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カンヌライオンズ審査員 井口理が、今年のPRライオンズを斬る!

2014年06月27日 00時32分 JST | 更新 2014年08月25日 18時12分 JST

今年も盛況のうちに幕を閉じた「カンヌライオンズ」(場所:フランスカンヌ、期間:2014年6月15日~21日)。コミュニケーションに関わる仕事をしている人なら誰もがその名を耳にする、世界最大のクリエイティブフェスティバルだ。第61回目を迎えた2014年は「プロダクトデザイン部門」が新設され、全17部門に97カ国から37,427点のエントリーが集まった。今年はどんな審査基準で、どんな作品が評価されたのだろうか。新たな潮流は見えたのだろうか。

そこで今回はPR部門に注目し、2012年、2013年、2014年のカンヌライオンズPR部門日本審査員の3人に、現地から特別にレポートを寄せてもらった。「Road to Cannes」と題し、2回にわたってPRライオンズを大特集。第1回は、2012年のPRライオンズ審査員、井口理(電通パブリックリレーションズ)による「カンヌライオンズ2014に見る世界の潮流」をお届けする。

井口理が見たカンヌライオンズ2014

【Three Learnings from Cannes】

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今年のカンヌライオンズでは、相変わらずPRへの関心が高いようだ。まずは、今年初めて、PR会社がフェスティバルのオープニングプログラムを提供し、PR業界では話題となった。オープニングには、それなりに注目を集めるプログラムが選ばれるわけだが、今回この名誉あるポジションを得たのは米大手PR会社ゴリン社だった(元ゴリン・ハリス)。

一方、PRカテゴリのエントリー数についても盛況がうかがえる。他の老舗カテゴリに物理的な数では負けるものの、1年前と比較しての伸長率は相変わらずのトップとなっている。PRは今年1850件のエントリーを数え、42.7%の増加、続いてサイバー部門が39.3%、ブランデットコンテンツ&エンターテインメント部門が21.7%の増加となっている。PRやブランデットコンテンツといった類いは、やはりコンテンツマーケティングやストーリーテリングへの注力といった時代の流れを映し出しており、その導線としてサイバーなども同時に上昇しているのかもしれない。

そんな追い風の中、今年のカンヌライオンズPR部門での受賞作一連を見て、その傾向を探ってみるに、大きく3つのグループに括れるのではないかと思う。1つ目が、コーポレートブランディングへのフォーカス、2つ目が近年続くソーシャルグッドの流れ、そして最後がPR領域へのクリエイティブ要素の融合である。

①コーポレートブランディングへのフォーカス

今年グランプリを含むゴールド以上の受賞エントリーが14、重複受賞を除くと実際のエントリーは11にとどまる。もちろん、昨年のような「Dumb ways to die」的な圧倒的強者がいればここのベースエントリー数はさらに圧縮されるわけだが、今年はどうも重複受賞も少なかったようだ。

その中でグランプリを獲得したのが米国のメキシカンファストフードチェーンのチポトレ。「The scarecrow(かかし)」が紡ぎ出す物語は、行き過ぎた加工食品の工業製品化への警鐘と、自社使用食材の全面自然回帰への宣言で、さらにこれからの子供たちへの啓発を目指してモバイル、ゲームなどの手法を取り入れながら感情的なエンゲージメントを構築し、食育を試みている。

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◆Grand Prix

THE SCARECROW(CHIPOTLE MEXICAN GRILL/USA)

街の食品工場で働くカカシを主人公にしたショ-トムービーと、それをモチーフにしたiTunesのゲームなどを組み合わせた統合キャンペーン。これらを通して、自社使用食材の全面自然回帰を宣言すると共に、行き過ぎた加工食品の工業製品化への警鐘を鳴らした。

その他、ゴールド受賞の「This is wholesome(これは健全だ)」は、米国のクラシックなクラッカーの老舗Honey Maid社が、米国の進化する家庭像、つまり、同性愛者、異人種間婚姻、シングルファーザーの家庭など、いまだにアメリカ社会でも物議をかもす価値観を「健全だ」と肯定し、自らのブランドも進化していることをアピールしたキャンペーン。単にダイバーシティを支持するような単純なキャンペーンではない。リスクを避けるようアドバイスするのが仕事だと思っているPR会社が多い中、通常であればクライアントにやめるよう忠告するような広告を、このキャンペーンではあえて出していった。その後の対応を見ていると、保守派らからの当然くるべき反論も予め想定されていたことがうかがわれる。そしてそれらの反論をクリエイティブな方法でみごとにさばいてみせたのである。

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◆Gold

THIS IS WHOLESOME(HONEY MAID/USA)

伝統的な全粒クラッカーのブランドイメージ刷新のためのキャンペーン。現代のリアルな家族像として、同性婚の家族や異人種婚、シングル・ファーザーの家族などをフォーカスした、TVとオンラインのドキュメンタリーを制作。それに対し、批判的メッセージが多数集まったが、それを「LOVE」メッセージに変える映像を作成し、広く深い共感を得た。

