朝日新聞記者に逆取材!アラサー記者たちが挑戦するオールドメディアからの脱却

新聞離れ。スマートフォン時代に突入し、その現象は若者だけでなく世代を超えて急速に広がっています。そんななか、老舗メディアの代表とも言える、朝日新聞が新たな取り組みを始めています。

新聞離れ。スマートフォン時代に突入し、その現象は若者だけでなく世代を超えて急速に広がっています。そんななか、老舗メディアの代表とも言える、朝日新聞が新たな取り組みを始めています。新聞を読んでほしいと押しつけるわけじゃない。でもせめて、生活者にとってニュースが身近なものであってほしい。奮闘するアラサー記者たちの取り組みを取材しました。

生き残れない危機感

7月22日、朝日新聞が、ユーザーと一緒にコンテンツを作る双方向型ニュースサイト「withnews(ウニュ)」(http://withnews.jp)を本格稼働させた。ユーザーから取材リクエストを受け、朝日新聞の記者が取材して記事化する「取材リクエスト」や、ネット上で盛り上がっている話題をさらに「深掘り」するコンテンツが売りだ。新聞社が運営するサイトでありながら、すべてのニュースを網羅的に取り上げるわけではない。あくまでネットユーザーの琴線に触れるかどうかの「切り口」や、「面白さ」の有無が掲載の基準だという。

「例えばTPP。ネット上だと、アニメ規制につながるのでは、という声があります。でも朝日新聞本紙だったら、そういう視点にはならない。本紙で追っているのとはまったく違う世界がそこにはあるんです」とwithnews編集部の奥山晶二郎さん(36)は話す。

本紙で報じる場合、紙面には限りがあり、「なぜ今日その話題を取り上げるのか」という意味付けが求められる。withnewsはそれに縛られない。これまで、朝日新聞という型に合わせ、取材対象や見出しの表現が限られていたが、それも取っ払った。世の中の話題に寄り添って刺激をたくさん受けないと「媒体として生き残っていけない」という危機感が、新しいサイトを立ち上げる原動力になったという。

本格運用を開始した7/22の「withnews」スマホ版TOPページ

取材力を生かした"まとめ"

構想期間は1年。新聞離れに危機感を抱く経営層から新しい読者へのリーチをテーマに「なんでもいいから考えてみてほしい」と、ディスカッションを重ねたことを機に、デジタルを中心に部門を超えたチームで構想を練った。旅行やイベント企画などゼロベースで検討を重ねたが、最終的には「全国に人を配置した取材力」という自分たちの得意技を生かした企画が生まれた。

それがwithnewsだ。ネーミングには、ユーザーと一緒にコンテンツを作っていく、という媒体方針と、ユーザーにとって、ニュースが身近な存在になってほしいという願いが込められている。

イメージしたのは「まとめサイト」。NAVERまとめのパクリと言われるのは自覚していたが、今の生活者にとって「まとめという手法は避けて通れない」と思った。ネット上の既存情報だけでなく、取材で情報を追加したり、きちんと裏どりすることで、一般ユーザーの作るまとめコンテンツとの差別化を図る。

これまでの人気コンテンツは、7月に亡くなった「未来工業」創業者の山田昭男さんのエピソードや発言をまとめて、即日配信した「『日本一休みが多い会社』『創業以来赤字なし』 異能の経営者、死去」や、取材リクエストに応えて、ツイッターで話題になった画像の真相を探った「【取材しました】ハイテクロボ大量廃棄 阪大『修理できず...』」など。やはり、速報ニュースに関連したものはヒットしやすかった。また一方で、ロボットの記事では、ネット上の「噂」について当事者に取材をして真偽を確かめることの「需要」も発見できた。

「同じテーマであっても、テレビの主音声と副音声みたいなもの。棲み分けはできる」と奥山さん。速報ニュースをテーマにしたネットでバズりやすい切り口はもちろん、実験的なテーマにも積極的にチャレンジしていきたいという。

現場で判断、フラットな組織

サイトの改修、運用の変更などは、現場の部員同士で意見を出し合い、その場で決めている。日常のやり取りは主にハングアウトを使う。思いついたことはすぐに試し、ダメだったらその日のうちに撤退する。チームはあくまでフラットな関係だ。新聞社としては異色の集団とも言える。

「社内改革という側面もあるんです」と奥山さん。「我々が記事を書くということは、つきつめれば大事な事を伝える、ということ。紙だけである必要はなく、紙とデジタルの両方をやればいい。これまでのやり方に固執せず、こんなこともできるんだ、という可能性を社内にも社外にも見せていきたい」。目標も志も高いが、あくまで口ぶりは軽やかだ。

左から、経済部・野上英文さん(@Hi_noga3)、withnews編集部・奥山晶二郎さん(@o98mas)、経済部・平井恵美さん(@hiraiemi8)

多面展開くどい

もっと新聞を、ニュースを、身近に。この思いは、withnews編集部だけのものではない。朝日新聞経済部では、入社5年目から12年目までのアラサー記者10人が、「若手PT(プロジェクトチーム)」と称して立ち上がり、新たな取り組みを始めている。

