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韓国のバーニー・サンダースなのか 韓国の政治家・安哲秀氏インタビュー

2016年02月17日 15時42分 JST | 更新 2016年02月17日 19時28分 JST

私がようやく安哲秀(アン・チョルス)氏と初めて話す機会を得たのは、2012年にソウル大学融合科学技術大学院で私がプレゼンを行った時だった。当時学院長を務めていた安博士は、私がMITやイェール大学との国際共同研究の可能性を言及する間、私の向かい側に座っておられた。彼は一言も発言しなかったが、彼の沈黙にはとても力があった。私の言葉を熱心に聴き入る彼の姿は、私の気を引き締めた。

安氏は学者の中でも異色である。優れた経営管理能力とみなぎる自信を兼ね備えているのに、そうした人にしばしば見られるエゴはなく、私利私欲や過度な注目を嫌う。しかし、穏やかな表面の下では、彼を前進させるとてつもないエネルギーが流れている。これは、責任感と物事の仕組みに対する探究心と相当な野心が合わさったパワーである。

しかしこのパワーは注意深く見ないと見つからないだろう。

彼はとてもシャイで、もしもこの計画や夢がなかったならば、ただ静かに座っていつも聞き手に徹していそうな性格だ。地元の後援会で数百人と握手を交わす姿は想像し難い。しかし、それこそ現在彼がしていることであり、それどころかそれ以上をしているのだ。

 

釜山出身の安哲秀は、もともと医者の道を歩んでいたが、後にコンピュータ用のアンチウイルスソフト「V3」を開発した。彼は韓国で最も成功したアンチウイルスソフトウェア会社のひとつである「アンラボ」を創立し、偉大なビジネス革新者として知られるようになった。彼は休まずに働き、誰よりも本を読むことで有名だ。

 

彼の著した本は大変な人気を誇り、2011年のソウル市長選に安の出馬を望む若者たちは多かった。彼はNGO出身の朴元淳(パク・ウォンスン)を支持し、朴が市長に当選した。そして安は2012年の大統領選への出馬を表明し、最後には民主党に入党し、ライバルだった文在寅(ムン・ジェイン)を支持した。文在寅は落選し、無能さで有名な民主党連合に、安は居心地の悪さを感じた。

そして彼は「国民の党」を立ち上げることを決心した。彼は自身を「韓国のバーニー・サンダース」になぞらえたことがあるが、民主党を脱党して保守と進歩から人を集めて新たな道を模索するアプローチは、サンダースのそれとはかなり異なる。

 

先日、安氏に再会して彼の新たな歩みについて伺う機会を得た。

◇            ◇

エマニュエル・パストリッチ(以下、パストリッチ):

このタイミングでなぜ新しい政党を設立したのですか?

安哲秀

私が政治を始めたのは、古い政治を変えてほしいという国民の熱望があったからです。これこそ私が政治を行う理由であり、私が国民から受けた使命だと考えています。

ところが、これまで様々な努力をしてきましたが、私の能力不足で目標を成し遂げられませんでした。まずは野党に入って野党を内部から変えようと努力しましたが、うまくいきませんでした。なので、いっそのこと第3の政党を通じて、既存の巨大な二大政党に対抗し、国民に寄り添って戦うことが必要だと思いました。

今現在、巨大両党は敵対的ですが共生関係でもあります。お互いに戦っているようでいて、両者の利益が一致する部分では、守り合っているような構造です。私たちは、それを打ち壊したいのです。

パストリッチ

ご存知かもしれませんが、現在アメリカでも同様の動きがあります。サンダースは民主党内で同様なことを行おうとしていますが、どうなるかはわかりません。

安哲秀

ええ。

パストリッチ

しかし、多くの人々が心配しています。新しい政党を作っても、昔から続いてきた汝矣島(国会議事堂がある)の慣習や癒着があるので、ただの儀礼的なものに過ぎず、革新的な変化は起こらないと考えている人が多いです。どのようにすれば、成功することができるでしょうか?

