サイボウズ式:成果を「労働時間」で評価する会社には限界がきている

「働き手の都合に合わせた労働体系が進むと、何が起きるのか?」
マツナガエイコ
サイボウズ式編集部より:著名ブロガーによるチームワークや働き方に関するコラム「ブロガーズ・コラム」。はせおやさいさんのコラムです。

こんにちは、はせおやさいです。

学校を卒業し社会に出て、労働の対価として金銭を得るためには、さまざまな方法がありますよね。その中でも、もっともポピュラーなのが「就職」というものですが、「就職」にも、さまざまな種類が増えつつあります。

特に近年、注目されているのは、テレワーク、在宅勤務、ノマドワーク......名称は変われど、なかなか定着しない「場所にとらわれない働き方」ではないでしょうか。

「場所にとらわれない働き方」以外にも、時短勤務や副業(複業)、週3日休暇など、「働き手が自分の生活を優先させながら、働き続ける」ための取り組みが増えてきているように思います。会社がそれを支援する動きは素晴らしいと思いますし、働き手の状況は千差万別。ダイバーシティ、という単語が普及しつつある昨今、働き手が雇い主にすべてを合わせていく時代が、徐々に終わる気配を感じています。

今日はそんな「働き手の都合に合わせた労働体系が進むと、何が起きるのか?」というお話を書いてみたいと思います。

規定の働き方ができない、という事態は、誰にでも起こる

働き手の都合に合わせた労働体系、といってまず思いつくのは「子育て世代」への取り組みでしょうか。

わたしはまだ子供がいないのですが、働くお父さんやお母さんを同僚に持っていると、想像以上に不定型なタスクが、しかも不規則に発生するのがそばで見ていても分かります。そのご苦労を思うと尊敬の念しかありませんし、こうした「自分以外の要素に起因する時短勤務」というのは、子育て当事者だけの問題ではないな、と実感するようになりました。

独り身であっても、既婚者であっても、何らかの理由で会社が規定した働き方のルールに添えない、というケースは発生しうる。それは例えば、自分やパートナーがケガや病気になり、生活を制限されることになったり、親が要介護になったり......可能性だけでいえば無限です。

そうしてみると、今までの社会が規定してきた、「決まった時間、決まった場所に、毎日通う」という働き方ができなくなる可能性は、どんな人にだってある、ということなのではないでしょうか。

チームのあり方、個人の働き方はどうあるべきか?

そうした状況に直面したとき、チームビルディングの視点で、どんなリスクヘッジができるでしょうか。でいうと、やはり今までのような「労働時間」のみで評価するマネジメントの限界が近づきつつあるのだろうと思います。

「労働時間の長短」に応じて報酬を支払う、というのは非常にシンプルですし、今後もありうる働き方だとは思います。が、それ"だけ"では、対応しきれない時代が、確実に来始めている。そして多様性を受け入れる体制づくりが遅れることで、チームの柱や、ジャンプアップのキーになる優秀な人材を迎え入れることができないのは、ベストなチームを作る上ではむしろリスク、と判断してもよいのではないでしょうか。

そしてこれは同時に、「マネジメント」という概念のアップデートを我々が求められている、というのと近いのかもしれない、と思うのです。

多様性を受け入れる、ということ

以前、お子さんがいるため、時短で働く必要のある同僚がいました。朝は早く来ることができるけれど、夜はお迎えがあるので、16時までに会社を出る必要があり、夕方以降の打ち合わせや業務をお願いすることはできません。最初は「◯◯さんって16時以降はいないんですよね...じゃあ打ち合わせできないじゃないですか」と不満げにしているメンバーもいたのですが、いったんその視点を手放して、「そもそも」から話し合うタイミングを設けることにしてみました。

それはこんな問いでした。

<そもそも>、その会議の開催は必要なのだろうか?

<そもそも>、会議の開催時間が16時以降でなければいけない理由は何か?

<そもそも>、その会議は対面でないといけない内容なのだろうか?

