サイボウズ式:自分の弱みをさらけ出し、助けてもらうことも「個人の力」のひとつです──石山洸×中山紗彩、元リクルートの師弟が語る

会社の肩書きに頼らず、個人としての力を身につけていくには何をするべきか?
サイボウズ式
有名企業に所属していたり、大きな役職名を持っていたりすると、名刺ひとつで興味を持ってもらえることがあります。しかしそれは、必ずしも「個人」が注目されていることを意味するわけではありません。

会社の肩書きに頼らず、個人としての力を身につけていくには何をするべきか? また、そんな「個人の力」を生かす組織はどうすれば作れるのか──? 今回はこの疑問を、SHE株式会社・中山紗彩さん、株式会社エクサウィザーズ・石山洸さんのお二人にぶつけてみました。

リクルート出身の中山さんは、2017年に「ひとりひとりが自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を作る」という理念を掲げて、SHE株式会社を立ち上げました。そんな中山さんの組織作りに大きな影響を与えたのが、リクルート時代に上司だった石山さんの考え方だそう。お二人はともに、社内新規事業を立ち上げバイアウトした経験を持っています。

自らの手で新たな道を作り出してきた元部下と元上司は、「個人の力」をどのようにとらえているのでしょうか?

個人の力を形成する「3つの要素」

中山:私は、個人の力は「肩書きにとらわれない、その人ならではの魅力」だと考えています。

企業名や役職などの肩書きよりも先に、個人としての特徴が際立ち、その人らしい魅力が表れている状態のことだと。

石山さんは、どう思われますか?

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中山 紗彩(なかやま・さあや)さん。SHE株式会社代表取締役。1991年生まれ。早稲田大学在学中にコンサルティング事業の立ち上げを経験。2014年に株式会社リクルートキャリアへ新卒入社。社内新規事業提案制度で教育サービスを立ち上げ、後にグループ会社である株式会社リクルートマーケティングパートナーズに事業売却。スタートアップ取締役を経て、2017年4月にSHE設立。「SHElikes(シーライクス)」を中心に、21世紀を生きる女性のための「わたしだけのキャリア」を見つける支援事業を提供中。

石山:私は、個人の力って3つあると考えているんですよ。

中山:3つ?

石山:はい。ひとつは中山さんが言うように「自分を生かす」ということ。

役職や肩書きにとらわれることなく、自分自身を生かせている人を見ると、個人の力があるなと感じます。

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石山 洸(いしやま・こう)さん。株式会社エクサウィザーズ代表取締役社長。東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年に株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズに乗せ売却した後はメディアテクノロジーラボ所長を経て、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し初代所長に就任。2017年3月、静岡大学発ベンチャーのデジタルセンセーション株式会社取締役COO就任。株式会社エクサインテリジェンスとの経営統合を経て現職。静岡大学客員教授、東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員。

中山:はい。

石山:それに加えて、「相手を生かす力」と「自分の個を相手から生かしてもらう力」。この3つで個人の力が形成されるんじゃないかと。

中山:自分だけではなく、他者との関わり方も重要だということですか?

石山:そう。たとえば、自分の対峙している相手が「実は俺、株式会社◯◯という大企業の役員で、すごいんだぜ」と考えているとしますよね。その人にとっては所属や肩書きが個人の力なんです。

この場合は「相手がそう考えていることをどう生かしていくか」を考えながらコミュニケーションしていくべきじゃないですか。

中山:個人の力をどうとらえているかは人それぞれですからね。

石山:企業内の肩書きや役職で個人の力が形成されると考えている人もいるし、年代が上になればそうした時代観や世界観で生きてきている人も多いと思うんです。

おたがいに、それを尊重し合いながらコミュニケーションすることで、逆に自分自身が相手に生かされるという好循環が生まれることもあるんですよね。

中山:なるほど......! その視点はありませんでした。

「自分の強みを伸ばす方向に振り切っていい」というアドバイス

中山:私が「個人の力」を意識し始めたのは、石山さんの存在が大きかったんですよ。

石山:そうなの?

