「スターウォーズを奴隷商人に売った」発言の真意は? ルーカス氏、ロングインタビューで大いに語る

ジョージ・ルーカスが「レトロ映画。気に入らない」「 スター・ウォーズ ファン向け」と語る、氏の内面を吐露したインタビューが公開されました。

10年ぶりの正伝新作にして初のディズニー製作となった『スター・ウォーズ:フォースの覚醒』について。これまで無難な発言でお茶を濁してきたジョージ・ルーカスが「レトロ映画。気に入らない」「 スター・ウォーズ ファン向け」と語るインタビューが公開されました。

シリーズの生みの親であるルーカス氏は、新作の物語について自身の案がディズニーに却下されたこと、当初は『帝国の逆襲』『ジェダイの帰還』のように製作に関わるつもりだったものの、干渉が多く断念したことなども発言。『スター・ウォーズ』をディズニーへ売却した後の葛藤について「愛する我が子を奴隷商人に売ってしまった」と口を滑らせて後に不適切な表現を詫びるなど、内面を吐露したインタビュー内容です。

ジョージ・ルーカス氏が『フォースの覚醒』について語ったのは、米国のテレビ番組ホスト Charlie Rose 氏とのインタビューの席。収録は『フォースの覚醒』ワールドプレミア前ですが、放送は映画公開から一週間ほど経過したタイミングです。

時期的には新作公開あわせではあるものの、内容は『スター・ウォーズ』ばかりでもなく、スピルバーグとのライバル関係やコッポラとの関係、自身の映画観や監督業、映画業界の課題などなど、約55分にわたって幅広い話題を扱っています。

ルーカス氏のキャリアにとって『スター・ウォーズ』が大きな部分であるがゆえに、全編にわたってたびたび言及がありますが、新作について直接的に語ったのは開始約45分から。『フォースの覚醒』についてどう思いましたか?と直球な質問に対して、やや言葉を選んだあとの一言目は「会社(Lucas Film)を売ると決めたのは私だから」。

(2012年の買収発表時)

ルーカスが自身の映画会社ルーカスフィルムをディズニーに約40億ドルで売却したのは2012年。売却にあたっての公式コメントは、スター・ウォーズが世代を超えて受け継がれる作品になってうれしい、私一人を超えて続いてゆくことは以前から分かっており、自分で引き継ぎを準備することが重要だと思っていた。キャスリーン・ケネディとディズニーのもとで今後も成功することを確信しています、といった内容でした。

(キャスリーン・ケネディはE.T.や『ジュラシックパーク』シリーズほか多数のヒット作を手がけてきたプロデューサーで、当時のルーカスフィルム共同会長。現在はディズニー傘下で『スター・ウォーズ』のブランドマネージャ、ルーカスフィルムのプレジデント、『フォースの覚醒』からエピソードVIII, IXと続く三部作のプロデューサーを務めます)

この売却に至る経緯について、今回のインタビューでルーカスが語った内容は、

  • 70歳近くなり、今後の人生について考えていた。(約30年ぶりに)再婚して娘もでき、映画芸術についての博物館を建てる計画も進めている。今後撮りたい実験映画もある。人生の転換期を迎えた感があった。
  • しかし最近の数作品には非常にコストがかかってしまい、従業員にも会社にも申し訳ないと思い、スター・ウォーズの新作に取り掛かろうと考えた。
  • 新作の製作については、当時ルーカスフィルムで共同会長を務めていたプロデューサーのキャスリーン・ケネディにある程度は引き継いで、(監督・脚本・製作すべてを務めたエピソードI〜IIIと比較すれば)やや引いた立場で関わる計画だった。ストーリーを考え、その体制で脚本作業などを進めていた。
  • 同時に、将来的な引退についてディズニーのCEOであるロバート・アイガーに相談していたところ、もし本当に会社を売却する気があるのならぜひ買い取りたいと提案され、ルーカスフィルムごと引き渡す交渉が始まった。
  • ディズニーへ会社ごと任せる判断をしたが、すでにストーリーの案はあり脚本作業も進行していたことから、エピソードVやVI(『帝国の逆襲』『ジェダイの帰還』)で他人に監督を任せたように、総指揮のような形で制作する方向だった。
  • しかし、数週間でこれは無理だと気づいた。現場で監督を助けたりあれこれ指示を出したりするのは、自分で監督するよりよほど大変だった。
  • また、映画の方向性についてもディズニーと相違があった。自分は何よりも物語を重視して、父と息子の問題、祖父や、世代について描くつもりだった。スター・ウォーズは、結局のところ家族ドラマ(ソープオペラ)。スター・ウォーズはよくスペースオペラと言われるが、本質は家族の物語。ソープオペラであって、宇宙船がどうこうではない。しかし、ディズニーが求めたのは「ファンのための映画」だった。
  • ストーリーも拒絶され、このまま関わっていては自分がトラブルの原因にしかならないと思い、身を引いて道を分かつことにした。ディズニーもさほど熱心に関わってくれという態度ではなかった。

