「メディア業界で今後1年以内に『血戦』が起きる」:Viceのシェーン・スミスCEOが予測

新興デジタルメディアグループ Vice Media の最高経営責任者(CEO)であるシェーン・スミス氏は、デジタルメディアに対して厳しい予測を立てている。
DIGIDAY日本版

新興デジタルメディアグループ Vice Media の最高経営責任者(CEO)であるシェーン・スミス氏は、デジタルメディアに対して厳しい予測を立てている。

スミス氏は去る5月19日、米出版大手ハースト・マガジンズ(Hearst Magazines)のデジタルメディア担当プレジデントであるトロイ・ヤング氏と、ハーストの「マスター・クラス(Master Class)」インタビューシリーズの一環で対談した。1時間におよぶ親しげな会話は、2人のルーツがカナダであることに最初は集中し、その後、業界の状況に話は移った。なお、注目すべきことにハーストは、米メディア企業A&Eネットワークス(A&E Networks)を通じてViceの株式を10%保有している。

スミス氏は、米メディア複合企業バイアコム(Viacom)が「体制崩壊」し、タイム・ワーナー(Time Warner)やフォックス(FOX)のようなほかのメディア企業でも、似たようなことが起きると見ていると述べた。「Viceは、最大の新興メディア企業だが、今後、第4位か第5位、場合によっては第3位(の主流メディア企業)になるだろう。この1年間に、デジタルやモバイル、地上波の分野で血戦を目にすることになるのは、誰もがわかっていることだと思う」。スミス氏のほかの発言を、わかりやすく少し編集して紹介する。

「ブラック企業」と批判されたViceのかつての労働文化について

裕福な家の出で、働かずにヒッピー風の怠惰な快楽生活を送る若者「トラスタファリアン(trustafarian)」にとっては、ブラック企業だった。

だから、そういう若者がウィリアムズバークやニューヨークで生活し、Viceで仕事をする時期があったが、そういった暮らしでお金を稼ぐことはできない。写真編集者志望の大卒者だとすると、同じような人間が800万人いて供給過剰だ。

Viceがトラスタファリアンのコミューンである時期もあった。いまは市場だ。生活は市場であり、ニューヨークも市場だ。Viceが市場以下なら、誰もViceに就職しない。

米ケーブル局HBO向けの新しいニュース番組を制作する件について

この番組をまかせる、ブルームバーグ(Bloomberg)出身のジョシュ・ティランジール氏は、殺し屋のような存在だ。「Vice News」は、世界一成長が速いニュースプラットフォームである。デュポン賞、ピーボディ賞、エミー賞を受賞したが、これらすべてを初年度に受賞したのは、信じられない偉業だろう。

だが、どうやってそれを次のレベルに引き上げるのか? どうやってCNNやBBCと対決するのか? そこで、ティランジール氏の出番だ。同氏は、大いに怒れる若者で、彼らの尻を蹴っ飛ばしたがっている。これは、彼の言葉ではなく、私の言葉だ。彼が「Vice News」を率いるのは、彼がアグレッシブで、世界最大の通信社を作りたがっているからだ。

Viceが毎日制作している7000本のコンテンツをどう見ているか

Viceがしていることについて、私が知らないことも多い。信頼する編集者とライターを配置しなければならない、というのが答えだ。Viceで働く者の大多数は、大学を卒業後すぐに入社し、奮起する。だから、各国にいるそれぞれのスタッフがViceの人間であり、ウチで働く連中のほとんどがViceの人間だということを知っている。

23歳の者が書くわけだから、私が気に入らなかったり同意できなかったりする記事もたくさんあるだろう。だが、それがブランドというものだ。もう「Viceイコール私」ではない。Viceブランドは、多くの声の総計だ。そして、Viceの最大の成功は、ブランドを刷新して、見習いに任せ、「さあ、取りかかってくれ」と伝えたことにあると思う。だから、不愉快なものやよくないものも、ときどきある。

