インターンシップ先は共働き子育て家庭!──罪悪感のない育児支援が"働き方"を変える

仕事と育児の両立を不安に思う学生は少なくない。また週のうち数時間でも育児サポートがあると助かるという共働き家庭がある。両者を結び付け、学生が共働き家庭で子どもを預かる経験をしながら、キャリアと育児の両立を学ぶという事業を立ち上げたスリール株式会社の堀江敦子氏が、イクメン社長のサイボウズ株式会社の青野慶久と事業経営について語りあった。

仕事と育児の両立を不安に思う学生は少なくない。また週のうち数時間でも育児サポートがあると助かるという共働き家庭がある。両者を結び付け、学生が共働き家庭で子どもを預かる経験をしながら、キャリアと育児の両立を学ぶという事業を立ち上げたスリール株式会社の堀江敦子氏が、イクメン社長のサイボウズ株式会社の青野慶久と事業経営について語りあった。

■罪悪感のない子育てサポート

青野 スリールさんはユニークな事業をしていますね。

堀江 「子どもを見てほしい家庭」と「仕事と子育てのリアルを知りたい学生」を繋ぐ「ワーク&ライフ・インターン」プログラムで、子育て支援とキャリア教育をしています。ママさんからのニーズは高く待っていただている状況です。ベビーシッターのアルバイトということで学生に報酬を払って「はい、じゃあ行って」とすればたくさんできるのかもしれませんが、そうはしていません。根本的にやりたいのは学生のキャリア教育です。

青野 なぜ学生向けにしようと思ったのですか?

堀江 自分の生き方を考えた上で行動していく若者を増やしたいと前職時代に感じたからです。

前の会社にもワーキングマザーがいたので「子育てしやすいですか?」と聞きましたが「まぁ、5時には帰っているけれどそうとはいえない」というのです。「当事者からの発信だけでは周囲の理解はなかなか進まない。これからの人たちが自分事化して社内や社会を変えないと、これからも女性が働きながら子育てをするのは難しく、日本が倒れる状況になるのでは?」と危機感を感じ起業しました。

青野 志が高いですね。

堀江 事業のメインはキャリア教育です。家庭に入る前の事前研修も含めると学生にとっては5ヶ月間のプログラムです。4ヶ月間、月に6回、週にすると1~2回、各2~3時間、託児をご希望の家庭に学生がインターンシップに入ります。

ただ家でお子さんをお預かりするだけではなく学生が季節のイベントを家庭に提案したり、動物園や博物館に出かけたりもします。

子供もいろいろな大人に見守られて成長します。学生は子育てを体験することで、大変なことは分かち合い、楽しい事は倍増できると知ります。

やりくりの仕方や、両親が働いていることを子どもが誇りに思っていることを知り「自分もできるかもしれない」と一般職志望から営業職や総合職志望に変わる学生もいます。

青野 やっぱり女性の意識改革は大事ですよね。

堀江 一般職や専業主婦志望の学生も、裏には「仕事も子育ても大変そうだから両立は無理」とか「働いたら子どもが可哀相ではないか」と漠然としたマイナスイメージを持っています。「私が仕事をあきらめればいいのかな」と消極的な選択をしているだけで本当は働きたいのです。

青野 その辺りは難しいですね。自分自身もそうですけど、「子育ても大事、仕事も大事」と両方を一生懸命やるとだんだん余裕がなくなってきます。バランスが難しい。

堀江 すごく大事なのが罪悪感のない子育てサポートです。スリールの受け入れ家庭は、週に1回くらいは残業したり勉強会に行ったりと「仕事でのステップアップをしたい」という時にスリールを受け入れて下さいます。

■ キャリアについてライフの視点から学ぶ

青野 週1回とはバランスがいいですね。ちょうど僕は去年、半年間、毎週水曜日に休むという育休をとっていたのです。これがけっこう良かったです。

堀江 週に1回は子どもにとっても良いです。毎週、同じ人が来てくれることですごく愛着が湧くようになってきます。

通常は、ベビーシッターをどうしても無理なときにお願いする方が多いのです。でも、どうしても無理という所だけでは、マイナスがゼロになるだけで余裕なんて生まれません。それを月6回にすることによってスキルアップや転職・独立をする方もいます。「子どもが喜んでいる時間だから私も未来の投資に使おう」と変わっていくのです。

青野 面白いですね。良くできた仕組みだなと思います。

堀江 家庭には2人ペアで行きます。さらに2家庭の学生4人を1つのチームとし4ヵ月間でテーマを絞って共同で課題を研究します。例えば病児保育や、保育園の選び方などです。妊活講座などキャリアについてライフの視点から真剣に考える講座も持ち、インターンシップが終わるときには学生がプレゼンテーションをします。

■ 働き方・生き方を変えていく

青野 スリールという会社を長期的にはどうされるのですか?