『フォースの覚醒』については、ルーカスがスター・ウォーズを次世代に引き継ぐため円満にディズニーに売却し、ディズニーではルーカスの関わらない新スター・ウォーズをJ.J.エイブラムス監督に任せた、といった理解が一般的です。

しかし実際には、ルーカスはディズニーへ売却する前から自身で制作する意向があったこと、ルーカス案のストーリーもあったが廃案になったこと、売却後もエピソードV / VI程度には関わるつもりが断念したことが、本人の口から詳しく明らかにされました。ディズニーが「ルーカス案」に難色を示したことは、J.J.エイブラムス監督も「自分が参加したのは、ディズニーがルーカスのストーリーを捨てた後だった」と語っています。

ルーカスは離婚経験者でもありますが、この『スター・ウォーズ』を手放す決断についても、人生における別離と同じだと例えて延々と語っています。

ルーカス曰く、「人生の単純なルール」は、「誰かと別れた時、やってはいけないことは1. 電話しない。2. 様子を見にゆかない。3. 同じコーヒー屋に顔を出さない。「いや、終わったんだ、過ぎたことだ」と言い聞かせて前に進むしかない。誰でも身に覚えがあるように、未練がましいことをすれば傷が開いて余計に辛くなるから」「終わったことだと思って、前に進むしかない。とても、とても辛いことだ。全身が「考えなおせ、手放すなんて無理だ」と叫ぶ。(スター・ウォーズは)私の子供なんだから」

スター・ウォーズを自分がいかに我が子として愛し育てたか、自分にとって大切かと続けますが、番組ホストで超ベテランインタビュアーのチャーリー・ローズが「でも売った」と絶妙なタイミングでつっこみ介入。ルーカスはそれに答えて「そう、奴隷商人(white slavers)に売った。それで〜」と口にするも、その先までは言わず自分で笑い出してしまいます。

米国で放送されるやいなや、「ルーカス、ディズニーは奴隷商人と非難」と報じられ炎上に近い騒ぎになった発言はこのような流れです。文脈を見て分かるように、ルーカスはディズニーが自分の案を採用しなかったことについて必ずしも好意的でなく、スター・ウォーズを手放したことについても「前に進むしかない」といいつつ未練たらたらではあります。

しかし奴隷商人発言についていえば、ディズニーを非難するために選んだ言葉というよりは、自身の行動について、「別れがたく愛する子供なのに売ってしまった、売らざるを得なかった」と後悔と諦めと自嘲を込めた表現として口を滑らせたニュアンスに聞こえます。

(とはいえ、間接的にもディズニーを奴隷商人に例えたことになり、ひいてはディズニーが吸収してきた数々の作品やキャラクターが奴隷のように虐待されているとの趣旨に解釈されても仕方がありません。この点について、ルーカスは約1週間後になって謝罪しています。

いわく「失言でした。非常に不適切な言葉を使ってしまいました」「ディズニーとは40年近く仕事をしてきました。スター・ウォーズの保護者として選んだのは、企業としてもロバート・アイガーのリーダーシップにも深い敬意を払っているからです」)

奴隷商人発言の直後にはインタビュアーに、あなたが関わらないなんて考えられない、スター・ウォーズはあなたの家族、あなたの物語、あなた自身なのに、と畳み掛けられます。ルーカスが遮って口にしたのは、自分の構想は三部作であったこと、うまくやっても完成までには10年かかり、すでに70歳の自分が生きていられるかも分からないこと。他にもなすべきこともあり、手放す決断をせざるを得なかったのだとしています。

