サイボウズ式:「自分でやったほうが早い」でチームは滅ぶ

長期的な目線にたって考えると、「自分だけでなんでもやってしまう」のは必ずしも「早い」とは言えなくなります。それどころか、チームを破滅に導く大きな原因にもなりかねません。

【サイボウズ式編集部より】

この「ブロガーズ・コラム」は、著名ブロガーをサイボウズ外部から招いて、チームワークに関するコラムを執筆いただいています。今回は、脱社畜ブログの日野瑛太郎さんによる「仕事の任せ方、頼み方」について。

「人に何か仕事を頼む」という行為は、とても面倒くさいものです。

誰かに仕事を頼む以上、最低限どんな仕事をやってほしいのか説明をしなければなりません。「アレやっておいて」で済む相手であればいいですが、相手がまったくその仕事に通じていない場合は、説明だけでかなりの時間が取られてしまいます。仕事を依頼した後も、質問に答えたり、仕事の結果をチェックしたり、やることは意外と多くあります。

このような状況から、人に任せるのではなく「もう自分でやったほうが早い」と思ってしまうのはある意味では当然です。この考え方は、短期的には正しいと言えるでしょう。納期がピンチだという時に、悠長に自分でやったほうが早い仕事を他人に依頼している暇はないはずです。

しかし、長期的な目線にたって考えると、「自分だけでなんでもやってしまう」のは必ずしも「早い」とは言えなくなります。それどころか、チームを破滅に導く大きな原因にもなりかねません。

「この仕事はあの人にしかできない」が増えていく

チームのアウトプット向上を阻害する要因のひとつに、「仕事の属人化」があります。「この仕事はあの人にしかできない」と言ったような、ある仕事が特定の人物に強く依存してしまう状況のことです。

仕事の属人化の度合いが大きくなってしまうと問題が起こることは容易に想像がつくと思います。たとえば、ある業務の多くがAさんにばかり依存していたとします。そういう状況では、どんなにチームの人数が多くてもAさんが一人で仕事をする場合とそんなにアウトプットの速度に差は出ません。また、Aさん一人に大量の業務が集中するわけですから、Aさんにかかる負荷はとんでもなく高くなります。仮に突然Aさんがいなくなったとしたら、Aさんのやっていた業務は誰も引き継ぐことができず、そのままチームは崩壊してしまいます。

このように、仕事の属人化はチームの生産性向上のボトルネックとなり、かつチームを崩壊させる危険因子ともなりうるのです。

そして、「自分でやったほうが早い」という姿勢をつらぬくことは、この仕事の属人化を加速させることにつながります。自分でやったほうがたしかに早くてラクかもしれませんが、それを続けている限り自分と同じ仕事ができる人は増えません。「今ある目の前の仕事を終わらせる」という短期的な視点ではそれが最適かもしれませんが、「今後も同じような仕事を全部自分でやらなければならない」という長期的な視点では、実は損をしているのです。

他人に仕事を任せる過程で学べることもある

そもそも、「他人に仕事を任せられる」というのは、それだけ自分がその業務に通じているという証明でもあります。

仕事を「任せる」のは、ある意味では仕事を「やる」以上に能力が必要です。人に業務内容をわかりやすく説明したり、初心者の質問に答えるためには業務を深く理解していなければなりません。

鋭い質問を受けることで、今まで自分が気づいていなかった問題に気づくこともあるかもしれません。人に仕事を任せる過程で、学べることは多々あるのです。

これはちょうど、数学の問題の解き方を「他人に教える」ことが、自分一人で数学の問題を解くこと以上に勉強になることに似ていると僕は思っています。仕事でも勉強でも、教えることと学ぶことは対応しているのです。

丸投げするくらいなら任せないほうがいい

もっとも、「とりあえず任せればいい」という仕事の任せ方には賛成できません。雑で無責任な「丸投げ」をするぐらいだったら、まだ任せずに自分でやったほうがよいと僕は思います。

仕事の丸投げはした方もされた方も不幸になります。丸投げをされた側は、当然ですが混乱します。情報不足のせいで、おそろしく非効率な方法で業務に取り組んでしまうかもしれません。前任者の経験の蓄積が利用できないわけですから、結局また一から経験を蓄積していかなければなりません。これではあまりにも進歩がなく、チームとしての経験値は上がりません。

一方、丸投げした側も無傷ではいられません。いい加減な仕事の依頼をすると、結局は仕事がはじまってから大量の質問に答えなければならなくなります。質問に答える度に自分の仕事は中断され、集中力は消失します。仮に10分に1回話しかけられたら、もう仕事にはならないでしょう。質問者に怒りを感じるかもしれませんが、ここで質問者を責めるのはお門違いです。元々の原因は、いい加減な依頼をした自分の側にあるのですから。

上手な仕事の任せ方

上手に仕事を任せるには、以下の点に留意することが大切です。

第一に、任せる相手をよく選ぶことです。新人にいきなり高難易度の仕事を任せるのは感心しません。この手の「無茶振り」を「新人であっても大きな仕事が与えられる企業文化」だと誇ってしまう会社がありますが(ベンチャー企業に多いですね)、それはただの「居直り」です。適切な難易度の仕事を割り当てられないことを正当化してはいけません。基本的には、「今の仕事より背伸びする」ぐらいの難易度になるような相手に任せられるとよいでしょう。

第二に、「先人の知恵」をしっかりと伝達することです。ハマりやすいポイントがあるのであれば、先回りして仕事を任せる前に教えましょう。もし任せた相手が自分が昔ハマったポイントで同じようにハマっていたら、それは進歩がないということです。詳しいマニュアルがあれば理想的ですが、それをつくるのがつらいのであれば、FAQのようなものだけでもドキュメントを用意しておくとスムーズです。

第三に、少なくとも相手が一回目の仕事を終えるまでは、手厚くサポートすることです。定期的に相手の仕事の進捗をチェックし、質問にも快く答えましょう。間違っても、「質問しづらいなぁ」と思わせるような態度を取ってはいけません。

以上はあたりまえのことばかりですが、これが全然守られていない「丸投げ」をする人はよく見かけます。たとえ「丸投げ」であっても問題なく仕事をこなしてしまう人がいることは認めますが、そういう人ばかりに頼っていては結局「属人化」の問題からは抜け出せません。お互いが得をするような、上手な仕事の任せ方を身につけたいものです。

「自分でやらない」のは未来への投資

他人に初めての仕事を任せるのは、時間もかかって面倒なものですが、それでもチーム内に同じ仕事ができる人を増やすことは、チームの経験値を上げることにつながります。言わば、「自分でやらずに、他人に任せる」ということは、未来への投資だとも言えるのです。

プロジェクトが炎上中で身動きが取れないといったような緊急事態でないのであれば、積極的に仕事を他人に任せることをおすすめします。

日野瑛太郎さんより

普段は「脱社畜ブログ」というブログで、日本人の働き方の記事を書いています。このブロガーズ・コラムでは、チームワークという観点から働き方について新たな視点を提供できればと思っています。

(サイボウズ式 2014年8月12日の掲載記事「「自分でやったほうが早い」でチームは滅ぶ」より転載しました)

イラスト:マツナガエイコ