堀江 「ワーク&ライフ・インターン」プログラムというものを企業や地域に波及させていくことを考えています。

5年後10年後には様々な地域にスリールのような組織を増やしたいです。地域にマッチングコーディネイターがいて学生と手を結んでいくイメージです。コミュニティは人数が多いと関係性が生まれにくいので、一つのものを大きく広げるよりは小さいコミュニティを数多く作っていきたいです。

青野 すごいな。これが若い人の新しい価値観。社会貢献への意識が本当に強い。この価値観に僕らおじさんはついていけてない。

堀江 今後プログラムをシステム化していきたいです。今は職人技ですが誰もができるような形にし、のれん分けしていこうと思っています。その中でITのシステムは、すごく大事だなと思っています。今も「サイボウズLive」をすごく使っています。

一番大事なのは、学生が何を求めて何を目指しているのか、日々の悩みを家庭の方やメンターさんなど周りの人がちゃんと見られるホウレンソウの仕組みです。

これは会社の人事制度にも大きく関わると思います。どんな風になっていきたいかとそれに対して今のモチベーションはどうかを知ることがコミュニケーションで重要です。

自分がどうなっていきたいのかをライフも含めて共有することで、その人が本当にやるべきことが会社の中で見つかりモチベーションに繋がっていくと思います。働き方とか生き方を変えていくのが一番やっていきたいことです。サイボウズみたいな会社が本当に増えればいいなと思います。

■ワーキングマザーは一日にして成らず

青野 いやぁ、サイボウズも中途半端です。

堀江 本当ですか? どこが中途半端だと思われますか?

青野 例えば男性の育休も僕は取っていますが、サイボウズに定着しているかというとまだまだですよね。女性管理職比率も全然たいしたことないです。もっと強引にアクセルを踏んで「男性も子供が生まれたら育休を取れ」みたいな強制型にしていく手もありますが、僕はあんまり得意ではないので、見守っている感じです。

堀江 自分でやりたいと思わないと意味がないですよね。

青野 そうなのです。ただ、やってみて気づく事も多いというのはあります。僕ができていないことの1つですよね。

僕は何回か役員が集まる場で「なんでサイボウズは女性の管理職が少ないのか」と話してはいます。女性にそれを強制させていくことも本当にいいのかどうか、ちょっとわかりません。本当に大事なのは一人ひとりにキャリアを考えてもらうことと、管理職になった時にどんな自分になれるのかを見せてあげることでしょうか。

堀江 管理職というと、仕事で頑張って家庭を犠牲にするというイメージがあまりにもつきすぎてしまっているので「なりたい」といった瞬間に「子供はあきらめました」とか「子供に悲しい思いをさせます」みたいな思い込みもありますよね。

青野 いろいろな選択肢があることも見せてあげたいですね。

堀江 自分らしいやり方を見つけてほしいですね。バリバリ働く人達の家庭を見ると学生は安心する面もあるようです。仕事はバッチリでもお家の中はぐちゃぐちゃであることや、髪の毛を振り乱しながらやっていることも見せてもらえます。キャリア女性の講演や本では白鳥の上の部分のようなバッチリな姿しか見えませんが、大事なのは水面下のもがいている所です。

パパママカフェで、学生時代から今に至るまでの話を聞く会もあるのですが、そこでも赤裸々に語ってくれています。「ワーキングマザーは一日にして成らず」です。ダメな所も見ることで「それでいいんだ」と思えるようになります。

青野 頑張り過ぎるママに見せたい。傍から見ると痛々しくて、「完璧を目指さなくてもいいんじゃない?」と思うことがあります。

堀江 そう。皆さん家庭も仕事も完璧を目指してしまっています。でも「助けて」ということがどれだけ学生達の学びになっているのかを伝えたいです。皆さんが抱え込むことによって、これからの人たちが学べなくなってしまっています。そのことでまた次の世代が生まれてこないということになります。

青野 すごい。面白い。広げましょうよ。

■いい会社とは?

