サイボウズ式:ブラック企業で働く人が安心して辞められる仕組みを作りたい──元2ちゃんねる管理人のひろゆきさんに、どんな働き方改革をしたいか聞いてみた

「自分の幸せとお金をなるべく切り離した方がいいです。」
ひろゆき(西村博之)さん

政府主導の「働き方改革」。長時間労働の是正などを推し進めていますが、「労働問題の解決にはならない」「不十分ではないか」という声も挙がっているようです。そもそも、周囲の友人・知人を見渡しても、そんなに期待していないようなムードも......。

会社員にとってうれしいはずの働き方改革なのに、世の中の空気としてノリきれない感があるのはなぜ?個人でできる働き方改革はないものなの?

今回は、元2ちゃんねる管理人で現4chan管理人、西村博之さん(通称ひろゆき)に、「働き方改革」について聞いてみました。

(編注) この記事は、ひろゆきさんにメール取材した内容を、読みやすさを重視し会話調に再構成したものです。

ひろゆき(西村博之)さん

ひろゆき(西村博之)さん

1976年、神奈川県生まれ。中央大学卒。在学中に、アメリカのアーカンソー州に留学。1999年にインターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」を開設し、管理人になる。東京プラス株式会社代表取締役、有限会社未来検索ブラジル取締役など、多くの企業に携わり、企画立案やサービス運営、プログラマーとしても活躍。2005年に株式会社ニワンゴ取締役管理人に就任。2006年、アップロードされた動画にコメントをつける機能を持ったサービス「ニコニコ動画」を開始。2009年、「2ちゃんねる」の譲渡を発表。2015年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。主な著書に『僕が2ちゃんねるを捨てた理由』(扶桑社新書)、堀江貴文氏との共著に『ホリエモン×ひろゆき やっぱりヘンだよね』(集英社)、2017年7月8日に発売された『無敵の思考――誰でもトクする人になれるコスパ最強のルール21』(大和書房)など。

嫌々働きながら文句を言ったり、病気になったりするのは、奴隷と同じ

田島:『無敵の思考――誰でもトクする人になれるコスパ最強のルール21』では、会社に所属して給料をもらう働き方について、「奴隷」という過激な表現をされていますよね。

ひろゆき:会社に所属して給料をもらう働き方について、すべてが奴隷的だと言っているわけではありませんよ。

働く人が給料の対価として「雇う側がやりたくないこと」をやる。そして、言われたことを我慢してやって嫌な思いが残り、病気になったり命を落としたりする。そんな働き方は奴隷的だよね、という意味です。

田島:なるほど。

ひろゆき:エジプトのピラミッドを造ったのは奴隷だとされています。彼らはタダ働きしていたわけではなく、働いた対価としてパンやビールを受け取っていました。そして、二日酔いで来なかったり、「パンがまずい」などの文句を言ったりしていたそうです。

それって、現代の会社員の働き方と似ていませんか?

田島:似ていますね。

ひろゆき:もしかしたら現状の働き方について、後世では「日本では昭和から平成のころ、こんな奴隷的な働き方をしていたんだって~」と言われているかもしれません。

無敵の思考――誰でもトクする人になれるコスパ最強のルール21

2017年7月8日に発売されたひろゆきさんの著書『無敵の思考――誰でもトクする人になれるコスパ最強のルール21』(大和書房)。「会社員って奴隷じゃね?」「消費者は一生、幸せになれない」「(仕事を)年収で選ぶとロクなことがない」「仕事が奪われる前にすべきこと」など、ひろゆきさんらしい論調が展開されている

消費は飽きる。お金を使うことで幸せを感じる人は、一生幸せになれない

ひろゆき:僕、消費をするだけの人は一生幸せになれないと思っていて。なぜなら、幸せを感じ続けるためにずっとお金を使い続けなくてはならないから。

田島: ビル・ゲイツなら別ですけど、多くの人にはお金に限界がありますもんね。

ひろゆき:お金を使うことに幸せを感じる人だと、そのお金を稼ぐために働くと思うんですけど、それで満足を得続けようとすると、どんどん自分の時間が削られていきます。それこそ奴隷的な人生です。

奴隷的な人生から抜けだす一歩は、お金を使うことに幸せを感じるのではなく、モノをつくりだすことに幸せを感じるように転換することだと思っています。

田島: お金=幸せではない、と。

ひろゆき:自分の幸せとお金をなるべく切り離した方がいいです。

例えば、文章を書く、歌を歌う、部屋の模様替えをする。それで幸せを感じられれば、時間があればあるだけ幸せになれます。「お金を使うことに喜びを感じる人」より幸せを感じやすいですよね。

もちろん生活にはある程度のお金は必要です。ただ、「自分が幸せを感じるためには、よりたくさんのお金が必要だ」という考えを捨てられたら、お金に振り回されない人生を送れると思います。

田島: 私たちが「奴隷」から抜け出すためには、どうしたらいいのでしょうか。好きなことでお金を稼げるようになることですかね。

ひろゆき:うーん......。でも、好きなことでも毎日やると飽きるんですよね。

田島:そうなんですか?

ひろゆき:以前、ゲーム会社に週に2回ほど顔を出して、いろいろなゲームを好きに遊んでいい状況だったんですけど、その時はさすがに飽きましたね(笑)。

田島:ゲーム好きならたまらない状況なのに?

