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サイボウズ式:塚田農場がアルバイト学生に「自社ではなく他社への就職活動」を支援し続ける理由

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「塚田農場」「四十八漁場」「関根精肉店」など、生販直結のビジネスモデルで事業展開するエー・ピーカンパニー。10を超える業態の中で、代表的なお店ともいえる塚田農場に、1度は行ったことがある人も多いのでは?

お店で楽しめるのは、同社が自社養鶏場で育てた美味しい地鶏料理に地元のお酒、通うたびに「昇進」するしくみだけではありません。なんといっても、スタッフの方の接客レベルが素晴らしく、そこで提供される感動するサービスは特筆すべき点でしょう。

一般的に「ブラック」だととらえられがちな飲食業界。その中で、エー・ピーカンパニーが伸びていて、アルバイト希望者や入社希望者が殺到する理由は何なのでしょうか。同社 取締役副社長 大久保伸隆さんにサイボウズ 人事部 マネージャーの青野誠が、エー・ピーカンパニー流組織の作り方について聞きました。

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大久保伸隆さん。株式会社エー・ピーカンパニー副社長。1983年生まれ、千葉県出身。2007年4月株式会社エー・ピーカンパニーに入社。08年12月「塚田農場錦糸町店」の店長に抜擢。10年「塚田農場」事業部長、11年取締役営業本部長、12年常務取締役営業本部長、14年30歳で取締役副社長に。現在は人材開発本部長等を兼任。神戸大学非常勤講師としても活躍。『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』(幻冬舎新書)は初の著書

ブラック企業だと思われないための制度拡充には意味がない


青野:大久保さんの著作『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』を拝読して、チーム作りや新卒採用、研修についてお聞きしたいことがたくさん出てきました。

大久保:ありがとうございます。よろしくお願いします。

青野:サイボウズが水道橋にあったころ、駅前の塚田農場さんはよく使わせてもらっていました。アルバイトの方が元気で、温かいサービスであふれていて、リピートしたくなる気持ちよいお店でした。

大久保:うれしいです。

青野:当時受けた接客を思い出しながら本を読んでいると、「CIS(Customer Impressive Satisfaction=お客さま感動満足)=EIS(Employee Impressive Satisfaction=従業員感動満足)=売り上げ」であると書かれていて。接客の裏にこんな教えがあったのかと目からうろこの思いでした。

「CIS=EIS」は幹部から社員、アルバイトまで、エー・ピーカンパニーにかかわる方全員に教えているそうですが、ここを大事にしようと思ったきっかけは何だったんですか?

大久保:ぼくのターニングポイントともいえる宮崎県日南市塚田農場 錦糸町店 店長になる前、葛西店 店長をしていたころの経験が大きいです。

ロジックもないままがむしゃらにがんばって、そこそこの繁盛店に成長させ、葛西では一番のお店にしたんです。でも、ぼくが異動したら3カ月で売り上げが30%くらい落ちてしまって......。

青野:かなり大きい数字ですね。

大久保:アルバイトも商品も同じなのに、どうしてこうなるんだって思いますよね。ぼくが抜けて売り上げが下がったということは、真の意味でいい店ではなかったと気づいたんです。

だから、錦糸町店はぼくがいなくても従業員が楽しく、お客さまにも満足いただけるお店にしたい――そう模索して生み出した方程式が「CIS=EIS」で、社内共通言語になったんです。

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大久保伸隆さん

青野:スタープレイヤーがいなくてもやっていけるお店を作ることと、1人ひとりの個性を輝かせることの両立は難しくないですか?

大久保:どうでしょうね。逆にぼくは、ナンバーワン不在のほうが、全員の個性が際立つと思うんです。たとえば『ドラゴンボール』なら孫悟空が圧倒的なスターですよね。でも、最近人気のある漫画だと『スラムダンク』や『ワンピース』が象徴的なように、登場人物全員に主役感がありませんか?

