サイボウズ式:生産性を高めて働く術を知らない日本人、「お客様は神様」マインドも変えるべき?──ダボス会議に参加したグローバルリーダーが議論

世界経済フォーラムで選ばれ、ダボス会議にも参加したヤンググローバルリーダー(Young Global Leaders:YGL)が世界中からサイボウズに集結。

世界経済フォーラムで選ばれ、ダボス会議にも参加したヤンググローバルリーダー(Young Global Leaders:YGL)が世界中からサイボウズに集結。2016年10月19日、日本ビジネス界で存在感を増す5人の登壇者とともに、現代日本人の働き方や職場の課題を示しました(前編「長時間労働の原因は、日本独特の「助け合いの職場文化」にあるのか?」)。

後半は、会場から率直にぶつけられる「日本人の働き方への違和感と疑問」に5人が答える形で、興味深い論点が次々と生まれるライブディスカッションへ突入。国際分野での長い経験を持つ5人の知見に、YGL参加者たちは真剣に耳を傾けました。

日本人は生産的になる術(すべ)を知らないだけなのかもしれない

ハフィントンポスト日本版編集長 竹下 隆一郎さん

竹下:では、みなさんと議論をしていきましょう。質問がある方はどうぞ。

参加者:少し前にある経済学者が発表した、おもしろい調査があります。「欧州の中で、もっとも働いている国はどこか?」という質問で、ほぼみんなが「ドイツ」と答えました。フランス人も、イギリス人も「ドイツが一番働いている、むしろ働き過ぎなくらいだよ」とね。

ところが唯一、ギリシャの答えだけが違ったんです。「ドイツよりもギリシャ人の方が働き者だ!」って。実際、国別の労働時間調査では、ギリシャがもっとも長時間労働との結果が出ています。でも、あの経済状況です。だらだらと長時間働いたからといって、生産的だとはとても言えません。

むしろ国際的には、長時間労働と生産性の無関係性が証明されているわけですが、なぜいまだに人々は、長時間労働は是だと信じているんでしょうか。そこには、本質的に大切なことは何もないのに

篠田:見聞きしたお話ではありますが、15年前、わたしがマッキンゼーにいたとき、同期に1人の非常に優秀なコンサルタントがいました。とても有能で生産性も高く、いまはシニアパートナーになっています。業績が認められ、ロンドン支社で2年ほど働くことになりました。

当時、世界中に広がるマッキンゼーの中でも、東京支社は悪名高い長時間労働ぶりで知られていました。もともと長時間労働の傾向が非常に強いコンサルティングファームのマッキンゼーで、です。

ところが、ロンドンから東京に戻ってきた彼のチームでは、夜20時には帰宅できるようになったそうです。20時まで客先にいて、会社へ戻って残業するのが当然だと思っているような東京では、驚異的なことです。

ほぼ日 取締役CFO 篠田 真貴子さん(手前)

篠田:彼がロンドン勤務の間に、長時間労働を習慣としない現地のスタッフを相手に、限られた労働時間の中でいかにして価値を創造し、クライアントを満足させるような高品質のアウトプットを出すか、鍛えられたからです。

1度彼に、生産性向上の秘訣を聞いてみたことがあるんです。ところが彼は答えられなかった。つまり、わたしたちが留意すべきは「いかにして変えるか」というひとつの概念ではないんです。それはきっと、管理職レベルや社員レベル、みんなの小さな「生産的にやっていこうとする判断」の積み重ねなんですよ。

おそらくこの国の人は、どうしたら生産的になれるのか、職場で生産的に働くすべを知らないだけなのです。そのためには「よい例」が必要なのですが、日本にはそれがないんですね。

上司に誘われてイヤイヤ参加する飲み会は「報酬を得る権利の放棄」?

参加者:3つ続けて質問させてください。飲み会に参加する時間は、労働時間には含まれているのでしょうか?

宇田:会社によると思います。日本の伝統的な企業では、接待などは経営を離れた楽しい時間だと認識している向きもある。UBSでは、もともと年俸制ですので、接待や社内の飲み会を労働時間にカウントするか否かという議論はありません。

参加者:5%の会社が、飲み会などの費用を娯楽費として負担しているとも聞いています。大多数においては、飲み会参加はもはや報酬を得る権利の放棄ともいえますね。

宇田:そうですね、上司との飲み会は残業にはカウントされないものです。

UBS証券 人事部長 宇田 直人さん

宇田:わたしが新卒だった25、6年前は、上司との飲み会への参加は絶対でしたが、日本でもミレニアル世代はプライベートな時間を大切にするので、必ずしも上司の誘いを絶対とは思っていないようです

プライベートを尊重するライフスタイルは、若い世代の世界的な傾向だとは思いますが、時代は変わりつつあるんですね。

参加者:最後に、日本人に休暇を取らせるのに苦労するとは本当なのでしょうか?

