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サイボウズ式:「稼がなければならない」プレッシャーが男を生きづらくする!?──ジェーン・スー×田中俊之、"男にかかる圧"を掘り下げる

2014年08月06日 15時09分 JST | 更新 2014年10月05日 18時12分 JST

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作詞家にしてコラムニスト、ラジオ人気パーソナリティのジェーン・スーさんと、「男性学」を研究する田中俊之先生(武蔵大学社会学部助教)の対談・第2弾(もっと続きます)。

前回に続いて今回は男性が感じている「稼がなければ」というプレッシャーを掘り下げつつ、気持ちよく生きるための結婚と仕事をめぐる男女のマインドセット(思い込みに基づいた価値観)変更の必要性について語ります。

女性と男性ではお仕事ゲームの目的が違った!

ジェーン:田中先生は、男性だから抱えてしまう問題があるとおっしゃっていましたが、20代以降の男性が抱えている問題とは、具体的にはなんですか?

田中:やっぱり「稼がなきゃいけない」というプレッシャーですよね。 いま、現実には労働環境が悪くなり、定年も延びていくなかで、ぼくが教えている学生も、「働き続けていけるんだろうか?」という不安を抱えながら、一方で、「働き続けなければならないんだ」と固い決意を持っている。そういう種類のプレッシャーを男子大学生から感じます。

ジェーン:そうですね。それに気付いたのが、わたし30歳くらいのときだったかな。遅かったです。

それまで会社で、男の上司だの、仕事しないやつだのに、ずーっと怒っていたんですよ。でもあるとき、「あっ! 同じゲームのフィールドにいるんだけど、あっちのゲーマー(男)と、こっちのゲーマー(女)と、働く目的がぜんっぜん違う!」と気がつきました。

田中:どんなふうに違うと思ったんですか?

ジェーン:「一度働き始めたら、死ぬまで働かなきゃいけない」というプレッシャーをもっている人たちにとって、このお仕事ゲームにおける"一番の目的"は、「ゲームの場に居続けること」なんですね。

「あ、そっか、だから男の人たちは刺し違えたりしないんだ!」って。この命(ライフ)が消えないことが最大の目的だから、村をつくるし、「あいつが悪い!」という上司でも、刺さないんですね。私はそこに気付かずに男の人を責めてばかりいたから、「22歳からやり直しさせてくれぇ!」と思って(笑)

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田中:あー、そういうことですよね。

ジェーン:こっち(女性)は、経営に関わるような人工(にんく)としてたいして期待されていないという皮肉な現実もあって、「こんな会社、いつでもやめてやるよ!」みたいな啖呵が切りやすい。上司の部屋に「バーン!(ドア開け音) すいませーん!」と入っていって、「なんなんっすか、これっ!」とやるわけじゃないですか(笑)。

田中:はいはい。

ジェーン:上司はそれを面白がって、「最近は女のほうが元気だよな~」なんて言っているけど、どーせおまえら、あたしたちを管理職にする気ないんだろうと(笑)。「じゃ、特攻隊(使い捨て)なので、やめますっ」と言って、すぱっとやめる。というのが、女は許されてきた。

一方、男の人たちは、「座り込み」が大前提ですよね。わたしたち(ジェーン・スーさんは73年生まれ、田中先生は75年生まれのアラフォー世代)のちょっと上の世代では、結婚退社前提で働いている女性社員が「腰掛け」なんて呼ばれていましたけれど、男の人たちは、座り込まなきゃいけないんだな~と思って。

田中:そうですね。同じ場所に長く座るという覚悟が求められているんだと思います。

「男性ひとりが稼ぎ手」ではムリ!

ジェーンさん:あとはたとえば、これあくまでもわたしの場合ですけど、仕事をするということにある程度自信があるので、もしいまの仕事がいやになったら全部やめて、コンビニのバイトでもやっていけると思っているんですね。

田中:おー。

ジェーン:時給がいくらで、月10何万入るとして、そしたら4万ぐらいの家賃のとこに住んで。たぶんわたしだったら、「店長、これ棚替えましょう」とか「動線変えましょう」とか、隣のコンビニよりどう売り上げを上げるか、みたいなことをやるだろうなと。で、それが楽しくなって、なんとかするだろうなという自負はあるんですよ。

