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福島原発事故への世紀にわたる対応

2013年09月10日 16時39分 JST | 更新 2013年11月09日 19時12分 JST

大地震と大津波によって引き起こされた日本の原子力発電所事故から2年以上が過ぎた現在も、福島の原子力災害はアジア太平洋地域において最も深刻な健康への脅威、および、世界でも類を見ない放射能汚染となっている。福島第一原発から地下へと漏れ続ける汚染水は太平洋全体を汚染する恐れがあり、その対処には未曾有の世界的な取り組みを必要とする。

事故当初においては、環境へ放出された放射性物質はセシウム137と134、そして比較的少量のヨウ素131を含んでいたことが明らかになっているが、長期的な健康被害は主に人体に容易に吸収されるセシウム137によって引き起こされると考えられている。セシウム137の半減期は30年と言われており、数十年に及び健康を脅かすことになる。最近の調査によると、福島第一原子力発電所から漏れた汚染水に含まれるストロンチウム90の量が増大していると指摘されている(ストロンチウム90はセシウムよりもはるかに危険である)。ストロンチウム90は体内でカルシウムを代替する機能があるため、人間の骨に容易に吸収される。

この大量の汚染水漏れを受け、東京電力は放射能が地面や海に流れ出るのを効率的に制御するための専門的知識を持たず、日本政府からの援助を望んでいると公表した。また、原子力発電所に一日約400トンの冷却水が溢れている現在において、東電は新たな斜水壁を建てることを考案した。しかし、たとえその希望が現実のものとなったとしても、汚染水漏れに対する長期的な解決策にはなりえない。

福島原発事故の解決というものは1960年代に人間が月に着陸するのと同程度の問題であると言える。この技術的に複雑な問題は、慎重な対応と膨大な資源を長期にわたり集約する必要がある。しかし、この状況は潜在的に数百万人の健康を危険にさらす可能性があるため、国際的に取り組まなくてはならない。長期的な解決には政府と企業による、核拡散やテロ、経済、犯罪に対するのと同等かそれ以上の対応が求められる。

福島原発事故を解決するためには、今後100年間実行される計画を考案するための有能な人材の協力が必要になる。世界中の様々な分野の専門家(技術工学、生物学、人口学、農学、哲学、歴史、美術、都市設計、など)の見識とアイディアを参考にする必要がある。地域の再生、住民の避難、放射能漏れの制御、汚染水・汚染土の安全な処理及び管理を模索するため、それらの科学者たちは複数の次元で協力する必要がある。また、40年後の技術を必要とするかもしれない問題ではあるが、事故のあった原子炉を完全に廃炉にさせる方法も見つけ出さなくてはいけない。そのためには長期的40年ごとの周期的な研究報告を取り入れるなど、対策体制の抜本的な見直しも必要だろう。

そのような計画には、高濃度汚染の中でも機能するロボットなどの、前例のない技術の発展が必要となる。このプロジェクトはロボット工学の研究者たちの発想力や軍事技術の民間への転用を結果としてもたらすかもしれない。ロボット工学の発展により、高齢者やボランティアの作業員を危険な原子炉の中で健康を犠牲に作業させることを防ぐことができるだろう。

福島原発事故は全人類の危機であると同時に、前例のない協力のためのグローバルなネットワークを構築する機会にもなりえる。まず、高度なコンピューターテクノロジーの知識を持つ団体やグループがこの現在進行中の膨大な放射能汚染の問題を細かく分割し、次に、専門家たちが具体的な提案や対策を立てることができるだろう。その過程は「気候変動に関する政府間パネル」の先例を参考にすることができるが、それをさらに推し進めなければならない。

マイケル・ニールセン(Michael Nielsen)は自身の著書『発見の再発明――ネットワーク科学の新たな時代』の中で、ネットワーク科学の理念について、過去にないような規模で応用が可能な方法であると叙述している。

福島原発事故の対応における努力がもたらす突破口は 他の長期的な問題である、メキシコ湾のBP社ディープウォーターホライズン原油流出事故や地球温暖化問題の解決にも応用できるだろう。福島原発事故における共同研究は、例えるならヒトゲノムの周期よりも、もしくは大型ハドロン衝突型加速器のメンテナンスよりも、さらに大規模に行われなくてはならない。

最後に、この危機によって外交という分野は全面的に新しく構築できるかもしれない。外交は、いまのように国家がそれぞれの主張をオブラートに包むような曖昧な政府間の交渉から、同様の問題意識と異なった能力を持つ各国市民を巻き込んだ真剣な国際問題の討論の場へと変わりうる。外交が福島の経験をつうじて成熟すれば、世界の数十万の人々を結集して共通の脅威への対応に向かわせる新しい戦略を立てることができる。ネットワーク科学を手がかりに、外交が、貧困、再生可能エネルギー、水源、汚染対策など重要な問題に関する真摯かつ長期的な国際的共同の場となるであろう。

