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欽ちゃんに学ぶ「チームに必要なのはプロではなく、スーパー素人である」理由

2014年06月20日 22時54分 JST | 更新 2014年08月17日 18時12分 JST

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この新連載は、世の中で「偉人」と呼ばれている人を取り上げて、その偉人たちが何者で、本当は何を言いたいのかをわかりやすく解説してもらおうとするものです。

そんなわがままに答えてもらうのが、企業文化研究家の平山登先生*です。先生、よろしくお願いします。

大将は、戦後最大のテレビ人

平山先生:今回のビジネスの偉人は、この現代において「大将」と呼ばれている方です。現代、こんな愛称で呼ばれている人はいますでしょうか。どんなカリスマ経営者も大将とは呼ばれていません。

――大将って、時代がかっていますよね。

平山先生:もちろん、ご自身が「大将と呼んでくれ」と言いはじめたわけではありません。みんなから慕われているんです。ビートたけしさんと言えば「殿」、「大将」と言えば、萩本欽一さんでしょう。

ところで、千野根さんは、欽ちゃんについてどのくらい知っていますか。

――仮装大賞の司会でしょうか。あと24時間テレビとか。あまりピンとこないかも。お笑いの世界とビジネスの偉人は繋がるのでしょうか。

平山先生:30代の千野根さんは、欽ちゃんの黄金期を知らないでしょう。

20代以下の人にとっては、70代の欽ちゃんは、よいお爺さんという感じでしょうか。大将、と言ってもその凄さが通じない。これは残念なことです。今回は力を込めて、欽ちゃんが戦後テレビ最大の「革新者」であったことを説明します。

――先生、今回、最初からエンジン全開ですね(笑)。こちらも心して勉強します。

平山先生:まず、欽ちゃんには、大きく分けると二つの全盛期があります。

第一は、坂上二郎さんとコンビを組んだコント55号の時代です。コント55号は、とにかく新しいスタイルのコント・コンビでした。動きもセンスも新しかった。ここを詳しく説明したいけど、それを語るととてもこの原稿に収まりません。若き日の欽ちゃん走りをDVDなどで見てください。宿題です。

――わかりました(笑)。

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平山先生:第二の黄金期は、冠番組の視聴率合計が100%の時代です。視聴率100%男と呼ばれていました。

特に『欽ドン!良い子悪い子普通の子』、『欽ちゃんのどこまでやるの!?』(欽どこ)、『欽ちゃんの週刊欽曜日』(週欽)の三番組を、欽ちゃんは、毎週作り込んでいたわけです。懐かしいな-。DVD、また見ようっと。

――先生、仕事に戻りましょう(苦笑)。

「素人いじり」の革新性

平山先生:欽ちゃんの第二全盛期における、今のテレビにもつながる革新は、「素人いじり」という「テレビ向け芸」を開発した人物という点です。

笑いは、プロの芸人がつくるものという古い価値観を、若き欽ちゃんはぶっ壊しました。次の発言には、自らの革新性に対する自信が感じられます。今の欽ちゃんのイメージとは違って才気あふれる青年像が浮かび上がってきます。

「(芸人の)プロを出せという人こそテレビの素人だ」

平山先生:例えば、明石家さんまさんの『ホンマでっか!?TV』は、プロの芸人さんが素人の文化人をいじる笑いです。鶴瓶さんの『家族に乾杯』のようなマイクを持って街に出て素人と絡む番組は、「欽ちゃんのドンと行ってみよう!ドバドバ60分」が最初なのです。

―― 一出演者から番組制作プロデューサーへ、かっこいいですね。

平山先生:ちなみに番組内で視聴者からの手紙を読むスタイルも、ピンマイクも、放送作家集団の組織化も、欽ちゃん発です。

欽ちゃんは、古き浅草芸人の血を引き継ぎつつ、最初のテレビ人でもあるんです。欽ちゃんは、次のように説明しています。

「新しく生まれた産業(テレビ)に、新しい産業に適した対応をする、というのがテレビ人なんだと思う。」

――すごい人だったんですね。すいません、知らなくて。

平山先生:欽ちゃんが大将と呼ばれるのは、素人いじりの中からたくさんのタレントが育っていたからで、彼ら彼女らは、欽ちゃんファミリーと呼ばれています。

――小堺一機さん、関根勤さんが有名ですよね。

平山先生:欽ちゃんファミリーの中でも、車だん吉さん、小堺一機さん、関根勤さん、東貴博さんなどは、もともと芸人志向が強いです。勝俣州和さん、松居直美さん、はしのえみさんは、素人や他分野からという点では、典型的な「欽ちゃん的」採用と育成かなと思っています。この他にも、風見しんごさん、見栄晴さん、斉藤清六さん、小西博之さんも、柳葉敏郎さんも、前川清さんも・・・それから。

