サイボウズ式:サイボウズの青野社長が考える「子どものIT教育」──必要なのは言語の習得ではなく「問題を考える力」

昨今耳にするようになった「プログラミング教育」。サイボウズでは、先日小中高生向けにシステムをつくるワークショップを実施しました。

昨今耳にするようになった「プログラミング教育」。学生向けに様々なワークショップを行っている最近のサイボウズでは、先日小中高生向けにシステムをつくるワークショップを実施しました。

その様子を振り返りながら、サイボウズ社長の青野慶久との会話で出てきた「プログラミング教育」についての対話を交え、小中高校生に必要なITや教育について考えてみたいと思います。聞き手は、最近各学校でチームワーク研修を行っているサイボウズ式編集部の椋田。

言語の教育はいらない

椋田:4年後くらいからプログラミング教育が小学校から必須になるようですが、青野さんはどう思いますか?

青野:プログラミングって開発の基礎のように思われているけど、システムのどこを開発するかによっても学ぶことがまったく違ってくるから、プログラミングよりそもそものシステムの仕組みとか、もっとわかりやすいところから始めたほうがいいと思うんだよね。

椋田:なるほど。

青野:普段僕たちは、動画再生ボタン(▶)とか切符買うためのボタンとか、そういうところからシステムに接するでしょ。そこの後ろにアプリケーションやデータベースや様々な仕組みがあって、その仕組みを作るためのものがプログラミング言語で、どこの部分を作るかによって、使う言語も、その考え方も違ってくるんです(図を描きながら説明する)。

動画再生のしくみ

椋田:この図はすごくわかりやすいですね。確かに最初に触れる動画再生ボタンにしても切符買うボタンにしても、そこだけでも「デザイン」という視点も必要ですし。

青野:そうそう!まさにそれが「UI(ユーザーインターフェース)」と言われているもので。

椋田:この間、大阪で小学生~高校生を対象にkintoneを使ってシステムを作ってみるワークショップをしたのですが、高校生がまず作りだしたのは「アイコン」でした。これから作るシステムについて誰もが一発でわかりやすくするためのアイコンを、自分のiPadで作っていました。

青野:面白いねえ。彼らはデジタルネイティブである分、直観的に分かっているんだよね。

椋田:そのワークショップのお題は、みんなで「普段の生活の役に立つシステムを作る」ことでした。小学生、中学生、高校生とそれぞれに「らしさ」と違いが分かりやすく出て、それも面白くて......。

中学生、高校生は自分たちの生活の大半を占める「学校」に関するシステムを作ったんですが、小学生は「家族」で使うシステムを作ったんですよね。結果、小学生のシステムが結構汎用的だな、という(笑)。

左から小学生チーム、中学生チーム、高校生チーム。小学生は家族で使うシステムを。中学生と高校生は学校で使うシステムを作りました。

青野:あははは。なるほどねえ。

椋田:何を作るかが決まってからはみんな積極的になって、kintoneの使い方も時間的にそんなに教えてないのに、直観でサクサク動かしてシステムを作っていくんですよねえ。正直「あ、すごい。めちゃくちゃできてる!」と思いました。私の普段の仕事の使い方と何も変わらない(笑)。

早速手を動かして、それぞれが発言して進める小学生チーム

みんなでじっくり話ながら進める中学生チーム

青野:言語を知らなくてもシステムをしっかり作れた、ということだよね。その楽しさで十分かもしれない。そこから興味があれば勝手に勉強していくし。

椋田:確かに。自発的に学んで得る楽しさのほうが、進化していくこの分野では一番大事かもしれないですね。

青野:あと、これはプログラミング教育に限らないけど、学校は机の配置を直したほうがいい。スクール形式で一斉授業ばかりだと創造性は生まれない。僕が義務教育で一番楽しかったことは、授業中にひたすらプログラミング言語をノートに書いてたこと。先生には相当怒られたけど、あの時の自分が無いと今の自分は無い(笑)。一人ひとり授業の理解度は違うのに一斉に受けるのは苦痛なんですよ。

椋田:規律は身につくけど、自発的に学んでディスカッションをするという授業では、一方向を向いている席順はまったく機能しないですね。よく班に分かれて向き合う形に直すことはありましたが。

青野:プログラミング教育はこれまでと同じ受動的な教え方だと失敗するかもね。既に家で使っているITスキルを向上させる、そこから発見などがあるプログラミング教育にしないと、先生は尊敬されないし、授業として全く意味が無くなりますよ。