青野:ありますね。

大久保:ぼくたちは、ああいう組織を目指したいんです。その上で、成長の定義を「人間力と能力」とに分けています

人間力を高めれば魅力がつくし、能力を高めれば実力がつく。魅力と実力がつけば、すごくいい形に成長していくんです。そうやって"土台"の部分だけ教えて、各自の個性を生かすやり方をとっています。

青野:「働きがいのある会社」ランキング(2016年)で、ベストカンパニー(※1)に選出されていましたよね。素晴らしい結果だと思います。働きがいと同様によく挙げられるキーワードに「働きやすさ」があります。そのあたりはどう整えていらっしゃいますか?

※1 Great Place to Work(R) Institute Japan主催。「従業員100-999人」部門 で22位を獲得

大久保:2年前から、公休を増やしたり福利厚生を充実させたりといった施策に取り組んで、働きやすさを整えてきました。

当然やらないといけないことではありますが、制度面の拡充だけを追求していると、キリがないんですよね。ブラック企業と言われないための対策には、あまり意味がないと考えています。

青野:共感します。働きやすさだけにひかれて志願してくる方も、中にはいるんですよね。

大久保:ええ。なので組織として大事なのは、ブラックな部分を打ち消す強みを出すこと。働きやすさは最低限整えておくけれど、組織の規模やフェーズ、個々のメンバーによって変わるものなので、個別に対応しよう、と。

青野:なるほど。サイボウズも考え方が似ていると感じます。

大久保:ぼくたちが目指すのはホワイト企業でもブラック企業でもない、ダイヤモンド企業です。人をどう輝かせるかを考えて、働きがいをどうつくるかを徹底的に追求しています。

自社採用に「まったく関係ない」就職活動支援を続ける理由


青野:その一例が、ツカラボや事業部総選挙ですよね。とくにツカラボは、大学生アルバイトの方向けの就活支援だと知って、本当に驚いたんです。そこまでやっちゃう!? と。

大久保:自社ではなく他社への就職支援ですからね(笑)。いろいろな方からびっくりされました。

青野:どんな狙いでスタートしたんですか?

大久保:ぼくが錦糸町店長をしていたとき、大学3年生が「就活に集中するから」という理由で辞めたり、シフトを減らしたりするのが、店舗としては大きな課題でした。一番仕事を覚えていて、頼れるのが彼ら3年生です。彼らを失うのは店舗にとって損失でした。

彼らに働き続けてもらう方法はないかと考えるうちに、店の中で就活のアドバイスをすることを思いつき、ミーティング時に教えていました。「どうせ家にいてもテレビ見てダラダラするでしょ。それならうちで3時間働きながら就活しようよ」と呼びかけてみたんです。

青野:あはは(笑)。

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青野 誠。サイボウズ株式会社 人事部 マネージャー。早稲田大学理工学部卒業後、2006年にサイボウズに入社。営業やマーケティングを経験後に人事部へ。採用・育成・制度作りに携わる

大久保:でも、そう伝えるからには、彼らに内定を勝ち取らせないといけません。最初に思いついたのは社内に根づいていた"研修文化"を生かすことでした。でも、セミナーをするだけではおもしろくないし、限界もあると気づいたんです。

青野:就活支援には個別に対応すべき側面もありますよね。

大久保:そうなんです。なので、社内にキャリアセンターをつくることを考えました。複数社を経験してきた中途社員なら、学生たちに実践的なアドバイスができるだろうと。でも、社内の人間がするアドバイスって、なんか嘘くさくないですか?

青野:それはたしかに。

大久保:キャリアセンターを通じてエー・ピーカンパニーに引っ張ろうとしているのでは、と勘ぐられても嫌だなと。そこで、外部に委託することにしました。

青野:それでもアルバイトから新卒として入社される方も少なくないですよね?

