「メディアはトランプ報道をしくじった」:メディアウォッチャーのマイケル・ウルフ氏

マイケル・ウルフ氏「(彼が行ったことは)並外れている。実際にはトランプ問題は、メディア問題そのものだった。」

ドナルド・トランプ次期大統領の誕生に対して、メディアが無力に感じているいま、長らくメディアウォッチャーとしてコラムを執筆してきたマイケル・ウルフ氏の評価は厳しい。米DIGIDAYのポッドキャストプログラムにおいて、「メディアはトランプ報道において何を間違えたか?」という質問に、同氏は「すべてだ」と答えた。

「文字通りすべてだ。予想、評価、そして、自分たちの逃げ道をまったく作れなかった点、ここまですべてがズレている例をほかに見たことがない。『ドナルド・トランプは大統領に適していない、大統領になれやしない』と、あらゆる人や市場が考えていると決めつけていた。万が一、トランプが当選してしまった場合、メディアは彼に罵詈雑言をぶつけることで、それを阻止できるとでも思ってたんだろう。まるでメディア全体が、トランプは大統領にふさわしくないと決めたから、当然そうなるかのように」。

本記事では、ウルフ氏との会話のハイライトを掲載する。読みやすさのために若干の編集を加えた。ウルフ氏は、6月にドナルド・トランプの特集記事を執筆し、選挙直後には、トランプのトップ・アドバイザー、スティーブ・バノンのインタビューを最初に手がけた。

巧みにメディアを操ったトランプ

「(彼が行ったことは)並外れている。実際にはトランプ問題は、メディア問題そのものだった。いくつもの巨大なラリーにおいて、レポーター個人を名指しにしただけでなく、CNNは下らないと、連呼してみせた。彼が抵抗姿勢を見せた理由は、まさにそれだったんだ。メディアは勝手にドナルド・トランプ像を作り出し、そして彼は逆に、それを武器として利用した。無防備なスキをついて、メディアができやしないと高をくくっていたことをやってのけたのだ。これは勝利だ」。

「ここまで、メディアの反応は完全に守りに入っている。ニューヨーク・タイムズは、現状の評価をもう一度し直すだか何だか馬鹿みたいなことを言っている。でも、そんなことをちゃんとやれている所は、ひとつも存在していない。トランプは脅威であるという考えにしがみつきながら隠れている、というのが私の印象だ。彼らは見事に釣りにひっかかった、というのがひとつある。トランプはツイートをして、メディアはそれに群がった。もしも皆がもっと合理的であれば、彼が何かをツイートしても、ただ全員がブロックして終わっただろう。しかし実際は何かツイートすると、ニュース業界全体がそれ一色になってしまった。ただのツイートひとつでニュースを自分一色にするために、わざとしているのかもしれない」。

「メディアが描いたトランプの公の姿は衝突を生む人物だった。完全に好戦的な人格で、どこへ行っても混沌を生み出すと。しかし、彼が一番欲しいのは、人から好かれることだというのは明らかだ。(実際に会ってみると)彼は従順ではないにしても、チャーミングだったのは確かだ。しかし、それ以上に印象的だったのは、何もそこに衝突の種となるものがなかったことだ。彼には、ただ相手に自分のことを、気に入ってもらいたい、という願望しかなかった。恨みや妬みといったものは、彼の表層には現れてなかった。むしろ我々が彼に対して抱えている、恨みや妬みが彼のアドバンテージとなったのだ。結局のところ、彼の恨みではなく、私たちの恨みであったのだ。それがトランプ支持者たちを立ち上がらせて歓声の声を上げさせたのだ。私たちの反トランプ主義こそが、トランプ支持者たちに彼の名前を叫ばせたんだ」。

トランプは脅威ではない、少なくとも現時点は

「(彼がキャンペーン中に発言したことのうち)いくつかは間違いなく、本心なのだろうけれど、ほかの部分は信じていない。ほかの政治家たちと、何か違っている点があるか? それは私には分からない。メディア側が築き上げている『彼は脅威だ』という表現がある。私にすれば、どんな政治家もどんな大統領も潜在的に脅威となりえる。彼はそういう意味でほかの誰とも同じだ。彼が違うことを言っている、だから彼はより大きな脅威だと考えることはできる。しかし、何に対しての脅威なんだ? どういう意味で脅威なんだ?」

「私たちは危機的な状況にはいない。国は危機に直面してはいない。私たちは政治的に新しく、これまでと違う時期にいる。私の考えでは、これも民主主義という私たちの国の構造が抱えることができる範囲だ」。

メディアは基本的なことができていない

「いま求められているのは、メディアがメディアの仕事をすることだと思う。メディアは仕事をしてこなかった、そう私は深く感じている。メディアは自分たちの責任を放棄してしまい、自分自身をどこかに失ってしまった。いま、メディアがドナルド・トランプをニュース・ストーリーではなく脅威だと捉えているのは興味深い。ドナルド・トランプは、この時代最大のニュース・ストーリーなのにだ。従来通りの方法で伝えられるべきストーリーなのは確かだ。この人々は誰で、何が彼らのモチベーションとなっていて、彼らはどこから来て、どこへ行こうとしているのか、基本的なストーリーテリングの仕事だ」。

「この人たちが選挙に勝ったんだから、いまはそこに入って行って、あなたたちは誰なのですか、何を考えているんですかと聞くべきだと思う。いまはお互いに敵対するような時期ではない。それはもう終わってしまった。私が訊いた質問の数は、実際にすごく少ない。私はあなたは誰ですかと尋ねて、彼が答えて、そのメモを取っただけだ。速記者のようにあるべきだ。それはジャーナリズムの重要な一要素だ。(レポーターの意見は)私たちは聞きたくない。書き留めるんだ。ジャーナリストの役割は、力を保持している人の発言を運んで、それを知りたいと思っている人々のところへ届けることだ。ジャーナリズムという職業は、ジャーナリストでない人たちであふれかえる場所になってしまった。誰も彼もが25歳以下で、25歳以下と話しているだけだ。私のメッセージを届けさせて欲しい。速記者こそがあるべき姿なんだ」。

「トランプの言行を常態化させないようにする抵抗運動は、ただ構造的なバイアス(先入観)に過ぎない。私たち(メディアたち)はバイアスをもっていて、バイアスを抱えたままでいたい、自分たちが裁判官で陪審員なんだと、公に言っているようなものだ。この国は議員を選挙で選んでいるんだという事実を無視している。それだけだ。それは普通なんだ。普通であるべきなんだ。違いというのは常にある。権力にたどり着く方法やアプローチは誰もが違っている。これが正しいとか間違っていると言っているわけではない。この政権は、ほかのすべての政権と同じく、ある種の悲しみをもたらして終わることは確実だと感じている。しかし、いまこの瞬間は、彼らが選挙で勝ち、力を握った。彼らは彼らなんだ。いま選択すべき正しい態度は、立ち上がり、認めるでも認めないでもなく、ただ様子を見ることだ」。

Brian Morrissey(原文 / 訳:塚本 紺)

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