安哲秀

過去3年間、私は韓国政治の最底辺まで経験してきました。はじめは多くの方々が期待して下さりましたが、私の能力が及ばなかったために大きな失望を抱かせてしまいました。ところが、3年が経過した今、再度国民の皆様が私に期待を込めてチャンスを下さりました。今回は同じ過ちを繰り返さずに、結果を出して国民の皆さまに報いなければという思いでいっぱいです。

私のすべてをかけて、身を砕いてでも実現するんだという責任感を毎日感じています。

パストリッチ

能力が足りなかったとおっしゃいましたが、政治を始めて何年になりますか?

安哲秀

3年を少し超えたところです。

パストリッチ

具体的にどういう部分が足りなかったとお考えですか?

安哲秀

韓国政治の現場でどのような出来事が実際に起こるのかを身をもって体験しました。なので、今は私が何かを成し遂げようとするときに、どのような人々がどのような方法で妨害し、それに対してどのようにすれば自分の意志を貫けるのかが分かるようになりました。

パストリッチ

ええ。しかし、政治において、これはアメリカにも韓国にも当てはまることですが、政治家がメディアで討論する内容と一般市民が現在に直面している問題とはとても遠いです。そのため様々な場面で耳にする政治家の話に、国民はあまり真剣に聞くこともなく討論することもありません。どうすればこうした政治文化を変えられるでしょうか?

安哲秀

私が汝矣島に来て最初に感じた点は、国民を見ていないという点でした。本来、政治とは、政党がそれぞれ代弁している階層の利益をもって、互いにぶつかり合って解決策を作り上げることですよね。ここで大事なことは、政党間の対決であっても、最終判断や審判は国民が行うということです。常に国民が審判してこそ政治であるのに、汝矣島で互いに争っていると国民が審判だということを忘れてしまいます。

なので私は常に国民の目線で物事を判断し、最終審判は国民が下すということを決して忘れません。

パストリッチ

しかし国民に必ずそうした専門的知識があるとは限りません。国民には分からないこともあると思います。例えば、外交、安保、科学技術など多くの分野で、批判的な視点なしに、新聞で報道されることを鵜呑みしてしまう国民が大半です。

安哲秀

ですから国民の目線で、と言ったのは国民の説得と同意と支持を得るときにのみ上手くいくと思います。とても複雑な事案の核心をどうすれば伝達できるのかも、また私たちが多くの努力をしなければならない部分です。今の政治勢力は国民に理解を請うたり説得する努力よりも、むしろ目の前の相手を倒すことにばかり集中しています。私たちは国民と疎通し、理解し、説得し、支持を得ることを最優先に行っていきます。

私が今まで生きてきてずっと行って来たことはそういう仕事ですし、なので国民の皆さんが私に対して3年前に、はじめ期待をして下さったのだと思います。

パストリッチ

先ほどおっしゃったことは、ある意味Richard Feynmanの政治だと思います。複雑な事柄を市民にも易しく理解できるようにすることは重要です。

安哲秀

ええ、そうです。Richard Feynmanの本を読むと、ノーベル賞を受賞した世界的な学者ですが、非常に分かりやすく愉快な自叙伝を書いていますよね。

パストリッチ

はい。次に突発的な核兵器実験で最近新聞を騒がせた北朝鮮について伺います。核兵器の競争が進み韓国が核武装をすることになれば、日本やベトナムにも飛び火する可能性もあります。どうすれば北朝鮮問題により複合的・総合的な視点でアプローチできるのかご意見をお聞かせ下さい。

安哲秀

ええ、現在はとても深刻な状態です。まず、この問題を解決する主体は韓国でならなければならないと思います。他の強国に助けを求める前に、まずは私たちが主体的に、例えば北朝鮮でなぜこうしたことが起こったのか、思い切った提案をすることが必要だと思います。私たちが努力をし始めてからこそ、他国を説得し、協力を求められるでしょう。他国が積極的に動き、解決に至るということを期待してはいけないというのが私の確固な考えです。

パストリッチ

次に中国との関係に関して伺います。現在、韓日同盟もありますが、日中韓の関係や北朝鮮問題など様々な面で、安全な環境を構築するためには、中国とアメリカを含めた新しいシステムが必要だと思います。これについてどうお考えですか。

