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カンヌライオンズ受賞作から探るコンテンツマーケティング

2014年08月29日 14時57分 JST | 更新 2014年10月27日 18時12分 JST

以前ご紹介した電通iPR局と電通パブリックリレーションズによるコンテンツマーケティング本翻訳チームが、新しい翻訳本を刊行しました。

6月23日に上梓された、『エピック・コンテンツマーケティング~顧客を呼び込む最強コンテンツの教科書』は、タイトルにもあるように、前作と比べより実践的な「教科書」に近い内容。翻訳チームを代表して、電通iPR局 iクリエーティブ部 部長 郡司晶子(ぐんじ・あきこ)さん、同局ソーシャルリスニング部 長尾千登勢(ながお・ちとせ)さんに話を伺いました。

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「エピック・コンテンツマーケティング~顧客を呼び込む最強コンテンツの教科書」の翻訳チーム

左から四宮 拓真さん(iPR局コミュニティマネジメント部)、郡司 晶子さん(同局iクリエーティブ部 部長)、石井 裕太さん(電通PR)、大川 淳子さん(同局コミュニティマネジメント部プランニングディレクター)、坂井 政文さん(同局iリレーションズ部)、長尾 千登勢さん(同局ソーシャルリスニング部)

ロックスターであることを示す

そもそも、コンテンツマーケティングとはなんだろうか。最近では、バイラルムービーのヒットなどから、動画などを使った新しい自社コンテンツを作ることだと理解されていることが多いが、これは手法の一つにすぎない。

本の中では簡潔な説明として、「世界に向かって『わたしはロックスターだ』と言い続けるのが、これまでのマーケティングや広告だった。ただ言うのではなく、あなたがロックスターであることを世界に向かって『示す』のがコンテンツマーケティングだ」と紹介されている。概念的ではあるが、わかりやすい例えだ。

より実践的な説明としては、「生活者がどんな情報を必要としているかを把握し、適切で価値ある情報をその人が欲しいタイミングで届けるようにすること。さらには、適切なタイミングで届けられるように情報をあらかじめ作っておくこと。その結果、態度変容を促し、最終的に購買や購入後のエンゲージメントまでつなげること」だと郡司氏は語る。ここでコンテンツが「情報」と言い換えられていることに気づく。そう、コンテンツとは、生活者にとって有益で説得力のある情報全てを指すのだ。ムービーやブログ、ホワイトペーパー、あるいはゲームのようなエンターテインメント要素の強いものなど、さまざまなアウトプットの形はあるが、それは、「場合に応じて、一番適切な形を選択している」(郡司氏)に過ぎない。重要なのは、「アクションを起こさせるのがコンテンツマーケティングの目的なので、どういうアクションを起こさせたいのか逆算してコンテンツを作ること」だと長尾氏は語る。

つまり、コンテンツマーケティングとは、生活者が、その企業のビジネスにとってプラスになる行動を起こさせるために作られた「情報」を使ったコミュニケーション、ということになる。

19世紀に誕生。今改めて注目

こうした考え方は決して新しい考え方ではない。古くは、19世紀、世界で最も有名な農機具メーカー、ディア&カンパニーが創刊した「ファロウ」という雑誌に始まり、日本では、無印良品がここ10年くらいかけて行っている生活者からのリクエストを受け付けて商品化する活動などもコンテンツマーケティングと言える。

デジタル時代になり、スマホが浸透し、情報を欲しいと思う時間や情報を届けられる時間が24時間・365日体制になったことや、リッチコンテンツを比較的容易に制作できる環境が整ったことが、今、改めてコンテンツマーケティングが注目されている理由だ。これは世界的傾向で、今年のカンヌライオンズにおいても、コンテンツマーケティングの要素を取り入れたエントリーが数多く見られた。