田中:うん、なんとかするでしょうね。

ジェーン:ただ、もしこれが、「いい? 一回働き始めたら、絶対一生働かなくちゃいけなくて、基本的には、給料下がったらだめだよ」という、無言の契約的なものがあったとしたら、違うと思うんですよ。

田中:あー、男だったらこうはいかないだろうな、と。

ジェーン:そう。わたし30ちょいぐらいのときに、完全な異業種に転職をして、収入がほぼ半分くらいまで減ったんです。でもべつに、負け感みたいなのはなくて。それはやっぱり、女だからというのは多少あったんだろうなーと思いますね。

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田中:男だと、単なる負け感だけじゃないですからね。30代の既婚男性が転職するとなったら、家のローンとか子どもの教育費とか、「家族の生活を維持していかなければいけない」というプレッシャーがかかってきちゃうから。だから、ぼくの世代の男性人の転職活動は、プレッシャー大きいですよね。

ジェーン:しかもいま、突然首を切られるじゃないですか。そういうのは、外資の金融だけでなく、じわじわと、ふつうの会社にも来ているなーと感じるので、「どうすんだろう?」と思います...。

田中:もう「男性ひとりが稼ぎ手」では、ムリだと思いますよね。世帯の収入が一本しかないことを、かなり危険だと感じたほうがいい。せっかく家庭を営んでいるんでしたら、収入源がいくつかあったほうが、なにかあったときも安心ですよ。

過労死なんかも、たとえば顔色が悪くなったり、「疲れた」しか言わないとか、朝起きてこないとか、いろいろ前兆があるそうなんですね。お母さんがこれに気付いたとき、もし自分にもある程度の定収入があれば、「お父さん、しばらくは失業保険もらって、いったん落ち着こう」と言えますけど、収入がゼロの場合、ちょっと難しいと思うので。

20代は「男-女=30万人超え」

田中:もうひとつ男側が抱える問題として、そもそも男はいま、余っているんですよ。20代全体で「男-女=30万人超え」なんです。

ジェーン:んんん、そんななんだ!!

田中:だから、結婚できない理由に収入の話もありますけど、その前に、数の問題もあるんですよねー。

ジェーン:男の人が余っているぶん女のほうが有利かというと、そうでもないんですよね。「こういう人と結婚したら親世代が喜ぶ」という勝ち組男性は、どんどん少なくなっていくわけだから。

なぜ見栄をはってしまうのか?

ジェーンさん:男性が受けているいろんなプレッシャーを、女の人ももっと知っておいたほうがいいと思うんですけれど、男性がまた、しゃべってくれないんですよね~。なんでですか?

田中:そうですねー、まず男性は「合理的にものを考えなさい」と育てられているからというのが考えられます。男性の場合、相談しても問題は解決しないと合理的に考えてしまう傾向があります。

あとは、見栄の問題もあります。感情を開くのが苦手な人も多いし、弱みを見せられないで、抱え込んじゃうんですね。

ジェーン:あーー。

田中:でも、たとえば「いやな上司がいる」とか「仕事が大変」とかって、人に聞いてもらうだけですっきりする部分があるわけじゃないですか。だから、「見栄を張る」のをやめられるといいですよね。

ジェーン:女の側も、そういう構造をもうちょっと理解してもいいかなーと思うんですよ。男が「見栄を張らざるをえない性として、社会で育てられてきたんだ」ということを。

なぜなら、それで一番助かるのはこっち(女)だから。「あ~、そっかそっか。あの人たち、こういうときは、ここまでしか肘が曲がんないんだ(そういう仕様なんだ)」と分かれば、手を差し出すこともできますからね。

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田中:そうですね。あとは例えば、女性は「協調」するように育てられてきますけど、男性は「競争」するように育てられてきますからね。そういう違いもあります。

ジェーン:そうそう。「男の子なんだから、泣いちゃだめ」とずーっと言われてきた人たちの抱えているものを、わたしたちは、知らなすぎたと思うんですよ。だれも教えてくれなかったというのはありますね。

田中:あと、男は「大きいことを言わされる」というのもあるんです。例えば、小さいときに「会社員や公務員になりたい」なんて夢、語らせてもらえないわけですよ。小学生の夢だったら、基本的に「スポーツ選手」とか「宇宙飛行士」とか「総理大臣」とか、そういうものを言わされる。

ジェーン:でかいものを求められますよね。お花屋さんになりたいと思っていても言えないかも。

田中:そうです。しかも、親は本音ではべつのことを思っていたりするんです。小学生の親に、将来子どもがなってほしい職業をアンケートしたら「公務員」が一番だったんですよ(笑)。だから、親が本音で思っていることと、子どもに言わせてることも、違う。