それ以外にもVOLVOが特徴的なUSP(Unique selling point)を独特の実証実験で明らかにしていく連続シリーズなど、企業の事業領域のど真ん中に立ち戻ってその覚悟や姿勢を宣言するものが多かったように思える。製品の比較優位点を単に伝えるのではなく、そこへの注力姿勢を力強く宣言し、他のどの企業にも負けない価値を提供していくという覚悟が生活者の共感を生み出しているのだろう。

実は私がPRカテゴリの審査員をした2012年のフィルム部門のグランプリが、表現は変われども、まさにチポトレと同内容のものだった。そのような企業の社会的存在意義を真正面から宣言していくCMが、これまで広告的なエッジーさを追い求めていたフィルム部門でグランプリを獲るとは何が起こっているのか?と思ったのだが、今年はこのようなクリエイティブ的キャンペーンがPR部門の方でトップを獲ったわけである。しかも、PR部門で初めてPR専門会社がグランプリを獲ったというのだから感慨もひとしおだ。

このような企業メッセージを継続的に強く訴えていくやり方は、ここ数年続いているP&Gの「Thank You, MOM」キャンペーンや、昨年のDoveの「Real Beauty Sketches」キャンペーンといったところで強く継承されており、今後も続くであろう。

②ソーシャルグッドもまだまだ続く

上記の企業メッセージにも「世界を、社会をよくする企業」としてのメッセージがあり、そこに生活者が「いいね!」と言っているわけで、いわゆる「ソーシャルグッド」への傾倒と言えるかもしれない。一方で、誰もが「それはひどいね」と思う社会課題に対して、解決策を提示するのが「ソーシャルグッド」系の王道で、今年もそのエントリーは数多く見られた。トレンドを捉えてのエントリー数の増加かもしれないが、私の印象では、おおよそ3割ぐらいはそのあたりの文言が資料に盛り込まれていたような気がする。

中身は、大きくは政治的な話であったり、また日常生活における細かな不具合であったりを解決しようとするもの。誰もがそこに「ノー」とは言えない雰囲気があるが、さらにその解決策にひとヒネリ効いているものがやはり評価されている。インターネット法によって、許可のないニュースは最大4時間で削除しなければならないことを逆手に4時間で自動的にニュースが消えていく仕組みとした「The fading news」、小児性愛者摘発のためのフルCG少女を使った「Sweetie」(※これは、Grand Prix for Goodを受賞)など。先に触れたサイバー的な技術が盛り込まれたものがゴールドに残ったようだ。

③PR領域でのクリエイティブの融合

そして最後が、PRキャンペーンにクリエイティブが融合した各種エントリー。私がPRカテゴリの審査員をした2年前に審査委員長だったWeber Shandwickのゲイル・ハイマンは、PR会社がグランプリを獲れないことについて「我々もより生活者を魅了するような、クリエイティブをも包含したキャンペーンを仕掛けるべき」と言っていた。まさに今年はそれが実現している年で、今年のPRライオンズの審査員長を務めた大手PR会社MSL GROUPのRenee Wilsonも「The scarecrow(かかし)」およびグランプリで接戦となったVOLVOの「Live Test Series」はいずれもインテグレテッドキャンペーンであったと言及している。チポトレは、PR会社とクリエイティブブティックが、アカデミー賞を受賞したアニメーション制作スタジオと組んだキャンペーンとなっているし、Honey Maid社の「This is wholesome(これは健全だ)」では、米大手PR会社Weber Shandwickが、ショッキングな広告に対する"嫌悪感"を"愛"に変えるというアイデアを、これまた破竹の勢いのクリエイティブエージェンシー、Droga5とガッツリ組んで実現した。ちなみに、VOLVOはどうなのよ?と言われそうだが、ここにも実はVolvo trucks public relationsというハウスエージェンシーがきっちり入ってやっていることを共有しておきたい。

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◆Gold

LIVE TEST SERIES(VOLVO TRUCKS/スウェーデン)

ボルボトラックの5つの新モデルローンチのキャンペーン。頑強性や操作性、ステアリングなど各モデルの新機能を訴求する5つのテストを映像化し、公開。YouTube再生回数1億回を超え、トラックバイヤー間での購買検討機会も46%増加した。

これらの状況を鑑みるに、今後ますます、PR領域でのクリエイティブの活用事例が増えると共に、またクリエイティブ・パーソンにおけるPRの有効活用の模索にも拍車がかかるに違いないだろう。

■井口理(いのくち ただし)プロフィール

株式会社電通パブリックリレーションズ

PRプランナー

1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。PRコンテンツ創出を起点とした戦略PRの事例多数。受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、Asia Pacific SABRE Award等。実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

(2014年6月26日「週刊?!イザワの目」より転載)