堀江 自分で覚悟を持って決めて実践していく力を養うのが一番大事だと思います。サイボウズと思いが共通しているなと思います。サイボウズの社員の皆さんに「サイボウズっていい会社ですよね」というと皆さんが、はにかんだ顔で「そうなんです」というのです。

青野 本当に?

堀江 サイボウズの社員は働く時間をご自身で決めていらっしゃる。自分で決めるからこそ納得して仕事ができるという状態はベストだなと思います。

青野 こういった制度に対して「儲かっている会社は違うよね」と言われますが逆です。選択しモチベーション高く主体的に働けるので業績的にも良いと思うのです。選択できる制度にしたから儲かったというストーリーを見せられるのがいいです。

堀江 サイボウズの会社の仕組みは、グループウェアが支えているわけですよね?

青野 そうです。

堀江 グループウェアの使い方は皆さんそれぞれです。サイボウズで使い方も提案しそれを導入した会社が、どんどん売上をあげていく状態になったらいいのではないでしょうか。

青野 おっしゃるとおりですね。

堀江 自分らしく働き方を選択することに「本当にそれがいいの?」と懐疑的に思っている会社も多いとは思います。どういう風に伝えれば本当にいいものだと思ってもらえるでしょうか?

自分らしい働き方をすれば業績が上がるところを見せつけていきたいなと思います。でも業績で語るのもダサいとも思います。

青野 「メガネ21」という眼鏡店の会社(株式会社21)を知っています? 利益を社員に全部還元するのです。会社として内部留保が無いので、新しいお店を出す時は、社員の懐から融資してもらうそうです。社員に絶大な信頼をおいてないとできないですよね。どっちがいい会社かといわれれば、それは「メガネ21」でしょう。

堀江 えー、面白い! 社員の満足度は高いのでしょうね。

青野 非常に高いですよ。社員がニコニコと働いています。いい会社の基準は、単純に売上や利益ではないですね。

■ 自分の中のいろんな声

堀江 チーム力を高めていくことがサイボウズのミッションだと思いますが、今後サイボウズをどうしていきたいですか?

青野 自分の中でもいろんな欲があります。公に話しているのは、良いソフトを作り世界中で使って欲しいという僕のエゴです。何がエゴかというと、他にグループウェアを作っている人にも勝ちたいという点です。他よりも皆が喜ぶようなグループウェアを作って広めたいと思います。

自分の中にCEO(最高経営責任者)とCOO(最高執行責任者)とCHO(最高人事責任者)とCFO(最高財務責任者)がいます。僕の中のCEOは、世界中にチームワークあふれる社会を作りたいと思っています。もっとチームワークが増えると、皆が楽しいぞというビジョンがあるのです。COOはいや俺達、世界一のグループウェア会社にするのだと。CHOは、いやまずこの会社の従業員や関わる人達が幸せじゃないといけないよね。で、CFOはまずはちゃんと事業基盤を作って、お金が回っていくことが大事だと。自分の中でバランスをとっています。

堀江 どんな風に均衡点を探していくのですか?

青野 自問自答をずっとしています。答えが見つかったとはとてもいえないですね。状況が変わるのでね。いくつか自分の中でキーワードがあります。

堀江 教えてください。

青野 すごくシンプルですが、有名な経営学者であるドラッカーの「あなたは何によって覚えられたいですか?」という問いです。僕なりに言い換えると「死ぬ時にどういう状態だったら、あー、良かったと思って死ねるか」ということです。あと「世界中に自分達のグループウェアを広めるには何が欠けているのか。何をすべきなのか」と考えています。

今日は、「こういう若い人を支援しなきゃ駄目だろう」とCEO的なところが強くなりました。僕は皆さんが活躍できるように、若い人の邪魔をするおっさんを黙らせるのが役割かなと思っています。皆でいい社会を作れればいいですね。

写真撮影:橋本 直己

(※この記事は2013年12月17日のサイボウズ式「インターンシップ先は共働き子育て家庭! ──罪悪感のない育児支援が"働き方"を変える」から転載しました)

注目記事