ひろゆき:ある程度ゲームをやる人ならわかると思うんですが、ゲームって面倒くさいパートがあるじゃないですか。地道にレベルアップをしたり、試行錯誤して強い武器を作ったり。

自分で購入したゲームなら、そういう面倒なパートも一生懸命やると思うんですけど、なにしろいろいろなゲームを遊び放題となると、ほかのソフトに目移りしちゃって。

それで、どんどん「次を、次を」とやっているうちに、なんだか全部つまらなく感じてしまいました。

田島:それって、好きなことを仕事にして飽きたというより、ゲームを作る「モノづくり」じゃなくて、どんどんゲームをやるだけの「消費」だったからつまらなくなったのでしょうか。

ひろゆき:そうだと思います。単純な消費は飽きるんですよね。

奴隷的な働き方から抜け出すには、創造的に仕事に取り組むこと。それは、仕事を奪われないことにもつながる

田島:「好きなことも毎日やると飽きる」の話なのですが、もしかしたらゲームをプレイする中で、何か創造的な試みをすれば、飽きなかったのかもしれませんよね。

ひろゆき:確かに。ゲームの楽しみ方でいうと、例えば『信長の野望』で、あえてマニアックな弱い武将を選ぶのがおもしろいんですよ。「どうせ負ける」という状況の中から、「負けないパターンを見つけられたらおもしろいな」と考えて、ゲームをするんです。

田島:なるほど。

ひろゆき:これは仕事も同じことです。毎日、主体的に何かを生み出す意識を持ってやれば、楽しい上にお金ももらえる

やっていることが同じでも、試行錯誤をして自分なりの仮説を検証してみるとか、新しい観点で取り組むとおもしろいですよ。

田島:創造的に仕事に取り組むことが、奴隷的な人生からの脱出方法のひとつだ、と。

ひろゆき:はい。あとそれは、コンピュータに仕事を奪われないためにも大切なんです。

例えば、僕は人と会った時、いくつか質問してその人をモデル化することがあります。「こういう職業で、こういうタイプの人は、こういう考え方をするんじゃないか」と仮説を立てて、それを検証する。

もちろん仮説なので、合っている時もあれば間違っている時もあるのですが、何度もやっていると"あたり"をつける能力が上がり、正解が多くなります。

田島:ええ。

ひろゆき:これからさまざまな仕事がAIに奪われると言われていますが、 "あたり"をつける能力は、人間の方が得意なのかもしれません

というのも、将棋やオセロのように、条件が限定されているものはすべての情報を入れて計算させればいいけれど、「そもそも何の情報を入れたらいいかわからない」「入れなければいけない情報が多すぎる」ということが世の中には多いからです。

日本に必要な「働き方改革」は、辞めたい会社を辞められる仕組み作り

田島:今、日本では「働き方改革」が推進されていますが、「残業代がなくなるのは困る」「やることは減らないのに残業だけ禁止されても」「もっと会社にいたい!」といった声もあるようです。

ひろゆき:まず、「働く」ということが全部同じくくりになっているのが、行き違いの原因なんじゃないですかね。

田島:ひとくくり、ですか。

ひろゆき:働く人が給料の対価として、「雇う側がやりたくないこと」をやるような仕事と、好きで絵を描いていたらそれが売れちゃった人の仕事を同じ「労働」という言葉で語ってしまうから誤解が生まれてしまうんです。

雇用されている人でも、仕事でプログラマーをやっていて、土日も家にこもって趣味でプログラムを書くようなエンジニアもいますし。

田島:働き方改革に対して意見が食い違うのは、「好きで創造的な仕事をやっている人」と「嫌な仕事を奴隷的にやっている人」を、全部同じ「労働者」として見ているから、ということですね。

ひろゆき:もし、やりたくないことで時間を切り売りしてお金に変換しているのであれば、できるだけ労働時間を減らすよう生活設計をしたほうがいいですし、好きなことをやってお金がもらえる人は、好きなだけ働けばいい。

いろいろな状況、いろいろな意識で働いている人がいるわけで、それをいっしょくたに同じルールでしばるのは難しいですよね。

田島:ひろゆきさんが「働き方改革」をするとしたら、何を変えたいですか?

ひろゆき:ブラック企業で働く人が「安心して辞められる仕組み」を整備することですね。

具体的には、失業保険は審査制ではなく、失業者が申請したら誰でも貰える制度にした方がいい。現状だと、企業が離職票を発行しないせいで失業保険が貰えないとか、そういう嫌がらせもあるみたいなので。

田島:とても具体的ですね。

ひろゆき:生活の不安のために嫌な会社を辞められない人もいるようですが、そういう人が我慢したままだと、ブラック企業が生き残って、従業員にまともに給料を払ったり有休を認めたりしている会社が、競争力で負けてしまいます。

辞めたい人が辞めやすい制度を整えることで、ヤバい会社を社会から駆逐し、きちんとした会社が残る構造に変えていかないと、"奴隷"的な勤務体系の会社がはびこり続けてしまいますから。

田島:実現したら、社会が健全化しますね。幸せを感じる人が増えるかもしれません。

ひろゆき:僕、「人はなぜ生きるのか」という問いの答えは、「死ぬまでにできるだけ楽しく幸せに暮らすため」だと、今のところ思っているんです。

楽しく暮らす人が多くなると、周囲の人も幸せになりますよね。人間関係で余計なストレスが掛からなくなって、余計にみんな幸せになりやすくなる。

田島:世界平和にもつながりそうですね。

ひろゆき:そうです。まぁ、世界平和というか、みんなが楽しく暮らしてくれると、まわりまわって僕も幸せに楽しく暮らしやすくなってトクなので、みんな楽しく暮らそうよ! ってことなんですけどね。

取材・文:田島里奈(ノオト)

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2017年8月22日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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