サイボウズ式:「LGBTの人、オッケーだよ!」──同性婚や事実婚にも「慶弔休暇」を付与

同性婚や事実婚を選んだ人にも、婚姻届けを出した人と同等に有給の「慶弔休暇」を付与します――。 そんな勤務規則改定をしたNPO法人に話をうかがった。

認定NPO法人フローレンス 経営企画室の明智カイトさん。明智さんは、カラフル連絡網(全国LGBT活動者の会)呼びかけ人、「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバーとしても活躍する。

同性婚や事実婚を選んだ人にも、婚姻届けを出した人と同等に有給の「慶弔休暇」を付与します――。

今年4月、「病時保育」や「障害児保育」などの事業を展開している認定NPO法人フローレンスが就業規則を改定しました。企業や学校など、社会で「いないこと」にされがちなLGBT※など多様な従業員が存在することを前提に規則を変えたのです。

今回の改定をLGBT当事者の立場から提案した"ロビイスト"の明智カイトさんと、実際に就業規則を改定した働き方革命事業部人事担当の井上真梨子さんに、お話を聞かせてもらいました。

※LGBTはL=レズビアン(女性同性愛者)、G=ゲイ(男性同性愛者)、B=バイセクシュアル(両性愛者)、T=トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)等の総称。

「LGBTの人、オッケー!」と言われた

大塚:今回フローレンスさんでは、同性婚や事実婚も法律婚と同じ扱いになったとのこと。ダイバーシティな対応ですね!

どんな経緯で就業規則が変わったのか気になります。 明智さんがフローレンスに入った経緯から聞かせてもらえますか?

明智:2年くらい前、駒崎代表に会ったときに「私はLGBTなんです」と言ったら、「フローレンスはそういう人オッケーだよ!」と言われて(笑)。

それまで私は民間の企業に勤めていたんですが、LGBTは「いない存在」という扱いだったので、カミングアウトはしていなかったんです。「フローレンスならカミングアウトして仕事ができる」と思い、転職しました。

大塚:トップが「LGBT歓迎」と公言している職場なら、気持ちよく働けそうですよね。

明智:ええ、そう思って。でも入ってみたら、意外とみんな、LGBTのことをわかっていなかったんですね......。

LGBTを理解する研修を実施

大塚:たとえば、どんなところですか?

明智:「明智さんは、男子トイレと女子トイレ、どっちを使うの?」とか聞かれたんです。これはどうやら「トランスジェンダー」と間違われているな、と。自分はゲイなんで「いや自分、男子トイレです」って答えたんですけど(笑)。

大塚:ああ、そこは誤解が多いですよね。 ゲイやレズビアンは「同性を好きになる人」、トランスジェンダーは「身体の性と心の性(性自認)が一致しない人」なので、じつは全然違うんですが、よく混同されています。

明智:もちろん親切で聞いてくれたのでありがたいんですが、でも「LGBT歓迎」というのなら、そこはみんなもう少しわかっておいてほしかった(笑)。

それですぐ人事に 、「従業員向けにLGBTに関する研修をしてみたらどうですか?」と提案したんです。

大塚:いいですね。みんなだって、正しい情報を身につけたいと思っているでしょうから。

明智:去年の9月、「虹色ダイバーシティ」というNPOから講師を招いて、研修をしてもらいました。

それまでは漠然と「LGBTってなんだ?」みたいなイメージだった人たちも、この研修でちゃんとした知識を得て、LGBTを理解できたと思います。

認定NPO法人フローレンス 働き方革命事業部 人事担当の井上真梨子さん。

井上:ちなみにこのとき、「ハラスメントに関するガイドライン」も改正しました。性別や宗教、思想と同様に「性的指向」を理由に嫌がらせしたりするのもダメですよ、という文言に変えたんです。

「男・女」の2択では答えづらい人もいる

明智:私が次に変えたいと思ったのは制度やシステムに関する部分です。

ひとつは、採用時に使う履歴書のフォーマットでした。転職した際、フローレンスのホームページから採用申込をしたんですが、ダウンロードした履歴書の性別の欄に「男・女」の選択肢しかなかったんですよ。

大塚:えっと、それは何かマズイんですか?

