元プロ野球・清水直行、「二刀流」の楽しみ方 ~ワールドマスターズゲームズ2017~

「現役時代は、プロとして結果を求められるので、『抑えなくてはいけない』という思いで投げていました。でも、もう引退して4年。こういう地域の『おじちゃん』たちと一緒に、ただ楽しんで野球をやるというのもいいなと。それがマスターズの良さですよね」

「正直疲れました(笑)。でも、そういう中で体を動かすというのは久しぶりで、やっぱり楽しいですね。充実した日々を過ごすことができました」

現役時代と変わらない柔和な笑顔でそう語ってくれたのは、元プロ野球選手の清水直行(しみず・なおゆき)だ。現在、ニュージーランド野球連盟のGM補佐を務め、各年代ごとのナショナルチームづくりや指導に寄与し、同国の野球普及活動に注力している。昨年、ワールド・ベースボール・クラシックの予選ではニュージーランド代表の投手コーチを務めた。その清水が、同国で現在開催中のワールドマスターズゲームズ(WMG)に参加。野球とゴルフにエントリーし、「Doスポーツ」を楽しんだ。

「"楽しく"でも、"真剣に"でもアリ」がWMG

ひと昔前まで、ニュージーランドでは「スポーツ」と言えば、ラグビーやソフトボールが定番で、それ以外の選択肢はほとんどなかったという。しかし、現在ではサッカーや野球など、さまざまなスポーツへの関心度が少しずつ高まってきている。野球は、日本をはじめとする、野球がポピュラーなスポーツとして普及している国からニュージーランドに移住してきた人たちが中心となって広がりを見せている。今ではオークランドに7つのクラブチームが存在するほどにまで広がっている。

テレビではメジャーリーグの試合が中継され、「将来はメジャーリーガーになりたい」という子どもたちも増えてきているようだ。実際、WMGの会場に来ていた男の子に話しかけると、父親のプレーを見に来たという。14歳の彼自身も野球をやっており、「将来はヤンキースに入ることが夢」と笑顔で語ってくれた。

大好きなヤンキースのウィンドブレーカーを着て、父親のプレーを応援をするニュージーランドの少年。Photo by Yumi Izawa

そんなニュージーランドの野球への普及に寄与している清水は、今大会、ニュージーランドでプレーや指導を行っているニュージーランド人と日本人の混成チーム「NZ NORTH」のメンバーとして野球にエントリー。大会初日には「投げたくてうずうずしているんです」と、久々のマウンドを楽しみにしている様子がうかがえた。

WMGへの参加の理由を訊くと、清水はこう答えた。

「現役時代は、プロとして結果を求められるので、『抑えなくてはいけない』という思いで投げていました。でも、もう引退して4年。こういう地域の『おじちゃん』たちと一緒に、ただ楽しんで野球をやるというのもいいなと。それがマスターズの良さですよね」

「NZ NORTH」のチームの一員として、登板した清水。試合では思わず熱くなった。

さらに、清水はゴルフにもエントリーした。そこには野球とは違う、ある「思い」があった。

「ずっと野球だけをやってきたので、実は以前から、野球以外のスポーツを真剣にやってみたいという思いがあったんです。それで、今回はいい機会だなと。野球以外のスポーツで『競技者』として世界大会に出るのも面白そうかなと思って、ゴルフにもエントリーしました」

ナイスショットを見せた清水。競技者として、新たなる挑戦へと踏み出した。

野球では楽しみを追求し、一方ゴルフでは真剣モードで勝負しにいく――。そんな「二刀流」の楽しみ方ができるのも「WMGの魅力」と清水は語る。

ゴルフでは、残念ながら決勝に進むことはできなかったが、それでも「3日間のラウンドで、十分に楽しむことができた」。一方、野球はチームが勝ち進み、決勝に進出。28日に行われた決勝では、清水は4回から登板し、3イニングを投げた。リードを許して迎えた最終回、2死一、二塁の場面で清水に打席が回った。二ゴロでタイミング的にはアウトだったが、相手の守備のエラーで清水は二塁へ。その間に二塁ランナーが返り、1点差とした。

最終回、2アウトで打席が回ってきた清水。

結局、そのまま1点差でNZ NORTHは負けたものの、試合終了後は、清水をはじめ、どの選手からも弾けるような笑顔がこぼれていた。

「『おじさん』同士の結束力はすごかったですね(笑)。なんか知らないうちに、みんなで熱くなってしまいました。それと、ゴルフでも野球でも、さまざまな国の人たちとの出会いがありました。人と人との輪が広がるのも、ワールドマスターズゲームズのいいところ。心から大会を楽しむことができました」

4年後の関西大会では、野球、ゴルフ以外にも、新たな挑戦をしてみたいという。

元プロさえも魅了するWMG。「Doスポーツ」の輪は、さまざまな人に、さまざまなかたちで、着実に広がっている。

メダルを獲得したチーム同士で、お互いを称え合い、笑顔で記念撮影をする選手たち。清水は、ワールドマスターズゲームズの野球アンバサダーとして、メダル授与も行った。

参考:「ワールドマスターズゲームズ(WMG)」とは

国際マスターズゲームズ協会(IMGA)が主宰する、生涯スポーツにおける世界最高峰の国際総合競技大会。オリンピック・パラリンピック同様、4年に一回開催されており、原則30歳以上のスポーツ愛好者であれば、誰もが参加できる。第一回大会はロサンゼルスオリンピックの翌年、1985年にカナダのトロントで行われた。

第9回大会となる2017年は、ニュージーランド・オークランドで開催中(4月21日から30日まで)。オークランド大会では、28競技45種目が行われる予定で、およそ100カ国から約2万6千人が参加する。

2021年の第10回大会は、アジア初となる関西で開かれる。

(文/斎藤寿子、写真/James Yang、Yumi Izawa)

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