大久保:毎年20人ほど入ってきます。ツカラボ本来の狙いは「うちでのアルバイト経験が就職を有利にすること」なんですけどね。

青野:スターバックスやユニクロ、体育会系の部活動など、「就職に有利」と噂される企業や部活はあります。

大久保:あるIT企業(上場)から「塚田農場さんの大学生アルバイトがほしい」と相談されたことがありました。ぼくが「選考を有利にしてくれませんか」と提案したところ、先方は「面接ナシで、いきなり内定でいいです」と言ってくださって。

青野:それはすごい。

大久保:その事例ではうまくマッチングしなかったのですが、「即、最終面接」の企業が現れたことに驚きましたし、書類審査や一次面接パスの会社も出てきました。これこそパスポートだよねと。「うちで働いたアルバイト大学生の就職を有利にすること」は形として実現できると思ったんです。

青野:にしても、内定率100%(※2)って驚異的な数字ですよね。なぜそこまでうまくいくのでしょうか?

※2 キャリアラボに5回以上出席した受講生の場合

大久保:セミナーでは主に自己分析と企業研究について、その2つをする理由や深掘りする方法などを詳しく話しています。100%内定が出るロジックも共有します。

青野:知りたいです。

大久保:かいつまんでお話しすると、「新卒就職人気ランキング」上位200社を選んで受けると、36万人が殺到するので4%しか受からない。

これは確率的にいえばかなり難易度が高いし、「いい会社」は有名企業や人気企業以外にもあるんだから、これまでなじみのなかった業界や中小企業も調べてみよう。有名企業とベンチャー企業をバランスよく受けよう。それだけじゃなく、自分に合った会社を見つけることが大事なので、自己分析と企業研究は欠かせないですよね。といったように教えています。

「何が正解か誰もわからない。自分が決めるしかない」の思い切りが、組織の硬直化を防ぐ


青野:新入社員だけで新店舗を立ち上げる「エー・ピー熱闘甲子園」も大胆でおもしろい、実践的な取り組みだと思います。

大久保:2016年で4年目になります。月2〜3店舗のペースで新店舗をオープンさせていた2011年ごろ、グランドオープンの日に店舗に行くと、どこの店長もつらそうな顔をしていて、なんでだろうと思ったのがきっかけです。

ぼくが新店舗の店長を任された時代は、本当にうれしくてたまらなくて、グランドオープン当日は胸を躍らせてたのになぁと。

青野:「この差はなんだ?」となったんですね。

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大久保:ええ。原因はすぐにわかりました。ぼくが店長をしていたころは、自分たちで何もかもやらないといけない状況だったんです。

でも、それから時間が経って会社も成長し、いろいろな制度やマニュアルが整い、本部が何でもやってくれるようになっていました。彼らはそういった自発的に動くプロセスを奪われて、オーナーシップがなくなっていたんです。

青野:なるほど。オーナーシップを持ってもらうために、どうしたんですか?

大久保:新店舗を「規制緩和した地区」として、新卒に権限や責任を与えよう、と。江戸時代の出島みたいなものです。本社の与えるマニュアル通りにやれば、グランドオープン時にはいいお店をつくれるかもしれない。

でも、そういった規制は取り払って、自分たちだけで考えてやってみよう、と。僕らはできるだけ手や口を出さずに見守るようにしました。失敗を奪うと人は育ちませんから。

青野:効果はどうでしたか?

大久保:熱闘甲子園経験者の離職率は、新卒(通常)の離職率の半分以下になっています。

青野:熱闘甲子園にはどんな人が志願するんですか?

大久保:一言で言うと荒くれ者(笑)。新卒には、熱闘甲子園を経験してもいいし、普通の店舗でじっくり仕事を覚えるのもいい、と話しています。内定後に自分で決めなさい、自分の人生は自分で決めて、自分で責任を取りなさい、と。

ぼく自身、体験から学んだ答えが来年も通じるかは分からない時代だと思っています。だから、自分で決めてもらうしかない。"入口"で多種多様な選択肢を用意すると、いろいろな人材が入ってきて、組織が硬直しません。そんな意図もあります。

青野:入社後は大きくどんなコースがありますか?

