっているものがなくなるとポキっといっちゃうと。

川崎:むしろ、そういう後ろ盾的なものにこだわらない人のほうが、その都度、新しいコミュニティに入って仲間を作ったりして、楽しそうにしていたりする。"こだわらない"、"変化できる"、"自分の弱みを開示できる"というのは、人間にとっての大きな強みだと思います。そして、その強みを持っているのは女性のほうが圧倒的に多い。それはプライドの問題なのではないでしょうか。

青野:そうなんでしょうね。僕は男性って、たてがみの生えたライオンのようなものだと思うんです。プライドが高くて、自分のたてがみをほめてくれる女性が好き。一方で、女性はアンテナが生えている。察知する力がすごいというか。あの時のパーティーで、誰がどんなドレスを着ていたとか、よく覚えていますよね。

川崎:女性を企業に紹介して、いい感じで面接が進んだなと思っても、「川崎さん、わたしはあの会社はイヤです」みたいになることがあるんです。「どうして?」と聞くと、「奥で怒鳴り声がしていたのに気づきませんでしたか?」とか。「なんだかちょっとおかしい」とか、表に出ていないことをキャッチする女性は多いですね。

二村:男はアンテナが自分にしか向いていないですからね。

青野:だからこそ、男性は女性のアンテナに引っかかるようなことをきちんと言わないといけないんでしょうね。

川崎:時々言うだけじゃダメです。連続性がないと。

青野:ハードルが高いなあ(笑)

二村:女性によって自分が変わるのがうれしいという、マゾヒスティックな境地に到達すると、男の人生は広がりますよ。それは僕が撮っている作品に通じるところがあるんですが。

青野:ますます難しい(笑)

後編に続きます。

執筆:荒濱 一/撮影:橋本直己

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本記事は、2016年7月12日のサイボウズ式掲載記事女性が欲しいのは「何か変わったね」という毎日の承認、思い出したように男性にあれこれしてほしいわけじゃない──二村ヒトシ×川崎貴子×青野慶久より転載しました。

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