安哲秀

韓国は現在、外交的にどちらか一方に肩入れすることはとても危険だと思います。現在アメリカは我々の最も重要な同盟国であり、これを根幹とし最優先するべきです。それと同時に、中国は我が国にとって最大の交易国であり、北朝鮮問題を解決できる外交的にも非常に重要な国家です。

従って、この二国との外交関係をバランス良く展開していくことが重要です。「バランス良く」という表現よりも英語でharmoniousと言った方がいいですね。つまり、調和のとれた外交をしなくてはならないということです。

パストリッチ

わかりました。次に青少年に関してですが、新聞を見る限り、韓国の政治家や企業は10〜20代の若者の未来について考えていないように見えます。一方で1960, 70年代に懐かしさを感じる人が多く見受けられますが、誤解があるように思います。

当時の韓国は教育に優先的に投資し、地方の住民を含む全ての国民が質の高い教育を受けられるようにしました。しかし、最近の人々は当時に懐かしさを感じても教育などの面で未来に投資しようとしていないようです。これについてどうお考えですか?

安哲秀

正確な分析ですね。まったくおっしゃる通りだと思います。このままでは韓国に未来はないと思います。

多くの方が私に期待をして下さりましたが、その相当数は青年層でした。未来が不確実で前が見えない現在の韓国の状況をどうか打開して欲しいという強烈なパワーを私は感じました。しかし、3年が経過した今は状況がさらに悪化しています。

当時は「あまりにも過酷だ、もう少し楽にして欲しい」というメッセージだったのが、今では「ヘル朝鮮」という新造語のように絶望と憤慨に変わっています。このままでは本当に韓国の未来はなくなってしまうでしょう。

現在、中国は「一帯一路」のビジョンの下で未来に向かって前進しており、日本は日本なりにアベノミクスを基盤に経済の活力を取り戻し、より良くなる未来の可能性を提示しています。しかし、韓国は未来や希望について言及せずに、現在の問題や、国定教科書といった過去にばかりとらわれています。このままでは未来はないでしょう。私は、この流れを変えるのが政治の役目だと思います。

パストリッチ

未来がないとも言えますし、反対に極端な政治が台頭するかも知れませんね。アメリカも同様です。

今の話に関連してですが、国内の青年たちは大学を卒業してビジネスを始めようとしても、大半は銀行からお金を借りることができません。例えば青年ファイナンスのような、青年たちがビジネスを始めやすい環境を作ることは可能でしょうか。

安哲秀

私は、お金を貸してビジネスを始めやすくすることには反対です。投資を受けるべきです。借りた場合、返済義務があるので事業に失敗した際には、債務不履行でブラックリストに載ってしまい、再びチャンスを得ることができません。しかし、投資を受けるなら失敗時には投資者にも責任があるため再起が可能です。そのため、ビジネスを始める際に銀行から融資を受けやすくするのではなく、政府的に一言で言えば、金融政策よりも産業政策として行うべきだということです。

お金を貸すのではなくて、企業の成功率を上げる基盤を作るのが正しい方向であり、もしそうなれば良いアイディアと情熱を持っている人たちは、投資を受けるのが容易になるでしょう。

パストリッチ

例えば、青年限定の銀行やファンディングなどの可能性もありますか?ビジネスを始めたくても資金が調達できなければとても難しいです。

安哲秀

申し上げた通り、ビジネスを始めるときにお金を貸し出すことには反対です。

パストリッチ

その点は理解しました。

安哲秀

学生は、学費と生活費などのせいで大学を卒業しても借金を抱えざるを得ないことが問題です。私は、そうした負担を減らして、はじめ社会人生活を楽に始められるようにすることの方が正しいと考えています。

今までは、学費と奨学金、学生ローンばかりに気を取られて、居住費や生活費に関してまでは思うようにならない学生が多かったです。そのため、アルバイトをするが故に勉強がおろそかになり、奨学金をもらうことが困難になる、といった悪循環が見られましたが、私は、今からでも、学費だけでなく生活費と居住費までもカバーした総合的な学生支援の方法を探さなければならないと思っています。

パストリッチ?