サイボウズ式:人事評価は適当でいい?──ココナラ南CEO×サイボウズ山田副社長 人事制度対談

「創業期における人事制度はどう組み立てればよいのか?」「ビジョンに基づいた強いチームを作るには?」。創業3年目のベンチャー企業ならではの悩みは、「信頼」という評価軸で解決できるか? ベンチャー時代からサイボウズで人事責任者を務めてきた山田理副社長との対談を通じて、その答えを探ります。

たった500円、ワンコインで占いから似顔絵まであらゆる"コト"を個人間で売り買いできる――そんなネットサービス「ココナラ」を立ち上げたのは、株式会社ココナラCEOの南章行さん。そんな南さんの今の悩みは、会社を成長軌道に載せるための人事制度でした。

その打開策を見つけたのは自社で開催したイベント「coconala未来会議~ビジネスクラウドの未来~」でのこと。パネラーとして登壇したサイボウズ式編集長の大槻が「サイボウズで人事評価で大切にしていることは?」という会場からの質問に対して答えた「信頼」ということば。「ここにヒントがある」と南さんは感じたそうです。

「創業期における人事制度はどう組み立てればよいのか?」「ビジョンに基づいた強いチームを作るには?」。創業3年目のベンチャー企業ならではの悩みは、「信頼」という評価軸で解決できるか? ベンチャー時代からサイボウズで人事責任者を務めてきた山田理副社長との対談を通じて、その答えを探ります。

人事評価は結局"適当"?

南:ココナラは創業して2年となり、社員は11人になりました。ベンチャーでいろんなタイプの人がいまして、職種の幅も広く、チームというものがなかなかできにくい状況です。エンジニア以外は、一人一人が幅広く業務をしています。仕事のレベル感もバラバラで年齢層も幅広く、経験も少ないんですね。

ココナラのトップページ。

占いからデザイン、マーケティング、SEO対策まで、あらゆる"コト"が個人間で売買されている。

山田:それはたいへんですね。

南:その中でみんなが楽しく成長できて、結果として会社も成長する文化を作りたいんです。ただそれはなかなか難しくて、小さなベンチャーできっちりとした人事制度を作るわけにもいきません。成果主義や能力主義などの軸が必要とは思っているのですが。

山田:サイボウズでは、「信頼」を軸にした人事の仕組みがあるとお聞きしました。その点からヒントをもらえればと思って今日は伺いました。

サイボウズの人事制度も最初は成果主義から入って、目標管理もやりました。分かったことは「人の評価って定量化しようとすればするほど、ドツボにはまっていく」ということです。例えば「あなたは95点」と評価すると「なんで96点じゃないの?」と返されます。人の評価なんてある意味いい加減ですし、理屈は付けられても確証はありません。

教科書的な人事の考え方では無理矢理、こういう評価を定量化しようとするんです。でも実際に評価する時には、定量化のための評価を自分たちで考えないといけない。最終的にどう決めているのかというと、私は適当に決めていると思うんですよ。

南章行(みなみ あきゆき) 知識・スキルのワンコインマーケット「ココナラ」を運営する株式会社ココナラCEO。 99年に住友銀行入行、04年に企業買収ファンド最大手のアドバンテッジパートナーズに参加。その間、英国オックスフォード大学MBAを修了し、帰国後にはNPO法人ブラストビート、NPO法人二枚目の名刺の立ちあげにも参加。震災をきっかけにアドバンテッジパートナーズを退社し、ココナラを創業、今に至る。

人の評価は定量化できない?――「信頼」という新たな評価基準

山田:缶コーヒーを売る時、「100円だといらない」という人に「じゃあ80円で」と売ることもありますよね。「なぜ100円で買ってくれないの?」と聞いても、お客さんは定量的には答えられません。「あんまり飲みたくないから」とか、適当な理由をつけると思うんです。

これは「売る人と買う人によってモノの評価が変わる」ということです。世の中の仕組みは案外「適当」に成り立っているかもしれない。それなのに、人事評価のみ極端に定量化しようとしてしまうんですよね。

私はずっと人事をやってきて、「定量的に人を評価するのは無理だ」と思ったんですよね。じゃあ、最後に行き着く軸は何かと考えた時に、「信頼」っていう言葉が出てきました

山田 理(やまだ おさむ)サイボウズ株式会社取締役副社長 兼 米国事業支援部長 1992年大阪外国語大学卒業後、日本興業銀行に入行。2000年にサイボウズへ入社し、財務や人事の最高責任者を担当。

南:なるほど。

山田:信頼をベースにすると、コミュニケーションコストが掛からなくなるんです。その人に信頼があればものすごく頼りたくなるし、何も言わなくても役割分担ができる。結果として、チームをマネジメントをする上では信頼が効率性を産むんですよね。

