DECODED FASHION ファッション×テクノロジーの出会いに迫る

「DECODED FASHION」をご存じだろうか。2011年の設立以降、ファッションとテクノロジーをつなぐ懸け橋として、ニューヨークやロンドン、ミラノなど世界12カ国で開催されているサミットである。

「DECODED FASHION」をご存じだろうか。2011年の設立以降、ファッションとテクノロジーをつなぐ懸け橋として、ニューヨークやロンドン、ミラノなど世界12カ国で開催されているサミットである。今回そんな「DECODED FASHION」がコンデナスト・ジャパンのもと、2015年7月9日に日本初上陸を果たした。最もアナログな業界といわれてきたファッション業界と、最もファッションからほど遠いといわれてきたテック業界。この2つが出会ったら何が起こるのか。その真相を垣間見る。

◆コンデナスト・ジャパンがファッションに懸ける思い

コンデナスト・ジャパン社長 北田淳氏

「直感的に、このイベントは東京でやるべき、そして、それはうち(=コンデナスト・ジャパン)がリードすべきと思った」――。

コンデナスト・ジャパン社長である北田淳氏は、ウェルカムスピーチでこう言った。これまで、DECODED FASHIONを知らなかったという北田氏。コンデナスト・ジャパンが発行する雑誌『WIRED』が特集を企画したことをきっかけにDECODED FASHIONを知り、直感的にコンデナスト・ジャパンがやらなければならないと感じたそうだ。

ファッション業界を取り巻く環境は激変している。移ろいやすい顧客ニーズ、多様化するコミュニケーション手法、デジタルとリアルの融合・・・。ファッション業界はテック業界を知らないとまずいとわかっていながらも、両者の間に立ちはだかる壁は大きい。

そんな中、コンデナスト・ジャパンというマルチメディアカンパニーが、リズ・バセラー氏率いるDECODED FASHIONとパートナーシップを結ぶことによって、ファッション業界に新しい風を吹かせることができるのではないかと、北田氏は語る。コンデナスト・ジャパンによって提供されたファッションとテクノロジーの出会いの場。そしてコンデナスト・ジャパンにとってもチャレンジとなる今回のサミット。北田氏の思惑通り、素晴らしい出会いが生まれる場となった。

DECODED FASHION創設者 リズ・バセラー氏

今回のイベントでは、DECODED FASHIONの創設者であるリズ・バセラー氏、米グーグルのファッション部門トップであるリサ・グリーン氏、スタイラスのリテール部門トップであるケイティ・バロン氏など、世界各国からファッション業界とテック業界の著名人を招いてセッションが開催された。他にも、三越伊勢丹のスタートアップ・コンペティションやパネルディスカッションなど、盛りだくさんの内容となったDECODED FASHION。その中でも際立ったセッションを以下に紹介したい。

◆スタートアップ・ストーリー Olapic共同創設者 ホセ・デ・カボ氏

Olapic共同創設者 ホセ・デ・カボ氏

Olapicというプラットフォームは、ユーザーが投稿したソーシャルメディア上の画像を収集して、各ブランドに最適な商品の使用例を写真として提供する。淡白な白い背景の商品画像ではなく、実際にユーザーが使用した写真をブランド側に提供することで、リアルなイメージを消費者にもたせることができるとともに、消費者と一緒にブランドイメージを形成できることでも魅力的なシステムだ。

Olapicができたのは、ファッション業界の人と会話すると返ってくるひとつの答えがきっかけだった。それは、"コンテンツに問題がある"ということだ。実際に写真やビデオでお客さんが要求しているものをどのように活用したらいいのかわからない。時間もかかるしお金もかかる。うまくいくかどうかもわからない。そこでホセ・デ・カボ氏が提案したのが、UGC(User-Generated Contents=Webサイトのユーザーによって制作・生成されたコンテンツ)を利用したらどうかということだ。スマートフォンの普及と年々高まりをみせる写真撮影の需要を利用したグッドアイデアだ。消費者が自ら生み出す膨大な数のコンテンツを利用することで、ブランドはソーシャルウェブのコンテンツに入り込むことができ、信憑性のあるコンテンツを提供することができたのだ。これにより、店頭と同じインスピレーションベースの購入ができるようになり、コンテンツとショッピング体験をつなぐことができた。

リズ・バセラー氏からDECODED FASHIONがファッションとテクノロジーのハッカソンであると聞いたとき、自分が参加することに違和感を覚えたが、参加してみて大成功だったとホセ・デ・カボ氏はいう。一見かけ離れた世界の融合が、イノベーションを生み出した絶好の例だろう。