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中山:私は「社会人って、なんでもキレイにできなきゃいけないんだ」という価値観に縛られながら、リクルートの新人時代を過ごしていたんです。

石山:なんでもキレイにできなきゃいけない?

中山:はい。石山さんの前後に所属していた組織では、なんでも器用にこなせるようなジェネラリストが評価されていました。

でも、そこに私はなんとなく違和感があって。

石山:なるほど。そんな中で、幸か不幸か私のチームのメンバーになったわけですね(笑)。

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中山:石山さんと出会い、「自分の強みを伸ばす方向に振り切ってもいい」「そうやって活躍することも立派な社会人としての振る舞いだ」と言っていただいて。

これが、自分に自信を持てるようになったきっかけなんです。

石山:うれしいなあ。

中山:だから自分が会社を作るのであれば、一人ひとりが自分にしかない価値を持ち、自信を持って伸ばせる組織や事業にしたいと思って......。

その思いが、「ひとりひとりが自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を作る」というSHEの理念にもつながっています。

「組織に対する帰属性」と「イノベーションに対する志向性」でコミュニケーションが変わる

中山:石山さんは、会社の中でメンバーそれぞれが自分の個性を生かせるようにするために、上司としてどのようなことを心がけていたんですか?

石山:会社という組織の中では、人を動かそうと思ってもそう簡単にはいかないですよね。自分と相手では、たいていの場合タイプが違うので、人の動かし方も同じ方法ではうまくいかない。

なので、「コミュニケーションの構造化」を考えました。

中山:どんな方法ですか?

石山:たとえば、「組織に対する帰属性」と「イノベーションに対する志向性」で4象限を作り、それぞれでコミュニケーションスタイルを変える、ということをやっていました。

「組織に対する帰属性が高いけどイノベーションに対する志向性が低い」といったタイプの人に「イノベーションが重要なんです」といきなり言っても、動いてくれません。その逆のタイプの人もいます。

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中山:いろいろな人たちが混在して組織というものができあがっている。

石山:うん。それぞれ違ったタイプの人たちと向き合い、「相手の個」を開放していくために、必要なコミュニケーションを考えていくべきだと思います。

中山:具体的には、4象限でどのようにコミュニケーション方法を変えていくんですか?

石山:たとえば、イノベーションに対する志向性も組織に対する帰属性も高い人って、頑張りすぎちゃって疲れるわけですよ(笑)。

意外に思われるかもしれないけど、そんな人には組織に対する帰属性を少し下げるような働きかけをしていました。

中山:なるほど......。

石山:そうしたほうが、もっと高いレベルのイノベーションが生まれるということも実際にあるんです。

中山:ちなみに私の場合はイノベーション志向が強いほうだったと思うんですが、上司時代に意識していたコミュニケーション方法はありますか?

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石山:中山さんは学生時代からビジネスをやっていて、「リクルートの資産を使って新しいことを始めたい」という理由で入社していましたよね。だから「いかに自由にしてあげられるか」ということを考えていました。

「自由」と「環境作り」は大切なポイントだと思っていて。前者は「成果にコミットすればプロセスは問わないよ」ということ。後者は成果にコミットしやすいよう、上へ掛け合ったりルールを緩和したりという「必要環境サポート」みたいなイメージですね。

メンバーが「マネージャーをマネジメントする」ことを学ぶべき

石山:あと、これはマネジメントがどうあるべきかという問いからは少しそれるかもしれませんが......。

メンバーが「マネージャーをマネジメント」してもいいと思うんですよ。

中山:それ、リクルート時代にも石山さんに言われました(笑)。

石山:将来的に自分がプロフェッショナルなマネージャーになりたいと志向するのであれば、「制約の中で上司を生かす力」を身につけたほうがいい。

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中山:上司に対しても「相手を生かす力」を発揮できるようにすべきということですね。

石山:どれだけ「中山さんを守ってあげたい」と思っても、自分の上司や、さらに上の上司とも円滑にコミュニケーションを図れなければ無理ですからね。

メンバーとして、上司をマネジメントできる力を身につける。そんな発想で、自分自身が置かれている環境を活用して学習することは大切だと思います。

中山:それが結構しんどい環境だったとしても?