『フォースの覚醒』について、というより製作の方向性への批判といえる部分が出てくるのはこのあと。約一時間の放送で最後の3分程度になってから。なぜ手放したのか、という問いにそうせざるを得なかったのだ、と答える文脈で、「それに、かれら(ディズニー)が作ろうとしたのはレトロ映画だった。それが気に入らない。スター・ウォーズでは毎回、これまでとはまったく違うものにするように努力してきた。別の惑星、別の宇宙船......新しいものにするように」。

完成した『フォースの覚醒』を観れば、新しい主人公たちを据えつつ、オリジナル三部作IV, V, VI の雰囲気からできるだけ外さないよう、逆にいえばエピソードI , II , III みたいと思われないよう配慮していることはありありと伝わってきます。

フォースの覚醒が「懐古映画」になったかどうかはともかく、ルーカスはエピソードI〜IIIの「新しい試み」が気に入らなかったオリジナル三部作のファンから散々に批判され、ほとほと嫌気が差していたことも、スター・ウォーズを手放した理由のひとつとして語っていました。

自分の映画制作会社ルーカスフィルムを創業し「自分の見たい映画を自分で撮る」という、ある意味究極的な創作の自由を得ていたルーカスにとってみれば、70歳をすぎて制約だらけの作品に残り時間を使うよりは、自分の思いどおりになることをしたがるのも理解できる話です。

そのほか、インタビュー前半も含めていくつか拾えば、

  • 今後スター・ウォーズのような冒険大作はもう撮らないのか?「撮らない」。すでに「子供向け映画」ではやりたいことをやったため、今後はもっと成熟した観客向けに、小規模で実験的な作品を撮る予定。
  • 実験的作品とは、商業的には失敗だった初監督長編THX 1138がそうだったように「動く絵を使って物語を伝える」方法についての新しい試み。観る側にも要求する水準が高い作品とのこと。
  • スター・ウォーズは「キッズムービー」。子供が楽しめれば誰でも理解できる。
  • 売れる映画、人気が出る映画だから良くないということはもちろんない。売れる映画を撮る方法は知っているが、自分の興味が移った。もはや、できるだけ多くの人に見られることを目的に撮る理由がない。金ももう要らない。
  • ジェダイの帰還からファントム・メナスまで16年かかったのは、物語に技術が追いつくのを待っていたから (これは従来から何度も語ってきたとおり)。たとえばヨーダのライトセーバー戦はパペットでは不可能だった。
  • 映画業界の問題について。映画を配給する会社は大組織になるが、すべての組織はリスクを恐れる。しかし、すべての映画はリスク。映画製作とは、ギャンブラーを雇ってする賭博のようなもの。
  • フォースの名称は原始宗教や世界観にみられる「ライフフォース」から。多くの宗教やスピリチュアルな世界観に共通する要素を取り出した。
  • J.J.エイブラムスは優れた監督。良い友人。

などなど。

さて、ルーカスの表現するところの「レトロ映画」、ディズニーのいう「ファン向け映画」を選んだ結果がどう出たかは、劇場でごらんになった皆さんならばすでにご存知のとおり。中身の評価は観る人によって「こういうのでいいんだよ、こういうので」「ルーカスじゃなくて本当に良かった!」もあれば「新鮮味が足りない。ソツなくまとめすぎ」「キャプテン脱がないのかよ!!」もありますが、少なくとも興行成績でいえば公開三週目を迎えても勢いは衰えず、世界で15億ドルに到達しています。

日本国内では最初の週末の動員数で妖怪ウォッチに負けたことが話題になりましたが、本国での記録ではジュラシック・ワールドもタイタニックも超えて現時点で歴代第二位(インフレ調整なし)。遠からずアバターも超えて、グローバルでも興行収入一位の映画になる勢いです。

ルーカスも「奴隷商人」発言を釈明する声明の結びに、「Most of all I'm blown away with the record-breaking blockbuster success of the new movie and am very proud of JJ and Kathy. 何より、『フォースの覚醒』が記録破りの大ヒットとなったことに圧倒された。J.J.(エイブラムス監督)とキャシー(ケネディ、プロデューサー)を誇りに思う」と、興行収入については称賛しています。

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