最近思うのが、男の人がひそかに「自分は、会社員じゃ終わらないぞ」というのを抱えていて、でも40、50になると自分の人生が見えてくる。かといって、降りて冒険するわけにもいかない。そんなふうに生きながら、「子どものころの夢って、かなわないんだなー」という絶望というか、ひそかに傷ついているお父さんは、けっこう多いのではないかという気がします。

定年退職者の方たちに調査したときに「いろいろやりたいとは思っていたけれど、結局自分はサラリーマンという人生でした」という方が多かったです。

「男はこう」というイメージゆえの生きづらさ

ジェーン:わたし、いまとくに心配なのが、若い男の子なんですよ。自殺者が毎年3万人近くいるうち7割が男性で、とくに若い人の自殺の割合が、ほかの国に比べて高いじゃないですか。

それだけの男性が、自死を選んでしまうという、その圧(アツ)はどこから来ているのか? 何を奪われると生きていけなくなるぐらいのことになるか、と考えたら、やっぱりそれは仕事とか、社会的な立ち位置にかかわるところですよね。

田中:そうでしょうね。

ジェーン:わたしの男友達が、「いまは仕事自体の数がどんどん減っていて、そこに優秀な女がどんどん出てきたら、どうしたって仕事ができない男が残ってくけど、そいつらどうするんだろう」ということを言っていたんです。

そこは、これから男の人も女の人も、マインドセットを変えていかないと厳しいだろうな、って思います。

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田中:そうですね、やっぱり「男性は稼がなければならない」というイメージは、すごく大きいですから。

たとえばスーパーのレジ打ちで、40、50代の女性がやっていたら、みんな自然に思いますよね。でもこれが、最近増えましたけど、40、50代のアルバイトの男性とかだと、みんな「かわいそう」と思っちゃう。

ジェーン:やっぱりイメージですね~。

田中:そういう「男の人は働いてナンボ」というルール、あるいはイメージがこれだけ強固に残っていると、それが失われたとき、つまり仕事がなくなったり、就活がうまくいかなかったりしたときのプレッシャーが、すごいわけですよね。

現実は変化しているのに対して、ぼくらが「男はこう」「女はこう」と思っているイメージが合っていなくて、それなのにそのイメージのほうを、大事にしている部分がある。それが、「生きづらさ」を生み出している部分は、すごくあると思うんです。

ジェーンさん:ほんと、そう思います。そのイメージを変えていくことは、女性が気持ちよく生きていくためにも、必要なことなんですよね。

だからやっぱり、男性が何を考えているかとか、どこがプレッシャーなのかという正直な話を、すごくしてほしい。

田中:そのためには、ジェーンさんの本にもアドバイスが書いてありましたけど、「率直に言ってみること」が、ほんとに大事です。

たとえば、「いや俺は低収入だから」とか「コミュニケーション能力が低いから」とか、男のほうが勝手に言い訳をつくっている部分がありますけど、そういうのも、女性に率直に本当に駄目か聞いてみたら思っていたのと違う回答が来ることは、けっこうあると思うので。

ジェーン:それによって、イメージを壊していけますね。 同時に、女のほうもマインドセットを変えていく必要がありますよね。たとえば「自分より学歴がよくて、稼いでいる人じゃないと不安」とか、ある種、母親の世代が「それが当然」と思っているイメージによる呪縛から離れる。

読書会でも、「結婚は経済的安定」とか言いながら、「いや、でももう、けっこうキミ武器もってんじゃん」という人、いますからね(笑)。ガンガン仕事して稼いで、「ステージ6ぐらいまで、ひとりでいけるよね」という装備なのに、「ほんっとに? 必要なの、それ(相手の経済力)なの?」っていうことは、すごく問いたいですね。自分自身に問うてほしいです。

文:大塚玲子、撮影:橋本直己、編集:渡辺清美

[前回記事]サイボウズ式:「籍を入れるまでの理由が見当たらん!」──ジェーン・スー×田中俊之、"未婚の理由"と"男のしんどさ"を深堀りする

(2014年8月4日のサイボウズ式 「『稼がなければならない』プレッシャーが男を生きづらくする!?──ジェーン・スー×田中俊之、"男にかかる圧"を掘り下げる」 より転載)