明智:「男・女」の2択だと、トランスジェンダーの人は「戸籍の性」で答えるべきか、「自認の性」で答えるべきか迷ってしまいます。また、男女どちらとも言いがたい性自認の人もいるので、答えづらいことがあるんです。

そこで「その他」という選択肢を追加すると同時に、「自認の性をお書きください」という但し書きを添えてもらいました。

認定NPO法人フローレンスの履歴書では「男・女」の他に「その他」が選べ、自認の性が記載できる。

大塚:なるほど、本人がどう思っているかで答えられるようにしたわけですね。これならみんな回答しやすそうです。

そういえばFacebookも去年、性別の選択肢が「Female(女性)」「Male(男性)」だけでなくなりましたね。「Custom(カスタム)」を選べば、詳細を表示できるんです(表示言語を英語に設定した場合のみ)。

日本でも今後、そういったフォーマットが浸透していくとよいですね。

家族の形も、多様な形が認められていい

明智:もうひとつ変えたいと思っていたのが、就業規則です。慶弔休暇の規定が、異性カップルだけを前提としたものだったので、同性のカップルにも対応するよう、人事に要望しました。

大塚:何かきっかけがあったんですか?

明智:今年1月にフローレンス事務局長と対談した際に、LGBTなどのダイバーシティ対応について、まだ認識のズレがあるなとお互い気付いたんです。

対談後、事務局長のほうから「当事者じゃないとわからないことがあるから、要望をまとめて提案書を出してほしい」と言われたのがきっかけでした。

大塚:同性カップルだけでなく異性カップルの事実婚も対象に含まれましたよね。この点も、すごくいいと思いました。 同性婚と事実婚を同時に扱うことで、「多様な形を認める」という改正の意図が見えやすくなると思います。

事実婚についても、明智さんが要望を出したんですか?

井上:いえ、事実婚のスタッフは、以前からフローレンスにいたんです。

2、3年前、「事実婚を選んだんですが、"結婚"として扱ってもらえますか?」と人事に問い合わせがありました。調べたところ、事実婚のカップルも手続きをとれば社会保険等について婚姻届を出した夫婦と同様に扱われることがわかったので、「じゃぁ、いいですよ」ということで、結婚休暇やお祝い金を出したという経緯があります。

大塚:

事実婚って、日本の制度上では意外と認められているんですよね。法律婚と違うのは、相続ができないことと税制上の優遇がないことくらいで。 配偶者手当や慶弔休暇などの扱いは、会社によってまちまちですけれど、フローレンスさんではすでに同等に扱っていたわけですね。

井上:はい、でもそのときは、就業規則は直していなかったんです。今回、明智から同性婚対応の提案があったので、一緒に直しておこうと思いました。

「多様な家族の形」は、今後も幅広く対応していく考えです。

本人が申告したら、それで認めますよ

大塚:事実婚の場合、「住民票における世帯をまとめること」※を「結婚」として扱うための要件にするケースもありますが、フローレンスさんではどうされていますか?

※カップルの住民票の世帯をひとつにまとめて、どちらかの続柄を「妻(未届け)」「夫(未届け)」と記載する。

井上:以前事実婚のスタッフから問い合わせを受けた際は、住民票を要件にしたんですが、同性カップルの場合はそういった公的な証明書がないんですよね。だから「本人の申告のみ」でOKにしました。

同性カップルでも事実婚でも、証明書はとくに求めず、本人が「結婚したと認めてほしい」というのであれば、それで認めますよ、ということにしたんです。

大塚:いいですね。「証明書がないと悪用されるかも」なんていう心配をする人もいますけれど、そんな嘘をついてまで結婚休暇をもらう人なんて、そうそういないだろ、と思います。

喜びや歓迎の声がたくさん寄せられた

大塚:就業規則改正について、周囲の反応はいかがでしたか?

明智:とても好評です。テレビやWeb媒体など、メディアにもたくさん取り上げられましたし、問い合わせも多いです。LGBTを含め、多様な形の家族のあり方について、みんなの関心が高まっているんじゃないでしょうか。

井上:社内でも「身近にLGBTの人がいるので、自分のことのようにうれしかったです」という声が寄せられました。

大塚:わたしもLGBTや事実婚の友人が多いので、この話を聞いたときは喜びました。

次回は、明智さんの本職 である"ロビイング"活動について、詳しくお聞かせください。

次回に続く

文:大塚玲子 撮影:内田明人 編集:渡辺清美

(サイボウズ式2015年7月6日の掲載記事「「LGBTの人、オッケーだよ!」──同性婚や事実婚にも「慶弔休暇」を付与」より転載しました)