――意外な人もファミリーですね。

平山先生:欽ちゃんファミリーは、正確には古いタイプの師弟関係ではなく、素人やお笑い以外の芸能人が、番組や劇団の中で育成されたという意味です。

実は、欽ちゃんは、1985年に突如、当時のレギュラー番組を全て降板します。復帰後も冠番組を持ちますが、かつてのような圧倒的な人気はなくなりました。それでも、欽ちゃんが「大将」であり続けるのは、彼が番組の中で育てたタレントが今も活躍し続けるからです。

ところで、不思議だと思いませんか。なぜ、継続的にタレントを生み出し続けているのか。他にもお笑い界の大物はいますが、欽ちゃんほどタレントを育てた人はいません。

――たしかに・・・あ、今回は、それを学ぼうと。

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欽ちゃん流の面接と育成

平山先生:千野根さんもこの連載のノリがわかってきましたね。ようやく本題です(笑)。

欽ちゃんは、視聴者の目線から「笑いにほど遠い人が徐々に上手くなる」こと自体を楽しむのだと語っています。歌手の前川清さん(欽ちゃんとコント54号結成)のことを言っているのですが、演歌歌手の前川さんが、コントが徐々に上手くなるから応援したくなるのであって、最初から完璧ならば応援しませんよ。

欽ちゃんは、「わらべ」という「AKB48の起源であるおニャン子クラブの起源」を作った人でもあります。

――AKBファンの私、「わらべ」に興味あります。

平山先生:どうぞDVDを見てください(笑)。

話を戻すと、要するに、完成された芸よりも成長する芸がテレビには必要なのです。

でも、これって、会社組織も同じだと思いますよ。単に即戦力を集めてもダメなのです。組織のパフォーマンスは足し算では決まらない。組織は一つの生き物であって、「できない人」の成長が組織全体の勢いを生み出すこともある。

有名なエピソードですが、「イモ欽トリオ(良い子・悪い子・普通の子)」の面接では、最初に才能豊かな劇団所属の山口良一さんが合格したそうです。その時、欽ちゃんは、優れた人間だけで番組は成立しないと考えて、一度面接で落とした長江健次さんを逆転合格にしました。

――普通、会社の人事部にはできないです。

平山先生:人事は、常識人の集まりですから。欽ちゃんは、見栄晴くん(正確には、見栄晴の役)の最終面接では、なんとじゃんけんで決めています。他にも、くじ引きで決めることも・・・・めちゃくちゃ感覚的で独創的です。

私が欽ちゃんの才能に驚くのは、欽ちゃん独自の思考方法だけではありませんよ。おのれの考えに対する「信(しん)」の強さです。

独創的な感覚を持った人は、ある程度世の中にはいます。しかし、「それって意味あるの?効果を実証できるの?」と言われると、自分を疑ってみんなに合わせてしまうものです。欽ちゃんは、「信」が常人の枠を越えています。

――なるほど。信とは、自分自身への信頼ですね。

平山先生:ところで、ここで一つも大きな問題が生まれます。想像してみてください。成長する素人は、組織の活性化にとって不可欠なのですが、もし成長してしまったら、成長し続けることは難しくなる。つまり、成長によって組織の起爆剤が失われるという「逆説」です。

――たしかに素人には戻れませんから、みんがプロになると、テレビ的には面白くなくなる。

平山先生:その通り。でも、よく考えてみてください。欽ちゃんファミリーは、欽ちゃんの番組や劇団が終了した後も活躍していますよ。息の長いタレントばかりです。笑いの素人ではあるが、単なる素人ではない。欽ちゃんは「何か光るもの」を見つけている。面接の達人なのです。