宇田:それも会社によるでしょう。政府統計では有給休暇の取得率は40%と出ていますが、80%のところもあれば、20%のところもある。いまは、どこの会社でも有給の取得を奨励しているはずです。

UBSはヨーロッパの企業ですから、金融機関としてリスク管理上2週間のまとまったバケーション取得は義務でもありますが、たった5日間の有給でも、かなり頑張って奨励しないと社員が取得してくれないと苦労している会社もあります。

土井:政府の取り組みとしては、休暇を取らない国民に対して祝日を増やし、休暇の取得を後押ししています。現在日本では年間16日間の祝日があって、国民の祝日のない月は6月だけですよ。

若者までが終身雇用を望んで「挑戦したがらない」なんて、日本は危機的状況では?

参加者:いったんエスカレーターから降りたら二度と戻れない文化だから、若者までが終身雇用を望んで挑戦しないなんて、危機的状況だと思えるのですが。

宇田:伝統的な企業では、いったん辞めた人材を再雇用する例は少ないかもしれません。ですが、再雇用を積極的に受け入れるサイボウズのような会社も出てきています。

UBSのような金融業界は、もともと有能な人材があちこちを渡り歩くもので、雇用はとても流動的です。日本企業の採用側は、キャリアブレイクがあったとしても、何らかの付加価値をもたらしてくれると考えるようになってきているんですね。

日本でも、若い世代はスタートアップやNPOなどの起業、社会貢献志向が高まっていますよ。日本社会は硬直しているわけではなく、徐々に変化が生まれています。

参加者:より長く働けば、よりよい成果が出るというわけでもないですよね。この悪質なサイクルは改善されるのでしょうか?

宇田:すでに日本の中にも「意味のない長時間労働は避けよう」「生産的であろう」「人生をもっと楽しもう」というマインドセットが育っています

ただ、長時間労働は、消費者が期待する高水準のサービスと背中合わせです。電車の時間が驚異的に正確など、日本のサービスの質は高いです。

それを支える長時間労働をやめていくなら、一部のサービスの低下は、妥協しなければいけないかもしれない。「お客様は神様」といった、旧来のマインドセットは変えていく必要があるでしょうね。

土井:評価システムを、労働時間の長さからアウトプットを重視する方向へシフトすべきですね。

労働時間が長いほど給与が上がり、出世し、長期間働き続けているほど年収の上がるシステムでは、とにかく時間だけが評価されます。これでは、休暇取得率が上がるわけもないし、自宅から働くなどの柔軟なワークスタイルも浸透しません。

インターリスク総研 土井 剛さん

参加者:日本は教育水準も技術水準も高いのに、ユニコーン企業が登場しないなど、なぜ海外に比べてイノベーティブな起業例に欠けるのでしょうか。政府の取り組みは?

土井:日本政府の人々は、基本的に失敗を望みません。仮に1%の成功例を生んだとしても、残り99%の失敗例に資金とエネルギーを注いだ結果になったことを嫌がるのです。

ですが、彼らも海外視察を経て、イノベーションのためにはチャレンジが必要なのだと理解し始めています。産学協同のコンソーシアムとして100人ほどをシリコンバレーへ送り込み、「いかに早く失敗して軌道修正するか」を学ばせています。すぐにユニコーン企業が現れるわけではありませんが、20、30代の若者には変わろうという意思がある。

1970〜90年代の日本経済の成功を経験した世代は、いまだに長時間労働にこだわってしまう傾向があります。彼らの多くは50代や60代で、バブル崩壊後の建てなおし、経費を削って利益を出すことを成功体験として、いま大企業の重役ポストを占めています。

彼らがあと少しで「退場」すれば、民間企業だけでなく政府内でも、日本の変革はもっとスピーディーに進んでいくというのが、わたしの意見です。

柔軟な働き方はいいけれど......どうやって株主を説得する?

参加者:サイボウズは働き方を変えよう、従来の家族的組織観から「チームワーク」へシフトしようと取り組んでいますが、それは株主の労働観と異なるかもしれませんよね。経営側の視点で、株主の関心とのすり合わせや説明はどのようにしているのですか。

山田:実際、株主への説明には苦慮しています。初期は売り上げが伸びず、ただひたすら待ってほしいと言い続けた。

現在は売り上げが上がり、配当金も増えて、上場も果たしましたから、株主への責任も果たせたといえるでしょう。こちらは説明し続け、それに共感してもらえれば株を保持してもらえますし、共感してもらえなければ売り払われる。それだけのことです。

山田 理(やまだ おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 kintone Corporation CEO。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、アメリカ事業本部を新設し、本部長に就任。同時にアメリカに赴任し、現在に至る。