大久保:現場(店舗)、本部、新規事業、海外事業、大きくはこの4つですね。

青野:新規事業は社員が発案する形ですか?

大久保:基本的には代表・米山が考えた新規事業にやりたい人が立候補する形です。「やりたい、と言うならやらせてみる」パターンが多いですね。でも、やらせてみた結果、うまくいかない人もいます。部下のポテンシャルを見抜ける人材育成も課題ですね(笑)。

一度作った決まりごともマニュアルも壊す。多様性あるサファリパークな組織を許容したい


青野:課題をクリアすれば即最終面接にいける「裏口採用」も、これまでにないユニークな制度ですよね。始められた背景には何がありましたか?

大久保:多様な人材がいないとイノベーションは生まれないと考えているんです。展開する店舗数が200を超えるころから国内マーケットの未来が見えてきて、海外事業に一層注力し始めました。

青野:イノベーションには事業の創造と継続がありますよね。その違いはどうお考えですか?

大久保:はい。それぞれに向く人材は異なるので、応募と採用の各段階で分ける必要があります。裏口採用には9つのルートがあり、たとえば「『キッチン・アルバイト』ルート」からは長く現場をやってきた人や親が料理人だという人が入ってきます。多様な人材を集められる入口をつくっておく目的があるんです。

青野:採用する側にも多様性を持たせる、とおっしゃっていましたね。

大久保:新卒から弊社で働いてきて弊社のことを知り尽くした社員、弊社と別の飲食関連会社を数社知っている中途社員、バリバリの元営業マンな中途社員......いろいろな面接官がいると、好みが違いますから、必然的に多様な人材が入ってきます。

こうすることで、大企業病を最大限防げると考えているんです。それでも弊社で働くうちに、弊社独自の色に染まり、多様性がなくなってきたら、部署異動をさせたり、面接官を入れ替えたりして、人材の多様性を担保すると思います。

青野:多様性を担保したいとのことですが、どのあたりまで許容しますか?

大久保:フェーズによって異なりますが、イメージはサファリパーク(笑)。動物を檻に閉じ込めるのも、動物が一種類しかいないのも嫌なんです

一部上場企業になったときは、決まりごともマニュアルももっとも多い時期でしたが、熱闘甲子園を始めてからそれを壊し始めました。ルールはなるべく少ないほうがいいですから。

青野:最後に新卒採用について伺いたいです。

大久保:来年の新卒採用は内定者の1割くらいを外国人にしたいとひそかに考えています。現地に新店舗を出すとアナウンスしたら、高等教育を受けた大学生がたくさん面接に来てくれました

彼らは仕事に対するリスペクトがあり、頭も良くて、人件費も安い。そんな人間といっしょに働くと、普通は焦りますよね。焦らずにはいられない環境をつくらないと、日本でいまハングリーな人間は育たないと思うんですよ。

青野:ぼくも中国での採用イベントに参加したとき、彼らのハングリー精神に驚きました。とにかく事前調査がすごいんです。

弊社に関するニュースをくまなく見ていますし、BtoB製品なのにしっかり使いこなしていて。さらには「母の会社に導入を提案しました」なんて学生にも出会いました(笑)。

大久保:本当にすごいですよね。うちの熱闘甲子園にも、中国人の新卒が参加したところです。日本語はそれほど堪能ではありませんが、結果を出してくれそうで期待しています。

青野:ぜひ、そのお店におじゃましたいと思います。今日は勉強になりました。ありがとうございました!

大久保:ありがとうございました!

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文:池田 園子/写真:尾木 司

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本記事は、2016年5月24日のサイボウズ式掲載記事「塚田農場がアルバイト学生に「自社ではなく他社への就職活動」を支援し続ける理由」より転載しました。