楽天イーグルスに学べ!スポーツ広報に見るファンづくりのカギとは?

東北楽天ゴールデンイーグルス創成期の立役者、同球団の元広報であり、現・一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 戦略広報チームの西村亮氏に、「スポーツ広報成功の秘訣」を伺いました。

待ちに待ったFIFAワールドカップ2014ブラジル大会がいよいよ開幕。日本代表、SAMURAI BLUEは事前の強化試合で連勝し、人気も期待も絶好調。そう、スポーツの話題化には、その競技やチームの「強さ」は欠かせない。しかし、強いだけでも話題や人気は続かないから難しい。人々から愛される競技やチームになるにはどうしたらいいのだろう。

そこで、東北楽天ゴールデンイーグルス創成期の立役者、同球団の元広報であり、現・一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 戦略広報チームの西村亮氏に、「スポーツ広報成功の秘訣」を伺いました。

■まず社会的認知、次に好意形成

継続的に話題化させるには、広報上手であることが欠かせない。では、広報上手なチームや競技になるためには一体どのようなことに気をつけていかねばならないのだろうか。西村氏曰く、スポーツ広報を成功させるためには、大きく2つの段階があるという。

第1段階は『社会的認知度を上げること』だ。これが一番時間と労力がかかるが、とても重要なポイントである。では、どのようにすれば、社会的認知度を上げることができるのだろうか。それは「PRのチャンスを逃がさないこと」だと西村氏は言う。何もきっかけが無い状況では認知度を上げることは極めて難しい。そこで、西村氏は「代表戦優勝などの盛り上がりがあれば、まずはそのおいしいタイミングに乗っかることが重要。その上で、先を見据えた広報戦略を立てて取り組むことが大切」と言及する。どの競技にも、大なり小なり、必ず代表戦など、自然と話題が盛り上がるタイミングがある。その機を逃さずに、取り組むことだ。話題になった選手がチームにいるのであれば、そのような選手をチームの顔として積極的にチームのために活用し、社会的認知度向上に向けて活用することが、とても大切である。

社会的認知度が上がった次の段階で大切なことは、『好意を獲得する=FANづくり』だ。認知度がある程度上がったら、今度は知っているだけではなく、好きになってもらうためにイメージメイキングをすることが大切である。「好感の得られるイメージを作り上げることが大切」だと西村氏は言う。では、どのようなポイントを押さえれば、好感の得られるイメージを作ることができるのだろうか。

■好感度アップのための3つのこと

1つ目のポイントは『地域密着』である。「いかに地域に溶け込み、地域に密着し、地元の人に熱烈に愛されるチームや競技になれるかどうかが大きな鍵となる」と西村氏は語る。この点は特に、地元色の強いクラブチームにとっては、チームを経営する上でもとても大切なことである。「我々はこの地域に骨を埋める覚悟である、ということを、地元の人々に信じてもらわなければならない。そうでなければ、本当の意味で地域密着とは言えない」と西村氏は言う。経営陣、選手、スタッフなど球団に関わる人全員が、『積極的に地域密着する』という意志のもと、日頃からファンとの交流を大切にし、地元の人の懐に入り込み、応援したくなるチームになることが大切である。

2つ目のポイントは『ネタを提供し続けること』だ。もちろん、「スポーツの世界で試合に勝るネタはない。試合というネタは、『1回しかない』『その場でしか味わえない』『勝つか負けるか、何が起こるか分からないドラマチック』という要素がある。これがスポーツの醍醐味で、これ以上に人を魅了するコンテンツ(ネタ)は無い」と西村氏は言う。しかし、試合はアンコントローラブル。勝つか負けるか、その時まで分からないので、常に良いニュースばかりを発信できるとは限らない。ある時は不本意な見出しで叩かれる可能性も高い。そのためにも、「試合以外の負けても出せるネタを用意し、日々ネタを提供し続けることが大切」だと西村氏は提言する。全国ニュースにまではならなくとも、最低限、地元でニュースになるネタを常に提供し続けることが非常に重要で、試合で負けても、試合が休みの日でも、報道にのるように、恒常的に試合以外のネタを作る努力を欠かさないことがとても大切なのだ。

3つ目のポイントは「メディアとの良好な関係」を保つことである。日本のプロスポーツの多くは番記者制度になっている。2~3年の間、同じ人間が毎日のように取材に来て顔を合わせる。このようなメディア環境もあり、「メディアとは対等な関係性でいることが重要」と西村氏は説く。どちらかが優位に立つのではなく、常に誠実にメディアと向き合うことが大切。常に誠実に向き合っていれば、おのずとメディアとの関係は良好になる。謙虚な気持ちも忘れず、卑屈になることなく対等な立場で対応することが大切である。

社会的認知度を上げる、好感を得るという2つのことは簡単なようで、実はとても難しい。「勝負」の世界ゆえに不確定要素が強く、計算通りにいかないのが常だ。だからこそ、事前に何重もの広報シミュレーションや中長期的な戦略が大切だし、なによりも、チームが一つになって自らのチームや競技をPRしていこうという意志の統一が欠かせないだろう。選手だけ、広報だけが頑張っても人気や話題は続かない。経営陣も含め、まさに、チーム一丸となって取り組むことが、広報上手、ひいては人気や話題があるチーム・競技になる第一歩だ。

【楽天イーグルスでやった4つのこと】

●仙台市民とのタッチポイントづくり

通常の野球ファンとのタッチポイントはTV中継、報道、球場のみ。しかし、楽天イーグルスは仙台市内のあらゆるところに広告やポスターを出したり、道路をイーグルス通りと命名したりして、市民との積極的な接触を心がけた。

●全社員PRマインド

選手~経営陣までPRマインドを持って、「地域密着」を意識することを徹底した。挨拶から、言葉遣いまでも気をつけた。(例)東京と仙台の行き来を「仙台に帰る」「東京に行く」と言う。

●月曜日のネタづくり

プロ野球は月曜日に試合がないので、月曜日に出せる試合以外のネタづくりを徹底的かつ計画的にやった。

●危機管理も大切

ある程度知名度の出てきたスポーツには、クライシスやリスクはつきもの。広報担当者は急な選手のけがや、スキャンダルに対しても常に危機管理の意識を持って対応した。

<西村亮氏プロフィール>

1961年生まれ。日韓W杯招致委員会・組織委員会、電通パブリックリレーションズ等を経て、2005年1月から東北楽天ゴールデンイーグルスの広報部長を6年間務め、同球団の創成期を支えた。

東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会で戦略広報部国内広報ディレクターを務めた後、2014年4月より東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 国内広報統括係長。好きな言葉は「ヤル気あるものは去れ」。

(原稿:イマニシ、オオモリ、タケウチ)

(2014年6月12日「週刊?!イザワの目」より転載)

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