上記のような質問を問いかけ、「参加できない人がいるから、困る」という発想をやめて、「そもそも」から見直すことにしてみたのです。そうしたところ、「会議は必要だが、16時以降である必要はない。が、全員が同席できる時間帯が他にないため、夕方以降に開催されるのが定例となっていた。しかし、対面である必要があるかというと、緊急度が低い限りは、オンラインでも実施が可能と思われる」という結論に至りました。

不満の発生は、「そもそも、から見直すいいチャンス」である

では「なぜ夕方以降でないと同席できないメンバーがいるのか」という理由を聞いてみることにしました。その理由は、会議の参加者の中に「日中は顧客を回りたい」という営業メンバーがいたためでした。なるほど、それは重要な要因です。であれば、次の判断としては、早帰りをしたい同僚と、営業メンバーが、「毎回、対面で会議をする必要があるのか?」ということの検討です。

結論からいうと、「毎回である必要はない」となり、会議体自体の大幅な見直しを行うよいチャンスとなりました。会議体の見直しに伴い、対面での情報共有は月に1回、それ以外はオンラインで使えるコミュニケーションツールを最大限利用し、どんなコミュニケーションにもログを残す、など、その場にいないメンバーでもほぼ同じレベルの粒度で情報を同期できる体制を構築する動きが生まれたのです。

結果、その流れが功を奏し、早帰りメンバーだけでなく、途中から参加した新メンバーや、会議には参加しないけれども状況を把握しておきたいと思っていたボードメンバーへの情報共有のスピードアップにもつながるなど、新しい体制は副次的なメリットを多く生み出しました。

そして、このことをきっかけにして、「わたしたちは思った以上に『~でなければいけない』という固定概念にとらわれているのではないだろうか? そのせいで、本当はしなくてもいいこと、やめてもよいことにこだわってしまっている可能性はないだろうか?」という疑問を持つようになったのです。

「これが当たり前」に囚われすぎていないだろうか?

「こういうものだから」という発想は、わたしたちの思考を停止させ、改善のチャンスを見えにくくしてしまいます。

「アンカリング効果」という言葉をご存知でしょうか? これは、一番最初に提示された物事の基準が印象に残り、その印象が基準点となって、その後の判断に影響を及ぼしてしまう、という心理の動きを指すそうです。つまり、人は一番最初に提示された条件を、「アンカー」=錨(いかり)のように「基準」として、そこに基づいた判断をしてしまう、というのです。

「夜に会議ができなくて困る」という不満から逃れられずにいたわたしたちがとらわれていたのも、おそらくこの「アンカリング」だったのだろうと思います。

「会議は必ず毎週行われるものである」「異なるチームのメンバーは、情報共有のために必ず毎回顔を合わせて話さなくてはいけない」など、多くのアンカーに引きずられ、それを守りたいあまり、その条件に沿わないメンバーに対して不満を持ってしまっていた。しかし実際のところ、それは単なる思い込みであり、その錨(いかり)を外すことで、もっと効率的な情報共有の体制を構築することができたのです。

本質を見つめ、正しい結果を追い求めよう

「わたしたちは自分で思っている以上に『~でなければいけない』という固定概念にとらわれているのではないだろうか?」

この懸念を持って今の働き方を振り返り「『今までの当たり前』にとらわれて、本質を見失っていないだろうか?」と検証するのは、少なからず有効なのではないかと思います。そもそも、仕事の本質とは「会社からの期待」と「メンバーが出す結果」が一致してあることであるはず。であれば、「期待と結果の認識統一」と、そのアウトプットの仕方に両者の合意が取れていれば、どう働くかは、働き手の自由でいい。

もちろんこの考え方は「メンバーに結果を出すことを強いる」という、危うき流れを起こすこともあります。そのためにも、労働者であるわたしたち自身から「自分はどんなふうに働きたいと思っていて、どんな結果を出すことを約束できるのか」を考え、自分から提案をしていく動きも必要になってくるのだろうと思います。これは思ったよりハードですし、主体性を必要とする考え方なので、どの程度浸透するのか、わたしにもまだわかりません。

こうした視座で今までの働き方を振り返ってみると、「拘束時間」のみで仕事が評価されるというのは、実はシンプルで、ラクなことだったのかもしれません。しかし、そうではない働き方を選べるようになったのであれば、自分自身に働き方を問いかけ、もっとも自分にとって適正と思われる方法を選ぶことにチャレンジしてみるのも、今だからこそできる手段なのではないかと思うのです。

そしてそれは同時に、会社組織やマネジメントの視点からも、「本質を追い求め、優秀な働き手との関係性を維持するために柔軟に対応していく」という強さを手に入れる、よい機会になるのではないかと思います。

働き手が能動的に生き方を選択し、自分の人生のために会社や組織を利用する。会社や組織は、働き手の技能を借りて、自分たちの利益を追求する。そういう、対等で健全な関係性が構築されていく未来が来るとよいな、と思っています。

今日はそんな感じです。

チャオ!

イラスト:マツナガエイコ

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2017年2月22日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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