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ジカ熱対策にとって大切なこと

2016年03月10日 17時21分 JST | 更新 2016年06月08日 16時45分 JST

ジカ熱対策にとって大切なこと

それは、蚊に刺されないようにすることです。海外では、朝子供の肌に虫除け剤を塗って学校に行かせても、夕方公園で遊んで帰ってくるまで効果が続きますが、日本の製品では、昼休みの校庭遊びの時間には効果が切れてしまいます。何故なのでしょう?

デング熱、ジカ熱、チクングニア熱すべてに共通する対策

これらの感染症は、いずれも、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカという蚊が媒介するウイルスが原因です。感染している人を吸血した蚊が、他者を吸血する際に感染します。ネッタイシマカは年間最低気温が21℃以上であれば吸血するので、温帯の広い範囲で活動し得ます。そして、蚊を介した人から人への感染なので、熱帯雨林などで感染しやすいマラリアと異なり、都市部(=人口密集地)で感染が拡大するという特徴があります。そのため、東南アジアや中南米は当然として、温暖化に伴い蚊の生息域が拡大し、北米でも感染が拡がり、世界中で健康上の脅威となっています。

・ネッタイシマカの生息域 http://www.nature.com/articles/sdata201535/figures/2

・ヒトスジシマカの生息域 http://www.nature.com/articles/sdata201535/figures/3

蚊が媒介する感染症であるため、蚊を減らす、蚊に刺されない対策が必要です。流行国のひとつであるシンガポールでは“DO THE MOZZIE WIPEOUT”キャンペーンをおこない、2005年からは、蚊が繁殖している家に罰金(100シンガポール$、2008年からは200S$)を科す一方で、歌や動画を作るなど、知識をわかりやすく提供し、蚊を減らす取り組みをおこない、効果を上げています。

・Facebook ページ https://www.facebook.com/Stop.Dengue.Now

・Do the Mozzie Wipeout ! 動画 https://youtu.be/03xmbuy2PTg

今年はデング熱の最大の流行が予想され、ジカ熱の脅威も相俟って、必死のキャンペーンが展開されています。

http://www.todayonline.com/singapore/mozzie-wipeout-campaign-launched-will-run-next-2-weeks

日本では、メディアがジカ熱と小頭症との関連など、センセーショナルな事実を伝えるのみで、個人が出来る実際的な予防策についての紹介などは、あまり熱心に流されていないように思います。

蚊よけ後進国日本

世界でもっとも広く使われている虫除け剤は DEET(N,N-diethyl-meta-toluamide)という化学物質であり、虫を殺すのでなく、追い払う作用があります。さまざまな濃度の製品が販売されていますが、濃度と作用持続時間が比例します。50%以上の濃度では効果が頭打ちになりますので、多くの国では 50% までの製品の使用を勧めています。2ヶ月以上の赤ちゃんには 30% までの濃度の製品は安全に使用でき、30%だと6〜10時間ほど効果が持続します。DEET は蚊のみならず、ツツガムシ、ダニなどにも忌避効果があるので、積極的に使いたいところです。

ところが、日本ではDEET濃度が12 % までの製品しか販売されておらず、2〜3時間で効果が切れます。また、乳児では6ヶ月までは使用が推奨されていません。

かつて、湾岸戦争に参加した兵士や民間人が、のちに易疲労感や筋肉痛、認知機能障害を呈し、原因として殺虫剤や DEET が疑われました。しかし、その後の研究(DEETを誤飲した人がどのような症状を呈したか、という報告のまとめ)によって、 DEET はこれらの症状の原因として否定されました。ただし、肘の内側の皮膚が柔らかいところに塗って肘を曲げておくと、水疱ができるなどの皮膚障害が起きることが分かりました。よって、DEET は服で覆われる部分でなく、露出する部分だけに塗ることが推奨されています。

日本でも DEET の安全性についての懸念から、動物実験が行われました。結果、特に神経系に対する影響は見られませんでした。

http://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000jff9-att/2r9852000000jfmo.pdf

しかし、メーカーが高濃度 DEET 製品を発売する気配はありません。それは、何となく DEET は危険だ、とする空気があるからでしょう。メディアは科学に基づかない報道を繰り広げます。もし高濃度のDEET を販売し、使用後に因果関係不明の症状が出た場合に、化学物質大嫌いコメンテーターを動員してメディアが批判を始めるでしょう。企業イメージに深刻な損害を受ける可能性がありますから、二の足を踏むのも致し方ないでしょう。

新たな虫除け薬にも影響が

最近、イカリジン(icaridin)という成分の虫除け薬が発売されました。欧米ではすでに広く用いられており、ピカリジン(picaridin)という成分が含まれています。実は icaridin と picaridin は同じ成分です。欧米では 20% の製剤が主流で、8時間の蚊忌避効果があります。

日本では、現在イカリジン 5 % の製品が発売されています。5 % とした根拠は、10%ディートを含む製剤と同等の効果であるから、と審査報告書に記載されています。

http://www.pmda.go.jp/quasi_drugs/2015/Q20150615002/400092000_22700DZX00374000_Q100_1.pdf

つまり、ディート濃度の低い虫除けしか販売されていない日本では、新たな虫除け薬もディートに倣って低濃度のものしか販売されず、どちらを使っても虫除け効果の持続時間が短い、という状態は改善されていません。

厚生労働省に望むこと

通常の使用で、DEET により深刻な永続する副作用が起きることはありません。明らかに蚊を忌避する効果というメリットがリスクに勝ります。メーカーにリスクを冒させるのではなく、国民を昆虫媒介感染症から守るため、厚生労働省は DEET 濃度の高い製品開発および販売を積極的に主導すべきです。それはイカリジン製剤の有効時間が長くなるということにも繋がり、ディートが肌に合わない人にとってもメリットのあることなのです。

【UPDATE】一部加筆・修正を行いました。加筆・修正前の「DEET濃度の上限が薬事法で 12% に制限されている」との記載は、私の確認不足であり、そのような事実はありません。訂正とお詫びを申し上げます。(2016/6/7 16:45)