――どんな面接なんですか。

平山先生:欽ちゃんの面接は、いきなり「答えのない」「曖昧な」質問を振るところから始まります。

「え、その質問・・・」となってしまった人は、「聞き返しちゃだめだよ~」とそれで不合格です。

小堺さんが、以前、欽ちゃんの自宅に訪問した時の話をしていました。いきなり「はい、やくざの出入り。一番前に来た一番弱い奴、はい、やって」と言われて、「え・・やくざの出入りですか」と質問したら、「聞いたらおしまい」。

――いきなりコントをするのですね。

「自分の言葉」と「素」という能力の核

平山先生:欽ちゃんはコント55号の時からツッコミです。

欽ちゃんは、ツッコミのことを「フリ屋」、ボケのことを「コナシ屋」と言っています。「ふったら、直ぐこなす、という繰り返し」・・・・そのコナシの中に「自分の言葉」があると、合格です。また、答えが見つからなくても会話が続けられて、そのやりとりに愛嬌という「素」があると合格。

――自分の言葉って、素って、どういう意味ですか。

平山先生:「聞いたらおしまい」ですよ(笑)。まあ、説明しましょう。

ここで「自分の」という説明がついているのは、お勉強して覚えた言葉や頭のいい人が流暢に使える言葉とは違うという意味でしょう。自分だけの経験が培った自分だけの言葉を持っているか。「こんなこと言うなんて、この人らしいな」と思わせる言葉です。

――人を感動させる「らしさ」ですね。

平山先生:例えば、欽ちゃんが監督を務める球団の選手について、欽ちゃんはこんな発言をしていました。

「練習方法を工夫したり、居残って練習したりして運をためていくことも大事だけど、その運を一番いい場面で活かすために、言葉も磨いてほしい。」

平山先生:一流スポーツ選手は、自分の「経験」をよく理解している。だから自分の言葉でその経験を把握できる。把握しているから技も向上できるというわけです。

――経験を正確に伝えられるということですか。

平山先生:少し違います。もう一つ具体例をあげましょう。欽ちゃんは、修業時代、お世話になった先輩浅草芸人の言葉について次のように語っています。

「くどくどとした、言い回しではなく、ポンと一言、核のようなものを言ってくれたのです。」(中略)「そういう人たちの言葉は、たとえ、明確な表現でなくても、後で、ジワジワ効いてくるんです。」

――正確さより本質をとらえることが重要で、だからこそ、それが他人に伝わる。ビジネスの場でのコミュニケーションは、簡潔にするのが基本ですよね。「伝え方が9割」という本がベストセラーになったのも、言い方に関心のある若手ビジネスパーソンが多いからでしょうし。

平山先生:そんな言葉は、知識や論理を超えた「強度」を持っています。一方、「素」とは、その人物が持っている「変わらないもの」。変わらないものだからいつも「新鮮」です。この新鮮さは、組織にとってはプラスです。

――確かに、新鮮な人というのはチームに力を与えますね。新入社員が来たチームのメンバーは、昨日よりもずっとはりきると思いますし。そういう意味でも、「素」や「新鮮さ」は大切だと思います。

平山先生:欽ちゃんの圧倒的な量のフリをこなし続けていれば、その人が本来持っていた「素」の面白さが残ったまま、言葉遣いの名手となるのでしょう。プロ(芸人)ではないが、素人から脱皮した「スーパー素人」の誕生です。

――「スーパー素人」ですか。なんか先生が言いたいことを見えてきましたよ。つまり、組織のためには、スーパー素人を増やせばよいわけですね。

平山先生:わかりましたか。スーパー素人の特徴は、優れた「素」を持っていて、それゆえプロと等しいレベルの技を持ちながら、すり減らない「新鮮さ」を持っている人です。その「新鮮さ」が番組全体を活性化させるのです。すなわち、会社内でもスーパー素人を目標に選抜し、育成していけば、最高の成果が生まれるしょう。

私は断言しますが、欽ちゃん流の組織論、育成論、選抜論は、経営学の本では一切書かれていない。極めて感覚的な「謎」の経営論と言えるでしょう。だからこそ、欽ちゃんは、今後その仕事が議論されるべきビジネスの偉人なのです。

(参考文献)

欽ちゃんについては、以下の文献が参考になります。

『萩本欽一自伝 なんでそーなるの!』集英社文庫

『「笑」ほど素敵な商売はない』福武文庫

また、?