同様に、この危機によりソーシャルネットワーキングが本来の機能を取り戻すきっかけになるかもしれない、つまり、共通の問題のために専門知識を持ち合うことを促進するだろう。ソーシャルメディアはカフェラテや太った猫の写真を友人に見せびらかすためではなく、情報の信憑性を評価し、専門家が議論し、共通の認識を培い、市民社会に直接行政に関わることを可能とさせることにも利用できるだろう。労働者の横の繋がりを促進しているピアツーピア財団 (P2P Foundation)が提唱するソーシャルメディアの基盤への適切なピアレビューの導入によって、ソーシャルメディアは福島原発の問題の解決と対処に中心的な役割を果たすことができる。P2P活動の中心的存在である、マイケル・ボーウェンズ (Michel Bauwens)は「ピア(仲間)たちは世界中ですでに知識を共有している、コンピューター、車、重機械の製造でさえその特徴は見られる」と指摘している。

ここに私たちは福島原発事故の難題に対する答えを見つけられるかもしれない、つまりそれは、まず問題自体を世界の市民に開くことである。

ピアーツーピアサイエンス

福島原発事故の問題を専門家と数百万、数億の市民を巻き込んだ世界的な取り組みにすることは、二年半嘘をつき続け、日本政府や国際機関の責任を回避しようと協働し続けた社会に 若干の希望をもたらす。もし、問題意識を持った市民がオンラインでデータを閲覧でき、意見を交換し、政策を提案できるようになったとしたら、意志決定の過程においてそれは新たな透明性をもたらし、多くの人々による審議を可能とし、有益な知見を大いにもたらすだろう。

放射能漏れと原子炉の状態に関する詳細な情報が訓練を受けた放射線技術者を納得させるほど一般に公開されていないのは理不尽なことである。もし、今後なすべき対応がこの問題の解決に取り組む数百万の意識の高い市民の合意となれば、現在見られる少数による秘密の意志決定に変わる強力な代替となるだろう。福島原発事故解決への協力体制こそ、国境、企業の所有権、知的財産権に対する懸念によって知的協働が阻まれている現状を超えて進むために、必要なことではないだろうか。

宇宙の星を分類するプロジェクト「ギャラクシー・ズー」において、もし課題が細かく分かれていたら、一般の人にも技術的な問題解決のための重要な役割を任せられると示した。ギャラクシー・ズーの場合、関心のある人は誰でもオンラインで遼遠の銀河にある星を分類し、データベースにその情報を入力することができる。その作業のあらゆる部分が私たちの宇宙に関する知識を拡げるための膨大な取り組みに関わっており、科学データを分析するのに必ずしも博士号は必要ないと示し、おおいに成功を収めている。福島原発事故の場合、もし一般の人が毎日人工衛星の写真を観察したとしたら、放射性の煙の異常な動きを見極める作業を学者よりも正確に行うようになるだろう。福島原発事故については分析すべき情報が膨大にあり、現在、 その大半は事実上手つかずのまま放置されている。

福島原発事故に対する有効な対応には全体と部分両方の観点からの取り組みが必要だろう。そのためにはまず、慎重にかつ高いレベルでどの問題から処理するのかという順番を決める必要がある。それをうけ、高度なコンピューターの知識や学際的な知見を持ち合わせた協働グループをつくり、効率よく問題へと対応できるだろう。

福島原発事故への対応は高収入の専門家を集めてくるだけでなく、一般人を教育する役目も果たす。専門家が実現しもしない高貴なアイディアを持ち寄っても仕方がない。そのアイディアを政策として実現するには国民が深い理解をした上で初めて実現するのであって、大規模のネットワークで結びついたサイエンスの取り組みは社会のあらゆる階層を巻き込んで行われなくてはならない。専門家だけによる対話は無意味であり、さらに長期的な解決には倫理的、文化的な面に相当な注意を払わないといけない。

もし、従来の機関(NGO,政府、企業、金融組織など)が前例のない人類が直面する危機に対処できないとなったときには、われわれ自身が、社会的ネットワークをつくり、それを土台に、革新的なアイデアをつくり出すのみならず、その解決策の実施をも行う必要がある。その過程において、様々な機関に圧力をかけることはもちろんやらなくてはいけないし、国際市民社会の必要に応じた科学と技術を迅速に駆使するための真のイノベーションの利用が要求される。それを始めるにはインターネット以上の場所は存在しないし、福島原発事故の長期における対応はそのために最も適した課題だと言える。