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男子車椅子バスケ、パラリンピック予選への手応え

2015年08月09日 17時10分 JST | 更新 2016年08月06日 18時12分 JST

7月29日~8月2日の5日間にわたって、宮城県角田市の総合体育館で男子車椅子バスケットボール日本代表候補の強化合宿が行われた。現在、車椅子バスケは男女ともに今年10月に千葉県で開催されるアジアオセアニアチャンピオンシップを控えている。同大会は、来年のリオデジャネイロパラリンピックのアジアオセアニア地区予選でもある。その大一番に向けてのチームづくりが佳境を迎えるなか、今回の合宿で得た手応えとは――。

 

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10月の予選に向けて切磋琢磨する日本代表候補

 

 

台頭し始めた"ユニット・ファイブ"

現在、男子車椅子バスケが大きなテーマとして取り組んでいるのが、選手層を厚くし、チーム戦略の引き出しを増やすことにある。それは昨年の世界選手権で突き付けられた日本の課題だ。

 

これまで日本はスターティングメンバーを主力とし、特にキャプテンの藤本怜央(ふじもと・れお)、香西宏昭(こうざい・ひろあき)のダブルエースがフル出場するということも少なくなかった。ところが、世界の潮流はベンチメンバーを含めた12人全員を効率よく起用することで一人ひとりの負担を軽減させ、勝負どころではフレッシュな状態で主力を出すという傾向に変化してきている。そのため、主力を出し続ける日本とでは、終盤のヤマ場でのスタミナ面で大差が出ていた。

 

そこで世界選手権以降、日本は「どの選手が出ても、どんなユニット(5人の組み合わせ)を組んでも、レベルが落ちないチームづくり」をテーマに、強化を図ってきた。パラリンピック予選まで残り2カ月と迫った今回の合宿では、どのユニットでどんな戦略を立てていくのか、その絞り込みと細かい修正作業が行われた。

 

ここでひとつ、車椅子バスケならではの「持ち点制」というルールについて説明したい。各選手には障がいの程度によって、障がいの重い方から1.0、1.5、2.0というふうに4.5までの8段階による持ち点があり、出場するコート上の5人の合計が14点以内と決められている。そのため、障がいの軽い選手ばかりを起用するというわけにはいかない。逆に言えば、障がいの重い選手がどんな働きをするかがチーム力を左右することにもなり、一人ひとりに重要な役割が与えられている。そのため、指揮官は各選手の特徴や能力、加えて持ち点を考えながらユニットを考えていく必要がある。

 

今回の合宿でとりわけ成長を感じさせたのは、土子大輔(つちこ・だいすけ)、宮島徹也(みやじま・てつや)の持ち点が4.0の2人と、永田裕幸(ながた・ひろゆき)、藤澤潔(ふじさわ・きよし)、鳥海連志(ちょうかい・れんし)の2.0の3人の組み合わせだった。チームでは「ユニット・ファイブ」と呼ばれている。障がいの軽い土子、宮島の2人に頼るのではなく、2.0クラスで世界トップクラスのスピードをもつ3人がしっかりと機能することにより、攻守にわたって5人がうまく連携し強さを発揮。合宿4日目に行われたゲーム形式の練習では、ダブルエースの藤本、香西がいる主力の「ユニット・ワン」に勝利を収めたほどだ。

 

ユニット・ファイブの成長について、及川晋平(おいかわ・しんぺい)ヘッドコーチ(HC)はこう語る。

「6月のイギリス遠征でも、ユニット・ファイブがはまった試合もあった。だからこれは使えるな、というある程度の手応えはありました。ただ、いい時と悪い時があって、4.0選手2人の出来にかかっていた部分が大きかった。でも、今回の合宿でユニット・ワンに勝った一番の要因は、2.0の3人。特に永田が非常にいい動きをしていて、高い確率でシュートを決めていたんです」

 

車椅子バスケでは、障がいが軽く、動きが広範囲で速い4点台の選手がポイントゲッターとなることが多い。そのため当然、守備側は彼らへのマークを厳しくする。だが、加えて障がいの重いクラスの選手にシュート力あった場合、それだけマークしなければならない人数が増え、守備側にとっては難しくなる。一方、攻撃側としては得点源を拡散させることにより、一人ひとりへの負担が軽減され、それだけ体力にも精神的にも余裕が生まれる。ユニット・ファイブがユニット・ワンに勝利した背景には、それらのことが大きく働いたのだ。

 

 

存在感を示した中堅プレーヤー

ユニット・ファイブの成長を感じたのは、キャプテンの藤本も同じだ。

「今回の合宿、ゲーム形式の練習では、僕たちスターティングメンバーであるユニット・ワンに対して、他のユニットが非常に高い精度を保ったプレーで臨んできてくれたので、これまで以上に頼もしく感じました。特にユニット・ファイブは、永田、藤澤、鳥海という同じ2.0でもまったくカラーの異なる選手3人が、それぞれの特徴をいかしていて、いいユニットに仕上がっているなと感じました」

 

なかでも藤本は、30歳の永田のプレーに大きな変化を感じたという。

「藤澤はスペースをつくることに長け、アウトサイドからのシュートのスペシャリスト。16歳と若い鳥海は世界トップレベルに達しているスピードとクイックネスな動きをもっている。そんな中、永田は能力が高く、どんな相手ともうまく合わせられる器用さはありましたが、正直ずば抜けたものが見られなかったんです。でも、今回の合宿ではインサイドに切り込む力と、そこで勝負できる多彩なシュート力を見せてくれました。相手に囲まれるインサイドは、高さや状態のいい僕ら4点台(藤本は4.5)の仕事場。それを2.0の選手にあれだけシュートを決められたら、相手は嫌でたまらないですよ。またひとつ、日本の強みが生まれたなと感じました」

 

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シュートを狙う、永田(背番号8番)

 

10月の予選では、3位以内に入ればパラリンピックの出場権を得ることができる。実力的には、オーストラリア、イラン、韓国、そして日本の4カ国の争いとなることが予想される。そこでカギを握るのが、ユニット・ファイブだと及川HCは見ている。

 

「藤本、香西が揃うユニット・ワンは安定感があり、しっかりとゲームコントロールしてくれるはずです。とはいえ相手との力は拮抗していますから、混戦になることは間違いありません。その中でユニット・ワンとは違った味を出すユニット・ファイブで相手にボディブローを与えられれば、相手と差を開くチャンスが生まれるはずです。スタメンを温存する意味でも大きい。ユニット・ファイブのみならず、ベンチメンバーがいかに力を発揮することができるかが、予選突破には絶対条件となります」

 

今後は9月に最後の合宿をはさみ、10月の予選に臨むこととなる。大事なのは、合宿以外の期間をどう過ごすかだ。残り2カ月、選手たちがそれぞれやるべきことはわかっている。

10月、どんな結果がもたらされるかは、合宿の最後に及川HCが選手たちに述べた「一人ひとりの自覚と責任」にかかっている――。

 

※車椅子バスケットボールとは

使用するボールやコートの大きさ、ゴールの高さ、そしてスリーポイントやフリースローの距離など、一般のバスケットボールとほとんど同じ条件で行われる。1回のドリブルで、ボールをヒザの上に乗せながら車椅子を連続で2回まで漕ぐことが許されており、これを何度でも繰り返し行うことができる(ダブルドリブルはない)。3回連続で車椅子を漕いだ場合は、トラベリングとなる。すべてのプレーにおいて、車椅子から立ち上がったり、ジャンプすることはできない。そのほか、ルールはほぼ一般と同じ。

 

(文 / 写真・斎藤寿子)