山田:株主は移り変わりますし、われわれは株主だけのために働く必要はない。株主のために利益を追求したとして、従業員をリストラしたり、給与を減らしたりすれば、一体誰が幸せになるのでしょうか。

僕たちのビジネスが安定的に経営できるだけの利益が確保できればいい。株主にもフォーカスはしますが、それ以上に、社員と社員の家族の幸せにフォーカスしたいんです。

2020年までに女性管理職率を30%へ

参加者:わたしの国、西セネガルの民間企業では女性採用の門がとても狭いです。政府はキャリア志向があって、能力の高い女性を積極的に採用してきました。日本政府には、女性の労働参加を先導するような活動はあるのでしょうか。

宇田:男女雇用機会均等法に加えて、今年(2016年)4月には女性活躍推進法が施行され、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は、女性活躍推進に向けた行動計画を策定・提出し、採用状況などの公表も義務付けられました。

UBSの女性管理職割合は23%であり、決して悪い数字ではありません。これを2020年までに30%へ上げることを目標として、広げて行きたいと考えています。日本の301人以上の従業員を抱える大企業は、すべて女性活躍へ向けて取り組んでいるという状況です。

参加者:日本政府では、女性のリーダーは何人いるのでしょうか。

宇田:大臣25人のうち3人が女性です。今年の夏には東京都に女性である小池都知事が生まれました。20時以降の残業を禁止するなど、都政の内部から文化を変えていこうと頑張っておられますよ。

日本の文化全体に染み込んだジェンダー観とは

竹下:では最後の質問をどうぞ。

参加者:わたしは、みなさんのおっしゃる日本の「大企業」の重役をしておりますが、たった1人の女性重役です。ですから、世界経済フォーラムが2006年から発表している女性活躍指数には、個人的に高い関心を持っています。

日本はこの10年ずっとランキングを下げ続け、最近では145カ国中108位だったと記憶しています。わが社でも、女性活躍のためにあれこれ手を打ってきましたが、あまりにも数字的な側面にフォーカスしすぎているのでは、と疑問があります。

電通の女性の悲しいニュースを考えてみても、100時間超という残業時間ばかりが問題視され、その時間の報酬が100ドルにも満たなかった事実が無視されている。人間の尊厳こそが問題なのです。

日本では、もっと本質的な「感じ方」の変革が必要なのではないかと思います。ワークスタイルやライフスタイルの議論も大切ですが、22歳や23歳の新卒で考え始めるのでは遅すぎる。もっと小学校や幼稚園・保育園のころから、日本が長い間維持してしまっている古い規範を疑うことを教えてもいいのではないでしょうか。

わたしは4歳までロンドンで育ち、帰国しましたが、幼稚園での1日目に、同い歳の男の子が、わたしが遊んでいたおもちゃを奪って「男が先だ!」と言い放ったことに大きなショックを受けました。4歳にしてすでに彼はそういった偏見を刷り込まれていたわけです。彼のせいではない。わたしたちは社会として、もっと早い段階から大きな変化を起こさねばならないのではないでしょうか。

篠田:まったくもって賛成です。わたし自身の家庭においても、息子や娘に幼いころからジェンダーバイアスが刷り込まれてしまっていることにショックを受けたことがあります。

わたしの夫にしても、彼自身はとてもよくやってくれていますが、それでも「なぜこれをしてくれないのか」と忸怩(じくじ)たる思いをする場面がたくさんあります。

篠田:でも、なぜそこでわたしが折れるかといえば、自分の家の中で夫と喧嘩などしたくないからなのですよ。ですから、あなたの心配には全面的に賛成で、これは政治問題でもなく、経営判断の問題でもありません。「男性とは、女性とは」をいかに子どもたちに伝えていくかという、家庭の中や文化に染み込んだ根深いものです。

でもこれは、日本だけではないはずなんです。日本のように、女性が外に出たいと言うと嫌な顔をされるような、日本同様の根強いジェンダー差別が過去に存在した国はほかにもあります。それらの国はどうやって変わっていけたのだろうと、わたしはとても興味があるのです。

竹下:すばらしい議論をありがとうございました。はじめ、オーディエンスのみなさんは日本がなぜ変わらないのかとの印象をお持ちでしたが、むしろ現在、日本ではみなが声を上げることで変化していると実感できたのではないかと思います。

日本の人々が声をあげて語り続け、議論を続けていくことで、日本の職場だけでなく、グローバルな場面で強いインパクトを生むことができるようになると信じています。

文:河崎環/写真:谷川真紀子

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本記事は、2016年12月21日のサイボウズ式掲載記事生産性を高めて働く術を知らない日本人、「お客様は神様」マインドも変えるべき?──ダボス会議に参加したグローバルリーダーが議論より転載しました。

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