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ひとりぽっち高齢者の危機 会津の熱中症事情から考えること

2015年08月11日 14時18分 JST

私は福島県の会津地方の病院で働く看護師だ。先日、救急外来勤務の際、驚くほど忙しかった。それは大勢の熱中症の患者さんが受診したからだ。

彼らの症状は、頭痛、吐き気、だるさ、めまいなど症状は様々だ。手足のしびれや筋硬直のような症状を呈する人も居る。患者さんの多くは高齢者や、外での仕事をしている方が多い。

今年は夏にもかかわらず、心筋梗塞や脳卒中の患者さんが目立つ気がする。これらの疾患は冬に多く夏には少ない。これについて医師は「基礎疾患にプラスして猛暑による脱水の影響で脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まっているのかもしれない」と言うが、はっきりとした理由は不明だ。

私は熱中症について同僚の看護師と話をした。医師と視点が異なり、興味深かった。

熱中症患者が多い理由として、「会津地域には、エアコンがない古い家屋が多いのでは?」や「エアコンがあっても居間だけで、寝室にはないのでは?」という指摘が相次いだ。

実際に患者さんの家族と話すと、「エアコンを設置している家の方が珍しい」、「夏の短期間しか使用しないエアコンを設置するのは手間がかかる」、さらには「暑いのは暑けどいっときだから我慢」とおっしゃる方もいた。また、「冬の寒さに比べたら夏の暑さは一瞬」、「会津の夏は夜になれば涼しくなるから、日中のいっときは耐える」という人もいる。

なぜ、会津の高齢者は、ここまで「意固地」になって、エアコンをつけないのだろうか。

会津は福島県の西側に位置し、東西南北を標高約2,000m級の山々に囲まれた盆地である。昔から独自の生活文化と、「ならぬことはなりませぬ」という気風で知られている。冬は豪雪地帯となるため、雪国ならではの忍耐強さがある。先に述べたような住環境や暑さ対策に関する考え方も、この影響からなのかもしれない。そう考えると、会津の気候や風土が、熱中症にも影響しているかもしれない。

勿論、会津地方の特性だけが原因ではない。高齢者特有の問題もある。

あまり議論されないが、エアコンを快適に感じない高齢者は少なくない。幾つかの理由が考えられる。例えば、高齢者は骨格筋量が低下しているため、熱産生能力が低い。このため、エアコンの使用により一気に体温が低下すると、冷えを感じやすい。つまり、一部の高齢者はエアコンを使うとかえって不快になる。これでは、「熱中症予防のために、エアコンを使え」と言っても無駄だ。

また、最近のエアコンは多機能だ。操作に困難を感じ、昔から馴染みのある扇風機を使用している高齢者も少なくない。このように考えると、熱中症対策においては家電メーカーの果たす役割も大きくなる。

もう一つの問題が高齢者の独居だ。完全な独居だけでなく、日中一人で過ごす高齢者も熱中症のハイリスクだ。高齢者では、日常生活の中で起こる非労作性熱中症が多く、屋内での発生が増加している。つまり、自宅で熱中症になるのだ。昼間、高齢者がひとりぽっちだと、熱中症になっても誰も助けてくれない。たまたまヘルパーが来たり、夕方になって家人が仕事から帰ってはじめて異常に気づくことになる。一部の高齢者は手遅れになる。

都会と違い、会津では完全独居は少なく、拡大家族が多い。しかしながら、昼間は高齢者が一人になるという生活環境を考慮すれば、会津の高齢者の熱中症リスクは決して低くない。

では、どうやって、昼間、一人になってしまう高齢者をサポートすればいいのだろう。高齢者の特徴を考慮すれば、高齢者単独で熱中症を予防するのには限界がある。

私は、「ご近所さん」に頼るしかないと思う。そのためには、普段からのコミュニケーションが大切だ。基本的なあいさつや声掛けが、早期発見や予防につながるのではなかろうか。あまりに当然すぎて、面白みがないかもしれないが、高齢者は地域コミュニティーをあげて守るしかない。

高齢化と温暖化。我が国が直面する大きな問題だ。特に、高齢化が進み、猛暑への対応に慣れていない東北地方への影響は甚大だ。何もしなければ、東北地方の高齢者にとって、夏は「魔の季節」になってしまう。どうすればいいのだろう。みなで知恵を出し合い、助け合うしかない。幸い、会津には、まだ地域社会のコミュニティーが残っている。試行錯誤を続けながら、高齢者が安全に夏を過ごせる方法を確立しなければならない。

(2015年8月1日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)