「同世代の友人らが新聞を読んでいないことに危機感があった」と記者9年目でPTリーダーの平井恵美さん(32)は話す。朝日新聞は今年からコア読者であるシニア向けの企画を充実させたが、若者へのアプローチはあまり進んでいない。経済部の若手記者の間には、朝日新聞の将来に対する漠然とした不安が広がったという。そこで有志を募って同プロジェクトを立ち上げた。ミッションは自分たちと同世代、アラサーを中心とした若手ファンの育成だ。

まず取り組んだのは、紙の新聞で何が読まれていて、何が読まれてないかを知るための実読調査。3日分の新聞を自分たちの同世代の友人らに配るなどし、読んだ記事、読まなかった記事に印をつけてもらい、その理由を詳しく聞いて回った。

その結果、衝撃的な事実が浮かび上がった。新聞の目玉である「特ダネ」は「難しそうだし、自分には関係ない」「それよりもみんなが知っているニュースが知りたい」。重要なテーマを2~3面にまたがって報道する「多面展開」は「くどい」。数行でまとめられた「短信記事」は「それって重要じゃないんでしょ」。新聞という特性上、その日に知っておいてもらいたい記事を網羅的にパッケージにして届けるが、「特徴が分かりづらい幕の内弁当は好まれていない」(平井さん)とも感じた。

一方、ニュースに興味がないわけではないこともわかった。「何かを知りたいと思う欲求はあった。自分に関係があると思わせる自分ゴト化や、情報の届け方の工夫が大切だと知った」とPT最年長で記者12年目の野上英文さん(33)。

本紙にはシニアを中心とした既存の読者がついているため、紙面の大転換は難しい。ネットを使って何かできないかと検討を重ねていたところに、withnewsの立ち上げ話を耳にした。活用しない手はない。所属部署を超えてwithnewsのコンテンツ作りに協力することを決めた。

捨てていた情報が生きる

同時に、メンバー全員がTwitterのアカウントを取得。所属や本名を明かし、取材や情報発信に活用できるようにした。

Twitterとwithnewsが生きる機会はすぐに訪れた。6月、恒例の株主総会。記者は配置するが、よほど注目のトピックスがなければ、その内容だけが報道されることはあまりない。そこで、紙面にはならないがせっかく取材に行っているのだからと、ソフトバンクの株主総会で、株主と孫正義社長との主要なやりとりをつぶやいた。そこで興味深いやりとりが生まれた。

「コマーシャル、以前は温かい内容だったが、最近は『1番、1番』と謙虚さに欠けるのでは」とある株主が孫社長に指摘したのに対し、孫社長が「いま反省しました」と答えた。この模様を伝えた記者のつぶやきは、106リツイートされ、結局、その日の朝日新聞デジタルの記事に発展した。若手PTとして、Twitterと記事が連動した初めての事例だった。

withnewsでは、携帯電話会社3社、ソフトバンク、ドコモ、auの株主総会のお土産についてのまとめ記事を出し、好反響を得た。「日ごろ取材をして得ている情報のなかには、『紙には載らない』と、捨てている情報がすごくたくさんある。それが、Twitterやwithnewsだと生きることもある」(野上さん)。それがわかった瞬間だった。

SNSで紙面に呼び込む

TwitterやwithnewsだけでなくYoutubeも活用し、あらゆる情報流通経路を駆使して、紙面に同世代読者を誘導する取り組みにもチャレンジ中だ。若手PTは、7月16日の夕刊1面で「エクストリーム出社」を特集した。この取材では、紙面に掲載される前からTwitterやYoutube動画で取材していることを告知する異例の取材を試みた。

当日朝も現場で記者が6秒動画「Vine」で次々に動画をアップ。夕刊とは違った切り口で、withnewsで2本のまとめ記事と、Youtubeの動画を配信した。本紙の実購買数が伸びたかどうかは把握できていないが、朝日デジタルに転載された同記事は4万件以上のアクセスがあり、手ごたえを感じている。

「取材の成果である記事に触れてもらえるのは、朝日新聞という看板がかかっている表玄関から入ってきている人だけだった。そもそも紙面にどういうニュースが掲載されるか知られていないし、紙面が出るまでにタイムラグもある。その差をSNSなどのツールを使って埋めていきたい」と野上さん。SNSなどに出ていき、入口を増やすことで、同世代のファン形成につながる可能性を感じている。

オールドメディアのままでない

「あくまで、日々の紙面を作ることが本業。ただ、古典的なスキームに捉われず、若手PTで新しい事にいろいろ挑戦してみてわかった世界がある」と平井さん。朝日新聞は、一般紙の中でも、Twitter、Youtube、withnewsなど新しいメディアを社員に積極的に開放している。

強みを最大限生かして、「新聞がオールドメディアと呼ばれて終わらないための実験を続けたい。今のシニア層で朝日新聞を信頼してくれている人がいるように、同世代からも自分たちの発信するニュースを信頼し、求めてもらえるように努力したい」と野上さんは語る。

紙メディアの部数減は日本だけの問題じゃなく、世界中のメディアが抱える課題。テーマは深刻で目指す姿は壮大だが、アラサー記者たちがかける思いは熱い。日々の紙面を作るという本業以外の仕事は増え、負担も決して軽くないが、危機感を原動力に変え、今日も記者Twitterでつぶやいている。

(原稿:イザワ)

(2014年8月7日「週刊?!イザワの目」より転載)

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