サイボウズ式:数字「だけ」追い続けるリーダーはチームを壊す

目標を数値化して日々目標を追うことで、たしかに数字自体は右肩上がりで伸びていくのですが、それと同時にすごいスピードで人が辞めていくのです。

サイボウズ式編集部より:著名ブロガーによるチームワークや働き方に関するコラム「ブロガーズ・コラム」。今回は、日野瑛太郎さんが考える「チームが数値を追うこと以外にも大切にしなければならないこと」について。

チームが成果を出し続けるためには、「数字を追う」ことが必要不可欠です

定量的な数値目標(たとえば売り上げやユーザー数、ユーザー継続率など)を設定し、日々その目標に到達するためにPDCAサイクルを回し続けないことには前に進むことはできません。

この「数字を追う」という感覚を持っていないがために、「ただ人が集まっただけ」になってしまい成果が出せないチームを僕はたくさん見たことがあります。

目標が設定されていなければどこに進んでよいかわからなくなるのは当然ですが、仮に目標が設定されていてもそれが十分に定量化されていないと、やはりチームは迷走しがちです。

たとえば「顧客満足度の最大化」という目標を置いたとします。これだけでは顧客満足度の定義が不十分なので、何を改善するべきなのかはメンバー各自の解釈に任されることになり、PDCAサイクルがうまく回らないという問題が発生します。

「顧客満足度」にフォーカスしたいのであれば、もう一段目標をブレイクダウンして数値化したほうがよいでしょう。定量的な目標を設定し、それを日々追っていくというのはチーム運営の基本中の基本だと言えます。

数字さえ追っていればそれでいいのか?

このように、数値目標を設定してそれを追うということはとても大切なことなのですが、では数字だけを追いさえすればそれでいいかというと、そういうことでもないのです

「定量的な目標を設定してそれを追いかけること」はチームの活動を支える1つの柱ではありますが、実はそれだけではうまくいきません。

このことに僕が気づいたのは、何年か前に実際に「数字だけを追い続けるチーム」の一員として仕事をしたことがきっかけでした。

それまではチームがうまくやっていけるかどうかは「適切な数値目標を置いてそれを追うこと」の一点ができるか否かにかかっていると思っていたのですが、実はそれはチームの成功を支えるひとつの要素でしかなかったのです。

「目標の定量化の重要性」はビジネス書などでもよく言われていることなので、少し「できるリーダー」のいるチームであれば問題なくできていることも少なくありません。

しかし「それだけでは不十分だ」ということは意外と指摘されていないと思います。

そこで今回は、僕の経験を踏まえて「チームが数値を追うこと以外にも大切にしなければならないこと」について考えてみたいと思います。

「数字だけを追い続けるチーム」の中で起こったこと

僕が「数字だけを追い続けるチーム」の一員になり働き始めた直後は、目標が徹底的に定量化されてチームが運営されていることに感動すら覚えたものです。

メンバー全員が職種に関係なく目標を数値で設定することが義務付けられ、週次で進捗管理を行い、未達になりそうな場合は何をどう改善すべきか、容赦なくリーダーから突っ込みが入ります。

「数字を追う」ことに全身全霊をかけたこのチーム運営の方法は一定の成果を上げ、チーム全体の業績は基本的には右肩上がりに伸びていきました。

これだけなら「すばらしいチームだった」ということで終わりそうなのですが、実際にはひとつ大きな問題が起こりました。

目標を数値化して日々それを追うことで、たしかに数字自体は右肩上がりで伸びていくのですが、それと同時にすごいスピードで人が辞めていくのです。チーム内の空気もどんどん悪くなっていきました。

特に目標の進捗確認を行う週次ミーティングの空気は最悪で、「いかにリーダーから詰められないようにするか」が至上命題となり、目標を置く際には「必ず達成できそうなものを混ぜ込んでおく」などのハックすら横行するようになったほどです。

本来はチームを前進させるための手段に過ぎなかった「数字を追う」という行為が、気づけばそれ自体が目的にすり替わっていました

思うに、このチームは「数字を追う」ことについては完璧にできていたものの、それ以外のチーム運営に必要なことがほとんどできていなかったのです。

リーダーは目標を数字で置くこととそれを追うことには熱心でしたが、たとえばチーム内の空気や人間関係、メンバーの士気といった定量化されないものには一切気を配ることがなかったですし、ビジョンも特に示されてはいませんでした。

そんな中で数字目標達成ゲームに参加することを強制されたメンバーは、「自分がそのチームの中で働く理由」を見いだせなくなり遅かれ早かれ仕事がつらくなり辞めていきます。

最終的にこのチームは、成果自体は出し続けていたにもかかわらず、チームという形を維持することができなくなり解散の憂き目に会いました。

チームにはどうしても定量化できない要素がある

このことから僕が学んだのは、目標の定量化とそれを追うための日々の改善は、手段であって目的ではないということです。定量的な目標だけでなく、チーム内の雰囲気やビジョンといった定性的な要素にも気を配らなければ、チームが持続的に成長していくことはできません。

「そんなことあたりまえじゃないか!」と思う人もいるかもしれませんが、優秀なリーダーほど数字「だけ」を追ってしまうという罠にハマりやすいように思います。

目標を定量化して数字を追っていくことは大切ですが、実はそのひとつ前の段階として、「なぜやるのか?」という重要な問いが存在します。

定量的な目標を立て、それに向かって日々業務改善を行うことは基本的には苦しい道のりです。それを耐えて先に進むことができるのは、自分がそういう苦しい思いをしてまで到達したいという未来がしっかり描けているからです。

そういったビジョンが存在せず、ただ数字だけを追うチームにいると、短期的には業績を上げることができても中長期的にはメンバーが「なんで自分はここで苦労して働いているんだろう?」という疑問に耐えられなくなります。その先に待っているのはチームの崩壊です。

ビジネス書やネットの記事では「KPIの設定方法」は一大テーマでよく論じられますが、そもそもKPIはビジョンを実現するための手段として設定されるものです。

KPIを置く前に「そもそもなんでKPIを置いて、チームを前に進む必要があるのか?」という一番根本的な問題について、リーダーはメンバーに道を示さなければなりません。

「数値目標」と「なぜやるのか?」はチーム運営の両輪

結局のところ、定量的な数値目標と「なぜやるのか?」というチームのビジョンはチーム運営の両輪のようなもので、どちらかが欠けてもまっすぐは進めません。

世の中には、この両者のバランスに問題があるチームが実はとても多いように思います。

厳しい数値目標を置いてメンバーを詰めまくるだけでもダメですし、すばらしい人を引き付けるビジョンがあるだけでもダメです。

「なぜやるのか?」をメンバーが十分に納得した状態で、適切な数値目標を置いて改善を繰り返すことでチームは前に進みます

定量的な目標を設定し日々PDCAを回すことはしっかりやっているのに、メンバーが次々と辞めていったりチーム内の空気が悪いと感じたりするのであれば、それはビジョンに問題があるということなのかもしれません。

進むべき方向性をしっかりと示し、メンバーに「なぜそれをやるのか?」を十分に納得させてうえで、さらにしっかりと数字を追っていく――そういうリーダーを目指したいものです。

イラスト:マツナガエイコ

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本記事は、2016年5月18日のサイボウズ式掲載記事数字「だけ」追い続けるリーダーはチームを壊すより転載しました。

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