◆三越伊勢丹スタートアップ・コンペティション

会場では以下の3つの課題に対するソリューションを提案するためのコンペティションが行われた。

応募者の中から一次審査を勝ち進んだスタートアップ5社が専門家にプレゼンした。勝者は、『VOGUE JAPAN』『GQ JAPAN』『WIRED』に取り上げられ、8月に東京で開催される三越伊勢丹グループによる「彩り祭」の場で、アイデアを発表する機会を与えられる。

今回のコンペティションで、与えられた課題は以下の3点だ。

1, 店舗体験をどうやって将来の消費者のために構築していくか

2, サービスを高めるためにデータをどう使うべきか

3, イノベーションを起こすために先端テクノロジーをどうやって使っていくか

そして、お客様が店内でカスタマイズ体験をするためにはどうしたらいいか

審査員には、北川達也氏(三越伊勢丹ホールディングス秘書室付き特命担当)、北田淳氏(コンデナスト・ジャパン社長)、鈴木正文氏(『GQ JAPAN』編集長)、西村真里子氏(ハートキャッチ共同創設者兼CEO)を迎え、4分間プレゼン4分間質疑応答の計8分間にわたる白熱の戦いが行われた。今回は、特別に2位と3位が用意されるレベルの高い争いとなった。その上位3案を紹介する。

(左から)Salvador Nissi Vilcovsky氏、Aaron Rowley氏、岡田陽介氏

1位★Memomi -Salvador Nissi Vilcovsky氏

カスタマーエクスペリエンスという点で最も優れていたことで1位を獲得したMemomi。Memomiのミッションは初のデジタルミラープラットフォームを作ることだ。これにより、店内でのショッピング経験が測定可能になった。まずはじめに8秒間デジタルミラーの前に立ち録画することで、すべての角度から自分のスタイルを確認でき、いろいろな色の服をリアルタイムで比較できる。また、モバイル性も備えており、友達や家族に自分のスタイルをシェアすることで、離れていながらもアドバイスをもらえる世界が実現した。他にも、新しい洋服のレコメンドをもらえたり、服のカラーチェンジが行えたりと、簡単に試着体験ができるようになった。

2位★ELECTROLOOM -Aaron Rowley氏

"わたしの見たい将来を見せてくれた、想像力を刺激された"と評価されたELECTROLOOM。『GQ JAPAN』のWebに紹介してもらえる、伊勢丹に展示ブースを作るなどの特典も得られる結果となった。原材料から始まるClothingの工程に興味を持ったことから、ELECTROROOMは創設された。たくさんのエネルギーやステップが衣類生産の途中で無駄になっている中で、テキスタイルの生産段階からデザインスタイルを最初から見直そうというのがAaron Rowley氏の提案だ。3Dプリントにおいて柔軟なELECTROROOMは、短時間低コストでデザインから生産までを可能にする非常に効率的なシステムだ。

3位★ABEJA -岡田陽介氏

どこにでもあるカメラをイノベーティブなアイデアで顔認識装置に変えたと評価を受けたABEJA。『WIRED』の編集長・若林恵氏に執筆してもらえるという特典を得られた。顔の画像から年齢・性別を認識したり、ヒートマップで店舗内行動を把握することで、店舗内のボトルネックを明確化するサービスを提案。在庫やスタッフの最適化が功を奏し、売り上げも20%アップしたという実績をあげている。顔認識によって世界最強の"おもてなし"を実現した。

優勝者を囲んで撮影

◆展示の様子

インスピレーションとヒントに満ちたパネルディスカッションは、ファッションとテクノロジーが出会う場となり非常に盛り上がりを見せていた。

Pepperが迎えてくれる仮想店舗

接客も上手

似合う服やおすすめの服を提案してくれる

企業ブースは、ファッション×テクノロジーの出会いの場として賑わいを見せていた。

コンペティションで見事優勝を果たしたMemomi

来場者も興味津々

いい出会いがたくさんあった

今回、コンデナスト・ジャパンのもと、アジアで初開催されたDECODED FASHION。コンデナスト・ジャパンの思惑通り、たくさんの出会いが生まれる場となり、大成功で幕を閉じた。今回生まれたたくさんの出会いのもとに、新たなイノベーションが生まれることは間違いない。

(取材・文:山下千絵 写真:オフィシャル、山下千絵)

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