石山:まあ、「どう考えてもこの環境が自分に合わない」ということもあると思います。それは相性の問題なので、そもそも組織に入る前に自分できちんと判断して、意思決定することは必要ですよね。

大学のサークル選びみたいなものだけど、自分に合った環境を自分自身が責任を持って選ぶことは大切。

中山:石山さんは実際にそうしてきたんですか?

石山:私の場合は子どもの頃からそうでした。「日本の義務教育は自分に合わない」と感じたから、父を呼んで一緒にお風呂に入って、そのことを伝えたんですよ。

「宿題とかやらないけど、宿題をやらないことに親としてコミットしてほしい」とお願いして。

中山:すごいことをお願いする子どもですね(笑)。

石山:教育だって、子どもにとってただ与えられるものではなく、自分で選択していけるものだと思うんです。

自分が成長するために、自分で自分のキャリアに責任を持つということですよね。

弱みをさらけ出し、助けてもらうことも個人の力

中山:一人ひとりが「強み」を持って集まる組織になるためには、「弱みをさらけ出せること」も欠かせないと思っています。

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石山:共感します。3つの要素でいうと「生かしてもらう」という視点ですね。

自分を生かしてもらうためには弱さを見せなきゃいけないときもある。それは個人にとっても、会社にとっても。

中山:会社にとっても?

石山:たとえば、採用でも弱さを見せることは大切だと思います。「うちの会社はこういうことをやりたいんだけど、これができないんです」と、きちんと言えるかどうか。

中山:なるほど。

石山:相手がそれを補ってくれる人であれば、弱みをさらけ出すことで初めて、「この会社を助けてあげたいな」と思ってくれるかもしれない。中途採用の場合は、それが入社理由になることも結構ありますよね。

中山:そう考えると、ちゃんと自分の弱みをさらけ出し、助けてもらうことも個人の力のうちの一つなのかもしれないですね。

石山:弱みがあること自体は悪いことではなく、弱みがあることによって助けてくれる人が集まり、仲間が増える。そこを、どういう風にコミュニケーションするかがポイントなんでしょう。

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中山:完璧であるべきという志向のチームにいると、「弱みがあるのは恥ずべきことだ」と感じ、それをあまり開示したくないと思ってしまいがちじゃないですか。

石山:うん。

中山:でもある人から「強みがあるんだから、同じぐらい深い弱みもあるべきなんだ」という話を聞いたことがあって。

突き抜ければ突き抜けるほどできないこともあるんだというのは、私も実体験を通して思ったんです。

石山:強みを大切にしていったからこそ弱みにも気づけたんですね。

中山:はい。そうした考え方ができれば、「私はここができるけどここができないからよろしく」と互いに開示できますよね。

それによって強みがかぶらないチームを組織し、みんなで補完関係を作ることができる。SHEでもそんな状態を大切にしていきたいと思っています。

石山:そのためには、やはり「自分の強みと弱みを自己認識できた瞬間を楽しむ」ことが大切ですよね。

たとえば、DJをやっている人がレコードショップへ行って貴重な音源を掘り起こすことを「ディグる」と言いますよね。あれを自分の心に対して、自分自身がやっているみたいな感覚。

中山:自分自身をディグっている。

石山:そうそう。「こんな強みがあったんだ、こんな弱みがあったんだ」と、自分をディグって、同時に人もディグる。

そうやって自分や相手を発見することを楽しみに思う感覚が、「個人の力」につながっていくのではないでしょうか。

執筆・多田慎介/撮影・橋本直己/企画編集・明石悠佳

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2018年1月17日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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