目指すは専門性

例えば、VOLVOの「LIVE TEST SERIES」(サイバー部門グランプリ、PR部門ゴールド他多数受賞)は、まさに今の時代らしいコンテンツマーケティングだと長尾氏は話す。新しいトラックの性能を訴えるために、ジャン・クロード・バンダムの股割りやハムスターによる運転など、見ていて単純におもしろいと思える映像や圧倒されるような映像を駆使して生みだしたアイデアもさることながら、コンテンツマーケティング的には「長期間訴え続けたことが重要な要素」(長尾氏)。手を替え品を替え、コンテンツを提供し続けたことで、「VOLVOのコンテンツがしばしばSNS上に登場するようになり、そのことによって初めて見た人がその他のVOLVOコンテンツを見る、という流れも生まれた」という。

チタニウム&インテグレーテッド部門グランプリなど8部門で15の賞を獲得した本田技研工業の「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」にもコンテンツマーケティングの要素が見えると長尾氏は話す。「本田は過去から蓄積があり、『The Power of Dreams』のようなメッセージを継続的に発信し続けてきた。今回の受賞作は、万人受けするコンテンツではなかったかもしれないが、刺さる人には非常に深く刺さる。ある人が欲しい情報を適切に届けるという意味で、非常にコンテンツマーケティング的」(長尾氏)。郡司氏も「コンテンツは積み重なるとストーリーが生まれて深く伝わるようになる。しかも良いものは時空を超えて何度も見られる、つまり資産になる」と語る。

万人受けするコンテンツを作成するのが正解ではなく、他にはない専門性があり、需要があるコンテンツであればいいコンテンツとなり得る。それを中長期的に繰り返し、積み重ねることで、企業への共感を構築し、購買活動へとブリッジさせる。それこそがまさにコンテンツマーケティングの目指すところなのだ。

コンテンツマーケティングは漢方薬

カンヌライオンズなど、コンテンツマーケティングの成功事例を目にすることが増えたことで、ぜひ実施したいという相談が後を絶たないという。実施する上ではどのようなことに注意すべきなのだろうか。

「大切なのは、試しにやってみてうまくいかなかったからといってすぐにやめないこと。1年やれば『ここで話題になった』『ここではこういう反応があった』といったさまざまなヒントが見えてくる。長いスパンで考えることが大切」と郡司氏は力強く話す。

長尾氏によれば、「コンテンツマーケティングは漢方薬」で「キャンペーンは注射のようなもの」。注射は特効薬にはなるが、根本的な解決にはならないことのほうが多い。一方で、コンテンツマーケティングは時間がかかるかもしれないが、深く根本的な解決につながるという。

デリバリーが大切

一方、単にコンテンツを作り続ければいいわけでもない。いいコンテンツを作っただけにとどまっていては、そのコンテンツは広まらないからだ。

「今はコンテンツが世の中にあふれていて、見つけてもらうハードルが非常に高い。どのようなコンテンツを作ればいいのかという点に目が行きがちだが、どうデリバリーしていくかが同じくらい大切」(長尾氏)。デリバリーには、プッシュして送り出す方法もあるし、自社メディアを充実させていく手法もあるが、最初にPR的手法を含め、あらゆる手法を使って"いいコンテンツを発信する"というレピュテーションを獲得することが重要だという。「一度、いいレピュテーションを獲得してしまえば、コンテンツは広がりやすくなるし、いずれは生活者が自ら探して見に来てくれるようになる」(郡司氏)からだ。

大企業だけのものではない

優れたコンテンツを継続的に発信し続けるというと、コンテンツマーケティングは人員的にも予算的にも余裕のある大企業のものでは、という指摘や、生活者が馴染みやすいBtoC企業のものでは、という疑問もある。しかし、そうではないと郡司氏は語る。「コンテンツをエンターテインメントという観点で捉えると、BtoCに限られてしまうが、その情報が欲しいと思っている人にきちんと届く方法で情報を作り、届けることさえできれば、業種は問わない。挑戦しやすい環境が整った今こそ、幅広い分野の企業にトライしてほしい」(郡司氏)。まずは教科書と銘打つ、本書を読むことから始めてみてはいかがだろうか。

(原稿:サワム、モリ、ホソダ)

(2014年8月28日「週刊?!イザワの目」より転載)