椋田:確かに教える側の問題があります。先日のワークショップでも、親御さんと話をするなかで、みなさんプログラミング教育については"今の時代に必要なこと"と認識しながらも、「学校の先生ではなく別の方に教えてほしい」と言われていたのが印象的でした。

小中高校生向けワークショップの様子

現役高校生が代表をするManaLabでは、小中学生を対象にプログラミングやITを使ったワークショップ形式の授業などを提供しています。そのManalabと一緒に行ったワークショップでの子どもたちの様子を写真を中心に見てみましょう。

4月のある土曜日のお昼すぎに、サイボウズ大阪オフィスに集まってきたのは、12人の小中高生と保護者の方々。全員この日が初対面のメンバ-でチームを組み、システムをつくるワークをしていきました。会場には陽気な音楽が流れ、フリードリンク・フリーお菓子の自由な雰囲気で進んでいきました。

ワイガヤと取り組む小学生チーム

しっかり分業しながらシステムを作っていく高校生チーム

サイボウズ社員も各チームにて熱心に指導

中学生チームは、各自のパソコンやiPadを持ち出してチェックを始めた!

みんなの前で発表!

では、それぞれのチームが、どんなシステムを作ったのか実際の画面を見てみましょう。

小学生チームは、「災害時の持ち物チェック表」システムを作りました。

必要な持ち物と、その個数、持っているか持っていないかが一目瞭然になっています。「アルファー米」とコメ指定まであります......。

必要なものが足りているかどうか、グラフでも分かるようにしています。この家庭では、6割くらいの非常用備品が揃っているんですね。分かりやすい!

カンペ(手元)も作って、自分たちの作ったものと想いをしっかり発表してくれました。

中学生チームは、生徒の成績や、授業での発表回数が分かる "先生のためのシステム" を。

3年間で成績が上がる人もいれば下がる人もいます。

この表には、思わずサポーターのサイボウズ社員も「おお~!」と驚きの表情。

これだけでなく、時間が余ったからと、全校生徒に告知する緊急連絡網まで作ってくれた中学生チーム

全校生徒が登録していると、一斉に通知が届く仕組みになっています

ガシガシ真剣な表情で2つも作っていたんですね!

そして、高校生チームは、先生に質問するシステムを。

個別に質問する一方で、過去に同じ質問がされていないかも確認することができます。一覧が見られることで「こんなこと聞いてもいいかな」という懸念を払しょくして、安心して質問することが目的、とのこと。しっかり考えられてますね!

全チームがなんと60分弱の時間で、これらのシステムを完成させました!

椋田:本来は、講評をして優勝チームを選ぶ予定だったんですが、思った以上の成果に「みんながつくったものがすごすぎて選べないので、賞品を山分けしましょう!」となりました。

賞品はこれまでのサイボウズノベルティ山盛り。みんなのすごさに"ノベルティでごめんよ"という気もしてきたけど、みんな真剣に選んで好きなだけ持ち帰ってくれた。

本当に学んでほしいことは?

青野:まずは興味を持つことが大事なんだけど、今の子どもたちにはスマホやアプリが身近だから、ITに興味を持たない人のほうが少ないかもね。一番大事なのは「何をつくりたいか」。言語やプログラムはそのための単なるツールであり、スキルだから。スキルは学べばついてくる。でも、プログラミング教育でプログラマーを養成したいわけではないんだよね。

椋田:確かに。この大阪のワークショップでも、東京のワークショップでも「つくるもの」が決まってからは、子どもたちはサクサクとシステムを作っていきました。

ちなみに、先日発表されたプログラミング教育の方針を見てみると、「言語」というわけではなく、家電がプログラムによってどのように動いているのか、といった仕組みを学ばせる方針となっているようでした。

青野:人工知能が発達したら現在の職業が無くなるかもしれないとも言われているけど、それこそプログラマーの仕事は人工知能に置き換わって自動生成になるかもしれない。言語を知らなくてもシステムはつくれる時代になってITが生活に密着している今、何が必要な能力かということを考えると、まさに課題を発見する力、問題解決する力ということではないかと。

椋田:学ぶべきは、何をつくりたいかの「何を」を考える力、課題発見能力や着目点が大事ということですね。

ワークショップで、わが子のIT教育には一段厳しい表情を見せた青野社長(撮影:サイボウズ社員)

(撮影:北條 清文)

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サイボウズ式」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。

本記事は、2016年6月28日のサイボウズ式掲載記事「サイボウズの青野社長が考える「子どものIT教育」──必要なのは言語の習得ではなく「問題を考える力」」より転載しました。

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