給与は市場価値(社外的価値×社内的価値)で決まる

南:なるほど。ただ、信頼という定性的な軸を給与に反映させていくのはとても難しそうに感じます。

山田:信頼度がそのまま給与につながるわけではありません。評価っていうのは「給与のための評価」と「成長を認める評価」の2種類あると思っています。これに気付かずに2つを一緒くたにし、同じ言葉で全部表現しようとするから、ものすごくややこしくなるんです。ここに気づけたのが大きかった。

今、サイボウズでは給与自体は市場価値という指標で決めています。我々の言う市場価値というのは社外的価値×社内的価値で、「信頼」は社内的価値の中の1つです。給与自体は、社内的価値だけでは決められないという思いがあります。転職を経験すると本当にそうだと分かると思いますが、例えばソフトウェアの営業、金融の営業、総務・経理など、職種や年齢によって社外的価値が違います。給与は社内の人事制度だけで決めることは難しいんですよね。

南:社外の評価と社内の評価は必ずしも同じではありませんからね。

「社外的価値」と「社内的価値」はそれぞれどのようなイメージでしょうか。

山田:社外的価値というのは、一般的な市場価値です。 給与のレンジはここで決まります。このフィードバックは部署任せにせず、人事でやっています。市場価値を知っているのは人事だからです。

市場価値ってだいたいレンジがありますよね。それを認識している転職経験者には、「今自分の年収がなぜ500万円か」を説明する必要すらないんですよね。

400万円〜600万円の市場価値の人には、このレンジの上下のどこにいるのかを会社側で評価する。「がんばっている」という評価なら真ん中あたり、「この人に抜けて欲しくない」となれば上限に近づける。これが本人に選択の余地を与えます。レンジの下限に近づいているのは「転職した方が、実はお金をもらえるかもしれないよ」というメッセージになるんです。

南:確かにそのほうがわかりやすいし、納得できますよね。

山田:そうなんですよ。市場で社外的価値を査定をしたあとは、社内的価値を測ります。今度は人事部ではなく各部署で評価します。

社内的価値は先ほどいった「信頼」がベースとなり、その他に「社内需給」、他の社員との「相対感」をふまえて決めています。おおまかに言うと自分が社内からどれだけ信頼・評価されているのかという点です。ここがかなり定性的になってきます。

特に信頼度の評価が重要で、サイボウズの行動指針である「Action5+1」と照らしあわせています。そこで彼らがどれだけ行動指針にもとづいて動き、成長できているのかを測っています。

サイボウズにおける給与評価のしくみ

一般的な市場評価である「社外的価値」と信頼、社内需給、相対感を合わせた社内的価値で給与を決定する。

お金と信頼度を切り離すことで人事評価が機能する

南:そこで信頼が出てくるんですね。それはどういう尺度で測定しているのでしょうか?

山田:信頼=覚悟×スキル」と考え、この2つに分解して考えるようにしています。

覚悟は、チームから与えられたミッションや「やるべきこと」で、かつ自分ができることをすることです。「気合いと根性を入れろ、覚悟を見せろ!」の姿勢で、できないことに必死になるのではなく、単にやれと言われたことをやる。これをチームに対する覚悟と呼んでいます。

「やれることをやるか、やらないか」という個人の選択ですし、全員生まれもって覚悟っていうものはニュートラルにありますから。

南:「覚悟が全員に平等に備わっている」という考え方はおもしろいですね。

山田:スキルは個人の技能や知識で、自分自身の努力でレベルを上げていけるものをこう呼んでいます。頭が良い人もいたら、おもしろい人、体が強い人もいる。これは生まれ持っての差はありますが、訓練でどんどんレベルを上げていけます。これがスキルです。

覚悟とスキルの両方を掛け合わせたものが信頼になります。覚悟がゼロでスキルが100でも信頼はゼロ、逆もしかりです。両方のレベルを高めることが、信頼度増にもつながる。覚悟が高くてスキルが低い人もいれば逆もいますし、人によってバランスがあります。大事なことは、かけ合わせた信頼がどれだけ高いかだと思います。

サイボウズの行動指針であるAction5+1

5つの行動(考える・知る・伝える・続ける・する)と公明正大を合わせた6つの基準で社員を評価

南:なるほど。わかりやすいですね。

フィードバックと同時に課題も与えます。そうすると社員自身が「自分は頑張れば、この会社の中で信頼度は上がるんだな」と考えてくれるようになると思います。

山田:それでも私自身、この社内の信頼度評価ってかなりアバウトだと思っています。でもこの適度な適当さがちょうどいい。お金と信頼度を切り離すことで人事評価が機能する。そう思って1年半くらいチャレンジしています。

南:まだまだ実験的なんですね。

山田:ですね。こんな経緯で「信頼」を評価軸にした人事制度の設計にチャレンジ中です

南:すごく面白いですね。価値観やとらえ方は、僕もかなり近いところがありました。

後編はこちら(サイボウズ式)

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