開設したばかりのケーブルネットワーク「VICELAND」について

Viceのヒットは、現代という時代が産んだものだ。大麻をテーマに扱ったドキュメンタリー「ウィーディケット(Weediquette)」は、群を抜いてナンバーワンの番組だ。2番目はLGBTカルチャーを追う「ゲイケーション(Gaycation)」で、はじめてこの番組を観たときの私の感想は、『何だ、こいつは? 政治番組か? それとも旅行番組か?』というものだった。

それまで、類似番組が存在しなかったから、カテゴリーはないんだ。テレビ史上、こんな番組は制作されたことがなかった。もちろん、(視聴者層に)発言権がなかったから、このような番組ができたのだが、それでもうまくいった。Viceはわざわざ一から作り直そうとしているのではない。ミレニアルブランド化されたコンテンツを用意しようと言っているだけだ。

Viceには、米国の全ネットワークでナンバーワンのものがある。もっとも教養ある視聴者層に、もっとも豊かな視聴者層、そしていまは、もっとも速いペース(で若返るネットワーク)がある。実際、Viceはミレニアル世代をテレビに取り戻そうとしている。(視聴者の平均年齢は)54歳から42歳になり、現在は38歳で、低下していってる。低下するのがいいことである唯一のタイミングだ。

Viceにとっては、際立つ大きな成功だ。パートナーとハーストにとっても。Viceは、やると言ったことを実際にやりつつある。すでに金を稼いできた。ヒットもしている。

差し迫るメディアの体制崩壊について

デジタルやモバイル、地上波の分野で今後1年以内に血戦を目にすることになるのは、誰の目にも明らかなことだと思う。現在起きていることには、すべてブランドの金が絡んでいる。だから、人々は、サブスクリプションベースに移行しつつある。ブランドはブランドで、オーディエンス探しに移ろうとしている。

これは、いまの私にはお笑いぐさだ。(ハーストなど)誰もが、Viceにはオーディエンスを見つける場所があることを知っているのだから。

複数のプラットフォームに拡大するViceについて

常にすべての画面に存在していなければならない。また、それらの画面すべてとOTTプラットフォームをプログラムし、アドブロッカーやデジタルビデオレコーダー(DVR)があるので、さまざまな方法でそれをマネタイズする必要がある。

まるまる一世代が、宣伝はないが何をしても課金される広告とともに出現したので、こうした崩壊が生じて、エージェンシー、つまり、メディアを購入するエージェンシーやクリエイティブエージェンシーに影響し、ブランドやメディアなど皆に影響を及ぼしつつある。

仮想現実(VR)について

VRについては、かつてのHD(高精細度ビデオ)と同じようなものと見なしている。かつてのHDは、誰もがその方向に移行し、忽然と出現した。当時は、スポーツ番組が少々あるだけでコンテンツがない、そういうものだった。誰もがゲームに集中しているが、ニュースや料理、旅行、音楽にもうってつけだと私は思っている。

VRの世界に足を踏み入れると、これが未来だと思える。大手は、そのプラットフォームがどういうものであるかわかるだろうが、ものすごい量の高品質なVRコンテンツに対するとてつもなく大きな需要がある。Viceを除いて、そうしたコンテンツを誰も用意しないだろうから、私は大金を払ってもらえるだろう。

Facebookについて

これは、世界最大の問題だ。Facebookは、一切金を掛けずに、これまでに新興メディア企業の3分の2を買収してきた。そうした企業のモバイルの大部分を掌握しているからだ。これは、Facebookにとって素晴らしいことだが、企業のプラットフォームにとって悪いことだ。

だから、Viceは、すべてのプラットフォームを利用しようとしている。そうすれば、すべてのプラットフォームでマネタイズ可能で、Facebookの資産を回避できるからだ。

ほかの者は、別の会社に自分の明らかな運命を委ねようとしている。そうしたプラットフォームを利用していなければ死ぬが、そうしたプラットフォームを利用していても利益を上げられない。だから、そこが問題で、メディアが前進するうえでもっとも大きな課題になるだろう。

Jordan Valinsky(原文 / 訳:ガリレオ)

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